第18話 「高町ヴィヴィオ封印指令Ⅰ」

「はやて大変だっ!!」

 ヴィヴィオ達が過去に行っていた頃、時空管理局ミッドチルダ地上本部の通路を走る影があった。
 部屋の主、八神はやての執務室に駆け込んできたのはヴィータだった。
 それも本局教導隊の制服のままで

「ヴィータそんなに慌てて、何かあったん?」
「大変なんだ、本当に大変なんだよっ!!」

 相当慌てているらしく彼女は大変としか言わない。
「と、とにかく大変なのは判ったから落ち着いて最初から話して。判るようにな、はいお茶」
「う、うんありがと。」

 そう言って差し出した湯飲みを取って一気に飲み干し、ふ~っと息をつく。

「それでどうしたん? 大変って」
「さっき本局で聞いたんだ。最近登録されたミッドの高ランク魔導師に対してリミットをかけるって」
「最近登録された高ランク魔導師って……まさかヴィヴィオかっ!?」

 ミッドチルダを含む管理世界は魔法文化である。その中でも時空管理局が管理する魔導知識・制御・使用に秀でた魔導師に与えられる魔導師ランクといかに高レベルな魔法が使えるかを表す登録制度があり管理局は勿論、民間でも通用する。
 しかし一方で登録した魔導師による犯罪も多く、管理局はそれら犯罪の凶悪化防止と治安維持を目的に管理局に所属如何に関わらず高ランク魔導師・高レベル魔法使用者に対して「リミットシステム」という魔力制限を行っている。
 ヴィータの話はそのリミットシステムの対象者としてヴィヴィオが挙がっているというのだ。

「でもヴィヴィオは一応無限書庫司書の資格持ってるかられっきとした本局の局員。それにいくら高ランクな魔導師でもデバイス無いとC以下で登録基準に達してない…」
「頼んで調べて貰ってる。なのはは何度呼んでも出ねぇしフェイトもどこかに出てるみたいでさ、通信じゃ誰に聞かれるか判らないから」
「ありがとなヴィータ。私も聞いてみるから戻って調べてくれるか」
「うん、わかった」

 そう言うと彼女は来た時と同じ様にそのまま部屋を駆け出して行った。


「さて…どうしたものかな」

 自室で1人になったはやて考え込む。

(最近SSランクの魔法が使えるからってなのはちゃんがヴィヴィオのライセンスを更新したのは知ってる。でもヴィヴィオは魔導師ランク試験を受けてない。ということはどこで話が漏れたかと考えると…)
「シグナムとの模擬戦かな…やっぱり」

 模擬戦でヴィヴィオの放ったスターライトブレイカーははやても見ている。

(それ以外には考えにくい。元々RHdはなのはちゃんの認証解除がなければどこにでもあるただのストレージデバイス。ロストロギアが組み込まれてても起動を保護者でもある教導隊のエースが持っていれば問題にもならんと思ってたんやけど…甘かったか)

 ヴィータが聞いた話がヴィヴィオの事であればリミットをかけさせる原因を作ったのははやてとシグナムになってしまう。彼女はまだ魔法を覚え始めたばかり…伸びる余地は未知数。そんな子にリミットを付けさせるのは間違っている。
 闇の書事件で短時間とはいえ第1級ロストロギア【闇の書】の管制プログラムと1対1で対峙し、もう1人のマテリアルであるチェントを追いかけ助けた。それらで培った力がシグナムとの模擬戦で出ただけ。ベルカ聖王の血がそうさせているのか彼女が真剣に取り組みだしているのか、母の教導が良いのか、どちらにしても今リミットを付ければその素質を潰してしまう。
 しかし地上側の立場に立てば彼女にリミットを付ける理由もわかる。
 もしヴィヴィオが何らかの事件に巻き込まれたら周りに被害を与えてしまう。それを未然に防ぐ措置と言われれば筋も通っている。彼女は実際チェントとの戦闘で地下施設を破壊している。

(リミット対象外にする方法はある。正式に管理局員として魔導師ランクを取って貰ってデバイスを含めて管理局の管理下におく。でもそれも…)
「ヴィヴィオの保護者はなのはちゃんやけど、教会はヴィヴィオの複製母体がベルカ聖王なのを知ってる…Stヒルデ学院にすんなり入れたのも自由に教会本部に出入りできるのもそれが理由…前になのはちゃんとヴィヴィオが遊びに来た時聖王の遺物をそのまま持っていていいと教会から打診があったって言ってたし…」

 一般に公開されず今まで厳重に管理していた書物をそう簡単に渡せる訳がない。教会が何を考えているのか手に取るように判る。カリムはともかく、聖王教会はヴィヴィオと何らかの関係を持っていたいと考えているのは間違いないだろう。
 そんな彼女に管理局の魔導師ランク試験を受けさせたらいい顔をしない。

「もし今から試験を受けるってヴィヴィオが言っても、一緒やろうな…私らが薦めたと思われる。でもリミットをかけても結果は同じか…」

 残るはヴィヴィオのデバイスを管理局で預かるという方法だが、あのデバイスもヴィヴィオが持っているから安定しているのであって他の誰かが触れて起動させたりしたら大事故に繋がりかねない。RHdに組み込まれたレリック・ジュエルシードの特性が正にそうだ。

「1人で考えても仕方ない。行くか」

 そう言って制服の上着を着て部屋を出て行った。



 2時間後、はやては予想通りプレシアの研究施設にいたなのはを連れ出し聖王教会内のカリムの部屋を訪れていた。モニタ向こうにはリンディとフェイトの姿もある。

「…とまぁ、まだヴィータからの連絡待ちですがその高ランク魔導師っていうのはヴィヴィオの事に間違いなさそうです。」
「……」
「………」
「…………」

 全員が腕を組んで考え込む。その中でフェイトがはやてに聞いた。

『…はやて、ヴィヴィオはまだ子供なんだからデバイスの管理はなのはと私がするって形で治められない? 私達が保護責任者なんだし』
「うん、それも考えたんやけどチェックされて中にロストロギアが入ってるの判ったら地上本部預かりになってしまう。カリム、聖王教会で魔導師ランク試験を黙認出来へん?」
「う~ん今は大丈夫だけれど、後で話が伝われば問題になるでしょうね。聖王の再来を待っているグループにとって屈辱と思う人も出てくるでしょうし。教会内も1つじゃないから…古代ベルカの騎士でそれ程の能力者なら騎士団も私も喉から手が出る程欲しいわ。」
『…困ったものね…管理局と聖王教会でもっと摺り合わせないと…はやてさん、発端はどこなのかしら?』
「教導隊に研修を受けに来た地上部隊か教導隊から…漏れたと思います。前になのはちゃんとシグナムが戦技披露会で勝負して引き分けたのを引き合いに出して、娘が借りを返したって一部で盛り上がってたみたいですし」
「…はやてには困ったものね。何もしなければこんな事にならなかったのに」
「…はい…スミマセン…本当に悪かったって思ってます。ハイ…」

 カリムのため息に言い返す言葉も無い。

『なのはさん、なのはさんはどうなのかしら?』

 ここまで何も言っていないなのはに全員の視線が集中する。

「私は…ヴィヴィオが目指してるのを応援してあげたい。ヴィヴィオがもし管理局や聖王教会じゃなくて何か他の事を目指してくれてもいいんです。管理外世界でヴィヴィオが目指す事をしたいって言っても私はそれを応援したい。私も両親や家族、友達にそうしてもらったから…」

 なのはの言葉を聞いてはやて自身1番大切な事を忘れていたのに気づいた。
 
『そうね、なのはさんの言う通り。これはあくまで大人の問題、大人の問題は大人の私達が片付けましょう。』
「…そうですね。」

 誰が何をするというのは決まっていない。でも彼女のために出来る事をする。全員が頷いた時それは決まった。

 それはまだヴィヴィオ達が戻ってきていない時の話。


~コメント~
 もし高町ヴィヴィオがTheBattleOfACESの世界に行ったら?
 ASシリーズではヴィヴィオが時間移動する際、元の時間のヴィヴィオは眠ったまま体が残ります。今回はそんな彼女に迫る手があったら?という話です。 
 少し毛色が違うので上手く進むか不安

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