第20話 「ヴィヴィオ封印指令Ⅲ&闇の書の解放」

「ん? あれ誰か呼んだ?」

 ミッドチルダ地上本部へ向かう最中、はやては誰かに呼ばれた気がした。

「ううん、私達何も言ってないよ。」
「ねぇ…はやて、連絡も無しにヴィヴィオの保護者って理由だけで行って会えるかな?」
「追い返され…ちゃうよね…」

 神妙な顔をした2人を見て、言ってなかった事があるのを思い出す。

「今の司令はそこまで堅物ちゃうし、聞いたらナカジマ3佐の同期でな、『俺が手土産持って行くよりお前らが行った方が喜ぶだろう』って、これはナカジマ3佐の言葉やけど。連絡も無しって言ってたけど、3佐からアポは取って貰ってるよ。」

 自信満々に言うと2人はドッと疲れが来たように肩を落とした。

「はやてちゃん、そういうことは早く教えてよ。直談判っていうから懲罰受けるの覚悟して来たのにっ!!」
「本当だよ…もうっ」
「ゴメンゴメン、私もさっき連絡して教えて貰ったから。でもなそれは司令だけ、その下には本局、海や教会を快く思ってない人も大勢おる。だからあっちが暴走する前にこっちが勝負をつけんとな。」
「それでチンク達を…」
「そうや、検査で来てたなら誰も変に思わんし、もし相手が強硬手段に出てきてもあこは防衛能力も高い。それに教会の管理地域やから許可無く管理局員が入れる場所ちゃうし、無断で侵入したらしたで正当防衛って言えばいい。地上本部はJS事件で皆負かされてるしな。」

 関係者だけでなく、家族にも何も伝えず無理やり法を押しつけようとする輩は1度痛い目を見ればいい。

「私…時々はやてちゃんが怖い」

 そっと距離を取るなのはと

「私も…」

 ハンドルを握りながら青ざめるフェイトに

「ええーっ! 頑張って良い方法無いかって考えたのに、なのはちゃんもフェイトちゃんも酷いっ!」

 車中にはやての悲鳴が響いていた。
 同じ頃、プレシアの研究施設付近でも彼女の予想した通り悲鳴が響き土煙が舞い上がっていた。



 一方、過去に行ったヴィヴィオも目の前の光景に声をあげそうになっていた。
 はやての中から黒い煙の様な物が溢れ出し彼女の姿を変えてしまう。リインフォースと同じ姿をした女性。

(あれが、はやての中の闇の書…)

 星光と雷刃はゴクリと唾を飲み込む。

「2人とも下がって。私が抑えるから!」

 ヴィヴィオも歯ぎしりをして黒い騎士甲冑から白と黒の騎士甲冑へと切り替え2人の前に出た。

「いえ、言い出したのは私達です。力及ばすながら…」
「出来れば戦いたくないんだけどね」

 2人ともレイジングハートとバルディッシュをギュッと握りしめて並んだ。

「だが、いざとなれば」

 そこに飛んできた闇統もデュランダルを構える。
 はやてを覆い尽くした闇がついに消えた。だが彼女は微動だにしない。

「封印するなら今しかない。行くぞっ」
(管制プログラムが起動した? でもまだ…まだ判んない)
「待って、まだ何か変」

 固唾を呑んで見守る。
 すると女性は跪き胸を抱え苦しみ始める。そして一瞬はやての姿が重なった後、女性の姿は消えはやての姿へと戻っていた。

「はやてっ!!」
「ハァッハァッハァッ…ア、アカン…私がここで呑み込まれたら関係ない人まで巻き込んでしまう。約束したんや…何があっても絶対に闇の書には取り込まれん。復活させんって…」

 苦しみながらも【押さえつけた力】を見て

「もうこれで、本当に大丈夫だね」

 そう言い騎士甲冑を解除した。



「ヴィヴィオちゃん?…何が…どうなってるん?」
「ごめんなさいっ!!」

 はやてを車椅子へ座らせた後、彼女が落ち着くのを待ってからヴィヴィオは頭を下げて謝った。


―それはヴィヴィオが湯から上がった後の事―

「ヴィヴィオ、少しいいですか?」
「どうしたの?」
「お願いがあるのです。もう1度闇の書と戦って貰えませんか?」
「お願いっ、僕達と一緒に」
「え…ええっ!?」

 星光と雷刃に唐突に言われ訳がわからず素っ頓狂な声をあげた。


「つまり、はやてさんの中には闇の書の闇が残っていて彼女の心が不安定になると蘇るかも知れないと?」
「はい、防衛システムの無い闇の書はリインフォースと守護騎士や私達だけでも封印できます。ですが代わりに彼女の魔力を全て奪い、封印すると私達は勿論、リインフォースや守護騎士も消えてしまうでしょう。」
「でも私なら復活する前の闇だけを払う事ができるから、はやてが押さえつけられるかを見るのは今しかないって…リンディさん、私…」
「お願い、ヴィヴィオ」

 1人で決められないと考えたヴィヴィオは2人を連れリンディに相談しに行くとリンディは桃子と一緒に喫茶でお茶を飲みながら談笑していた。
 闇の書の復活は絶対に止めなければならない。かといってはやての家族リインフォースや守護騎士が消えればこっちの未来にも影響が大きい。
 それに何よりもはやてを試す形になるのがヴィヴィオを躊躇わせた。

「はやてさんの所に行ったマテリアル…彼女がはやてさん達と気まずくならないかしら? 裏切った風に受け止められても仕方ないわよね」
「これは彼女からの提案です。何か思うところがあるのでしょう。」
「ずっと居たかった場所だけど、今はこっちの方がいい。だからヴィヴィオお願い。」
「私達マテリアル3人の総意です。管制システムと騎士達の説得はディア…彼女がしてくれます。どうかお願いします」

2人に懇願されて困ってしまう。

「リンディさ~ん…」

 藁にもすがる思いでリンディを見つめる。彼女は少し考えた後、何かを思いついたらしく

「…そうね、テストがあるのだからご褒美も要りますわよね、桃子さん」
「え、ええそうですね。行って聞いてきます。」
「じゃあ私は…証拠になりそうな物を借りて来ましょう。ヴィヴィオさん達はここで待っていて」

そう言って2人は行ってしまった。



「それでレイジングハートとバルディッシュとデュランダル…か」
「ええ、メンテナンスするからとなのはとフェイトから借りデバイス達には私から話しました。私もレイジングハートもなのはの魔法で繋がっていますから」
【【【Sorry】】】
「ごめんね…」
「うちの子達のデバイスは?」
「我が皆に借りた。ここを教えてあるから暫く待てば来る。聖王も謝る必要はない。子鴉が弱いから悪いのだ。先の戦いで心を揺らして闇の書の片鱗を見せたのはうぬなのだからな。」

 闇の欠片事件でヴィヴィオを取り込んだ原因がはやて自身だと思い込み、はやては闇の書に呑まれかけた。
 あの時のマテリアル達に取っては期待通りの結果だったのだけれど、今は驚異でしかない。だから自ら消える覚悟で試したのだ。

「子鴉がもし闇の書を蘇らせたら、聖王は癒えきらぬ身体で集束砲を撃たねばならず、我らも消滅覚悟で子鴉のコアを潰さねばならなかったのだ。感謝されても怒られる筋はない」
「そうなん? 嘘ちゃうの?」

 まだ半信半疑なはやてに苦笑いして頷く

「ええディアの言うとおりです。ここにヴィヴィオを連れてくるのが精一杯で私達は戦う力はありません。私達だけで復活した闇の書と戦えば一瞬の内に消されていたでしょう。」
「もうクタクタ~」

 砂の上に座り込む雷刃を見てはやては頬を崩した。

「もう…しゃないな、闇統…私を騙したんやから罰として1つだけ何でも言う事聞いて貰うな」
「…し、仕方がない…」

 何を言われるのか内心焦る闇統に

「私と…家族として、これからずっと一緒にいること。ええな、ディア」

そう言って手を差し出す。

「……承知した。はやて」

 笑みを浮かべてその手を握り替えした時、それがはやてと闇術の本当の契約が交わされた時だった。



「ゲンヤにこんな可愛い弟子が居たとはな~、頑固親父の相手も大変だろう」
「いいえ、いつもお世話になりっぱなしで。いつでも頼れる頑固親父です」

 元の時間では執務室に通されたはやて達が豪快に笑う司令を前に笑みを絶やさずに談笑していた。ゲンヤ同様なかなか尻尾を出さないあたりは彼も相当な狸親父だ。
 なのはとフェイトは最初から彼の空気に気圧されて愛想笑いしかしていない。

(なのはちゃんもフェイトちゃんもこういうの苦手やとは思ってたけど・・・)

 時間も無いので早速話に入ろうとする。

「それでですね、小耳にはさんだんですが」
「ああ、子供にリミットシステムをかけるって話だろう。俺はそんなことしたら折角の優秀な芽を摘みとっちまうって言ってたんだが、地上の安定や周りに示しがって若い連中が五月蠅くてな。」

 読み通り部下の暴走だったらしい。それなら話が早いと

「実はその子がですね、親友の子供でして私もよく知ってる子なんです。」

 なのはとフェイトの方を向くと2人がぺこりと頭をさげる。

「ほう、あんた達が本局教導隊エースの高町なのは一等空尉とフェイト・T・ハラオウン執務官かい。ミッドの英雄機動6課の隊長陣揃い踏みってワケだ。」
(知らん振りしてやっぱり知っとったか)

 心の中で舌打ちをしつつ

「私らなんかまだまだひよっこですよ。リミット候補の子はJS事件で保護した子でして、今は彼女たちが保護者なんです。」
「それで・・・」
「でですね。」

 なのはが言うのを遮って話を進める。ここが勝負所、彼に相応の器量があれば…

「ああ皆まで言うな。教導隊のエースと執務官、それにゲンヤの秘蔵ッ子司令の頼みとくれば断る訳にもいくまい? 丁度良い機会だ、頑固な若い連中の頭もついでに冷やしといてくれや」
「あ、ありがとうございます。言って貰えれば最優先で教導に来ますから、なんなら私の友人も一緒に。な!」
「えっ、はい!」
「じゃあ俺はこれから会議があるからよ、ゲンヤにたまには顔を出せって言っといてくれ」

そう言って司令は3人を残して出て行ってしまった。



「あ~所詮私は子狸娘や・・・全部読まれてた。」

 なのは達と共に部屋から出て行き研究施設へ戻る車で洩らした。
 きっとゲンヤから連絡を入れて貰った時点で話はついていたのだろう。はやて達に来させたのは彼女に対して保護者であるなのはとフェイトがどこまでするかという度胸試しといったところか。
 もしかするとヴィヴィオの名前が挙がった時点でこうなる事を予想していたのではないか。

「でも司令の内諾が貰えたんだから良かったじゃない。」
「それだけとちゃうよ。司令が言ってたやろ『頑固な若い連中の頭も冷やしておけ』って。リミットをかけようとした【若い連中】がヴィヴィオ確保にすでに動いてるの知ってて、ちょっと位の被害は目をつむるって事。確保に動いた連中に対して迎撃目的でやりたい放題やってるチンクやノーヴェ達は教導の一環であって犯罪ではない、罪には問わないとお墨付きをくれたんよ。こっちの動き全部知ってるわ、あの狸親父」
「あれ…そういう意味だったんだ・・・」

 皮肉を言いながらもはやて自身彼に好印象を持っていた。
 向かう先では黒煙が何本もあがっている。
 きっと彼の部下が手荒な歓迎を受けていることだろう。彼の意志と日頃の鬱憤ストレスをはき出しているであろうプレシアやチンク達には暫く楽しんで貰おう。
 後でチンク達に教導を手伝って貰えれば暴走した連中の頭を押さえられ、同じ様な事は起きないだろう。

「なぁ、なのはちゃん、フェイトちゃん。どっかで甘い物食べにいかへん?」


 数年後、勇退する彼の後任としてはやてが推薦され、誰よりも本人が1番驚くのだがこの時まだ知る由もなかった。

~コメント~
 高町ヴィヴィオがもしTheBattleOfACESの世界に行ったら?
 マテリアル3人娘を残したいと考えた時、はやての中に凄い爆弾を残してしまいました。
 今話はそんなはやてのフォローとはやてと闇統がこんな風に進んでくれればいいなと思い書かせて頂きました。

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