第19話 「闇の書の闇&ヴィヴィオ封印指令Ⅱ」
- リリカルなのは AgainStory2 > 4章 闇の書の意志
- by ima
- 2011.02.01 Tuesday 10:32
「ここがミッドチルダか~、管理局を見たときはSFの世界やと思ったけど普通の街やな」
「そうですね。海鳴市とさほど変わってはいないですね」
闇の書の浸食による両足の治療と嘱託魔導師としての簡単な説明があった後、はやて達一同はレティに連れられてミッドチルダへと赴いていた。
「車を用意するからそこで待っていて」
そう言ってレティが外へ出て行く。
彼女が直接の上司になるらしい。フェイトの保護者、リンディとも旧知の仲らしいから色々察してくれているのだろう。
「そうですね。海鳴市とさほど変わってはいないですね」
闇の書の浸食による両足の治療と嘱託魔導師としての簡単な説明があった後、はやて達一同はレティに連れられてミッドチルダへと赴いていた。
「車を用意するからそこで待っていて」
そう言ってレティが外へ出て行く。
彼女が直接の上司になるらしい。フェイトの保護者、リンディとも旧知の仲らしいから色々察してくれているのだろう。
「主はやて…本当に良いのですか? 主まで私達と一緒に来ることは…」
「うん…管理局ですれ違った連中の顔見ただろ」
「そうです。ここは私達に任せて」
「ううん、これは私がリインフォースと契約した時に決めた事や。1人1人なら心細くてもみんな一緒なら頑張れる。」
元々ミッドチルダに来る必要はない。でも管理局ですれ違った局員皆が放つ悪意ある視線。レティはそうなる事を見越してミッドチルダへ連れて来たのだろう。
「子鴉にしては殊勝だな。気に入らねば取り込んでやればいいものを」
「まぁな。…そうやね本当に気に入らん人がおったら」
「はやてちゃん!?」
驚くシャマル対して闇統とにやり笑みを浮かべる。
「冗談やシャマル。これからは悲しんでる人を助ける為に魔法を使う。リインフォースやみんなから教えてくれた魔導の力やからな。」
「…………」
そうこう話していると門から大きな車が入ってきた。中でレティが手を振っている。
「まぁ色々あるけど今日はミッドチルダの観光楽しもうな。」
そう言って車椅子を車の方へと向かわせた。
「本当、普通の町や…」
車中から流れる景色を見ながら呟く。歩いている人の服装もそうだし車や電車もある。魔法世界の中心地と聞いていたから人以外にザフィーラやアルフの様に動物形態の人、想像もつかない光景を思い浮かべていたから拍子抜けだ。
「あなた達の世界とそんなに変わらないでしょ。期待に添えなくてごめんなさいね」
「あっいえ、そんなことないです。」
顔に出ていたらしくレティに言われて首を振る。
「そうね、別の管理世界ならあなたの期待通りの世界もあるでしょうけど今日はここで許して。あなた達と同じ世界出身の人や先祖に持つ人も多いのよ。」
「そうなんですか?」
「ええ、そっちもそのうちあなた達も会う機会があるでしょう。そこで止まって」
レティがそう言うと運転手が車を寄せて止める。
「少し早いけれど食事にしましょう。シグナムさん、はやてさんをそのまま抱いて出て貰えるかしら」
「わかりました」
なるほど、レティが言った通り日本人っぽい人も居るらしい。
車を降りた時に彼女の行った意味に納得する。そこには正に海鮮料理屋ですと言った風な店があったのだ。わざわざ探してくれたレティに感謝しつつ暖簾をくぐる。
一方…
「あー気持ちいい~♪ 体がほぐれてくみたい」
岩に背を預けヴィヴィオは湯船で腕と足を伸ばした。
「ヴィヴィオ、なんかお婆さんみたい。」
「何とでも言って~♪ このままずっと入っていたいな~」
シャマルの魔法は傷は治せてもそれは見える部分の傷だけらしく、マテリアル3人との戦闘で本当の意味で近接戦をしかけたヴィヴィオにとって言った通り身体がほぐれていく感じが気持ちいい。
目を瞑ればそのまま眠ってしまいそう。
「ヴィヴィオ、怪我治ってなかったの?」
アリシアにそっと小声で聞かれる。
「う~ん、私の練習不足っていうかやっぱりチェントって凄かったんだなって」
アリシア達がアースラの映像を見ていたのを思い出して答える。リンカーコアの消耗以外に後になってヴィヴィオを襲ったモノ…全身の筋肉痛。
「お兄ちゃんかお姉ちゃんにマッサージして貰えば? お兄ちゃん達練習の後でしてるから上手だよ」
「なのは、シャンプーが目に…」
「あっごめん。すぐ拭くから目を瞑ってて」
なのはがフェイトの髪を洗いながら声をかける。
「あれだけ無茶な動きをすればそうもなります。闇の書にもそうでしたが私達闇の書構造体、それも3人を相手に1人で近接戦を挑んできたのはヴィヴィオ、あなたが初めてですよ。」
「ホント、闇の書に取り込んだのに全然弱らずに出てくるんだから」
湯船に入っていた星光と雷刃が呆れた様に言う
「フェッ、ヴィヴィオそんなことしたの!?」
「なのは、また目に…」
「あっゴメン待ってて、すぐに流すから。」
なのはは聞き耳を立てようとしているが、手がおろそかになってフェイトの髪を上手く洗えないみたいだ。そうするとチェントと一緒に入っていたアリシアがこっちをみて
「見ててヒヤヒヤしたんだから。集束砲は撃ち合うし、吸収されちゃうし、出てきたと思ったらジャケット外して近接戦するし…」
「ア…アリシア?」
なんか嫌なスイッチが入った?
これは早々に出た方が良いかも…嫌な予感がする。
「わ、わたし美由希さんにマッサージしてもらおうかな…」
そーっと出て行こうとするが、カジッと肩を掴まれる。
「ううん、あれだけ心配させたんだからここはちゃんと言わせて貰います。そこに座りなさいっ」
「ア、アリシア…私さっきから座ってるんだけど、それにここじゃなくても…」
「口答えしないっ!」
「ねえさまこわい…」
チェントの呟いた言葉に心の中で頷きながらも、アリシアの後ろで申し訳なさそうに頭を下げる星光が少し恨めしく思えた。
結局ヴィヴィオが出られたのは30分程経った後である。
「う~酷い目に遭った…あ、アルフさん」
湯あたりする寸前になって解放されて風にあたっていると向こうからアルフがやってきた。
「ヴィヴィオじゃないか、久しぶりだねぇ。フェイトはどこ?」
「あ、奥を曲がった部屋に居ると思うけど…どこに行ってたの?」
そう言えばこっちに来てから彼女の姿を見ておらず、闇の欠片戦でも見ていない。
「リンディ提督に頼まれて本局に行ってたんだ。向こうで事件が起きたのを聞いてヒヤヒヤしてたよ。すぐに帰れなかったしさ」
それで、と納得する前に彼女は手を振ってフェイト達の部屋へと向かっていった。
(ここでアルフさんに会うと…ジュエルシード事件、思い出しちゃうな…)
なのはに代わってジュエルシードを集めている最中、ここで彼女と出逢い、後でフェイトと出逢った。まだ1年も経っていないのに懐かしく思える。
そんな感慨にふけっていると後ろから呼び止められた。
「ヴィヴィオ、少しいいですか?」
「えっ?」
「あ~美味しかった。まさかここでも鍋があるなんてな」
野菜なのか魚なのか判らない物が入っていたけれど、味としては申し分なくはやては舌鼓をうった。次はなのはやフェイトと一緒に来たいと思う。
「なぁ、あんまり食べてなかったけど、口に合わんかった?」
ヴィータを筆頭に鍋をつついている間、ほとんど手を出さなかった闇統が気になる。昨日ヴィータのアイスを食べていたし、その後も夕食を堪能していたのに今日はあまり鍋をつついていないしどことなく元気がない様に見える。
「い、いや美味だったぞ」
「そうか、それならいいんやけど…」
何か悩んでるなら今夜にでも聞いてみよう。
家族の間で隠し事はしないというのが八神家の決まり事だ。
「レティ提督、これからどこへ行くんです?」
「聖王教会。ここから暫く走った所にあるベルカ聖王家由来の教会よ。ベルカ式は私達も詳しくは知らないから協同調査を頼んでいるの。リインフォースさんやシグナムさん達に教会の人が話を聞きたいって言ってて、はやてさんはそこでもう1度検査を受けて貰うわ。えーとあなたは…」
「我は子…はやてについていく」
闇統を見てどうすればとレティが少し間を置くと彼女がいつになくはっきりと答える
「え、ええじゃあお願いするわね」
「ああ、任せておけ」
彼女の言い方にはやては?マークを浮かべたまま闇統の顔を見るしかなかった。
「ここは原生生物も殆ど居ない無人世界です。周りに何もありませんから始まりの地としては最適でしょう。」
「そうだね…」
「まだ…悩んでいるのですか?」
「うん…ううん、もう決めたんだから。」
「そうだね。あとは来るのを待つだけ」
「ヴィヴィオ、行ってくるから待っててね。プレシアさん、暫くお願いします」
一方、元の時間では眠ったヴィヴィオに語りかけた後、プレシアに頼む。
「任せなさい。ここには誰も入れないわ」
「じきに妹達も駆けつける。戦闘機人とガジェットドローンが束になって来ても指1本触れられなかった場所だ。任せておいてくれ。」
胸を張るプレシアとチンクに
「母さん、くれぐれも穏便にお願いしますね…」
そう、今からなのは達は今からミッドチルダの地上本部へと直談判に向かう。
本局や聖王教会を絡めて物事を大きくしてしまえばヴィヴィオのリミットシステム適用は白紙に戻せるだろう。しかしそうするとヴィヴィオが聖王の血を継いでいるのが内外に知られてしまう。先にはプレシアやアリシア・チェントも居る。その後がどうなるかは判らないが今までと同じ平穏な毎日は2度と訪れない。
幸か不幸かヴィータが教導隊制服のまま駆け込んできたのは多少騒ぎにもなっていた。だからヴィヴィオの情報がこっちに入ったのは向こうも知っているだろう。
話がつくまでヴィヴィオを預かって貰う。ここなら管理局でもそうそう手が出せない。もし力ずくで来るようなら…
「なのはちゃん、フェイトちゃんいくよ」
「うん…わかった。ヴィヴィオ行ってくるね」
そう言ってなのは達はプレシアの施設を後にした。
過去世界ではシグナム達が部屋から出てくると待っていた者がいた。
「お前は…主と一緒に居たはずではないのか?」
「なんでここにいるんだよ」
「頼みがある。話を聞いて貰いたい」
「…わかった聞こう」
いつになく神妙な声に頷く。
そして暫く経った後
「待っててくれたん? ありがとうな」
はやてが検査と診察を受けた後、待合室へと戻ってくると闇統が待っていてくれた。
「あ、ああ。疲れただろう…。」
そう言って後ろに回り車椅子を押してくれる。
「ありがとうな」
振り向いて礼を言うと
「これからうぬが…ならない…」
「私がなに?」
「…頼むぞ」
闇統が呟くと突然魔方陣が広がった。
「魔方陣っ! 何するつもりやっ!!」
「………」
その直後2人の姿は消えてしまった。
「ん…んん、ここは? 砂漠? 何でここに」
はやてが突然連れてこられたのは砂漠の中、辺り一面に広がる砂の世界、見回すと人影を見つける。
「待ってたよ。新しい主」
「予定通りですね」
「…」
「なんであんた達がここに? みんなと温泉旅行に行ったんとちゃうの?」
目の前には星光と雷刃が立っていた。そして2人の間に…
「はやて…闇の書って本当に悪い本なのかな?」
「ヴィヴィオちゃん、どうしてここに?…それに何言ってるん?」
「私、思ったんだ。戦いも事件も無い世界、悲しむ人が居ない平和な時間ってあり得ないんだって。どこかで誰かが悲しんでるし泣いてる。でもね、もし闇の書で世界全部を呑み込んじゃえば戦いも争いもない、誰も悲しまないし苦しまない世界になるんじゃないかって。」
一体何を言ってるのか、すぐに理解が出来ない。
「なにを…ちゃう! そんなんちゃう! 闇の書は、あれは使えば被害が出て、誰かが悲しむ物やっ」
「フェイトが教えてくれたんだ。中でアリシアに会ったって…。夢は夢、でもみんなが夢見ちゃえば誰も悲しまないよね。だからみんなには夢を見て貰った。」
「フェイトにも」
雷刃がバルディッシュを起動してバリアジャケットを纏う。
「なのはやなのはの家族にも…」
続けて星光がレイジングハートを起動して白と青のバリアジャケットを纏った。
「リンディさんやクロノさんもきっと今頃お父さんと会ってるんじゃないかな」
そう言うと真っ黒な騎士甲冑を着たヴィヴィオがデュランダルを起動してこっちへ投げた。
当たると思い目を瞑るが、闇統がそれを受け止めて騎士甲冑を纏っていた。
「みんなのデバイス…なんでここに?」
「僕達が何も考えずに契約したと思ってたんだ。ホント単純、バッカみたい♪」
笑う雷刃に言葉を失う。
「我らには必要の無い物だ」
闇術が膝元に投げ落とす。カチャリと固い金属音を鳴らして落ちるレヴァンティン・グラーフ・アイゼン・クラールミントとシュベルトクロイツ。
家族の大切なデバイス達。それを簡単に手放す訳がない。
それがここにあると言う事は
それは…
「思念体は消えてしまいましたがここには邪魔する者ももう居ません。最大の障害だった聖王も今は私達と思いを共にしています。これで私達は還れます。」
「うん、暖かい闇の中へ」
もう既に闇の書は…
「あとは子鴉…うぬだけだ。」
蘇っていた…
「どうして、どうして…どうしてこんな事するん? 私はみんなと一緒に暮らしたいだけや。何でみんな邪魔するん?」
心の中から何か黒い禍々しい物が溢れ出してくる。
家族に迎えたと思っていたのに裏切られた
怒り
悲しみ
絶望
憎しみ
「私は家長や、家族が危ない目に遭うんやったら…」
どれでも当てはまりそうなその気持ちは強くなり、それが心の中を闇に染める。漆黒の闇は身体から溢れ出し周りを包み込み始めた。
「……【我】が止める」
~~コメント~~
ヴィヴィオがもしTheBattleOfACESの世界に行ったら?
19話(前編)20話(後編)の形にしてみました。
一気に状況が進めば当事者は何が起きているのか掴めなくなることもあります。
「うん…管理局ですれ違った連中の顔見ただろ」
「そうです。ここは私達に任せて」
「ううん、これは私がリインフォースと契約した時に決めた事や。1人1人なら心細くてもみんな一緒なら頑張れる。」
元々ミッドチルダに来る必要はない。でも管理局ですれ違った局員皆が放つ悪意ある視線。レティはそうなる事を見越してミッドチルダへ連れて来たのだろう。
「子鴉にしては殊勝だな。気に入らねば取り込んでやればいいものを」
「まぁな。…そうやね本当に気に入らん人がおったら」
「はやてちゃん!?」
驚くシャマル対して闇統とにやり笑みを浮かべる。
「冗談やシャマル。これからは悲しんでる人を助ける為に魔法を使う。リインフォースやみんなから教えてくれた魔導の力やからな。」
「…………」
そうこう話していると門から大きな車が入ってきた。中でレティが手を振っている。
「まぁ色々あるけど今日はミッドチルダの観光楽しもうな。」
そう言って車椅子を車の方へと向かわせた。
「本当、普通の町や…」
車中から流れる景色を見ながら呟く。歩いている人の服装もそうだし車や電車もある。魔法世界の中心地と聞いていたから人以外にザフィーラやアルフの様に動物形態の人、想像もつかない光景を思い浮かべていたから拍子抜けだ。
「あなた達の世界とそんなに変わらないでしょ。期待に添えなくてごめんなさいね」
「あっいえ、そんなことないです。」
顔に出ていたらしくレティに言われて首を振る。
「そうね、別の管理世界ならあなたの期待通りの世界もあるでしょうけど今日はここで許して。あなた達と同じ世界出身の人や先祖に持つ人も多いのよ。」
「そうなんですか?」
「ええ、そっちもそのうちあなた達も会う機会があるでしょう。そこで止まって」
レティがそう言うと運転手が車を寄せて止める。
「少し早いけれど食事にしましょう。シグナムさん、はやてさんをそのまま抱いて出て貰えるかしら」
「わかりました」
なるほど、レティが言った通り日本人っぽい人も居るらしい。
車を降りた時に彼女の行った意味に納得する。そこには正に海鮮料理屋ですと言った風な店があったのだ。わざわざ探してくれたレティに感謝しつつ暖簾をくぐる。
一方…
「あー気持ちいい~♪ 体がほぐれてくみたい」
岩に背を預けヴィヴィオは湯船で腕と足を伸ばした。
「ヴィヴィオ、なんかお婆さんみたい。」
「何とでも言って~♪ このままずっと入っていたいな~」
シャマルの魔法は傷は治せてもそれは見える部分の傷だけらしく、マテリアル3人との戦闘で本当の意味で近接戦をしかけたヴィヴィオにとって言った通り身体がほぐれていく感じが気持ちいい。
目を瞑ればそのまま眠ってしまいそう。
「ヴィヴィオ、怪我治ってなかったの?」
アリシアにそっと小声で聞かれる。
「う~ん、私の練習不足っていうかやっぱりチェントって凄かったんだなって」
アリシア達がアースラの映像を見ていたのを思い出して答える。リンカーコアの消耗以外に後になってヴィヴィオを襲ったモノ…全身の筋肉痛。
「お兄ちゃんかお姉ちゃんにマッサージして貰えば? お兄ちゃん達練習の後でしてるから上手だよ」
「なのは、シャンプーが目に…」
「あっごめん。すぐ拭くから目を瞑ってて」
なのはがフェイトの髪を洗いながら声をかける。
「あれだけ無茶な動きをすればそうもなります。闇の書にもそうでしたが私達闇の書構造体、それも3人を相手に1人で近接戦を挑んできたのはヴィヴィオ、あなたが初めてですよ。」
「ホント、闇の書に取り込んだのに全然弱らずに出てくるんだから」
湯船に入っていた星光と雷刃が呆れた様に言う
「フェッ、ヴィヴィオそんなことしたの!?」
「なのは、また目に…」
「あっゴメン待ってて、すぐに流すから。」
なのはは聞き耳を立てようとしているが、手がおろそかになってフェイトの髪を上手く洗えないみたいだ。そうするとチェントと一緒に入っていたアリシアがこっちをみて
「見ててヒヤヒヤしたんだから。集束砲は撃ち合うし、吸収されちゃうし、出てきたと思ったらジャケット外して近接戦するし…」
「ア…アリシア?」
なんか嫌なスイッチが入った?
これは早々に出た方が良いかも…嫌な予感がする。
「わ、わたし美由希さんにマッサージしてもらおうかな…」
そーっと出て行こうとするが、カジッと肩を掴まれる。
「ううん、あれだけ心配させたんだからここはちゃんと言わせて貰います。そこに座りなさいっ」
「ア、アリシア…私さっきから座ってるんだけど、それにここじゃなくても…」
「口答えしないっ!」
「ねえさまこわい…」
チェントの呟いた言葉に心の中で頷きながらも、アリシアの後ろで申し訳なさそうに頭を下げる星光が少し恨めしく思えた。
結局ヴィヴィオが出られたのは30分程経った後である。
「う~酷い目に遭った…あ、アルフさん」
湯あたりする寸前になって解放されて風にあたっていると向こうからアルフがやってきた。
「ヴィヴィオじゃないか、久しぶりだねぇ。フェイトはどこ?」
「あ、奥を曲がった部屋に居ると思うけど…どこに行ってたの?」
そう言えばこっちに来てから彼女の姿を見ておらず、闇の欠片戦でも見ていない。
「リンディ提督に頼まれて本局に行ってたんだ。向こうで事件が起きたのを聞いてヒヤヒヤしてたよ。すぐに帰れなかったしさ」
それで、と納得する前に彼女は手を振ってフェイト達の部屋へと向かっていった。
(ここでアルフさんに会うと…ジュエルシード事件、思い出しちゃうな…)
なのはに代わってジュエルシードを集めている最中、ここで彼女と出逢い、後でフェイトと出逢った。まだ1年も経っていないのに懐かしく思える。
そんな感慨にふけっていると後ろから呼び止められた。
「ヴィヴィオ、少しいいですか?」
「えっ?」
「あ~美味しかった。まさかここでも鍋があるなんてな」
野菜なのか魚なのか判らない物が入っていたけれど、味としては申し分なくはやては舌鼓をうった。次はなのはやフェイトと一緒に来たいと思う。
「なぁ、あんまり食べてなかったけど、口に合わんかった?」
ヴィータを筆頭に鍋をつついている間、ほとんど手を出さなかった闇統が気になる。昨日ヴィータのアイスを食べていたし、その後も夕食を堪能していたのに今日はあまり鍋をつついていないしどことなく元気がない様に見える。
「い、いや美味だったぞ」
「そうか、それならいいんやけど…」
何か悩んでるなら今夜にでも聞いてみよう。
家族の間で隠し事はしないというのが八神家の決まり事だ。
「レティ提督、これからどこへ行くんです?」
「聖王教会。ここから暫く走った所にあるベルカ聖王家由来の教会よ。ベルカ式は私達も詳しくは知らないから協同調査を頼んでいるの。リインフォースさんやシグナムさん達に教会の人が話を聞きたいって言ってて、はやてさんはそこでもう1度検査を受けて貰うわ。えーとあなたは…」
「我は子…はやてについていく」
闇統を見てどうすればとレティが少し間を置くと彼女がいつになくはっきりと答える
「え、ええじゃあお願いするわね」
「ああ、任せておけ」
彼女の言い方にはやては?マークを浮かべたまま闇統の顔を見るしかなかった。
「ここは原生生物も殆ど居ない無人世界です。周りに何もありませんから始まりの地としては最適でしょう。」
「そうだね…」
「まだ…悩んでいるのですか?」
「うん…ううん、もう決めたんだから。」
「そうだね。あとは来るのを待つだけ」
「ヴィヴィオ、行ってくるから待っててね。プレシアさん、暫くお願いします」
一方、元の時間では眠ったヴィヴィオに語りかけた後、プレシアに頼む。
「任せなさい。ここには誰も入れないわ」
「じきに妹達も駆けつける。戦闘機人とガジェットドローンが束になって来ても指1本触れられなかった場所だ。任せておいてくれ。」
胸を張るプレシアとチンクに
「母さん、くれぐれも穏便にお願いしますね…」
そう、今からなのは達は今からミッドチルダの地上本部へと直談判に向かう。
本局や聖王教会を絡めて物事を大きくしてしまえばヴィヴィオのリミットシステム適用は白紙に戻せるだろう。しかしそうするとヴィヴィオが聖王の血を継いでいるのが内外に知られてしまう。先にはプレシアやアリシア・チェントも居る。その後がどうなるかは判らないが今までと同じ平穏な毎日は2度と訪れない。
幸か不幸かヴィータが教導隊制服のまま駆け込んできたのは多少騒ぎにもなっていた。だからヴィヴィオの情報がこっちに入ったのは向こうも知っているだろう。
話がつくまでヴィヴィオを預かって貰う。ここなら管理局でもそうそう手が出せない。もし力ずくで来るようなら…
「なのはちゃん、フェイトちゃんいくよ」
「うん…わかった。ヴィヴィオ行ってくるね」
そう言ってなのは達はプレシアの施設を後にした。
過去世界ではシグナム達が部屋から出てくると待っていた者がいた。
「お前は…主と一緒に居たはずではないのか?」
「なんでここにいるんだよ」
「頼みがある。話を聞いて貰いたい」
「…わかった聞こう」
いつになく神妙な声に頷く。
そして暫く経った後
「待っててくれたん? ありがとうな」
はやてが検査と診察を受けた後、待合室へと戻ってくると闇統が待っていてくれた。
「あ、ああ。疲れただろう…。」
そう言って後ろに回り車椅子を押してくれる。
「ありがとうな」
振り向いて礼を言うと
「これからうぬが…ならない…」
「私がなに?」
「…頼むぞ」
闇統が呟くと突然魔方陣が広がった。
「魔方陣っ! 何するつもりやっ!!」
「………」
その直後2人の姿は消えてしまった。
「ん…んん、ここは? 砂漠? 何でここに」
はやてが突然連れてこられたのは砂漠の中、辺り一面に広がる砂の世界、見回すと人影を見つける。
「待ってたよ。新しい主」
「予定通りですね」
「…」
「なんであんた達がここに? みんなと温泉旅行に行ったんとちゃうの?」
目の前には星光と雷刃が立っていた。そして2人の間に…
「はやて…闇の書って本当に悪い本なのかな?」
「ヴィヴィオちゃん、どうしてここに?…それに何言ってるん?」
「私、思ったんだ。戦いも事件も無い世界、悲しむ人が居ない平和な時間ってあり得ないんだって。どこかで誰かが悲しんでるし泣いてる。でもね、もし闇の書で世界全部を呑み込んじゃえば戦いも争いもない、誰も悲しまないし苦しまない世界になるんじゃないかって。」
一体何を言ってるのか、すぐに理解が出来ない。
「なにを…ちゃう! そんなんちゃう! 闇の書は、あれは使えば被害が出て、誰かが悲しむ物やっ」
「フェイトが教えてくれたんだ。中でアリシアに会ったって…。夢は夢、でもみんなが夢見ちゃえば誰も悲しまないよね。だからみんなには夢を見て貰った。」
「フェイトにも」
雷刃がバルディッシュを起動してバリアジャケットを纏う。
「なのはやなのはの家族にも…」
続けて星光がレイジングハートを起動して白と青のバリアジャケットを纏った。
「リンディさんやクロノさんもきっと今頃お父さんと会ってるんじゃないかな」
そう言うと真っ黒な騎士甲冑を着たヴィヴィオがデュランダルを起動してこっちへ投げた。
当たると思い目を瞑るが、闇統がそれを受け止めて騎士甲冑を纏っていた。
「みんなのデバイス…なんでここに?」
「僕達が何も考えずに契約したと思ってたんだ。ホント単純、バッカみたい♪」
笑う雷刃に言葉を失う。
「我らには必要の無い物だ」
闇術が膝元に投げ落とす。カチャリと固い金属音を鳴らして落ちるレヴァンティン・グラーフ・アイゼン・クラールミントとシュベルトクロイツ。
家族の大切なデバイス達。それを簡単に手放す訳がない。
それがここにあると言う事は
それは…
「思念体は消えてしまいましたがここには邪魔する者ももう居ません。最大の障害だった聖王も今は私達と思いを共にしています。これで私達は還れます。」
「うん、暖かい闇の中へ」
もう既に闇の書は…
「あとは子鴉…うぬだけだ。」
蘇っていた…
「どうして、どうして…どうしてこんな事するん? 私はみんなと一緒に暮らしたいだけや。何でみんな邪魔するん?」
心の中から何か黒い禍々しい物が溢れ出してくる。
家族に迎えたと思っていたのに裏切られた
怒り
悲しみ
絶望
憎しみ
「私は家長や、家族が危ない目に遭うんやったら…」
どれでも当てはまりそうなその気持ちは強くなり、それが心の中を闇に染める。漆黒の闇は身体から溢れ出し周りを包み込み始めた。
「……【我】が止める」
~~コメント~~
ヴィヴィオがもしTheBattleOfACESの世界に行ったら?
19話(前編)20話(後編)の形にしてみました。
一気に状況が進めば当事者は何が起きているのか掴めなくなることもあります。
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