第13話「未来への扉」

「…捕まえたっ」
「長距離転送」
「目標、軌道上」
「「「転送っ!!」」」

 なのは達の砲撃魔法によってコアを露出された防御プログラムがアースラの前に転送された。
 コアの飛んでいく先をヴィヴィオは見守る。この後、アルカンシェルの直撃を受けるのだ。

 
 
(守ってきただけなのに、どうしてこんな運命になったのかな…)

 どうして、ここまでして消されなければならないのか。
ヴィヴィオにとって他人事で無い気がしていた。
 しかし、近くで同じ様に上空を向いているザフィーラの姿を見て思い出す。

『3年前になのはちゃんやフェイトちゃん、私を庇ってな…』

 この世界に来る前のはやての言葉。なのは達を庇ったのだったらまだこの後に何かが起こるんだ

(気を抜いちゃいけない。まだこの後何かがある…)


 ヴィヴィオを除く全員が軌道上に転送されていく防御プログラムを目で追いかけている。なのはも、フェイトも、はやても…
 3人の近くに向かい何か変化が起きないかと周囲を警戒した。



『アルカンシェル、バレル展開』
「ファイアリングロックシステム、オープン。命中確認後、反応前に安全距離まで待避します。準備を」
『了解』

 今迄闇の書の為に何人もの人々が犠牲になってきた。それを終わらせる。引き金を引くのを躊躇っていたリンディの姿はもうそこにはなかった。

「アルカンシェル、発射」

 発射された光の帯は防御プログラムへ一直線に伸び、周辺区域全ての物と共に消滅する。

『…効果空間内の物体完全消滅…再生反応ありませんっ』
「準警戒態勢を維持、もう暫く反応空域を観測します」

 これでもう、闇の書の為に涙する者は新たに増えない。
 相当緊張していたらしい。息をついたら力が抜けそのまま椅子に座りこんだ。

『…というわけで、現場のみんなお疲れ様でした。状況無事に終了しました。』
(エイミイも緊張していたのね…あたりまえよね)

 地上と通信する彼女の声を聞いて、再び安堵の息をついた。



『…というわけで、現場のみんなお疲れ様でした。状況無事に終了しました。』

 エイミイからの報告を受けて、なのは達の顔にも笑顔が戻った。
デバイスを待機状態に戻す者、喜び合う者、息をつく者…
 しかし、その中でヴィヴィオだけは緊張の糸を緩めなかった。

(どこから…上…!!)
 
 キラッと光った小さな光が見えた瞬間、ヴィヴィオは反応する。
高速で何かがこっち目掛けて近づいてくる。

「みんなっここから逃げて。はやくっ!!」
「ヴィヴィオ?」
「どうしたんだ一体…防御プログラムはもう」
「違うっそうじゃない!! 速くっ」

 思っていた通りこっちに向かってくる。
 高速で向かってくる小さな光。なのは達はどこにあるのかわからないらしくキョロキョロ辺りを見ている。
 はやて達を守ろうと守護騎士4人とアルフが3人の周りを囲む。

(このままじゃダメ。聖王の鎧をっ)

 ヴィヴィオのみを守る絶対防壁、故にヴィヴィオしか守れない。
 数十個の魔法弾を生み出し光目掛けて放ちながらザフィーラの正面、進行方向正面に入り更に魔法弾を撃ち出す。
 1発でも落下物に当たれば速度が落ち、打つ手が生まれる。

(お願いっ当たって!!!)

ヴィヴィオの願いとは逆に全て外れてしまう。

(私が盾にっ!)

 そう思い両手を広げてめいいっぱい聖王の鎧を作った直後、目の前が暗くなった。

「我は守護獣、主達を守るのが役目」

 ザフィーラがヴィヴィオを庇おうと前に出たのだ。  

「ザフィーラ…ダメっ!! 逃げてっ!! 私は平気だからっ!!」

 このままじゃ未来から来た意味が無い。
 助けるつもりが助けられるなんてっ

「お願いっ、私はいいからっ!」

 全員の目にその光が見えた時、ヴィヴィオはもうダメだと目を瞑った。
(私まで助けられちゃ…ダメっ!)



「二度も逃がすかぁぁっ!」
「ブラスター3っ スターライトッ、ブレイカァァアアア!」
「オーバードライブ トライデントスマッシャァァアッ!」
「響けっ! 終焉の笛ラグナロクッ!!」

 しかし、突如海鳴市の方角から3色の光の帯が現れ、軌跡を計算したかの如く落下してきた物へと伸びた。
 それは帯というより壁の様に広く、その場に居た者達の視界を全て覆い尽くし、やがて何も無かったかの様に消えた。


 
「……」
「…何が一体…」
「…なに…今の?」
「…わからない…でも…」

 目の前で何かが起こった。
 でも一体何が起きたのか理解出来ず、この時間のなのは達は呆然と光の通った道を見つめている。


 はやてとなのは・フェイトの立てた作戦だった。
 かつて目の前で起きた悲劇を繰り返さない為に。
 アルカンシェル発射後、破片に紛れて落ちてくる防御プログラムの欠片を消滅させる。
 ギリギリまで待って、向きが変えられない位近づいた瞬間を狙い撃ち抜く。
 今持つ最大威力の砲撃魔法で。

『クロノ君っ、何今の? 凄い魔力反応があったんだけど。クロノ君ってば!』
「…ああ、すまない。僕にも…」

 エイミイに聞かれたクロノにもあまりにも突然の事で答えられず、彼を含めその場に居た誰もが状況を把握出来ていなかった。



『ヴィヴィオ、聞こえる?』
『なのはママっ』
『お家に帰ろう。これできっと元に戻ったから』
『でも…』
『もうすぐ、昔のはやてちゃんが倒れるの。その時そっとね…』
『うん…』

 ヴィヴィオが頷いたのとほぼ同時に

「はやてちゃん!」
「はやてっ!!」

 なのはの言った通りはやてが意識を失った。全員の視線がはやてに向かっているのを見て

「みんな、バイバイ♪」

 そっと呟いてその場から去った。



「……」
「…何なのよーっ!!」

 さっきまで学校の前に居たのに、今度は最初の町中に戻ってきている。

「落ち着いて、アリサちゃん」
「訳がわかんないーっ!!」

 アリサを落ち着かせながら、何となくなのはちゃん達が守ってくれたんだというのを感じた。でも…

「絶対後で最初から教えて貰うんだから…」

と呟いたのを聞いて、なのは達と次に会った時が大変だろうなと思わず苦笑した。



「ただいま~♪」

 ヴィヴィオはなのは達と合流した後、そのまま未来に帰らず家に戻ってきた。
 なのは達もそうだったけれど、ヴィヴィオもなのはの顔を見た途端疲れがドッと出て未来に戻るどころではなかった。
 闇の書と1対1で戦ったのだから無理もない。

「お帰りなさい」

 ドアを開けて誰も居ない家に声をかけ入った時、いきなり声が聞こえ4人で顔を見合わせた。
 一体誰が?


「「「!!!」」」
「リンディさん!?」

 そこに居たのはリンディ・ハラオウン

「どうして、まだアースラは軌道上に…」
「クロノに後の事をまかせて、ここに転送して貰ったのよ。今日はお疲れ様。お茶と甘い物を用意してあるの、どうぞ。」

 クロノのため息がここまで聞こえてきそうだ。
いや、それよりも…

「え…えっとね…あのね…」

 ヴィヴィオの後ろにはなのはとフェイト・はやてが立っている。いくらリンディでも3人の姿とあの魔法を見たら3人が誰なのか気付く。
 しかし彼女は自分で入れたお茶を美味しそうに飲みながら誰ともなく話し始めた。

「これは独り言。最後に見えた魔法についてはデータを削除済み。何人かが見ているでしょうけど、記録データが無いから裏付けようも無いでしょうね。それはこの付近から確認された転移魔法も一緒。」
「…やっぱり判ってたんですね。私らの事」

 最初から知られていたのだ。
 ヴィヴィオが何をしていたか、なのは・フェイトが何をしていたかを…

「貴方については予想外だったけれど、ヴィヴィオさんが『戻ってまた来た』『ロストロギアについて詳しい人が一緒』だって言っていたからピンと来たわ。元に戻っていなかった世界を修正しに来たのよね。しかも、誰よりもこの事件を良く知る当事者を連れて」
「アハハハハ…」

 もう乾いた笑いしか出ない。

「ヴィヴィオさんのデバイス、RHdのメッセージ…あなた方のでしょう?」
「はい。」
「そうです…」
「リンディさん、でもそれはっ!」

 その話が広がれば未来を大きく変えてしまう。

「言わないわ。誰にも…この時間のあなた達にも。じゃあそろそろ失礼するわ、戻らないとクロノがカンカンに怒っている頃だから。また会いましょう、高町なのはさん、フェイト・T・ハラオウンさん、八神はやてさん。そして今度も…ありがとう、高町ヴィヴィオさん」

 そう言って、リンディは部屋から出て行った。



「やっぱり敵わんわ。格がちゃう」
「そうだね。私、凍っちゃったよ」
「私も頭真っ白になっちゃった」

 リンディが入れてくれた紅茶を飲みながらはやてとなのは・フェイトが口々に言う。

(私もビックリしちゃった。でも良かった…知られたのがリンディさんで…)

 ヴィヴィオ達の記録を隠すだけでなく、色々と助けてくれた。

(私も…いつか…)

 ヴィヴィオはなのは達の会話を聞きながら微睡みに包まれていった。思っていたよりも相当疲れていたらしい…



「ヴィヴィオ…ヴィヴィオ…起きて」
「…んん…はやて…さん?」
(あ…私寝ちゃったんだ…)

 起こされて窓を見るとまだ外は暗い。

「どうしたの?」
「ちょっとだけ外に出られる? なのはちゃんとフェイトちゃんを起こさんようにそーっとな」

 小声で話すはやてにどうしたのかと首を傾げつつ後をついていく。そして外へ出た途端、目の前に居た者を見て完全に目が覚めた。

「夜天の魔導書!? RHdっセットうぷっ!」

 いきなりはやてに口を塞がれ、デバイスの起動を止められた。

「ストップストップ、戦いに来たんとちゃうから」
「え?」
「リインフォースがな、ヴィヴィオに話したい事があるんやって。」
(リインフォースってリインさんの前、先代の祝福の風? リインさんの名前が【リインフォースⅡ】だったから前にリインフォースが居るって思ってたけど、夜天の魔導書がそうだったんだ…)

 目を丸くして頷く。

「ベルカ聖王と呼べばいいのか」
「高町ヴィヴィオ、みんなはヴィヴィオって呼ぶよ。もう聖王じゃない、普通の小学生」
「普通の者に止められる程私は弱くはないのだがな」

 皮肉を混ぜて自嘲の笑みを浮かべるリインフォースとそれにつられて笑うはやて

「普通がいいの!」
「リインフォース、何か話あるんやろ」

 脱線しかけた話を元に戻すはやて。
でもはやては複雑な表情を浮かべている。

(どうしたの? はやてさん…)
「ああ、かつての聖王家にも同じ力を使う者がいた。全ての者が使える訳では無かった様だが少なくとも数人はいた。【時を移る力を持つ者】。だがある時を境に全員消えてしまった、ベルカ聖王家と共に…。人は弱い、心が弱ければ強い力に頼ろうとする。それが自らを滅ぼす力であっても」
「どうして…どうして私にそんな話を?」
「夢を見ただろう、数ある可能性の1つの夢を。お…ヴィヴィオの心が弱ければ夢は現実になる。それは新たな悪夢を生み出すだろう。その力の強さと危うさを知っていて欲しい。夜天の魔導書…闇の書…古き時代から旅を続けてきた者同士として最後の願いだ」

(リインフォースさんは知ってるんだ…聖王家の最後を…)
 夜天の魔導書・闇の書として幾重の主と共に在り、当時のベルカ聖王家がどんな末路を辿ったのかを。
 しかし彼女は最後を口にしなかった。かつてのベルカ聖王家とヴィヴィオは世界も環境も何もかもが違う。ヴィヴィオを信じて尚、願いだけを伝えたかったんだと気付いた。

「私は負けない。この力は本当に怖い…でも、私は争うのは嫌いだしみんなと一緒に居たいだけ。」
「今は私も一緒や。リインフォース」
「争いを好まぬ聖王の末裔と夜天の主か…冥王がこの時代に目覚めていればさぞ喜んだだろう」
「うん、大切な友達だよ。」

 首を傾げるリインフォース。
 きっと彼女には判らない。
 まさか既に【冥王】と呼ばれた者が一度目覚めていたなんて想像もしていないから。

「我が主…その、最後によろしいですか?」
「何や? リインフォース」

 リインフォースはヴィヴィオのとの話が終わったらしく、はやての方を向いた。

「主は今、幸せですか? 笑っておられますか?」
「うん、うん…あんたの…リインフォースのおかげや…何でやろ? 笑ってるって言ってるのに涙が止まらへん。変やな…」
(はやてさん…)

 ヴィヴィオにははやての涙の意味がわからなかった。
嬉しくて泣いているのか、それとも…

「そうですか…新たな祝福の風に伝えて下さい。祝福の風リインフォースの名は誰の物でも無い、貴方の名だと。」
「うん、わかった。ちゃんと伝えるな…」

 はやてが答えたのを見て頷き、リインフォースは背を向けた。

「それではお元気で…」
「待って、リインフォースさんっ」
「まだ何か…」
「もう一度、なのはに会ったら伝えて欲しいの。2年後、雪の積もった世界で見えない敵に気をつけてって」
「…わかった、伝えておこう。小さなAsよ、ありがとう」

 リインフォースは微笑むとそのままその場を後にした。



「ヴィヴィオ、良かったんか? あんな事言ったら…また未来が」
「きっと大丈夫。なのはママは簡単に落とされたりしない。何があってもまた飛び続ける。それがなのはママだから」

 はやてに聞かれて答える。
 ヴィヴィオが言ったのは一番最初に思いついた事。
 なのはが魔法に出逢わなければ怪我しないという考えを改め、なのはが先に知っていたら怪我しない未来が生まれる可能性があるということ。
 なのはがもし言った通りの場所で傷を負っても、きっと同じ様に空へと戻るだろう。
 それがなのはママなのだから。

「そうやね」
「はやてさん…」
「さ、戻ろうか。雪も積もりそうやし暖かくして寝よ」

 月明かりと雪の反射に照らされたはやての顔は涙でボロボロだったが、ヴィヴィオには何故か晴れた表情に見えた。



「おかえり、なのは、ヴィヴィオ、フェイト、はやて」

 ヴィヴィオ達が目覚めた時、目の前にユーノがいた。
怒っているのが一目でわかる。何故怒っているのか原因も判ってる。

「はやてちゃーん、やっと起きたですっ!」
「あまり心配させないで下さい」
「そうですよ。みんな揃って眠ったまま起きないなんて…ヴィータちゃんなんて、【はやてちゃんが起きるまでアイスを食べない】なんて願掛けしてたんですから」
「あっシャマルそれを言うかっ! シャマルも間食しないって」

 どうやら八神家全員が心配になって来ていたらしい。

そして…

「2人とも真面目に願掛けをする気はないのか?」
「!!」
「「ザフィーラっ!!」」

 シャマルとヴィータの会話に呆れてザフィーラが思わずこぼした。
 嬉しくてヴィヴィオはザフィーラに抱きつく。その後にはやても…

「良かった、ザフィーラがここに居てっ♪」
「うん…うんっ! 良かった、本当に…会いたかった。ザフィーラっ」

 何がどうしたのかとシグナム達は全員目を丸くし、ザフィーラ本人も困惑している。
 でも、それでも2人の友人を家族を取り戻せた嬉しさはそれ以上だった。

~FIN~


~~コメント~~
 高町ヴィヴィオがなのはAsの世界にやってきたら? というのがこの話のコンセプトです。
 過去の自分を端で見つつなのは達が取った行動、遠い過去から似た因縁を持ちながら今を生きようとするヴィヴィオと主を守る為に消えるリインフォース。
 そして、もし大人になったはやてがリインフォースともう一度逢えたら…
 なのはAsの世界を残しつつ、ヴィヴィオ達によって少しアレンジされたパラレル世界の様な話、そんなのを書きたくて13話ほど書かせて頂きましたがいかがだったでしょうか?
 【リリカルなのはAs】のアニメを見た時を思い出して読んで貰えれば嬉しいです。

 これでアニメ版との話はおしまいですが、もう1話くらいサウンドステージ的な話を書いてみたいです。

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