第11話 「それぞれの中で」

(ここは? 私、さっきまで闇の書と…)

 ヴィヴィオが気がついた時、そこは真っ暗な空間だった。
しかし直ぐに辺りの風景が変わった。

「フェイトっ!」
「アルフ、来ちゃダメっ!」

 目の前にもう1人の私とフェイトが現れる。
(私? 違う、ここは海鳴の公園…)

 
 前に来た時か、フェイトと初めて戦った時の光景。
 黒いバリアジャケットを着たヴィヴィオにバルディッシュを振り上げ迫る。

「でもっ、それはっ!」
「当たらなければ…関係ないっ!」

『-聖王に課せられた呪い-』

「…いくよ…フェイト」

 バルディッシュから伸びる金色の刃がヴィヴィオに襲いかかる。

「ハァァアアアアアアッ!」

 しかし次が違った。フェイトから何か吹き出し、腹から背に貫通した金色の刃

「違う…こんなの違う!! あの時はっ!」
(あの時は刃を叩き割ったのっ!!)



「壊させたりなんか…絶対させないっ!!!」

 再び辺りの様子が変わった。目の前でもう1人の私が20個のジュエルシードめがけて砲撃魔法を撃つ。

(今度は、星の庭園の中…)
「もう無駄よ。ジュエルシードは解き放たれたわ」

 叫ぶプレシア。彼女が言うとおり周りが大きく震え始める。

「クロノ…」
「止めるんだろう。ジュエルシードをを」
「うん!」

 頷いた私から出た砲撃魔法が更に強くなる。しかしそれを直接浴びたジュエルシードが震え始め、周りが一気にホワイトアウトする。

(何が起きたの? これはっ!)

 急に外の様子が見えた。次元航行部隊からアルカンシェルが放たれたのだ。

「なのはっ! フェイトっ、クロノっ!!」

 それはもう1人の私と周り全ての者を消し去った。

『-閉ざし開く事が出来る鍵-』

「違う…違うっ! こんなの嘘だっ!! 何なのよ一体」 
 

 
「ヴィ…ヴィ…オ、おねがい…目を…覚ましてっ」

 再び光景が変わった。そこは

「なのはママっ!」

『-世界を統べるが為に課せられた代償-』

「ママをっ!私の母さんを、返せぇぇええええっ!」

 目の前の私が膝をついたなのはを更に吹き飛ばした。

「ここは…ゆりかごの中? 止めてっ!私そんな事してない!!」

 しかし、目の前の私には聞こえないのか、片手で倒れたなのはの首をつかみあげもう片方の腕で

「やめてぇぇええええっ!!」

『-何度世代が変わっても消える事のない-』

 鈍い音がした後、彼女が手を離すとドサッと無機物の様に落ちた。

「なのはママ…返事をして、こっち向いてっ!!」

 駆け寄った私の視界に幾つかの影が入った。

「…フェイトママ…はやてさん…ヴィータさん…スバルさん…ティアナさん…どうしてみんながここに…」

 ピクリとも動かない彼女達の姿に言葉が続かなかった。そしていつの間にかドロリとしたものが手についていた。私それを見て

「私が…やったの?…い…いやぁぁああああっっ!!」

思わず悲鳴をあげた。



(ここは? )

 フェイトが目覚めるとそこはベッドだった。

(私…一体)

 自室でもなのはの部屋でもない、どこかか見覚えがある…隣で誰かが寝ている。

(アリサの家?)
「フェイト、アリシア、アルフ、朝ですよ」
「おはよ♪ フェイト」
「眠い~」

 何が起きているの? 
 どうしてアリシアとリニスがここにいるの?

「あの…リニス? アリシア?」
「今朝はフェイトも寝ぼけ屋さんの様です。さぁ着替えて、朝ご飯です。プレシアはもう食堂で待っていますよ」
「!?」

 その後フェイトを待っていたのは優しい母さんとリニス・アリシア・アルフとの朝食だった。
 優しい世界…私が求めていた世界。

(違う…これは夢だ。母さんはこんな風に笑いかけてくれた事は無かった、リニスもアリシアも…もう居ない。頭の中ではこれは夢だと

 わかっているのに、フェイトは自身で拒絶出来なかった。
 今、目の前の光景がずっと何度も夢見てきた時間だったのだから。



(眠い…眠い…)

 はやては重い瞼を開けるとそこに1人の女性が立っていた。前に会った事がある…闇の書で眠る人格だったか…

『そのままおやすみを、我が主。あなたの望みは私が全て叶えます。目を閉じて心静かに夢を見て下さい』
(私の望み…私は何を望んでたんやっけ…)
『夢を見ること、悲しい現実は全て夢となる。安らかな眠りを』
(現実が夢に? 悲しい? 私が欲しかった幸せ)

 その声に微睡みを覚えはやては再び瞼を閉じた。



(私…なのはママとフェイトママを…)

 現実じゃ無い筈なのに何かを持った感触があの時確かにあった。

『-それも1つの世界、無数にある世界の1つ-』

 こんな世界は嫌、見たくない。こんなの…

『-血に課せられた呪い-』

 心を閉ざしかけたヴィヴィオにどこからか声が聞こえる。

(もういい……無数にある世界の1つ?)
「まさか…これ…誰かが見せてるの?」

 聞こえてくる声はそう言っている。可能性の1つと。そして聞き覚えがあった。この声は

「これは…夜天の…魔導書の声」

 そう感じた時、辺りは真っ暗になった。同時に目の前に現れた女性

「!? 夜天の、ううん闇の書っ!」

 戦っている最中の相手をとらえ、身構える。

「ベルカ聖王家がその血故に受け継いだ能力、呪い…」
「さっきまでのはあなたが見せたの?」
「見せたのは1つの可能性。歩んでいたかもしれない1つの可能性。時を動かす力はあまりにも強大。私は何度となくその力によって滅ぼされた世界を見た。」

 自身も同じ位危険なモノだというのか。

「それは貴方も同じでしょっ!」
「…否定はしない。だが、世界を滅ぼす力であるのは変わらない…」
「確かに昔はこの力が世界を滅ぼしたかも知れない。でも、私は違う。みんな失敗はする。でもその失敗を繰り返さない為に変わっていかなきゃならないんだ。私もあなたもっ!」

 なのはママが怪我しない未来を魔法とは無関係な未来を…私の過ち。それは私自身の想いで、なのはママのじゃない。
 私はそこまで考えず簡単な気持ちで未来を狂わせてしまった。
 でも、もう違う。諸刃の力だって知っている。
 私の言葉に何か理解できたのか目の前の彼女は笑みを浮かべた。  

「力の持つ魅力と恐怖を伝えたかった。同じ古代魔法を継ぐ者として…我が主の友として」
「…」

 そう言うと彼女の姿が消え、自身の体が白い世界に染まり始めた。

 それがこの世界に小さな奇跡を生む。



『変わっていかなきゃならないんだ。私もあなたもっ!』

 どこからか聞こえた声に 再びはやての意識が呼び戻された。
 眠る前の記憶が徐々に思い起こされ、意識もはっきりしてくる。

『健康な身体、愛する者達とずっと続いていく暮らし。眠って下さい。そうすれば夢の中で貴方はずっとその世界でいられます』
(所詮夢は夢、現実とちゃう。この子の言う通り眠ってる時とちゃう!)
「でもそれは夢や! 現実やない!」

 現実で一緒に暮らせるからそれが望みなのだと、彼女の言葉を聞いて完全に目が覚めた。

「私、こんなん望んでない。あなたも同じ筈や」
「私はあなたを殺してしまう自分自身が許せない。自分ではどうにもならない力の暴走、暴走して食らいつくしてしまうのも止められない…」

 彼女の心はシグナム達とリンクしている。だから余計に彼女は自分自身が許せないのだ。
 しかしはやて意志は決まっていた。

「忘れたらあかん。あなたの主は今は私や。主の言うことはちゃんと聞かなあかん」

 はやての意志を受けてベルカの魔方陣が輝き始めた。

 小さな奇跡は少女の手によって引き継がれる。



「あれ? 雨になりそうだね。フェイト帰ろう」
「ごめん、アリシア。私はもう少し…ここにいる」
「そうなの? じゃあ私も。一緒に雨宿り♪」

 嬉しそうに横に座るアリシア。アルトセイムの丘でフェイトは木陰に座っていた。
 その時どこからとも無く声が聞こえる

『所詮夢は夢、現実とちゃう。この子の言うとおり眠ってる時とちゃう!』

 聞いた覚えがある声、それ以上に現実に向き合う意志が伝わってくる。

(行かなきゃ…戻らなきゃ…待ってる人がいるんだ)
「ねぇアリシア、これは夢なんだよね…私とあなたは同じ世界には居ない。あなたが生きてたら私は生まれなかった…」
「そう…だね」
「母さんは私にあんなに優しくは…」
「優しい人だったんだよ。優しかったから壊れたんだ。死んじゃった私を生き返らせる為に…ねぇフェイト、夢でもいいじゃない。ここにいよう、ずっと一緒に。私、ここでなら生きていられる。フェイトの姉さんでいられる。母さんとリニスとみんなと一緒にいられるんだよ。」

 星の庭園で虚数空間へ落ちて行く母さんを見て感じた。
 母さんがアリシアをどれ程愛していたのかを。ここにいればアリシアや母さん達と一緒にいられる。
 でもそれは夢、現実じゃない。

「ごめんね、アリシア。私は行かなくちゃ。」
「うん、待ってるんでしょ、強い子達が。フェイト、現実の世界でも一緒にいたかったな…」

 少女達から放たれた輝きが重なり、彼女達の意志が更なる力を持って永久の旅に終焉を生み出した。



「ヴィヴィオっ! しっかりしてっヴィヴィオ!!」
「!? ここはっ?」
「海の上、球体が消えたらヴィヴィオと闇の書さんが現れてヴィヴィオは落ちてくるし」

 なのはに起こされてハッと気付いた。夜天の魔導書に近接戦を仕掛けたら辺りを囲われて気を失ったのだ。

「どれ位眠ってた? 魔導書はっ!?」
「うん…ちょっとだけ…闇の書さんはあっち」

 砲撃魔法を浴びせられたらひとたまりも無いと思って慌てて身構えるが、動いていない。というより何かに拘束されている。

(何が起きてるの?…)

まだ更に何か起こるのか、ヴィヴィオは気を引き締めた。



~~コメント~~
 高町ヴィヴィオがなのはAsの世界にやって来たら? というのがこの話のコンセプトです。
 前話に続いてなのはAs(闇の書編)を書こうと決めた時から書きたかった話です。
 ヴィヴィオの「時を越える力」については、前話(AnotherDays/AnotherStory)時に作った裏設定みたいなもので、今話でそれに触れさせて貰いました。

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