第7話「ヴィヴィオの弱点」

「よし、朝はこれくらいでいいだろう。」
「ハァッハァッ…ありがとう、ございましたっ」

 翌朝、ヴィヴィオはノーヴェに特訓を受けていた。
 本来は基礎があってこそ応用が出来るのは何でも同じでストライクアーツもそう。ストライクアーツを学ぶだけなら基礎を終えて進めばいい。

(チェントを…私だけで追える強さを)

 守りたいだけじゃない。それを求めるのが彼女との繋がりになる気がする。
 昨夜アインハルトとノーヴェに全て話して、どうしてカイザーアーツを教えて欲しいのかを打ち明けた。その時にノーヴェが聞くより見た方が良いと今朝からノーヴェ相手に模擬戦をしていたのである。
(バリアジャケット着てるのに…ノーヴェに全部読まれてた) 
「ヴィヴィオさん、お疲れ様です。」
「ハァッ、ハァッ…あり…がとう…ございます」

 練習を見に来たアインハルトからタオルとドリンクを受け取る。
 息も荒れ、汗だくなヴィヴィオとは対象にノーヴェは殆ど汗もかいていないし息もあがっていない。彼女はバリアジャケットも着けていない。
 ちょっとは自信あったのに…

「何となくだけどヴィヴィオの目指している物がわかった。良くも悪くもヴィヴィオやっぱりヴィヴィオだな」

 笑って言うノーヴェ

「良くも悪くもって…」
「悪い、そういうつもりで言ったんじゃない。ヴィヴィオの動きが単純過ぎるんだよ。」
「?」
「この時だとこう言うパンチ来るだろうなと思ってるとちゃんとそこに拳が来るし、蹴り方や避け方、防ぐ時もそうだ。スピードあるしそこそこ力も乗ってるから戸惑うけど、最初だけだ。慣れてしまえば読める」
(…そうなんだ)

 言われてみれば心当たりがある。

(フェイトと模擬戦した時、フェイトは先に魔法を置いていた。誘ったんじゃなくて私の動きを読んでたんだ)
「逆に言えばそれ程マニュアル通りな訳だ。読みなんてのはフェイントを入れていけば何とでもなる。例えば正面から背後に回ったと見せかけて更に背後、左右上下に移動する。蹴りを入れるタイミングでもわざと入れずに引くいて攻めるチャンスを作る。今のスタイルを崩さずに取り込むだけでもずいぶん変わるぞ。」
「高速戦闘は感覚で動くんじゃない。常に動くパターンを幾つも考えながら動くんだ」

『一流の魔導師はね、同時に幾つもの事を考えてるの』

 なのはとの魔法練習で何度も言われた言葉。ノーヴェから同じ事を言われて思い出す。

「さてと、腕は見せて貰ったからジャケットはもういいぞ。ここから短い時間でどうするかだな。基礎もなっちゃいないけど、悠長に言ってられないし…そうだ。」

 そう言うとアインハルトに近づき耳打ちする。アインハルトは何度か頷いて良いですねと呟く。

「あとは放課後、楽しみにしてろ」

と笑って言った。



「待たせたわね」

 フェイトやなのは、はやての待つ部屋にプレシアと共に入ったアリシアは母親ながらに改めて彼女の凄さを知った。
 アリシアとチェントのペンダントを朝まで触っていて、赤い何かの欠片を持ってきたら更にそれを調べていく。それも集中力を一切途切れさせずに。
 途中で寝てしまったアリシアとチェントを起こして待つ部屋へと向かったのだ。いつものように…

(ママ…凄い)

 彼女の後ろ姿が大きく見えた。



 アリシアとチェントのデバイスに必要な物は組み込んだ。でもまだ不安要素は幾つもある。それがプレシア自身わかっているから、表に出すわけにはいかない。不安を見せれば全員に広がって失敗すれば2度と娘達の顔を見る事が出来ないのだから。
 それでもヴィヴィオには戻ってきて貰わなければならない。
 心の中に不安を押し込め、娘達を起こす。
 これからが本番なのだ。

「待たせたわね」


「フェイト、バルディッシュのカートリッジは持っているかしら?」
「えっ、はい…幾つかは」

 部屋に入ってきたプレシアに唐突に言われたフェイト、一瞬戸惑った後ポケットから取り出し見せる。

「アリシアに渡して頂戴、2個で良いわ。アリシアはそれを手に持っていなさい。」
「は、はいっ」

 フェイトから弾丸の様な形状のカートリッジを受け取る。

「時空転移は刻の魔導書にイメージして送り出さなければいけないわ。でもチェントは魔力も弱いしイメージも上手くできない、だからアリシアとデバイスを通してイメージを増幅、カートリッジの魔力と一緒に送る。ジュエルシードに何度も頼れないわ」
「チェントがヴィヴィオに会いたいと思うのを支えるんだね。私が」
「ええ、カートリッジは片道1個ずつ。違った世界に行ってもすぐに戻ろうとしないで、アリシアお願いね」
(…そうか、魔力を沢山使うからチェントにも。)

 これはヴィヴィオの時空転移じゃない、魔力も弱く慣れていないチェントが使うのだから負担はある。

「うん、任せて」

 不安を隠して精一杯の笑顔を作る。

「チェント、ヴィヴィオの所にお姉ちゃんと行こう。ヴィヴィオも」
「はい」

 チェントとヴィヴィオの手を繋ぐ。しかし…

「……やっ」

彼女はそう言ってアリシアの手を振り解いてプレシアの下へ逃げてしまった。
 気づいていた1番の問題、チェントはヴィヴィオが苦手なのだ。来た当初から彼女を嫌っていたのだけれど、アリシアが彼女と居る時間を増やせばチェントも一緒に居るしかない。
 その間にヴィヴィオの良さを知ればチェントのわだかまりが無くなると思っていた。でも、まだそこまで彼女は慣れていない。

「チェント…おねが」

 ヴィヴィオを送り届け、ヴィヴィオを迎えに行くには彼女は欠かせない。もう1度話そうとした時、ヴィヴィオが彼女の前にしゃがんだ。

「ねぇチェントちゃん。ママが急に居なくなっちゃったら嫌だよね?」

 プレシアのスカートを掴む手に力が入る。

「ここの私、ヴィヴィオもきっと同じだと思うの。ママも友達もいなくて寂しいって。私もそう…。チェントちゃんとここの私に何があったのか私にはわからないけど…」
「チェントちゃんがお姉ちゃんと一緒に行ってくれたらみんなありがとうって褒めてくれるよ。ママ達、アリシアさんもそうだよね。」
「うん。」
(ヴィヴィオも…そうだよね。私、馬鹿だ)

 違う世界のヴィヴィオ。同じ様に見えて違う世界なのだから彼女も寂しいのだ。
 ヴィヴィオを探すことだけ考えていた自分が恥ずかしかった。

「だからね、パッと行ってぱっと帰って来よ。後でエライエライって言ってくれるよ。」

 ヴィヴィオがそう言うと、チェントは少しふて腐れた顔で手を握ってきた。

「ねえさまといく…」
「ありがとう、チェント」



「ごきげんよう。アインハルトさんのお姉さん…ですか?」

 放課後、ノーヴェに言われた場所に来たヴィヴィオはノーヴェと一緒にいた女性をマジマジと見つめた。

「ああ! 普通はそうだな。彼女もアインハルトだよ。大人モードっていうか身体を一時的に成長させる魔法だ」
「ええ、この姿を見せるのは初めてでしたね。」

 そんな魔法があるのかと思いつつ、良く考えてみればゆりかご事件でのヴィヴィオの自身やレリックを取り込んだチェントも成長したのだからと納得する。

「じゃあ早速、ヴィヴィオには朝と同じでアインハルトと模擬戦をしてもらう。ここは港湾施設でも簡易結界が張れる場所だからちょっと位は魔法を使っても大丈夫だ。でも、結界を抜く魔法は使用禁止。ヴィヴィオ、アインハルトはお前よりリーチが長いぞ。常に考えて先を読んで動かないときつい1発を食らう。アインハルトはヴィヴィオの状況を見ながらペースを上げてくれ。合図は私が出す」

 アインハルトの方が近接戦の経験は上、しかも大人モードでリーチも違いすぎる。彼女との差を埋めるには…先を読んで動く。奥の手はあっても使ってしまえば特訓にならない。

「お、お願いしますっ」

早速バリアジャケットを纏って構えた。

「じゃあ行くぞ、模擬戦開始っ!」

~コメント~
高町ヴィヴィオがもしVividの世界に行ったら?
大人モードならぬアインハルトの武装形態は魅力的を初めてみたら…
羨ましいと思ったかも知れません。
サラリと書いてますが、結構鬼教官?

 

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