第12話「旅の終わり夜の終わり」

『そこの方。管理局の方。そこにいる子の保護者八神はやてです』
「はやてちゃん!?」
「はやて!」

 魔導書から突然聞こえた念話にヴィヴィオは驚いた。

『なのはちゃん、ヴィヴィオちゃん!?』
「そうだよ。色々あって闇の書さんと戦ってるの」
(はやてが目覚めてる…もしかして…)
 夜天の魔導書の管制下で意識を取り戻したの?

『ごめん、2人でその子とめてあげてくれる? 魔導書本体からコントロールは切り離したんやけど、その子が発していると管理者権限が使えへん。今そっちに出てるのは自動行動の防御プログラムだけやから』

 夢に出てきた魔導書は最初からはやてを信じていた。だったらもしかして…

『なのはママ、フェイトママ、はやてさんっ! これって』
『そうや! ヴィヴィオが思ってる通り』
『魔力ダメージを』
『全力全開でっ!』

 目の前の防御プログラムに直接ダメージを与えてしまえば、はやてが戻ってくる。
 そうすればきっとフェイトも…

(RHd、フルアタックから魔力だけにダメージバランス変えるよ)

 中にあるデバイスに意志を伝えたのと同時に拳部分の甲冑が変化した。ヴィヴィオが何をしたいのかRHdもわかってくれている。
 なのはの方にもユーノから停止方法が伝わったらしい。
 なのはと目が合い互いに頷く。
 即ち2人の攻撃で防御プログラムをぶっ飛ばす。
 全力で

「なのは」
「うん! エクセリオンバスターバレル展開、中距離砲撃モードっ」
「こっちも行くよ。」

 なのはの魔方陣が広がるのと同時にヴィヴィオも両手に魔力弾を無数に放出する。それは真円を描くように回転を始め徐々に加速を始めヴィヴィオを囲う輪になった。

(RHd、なのはみたいに加速魔法を組み合わせられる?)

 心の中でRHdに問いかけると、用意してあったかの様にヴィヴィオの前にも環状の魔方陣が広がった。

【AllRight Barrel Shot】

 レイジングハートから飛び出した衝撃波が防御プログラムを固定する。 

(さっすが! なのはとレイジングハートっ)
「エクセリオンバスター、フォースバーストッ ブレイクシュートッ!」
「いっけぇぇぇえええっ」

 イメージしたのはクロスファイア-シュートとインパクトキャノンの合体技。
 虹色の輪が瞬時に1点に集まり、バレルによって更に加速し防御プログラムに突き刺さった。



「名前をあげる。夜天の主の名において汝に新たな名を贈る。」

 魔導書の中で意識を完全に取り戻したはやては願いを込め新たな名を口にする。
 この子達が今まで閉じ込められた、彼女達自身の呪いを断ち切って明日を笑顔で迎えられる新たな名を

「強く支える者、幸運の追い風。祝福のエール…リインフォース」
「新名称リインフォースの意識。管理者権限の使用が可能になります」

 防御プログラムはなのはとヴィヴィオが何とかしてくれたらしい。
これで外に出られる。
 あの子達のところに。

「行こか、リインフォース」
「はい、我が主」



「フェイトっ!」
「フェイトちゃん!」

 ヴィヴィオ達が防御プログラムを吹き飛ばした直後、上空にフェイトが現れた。

「ありがとう、庇ってくれて…フェイト…泣いてるの?」

 彼女の頬に涙の跡

「ううん、何でもない。何でもないよ…」

 フェイトにとって魔導書に取り込まれるのは変えてはいけない未来だったんだと感じた。
 この事件後フェイトはリンディの養子になるが、彼女の心に変化をもたらした要因がこの時取り込まれた中にあった事はヴィヴィオは知らない。



『みんな気をつけて、闇の書の反応まだ消えてないよ』

 エイミイからの通信でヴィヴィオは下方を向く。
 黒い球体が周りの空気を震わせている。

『闇の書の主、防衛プログラムと完全に分離しました』
『みんな、下の黒い澱みは暴走の始まる場所になる。クロノ君が着くまでむやみに近づいちゃ駄目だよ』
(あれを止めなくちゃいけないんだ…でも…)

 今の姿でもあれは消せない。消滅兵器を使うしか無いの?
でもそれは…アルカンシェルをこの場に撃てばどれだけ被害を押さえても海鳴市は消えてしまう。

『なのはママっ…フェイトママ、はやてさん!』

 闇の書を止めた今、次にどうしたらいいかを効こうと念話を使おうとした。しかしなのは達が見つからない。

(どこに行ったの?)
『ママっ! 答えてっ!』
「どうしたの? ヴィヴィオ? どこか怪我したの?」

 狼狽えているとなのはに声をかけかれた。

「ううん、何でもないから。大丈夫、うん♪」

 どうしてなのは達と連絡が取れなくなったのか…取り残されたのかと急に心細くなった。



 一方、ヴィヴィオと共に来たなのはとフェイト・はやては結界の中に居た。

「なのはちゃん、フェイトちゃん…まだか?」
「ごめん、もうちょっとだけ…」
「私も…」

 はやての作った3人が入れる位の極小結界、外部と完全に遮断した中で3人は準備を始めていた。

(あともう少し…もう少しや)

 海上に出来た黒い球体を見つめはやては結界を維持し続ける。



「あれはっ!」
「暴走が始まった!」

 黒い球体の近くに白い光の柱が現れた。焦るなのはとフェイトと違いヴィヴィオは魔法の色を見て否定する。

「ううん、あれは…はやて!」

 叫んだ直後、シグナム達が現れた。そして中央に現れるはやて

(はやてさん、だからリインさんと夜天の書を…)

 ヴィヴィオの時間の八神はやては機動六課設立前、特別捜査官だったのを知っている。
 捜査官は執務官や武装局員と比べると直接戦闘に参加する事は少ないが無い訳ではない。なのにどうして戦闘に不向きなデバイスを使っているのかと前々から疑問を持っていた。
 それが今氷解する。夜天の書とリインフォースⅡに受け継がれたのだ。夜天の魔導書とリインフォースの想いが。
 
「みんなごめんな、迷惑かけて」
「はやてちゃん」
「はやて」

 考えていると先になのはとフェイトがはやて達の下に向かった。慌てて後を追う。

「はやて、その…大丈夫?」
「ん? 何が?」
「その…思いっきり叩いちゃったから…」

 ヴィヴィオが気にしていたのは覚醒する前に与えた闇の書の戦闘ダメージ。
 前回、星の庭園でジュエルシードが同調しただけでバリアジャケットが弾ける程の威力だったのに、さっきはレリックまで同調したのだ。
 その威力は桁違いで闇の書の羽や甲冑の一部を破壊し、痣を作り闇の書に少なからずダメージを与えていた。
 もしそれが今のはやてに残っていたら…

「ああ! それなら問題ないよ、違和感は少しあるけどな。あれは全部防御プログラムに伝わってて私やこの子は何も受けてないって。」

 その言葉にホッと息をつく。



「準備OK。時間は1分くらいだけど…」
「私も準備できた」
「私もや…あとは…あの子達次第やね」

 結界の中ではやて達は海上の様子を見て呟いた。
 チャンスは1回、逃すわけにはいかない。



「時空管理局執務官クロノ・ハラオウンだ。時間がないので簡潔に説明する。」

 はやて達と合流したのとほぼ同時にクロノが降り立つ。

(こんな時に何をしてたのっ!)

 ヴィヴィオは一言言ってやりたいと思ったけれど、先にしなければならない事があるのを思い出し、そのままクロノの説明を聞くことにした。
 ここに来られなかったのには理由があるのだろう。

「あそこの黒い澱み、闇の書の防衛プログラムがあと数分で暴走を開始する。僕らはそれを何らかの方法で止めないといけない。停止のプランは現在2つある。」
「1つ、極めて強力な氷結魔法で停止させる。」
『助けて貰えなかったら、今頃どっかの世界で氷漬けかあの世や』

 この世界に来た時のはやての言葉を思い出す。

(だから氷漬けなんて言ったんだ)

 思わず納得しかけたヴィヴィオにクロノはもう1つのプランを口にした。

「2つ軌道上に待機している艦船アースラの魔導砲アルカンシェルで消滅させる…」
「!!」
(消滅兵器…アースラにそんな物を…ここで使えば)

 海鳴だけじゃなくて、この世界に深刻な影響を与えてしまう。
 でも、残っているのは魔力の塊みたいな物だから氷結出来ないらしい。

「私もそれ反対」
「同じく、絶対反対!」
「…」

 ヴィヴィオもなのは達と一緒に反対の声を上げようとした。
 しかし闇の書が暴走した時の被害が消滅兵器・アルカンシェルによって起きる被害予想を上回っているならより少ない方法を取った方がいい。

(何か良い方法が…別次元に!)
「クロノ、別世界…近くの次元世界とか次元世界の間に転送してアルカンシェルで消滅させられないの?」

 小規模次元震程度の影響は出るかも知れないが、ここで消滅させるより良い。

「それは僕も考えた。だが、発動まで残された時間が少なすぎる。転送中に発動するか、転送中にアースラが乗っ取られてしまう可能性が高い。」
「それに転送中に暴走してはやてを取り込んで逃げられるかも知れない」

 クロノとユーノに却下される。

「あーもう、みんなでズバッとぶっ飛ばしちゃうわけには行かないの?」
(アルフ、気が短すぎるよ。それが出来たら良いけど…)

 その時なのは達がとんでも無い事を口にする。
「軌道上、宇宙空間でアルカンシェルは使えるの?」と

「!? まさか…」

その発想な無かったヴィヴィオは改めて感心する。

(やっぱりなのはママ達凄い!)


  
「実に個人の能力頼りでギャンブル性の高いプランだが、やってみる価値はある」
「防衛プログラムのバリアは魔力と物理の複合4層式。まずはそれを破る」
「バリアを抜いたら本体に向けて私達の一斉砲撃でコアを露出」
「そしたら、ユーノ君達の強制転移魔法でアースラの前に転送っ!」

 次々に決まっていく方法にヴィヴィオはあえて何も言わない。

(きっとこれは私がここに居なくてもあった事…)

 はやてがみんなに助けられたと言っていた理由がここにあるんだと考えた。

「ん? なのはちゃん、フェイトちゃん、ヴィヴィオちゃんも。シャマル」
「はい、皆さんの治療ですね」

 なのはとフェイトもそうだが、よく見るとヴィヴィオの騎士甲冑も何カ所か破けている。(闇の書と近くで戦った時かな?)
 気に留めていなかったけれど、闇の書と近接戦闘したのだからあっちからのダメージも通っていたのだろう。

「わ、私は自分で直せます。RHdお願い」

 そう言うと一気に甲冑の破損箇所が虹色の光に包まれ、光が治まった後、傷も残らず元に戻っていた。

「なんて無茶苦茶なデバイスだ…」

 ボソッっとクロノが呟いた言葉がおかしくて思わず笑った。 


「始まる…」

 クロノ言葉と同時に遂に暴走が始まった。それに併せてなのは達も動く。周りの障害を取り除くユーノとアルフとザフィーラ
 バリアを破る為にそれぞれの高出力魔法を打ち込むヴィータとなのは。
(これがエースクラス…)

 一時的にならヴィヴィオもなのはと同じ位の魔法を使えるだろう。
 でも感じたのは違う理由、目の前にいる強大な相手にも怯まずに突き進める強さ。

(この強さが私を助けてくれたんだ…)
『その人が居ればどんな苦境でも抜け出せる。そんな人をエースと言うんだ』

 昔フェイトに聞いた話。なのはも、フェイトも、はやても、みんなエースなのだと。

(だったらここで私が出来ること…私はイレギュラーを叩く!)

 この世界で本当は無かった、起こらなかった部分だけを居ない筈の私が直せば、元の未来に近づく。
 そう考えて防御プログラムを見ていた時、一瞬何か白く発光する物が見えた。
 誰もそれには気がついてない。

(これはまさか…はやてさんの魔力が)

 その予想は当たっていた。シグナムとフェイトの攻撃直後にある筈の無い白いバリアが現れたのだ。

「もう1層!?」
「うそっ」
「もう1度ぶっ叩けば関係ねぇーっ!」
「駄目、これは私の役目っ! アルフっ受け止めて。お願い」

 再び攻撃態勢を取ったヴィータを遮って両手から砲撃魔法を撃った。

「あれじゃ弱い…破壊出来ない。何っ!」

 クロノの叫ぶより速く、そのまま急降下する。

「まさかっ、アルフ!」
「あ、ああっわかった!」

 ユーノとアルフは気づいてくれたみたいだ。
 星の庭園でプレシアの作った結界を破った方法。

(今の私ならあの時よりもっとっ!)

 海面スレスレの位置から先に打ち出した砲撃魔法めがけて突っ込む。そして砲撃魔法がバリア当たったのと同時に魔力を溜めた右手をそこへ打ち込んだ。

「ファイァアアアアッ、アンドッ…ブレイクッ!!」

 防御プログラムと魔力の塊がいくらはやての魔力を使っていても、それ以上の魔力と自らを弾丸と化したヴィヴィオの攻撃であれば壊せる。
 その予想は当たり、ヴィヴィオはバリアを破壊しそのまま防御プログラムの内部を貫通して再びバリアを内側から破壊して飛び出した。

「・・・っとっっとお! キャッチ!」

 それを見越したアルフが受け止めてくれた。

「あ…ありがとう。アルフ」
「相変わらず無茶苦茶だよ」
「はやてっ!!」

 バリアが壊れたのを見て叫んだ。
 それと同時に頭の中では

(まだある…まだ。どこ?)

 この世界に来た理由を果たす為に。
 もうその時は近いとヴィヴィオは感じていた。



「…なんちゅー無茶を」
『全くです』

 はやての中でリインフォースも同意…いや呆れているのだろう。
 作戦そのものが賭けに近いのに、その中で対象物に体当たりする者がいるなんて。

「でも、これでバリアは全部壊れた。いくよっリインフォースっ」
『はい、我が主』

 防御プログラムも元々闇の書、リインフォースの一部。しかも今迄外敵から守るために戦ってきたのはあの子達と一緒。

「彼方より来たれ、ヤドリギの枝。銀月の槍となりて撃ち貫け」

 でも、今は消さないと周りに被害を与えてしまう。

(私がもっとちゃんと出来てたら…ごめんな…)

 この子の分は私が背負って生きていく。何もかも!

「石化の槍、ミストルティン!」

 空に現れた白い槍はそのまま防御プログラムに突き刺さり石化させた。
 はやてが撃ち終わった後、効果を見定めクロノもプログラムを起動した

「凍てつけっ!!」
(何これっ…)

 防御プログラム周りの海面が凍り始め、クロノの声と共に一気に防御プログラムが凍り付いた。目の前に広がる白い世界。

(これではやてごと封印を…でも、これならもう動けない)

 しかし、ヴィヴィオを驚かせたのはその後だった。
 驚くというより、かつての恐怖が蘇る。

「全力全開っ! スタァアアライトッ」
(さっきの攻撃でもなのはは一度も使ってなかった…まさかこの為に?)

 なのはに加えて、フェイトとはやても。

「雷光一閃っ、プラズマザンバァァアッ!」
「響け終焉の笛っ ラグナロクっ」
(3人ともアレが全開じゃないの!?)
「「「ブレイカァァアアアアアッ!!!」」」

 この光景を見て、なのはママ達とは絶対に模擬戦でも戦わない、絶対に反抗しないと堅く心に誓った。
 こんなのを2度と受けたくない。



~~コメント~~
 高町ヴィヴィオがなのはAsの世界にやってきたら? というのがこの話のコンセプトです。
 一番の佳境、クライマックス、As12話あたりです。
 ヴィヴィオがトリプルブレイカーを目の前で見たらどう思ったでしょうか? スターライトブレイカークラスの魔法が同時に3発。受けた者にしかわからない恐怖があったことでしょう。
直撃を受けたヴィヴィオにとってはトラウマだったかも知れませんね。

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