第12話「星の光を越えて」

「戻って来ませんね…」
「そうね」
「いつ戻ってくるんでしょうか…」
「いつ頃かしら?」

 アリシアとチェントが行ってしまってから数時間が経過した。今は2人の姿がない。

「プレシアさん、さっきからそればっかり。アリシアとチェント、心配じゃないんですかっ!」

 研究室の一画で黙々と何かをしているプレシアの背になのはが叫んだ。

 
「なのは落ち着いて。」
「なのはちゃん、心配してない訳ないやろ」
「ええ、転移が成功したのだから心配していないわ。私は私、しなければいけない事をしているだけよ」

 あっさりと言うプレシアに

「プレシアさんっ!!」
「逆に聞くけれど、あなた達はヴィヴィオが心配?」
「ええ、勿論です」
「そう…」

 そう言って再びモニタに顔を向ける。

「母さん」
「私はあなた達よりアリシアと、チェントと一緒に居たわ。時間は凄く短いけれどヴィヴィオとも時間を過ごしている。あなた達が消えた時間で」
「それでもヴィヴィオとアリシアの意志の強さ、絆みたいな物は感じたつもりよ、あなた達の様な絆を、私はそれを信じている。」
「それに私がここに居るのが何よりの証拠。そうね心配…気にしているといえばちゃんとご飯を食べたかとかその程度ね」

 チェントによって過去を変えられなのは達が居なくなった時間からヴィヴィオ達は元の時間に戻した。なのはにとってのフェイトやはやて達の様な存在がヴィヴィオにとってアリシアがそうなのだ。プレシアは信じている、確信しているのだ。アリシアとチェントがヴィヴィオを探し出して一緒に戻ってくるのを。

「なのはさん、フェイト、私は1度アリシアを失っている。だから2度と失ったりしないわ。」
「…すみません。フェイトちゃん、はやてちゃん…帰ろう。ヴィヴィオが戻って来たら家で待ってるって伝えて貰えますか?」
「ええ」

ここで待っているのがなのはの役割じゃない。そう気づいたから

「ええの?」
「うん。私もヴィヴィオを信じてお仕事して家で帰ってくるのを待つよ。」
「そうだね」

そうして3人はプレシアの研究所を後にした。



「そう…ヴィヴィオも大変だったんだね」

 ヴィヴィオ達は高町家に戻った。ヴィヴィオとアインハルトは登校し、残ったヴィヴィオ、アリシア、チェントは一緒になのはと一緒にクッキー作りを始める。
 なのはは元々休暇だったがフェイトは本局で任務があるそうで

「夜までに戻ってくるから、絶対先に帰っちゃ駄目だからね。絶対だよっ!」

と念を押して出て行った。
 クッキーが焼き上がる迄、ヴィヴィオはなのはの入れてくれたミルクティーを飲みながら今までの事をかいつまんで話した。
 時空転移の事、プレシアとアリシアの事、チェントの事…
 驚くなのはの様子を見てこっちのヴィヴィオはこんなに色んな事件に巻き込まれなかったのだと少し羨ましく思う。でも…

「でも、そのおかげで私はアリシアやチェント、プレシアさんに会えたんだ。最初はママ達と一緒で私も凄く驚いたけど」
「フェイトなんていつも私を見ると気絶するんだから…失礼しちゃうよね」

 頬を膨らまして言うアリシアを見てなのはがクスッと笑う

「フェイトちゃんの気持ちわかるかな、フェイトちゃんにとってプレシアさんとアリシアちゃんは特別だから…」
「はい、わかってます。フェイト家に時々遊びに来るから」
(フェイトママ、いつの間に…)

 フェイトがテスタロッサ家に時々行っているのを聞いて少し驚く。
その時キッチンでアラームが鳴った。焼けたらしい。

「できたー♪」

 チェントの声が続けて聞こえた。いつの間にか居ないと思ったらオーブンの前で待っていたらしい。

「熱いからまだ触っちゃダメだよ」

 もし彼女が妹になって家に居たらこう言う光景もあったのかなとふと思った。



「ねぇヴィヴィオ、ママと一緒にお出かけしない?」

クッキーが焼けて少し食べ始めた時なのはが唐突に言う。

「何、なのはママ?」
「アリシアちゃん、ちょっとだけヴィヴィオとお出かけしていいかな」
「良いですよ。お留守番してます。」
「ありがと、お願いね。ヴィヴィオ、行こうか」
「う、うん…」

 何処に行くつもりだろう?
 なのはに手を引かれ首を傾げながら後をついていった。



「ここでいいかな。周りに誰も居ないし」
「ここって…公園?」

 高町家から歩いて数分の場所にある公園。ヴィヴィオも世界は違うがここで魔法の練習をしていたからよく覚えている。
 公園の中央まで行ってなのはは振り返る。

「ヴィヴィオ、模擬戦で見せてくれたブレイカーとクロスファイアーシュート凄かったよ。でもスターライト…集束魔法は凄い魔法だけど体にも凄く負担があるの…知ってるよね?」
「うん」
(そっか…こっちのなのはママも…)

 元世界の高町なのはは過去に立って歩けない程の怪我を負っている。怪我の一因が魔法使用による疲労蓄積だったのはヴィヴィオも知っていた。
 彼女も同じ過去を持っているのだと言葉から気づく。

「だから…」

 なのはがスッと手を上げると公園が結界に包まれる。

(結界!?)
「ヴィヴィオにこの魔法教えてあげる。」

 挙げた手の上に光が生まれるのと同時に周囲に5つの魔法球が生まれる。そして集まった光が砲撃魔法の様に発射された瞬間、魔法球も同じ方向へ伸び結界に当たる直前で霧散した。

「ストライク・スターズ。砲撃魔法と魔法弾を組み合わせた複合魔法。バスターを一点集中で防御出来ても同時にシューターまで防ぐのは大変。」
「バラバラに動くと威力も落ちちゃうから砲撃と魔法弾を同時に制御しなきゃいけない。制御力が凄く求められる。本当はもっと強い魔法なんだけど、ここで使ったら怒られちゃうから」

 なのはがシグナムとの戦技披露会で見せた魔法。それをここで使えば怒られるで済まない。でもその時のヴィヴィオはそんな事より間近で見た魔法に言葉を失っていた。
 なのはが手を下ろすのと同時に結界も消える。

「ママはベルカ式魔法使えないから見せてあげるのが精一杯。でも2つの魔法を使えるヴィヴィオならいつかきっと使えるよ。」
「う、うん。」

 なのはは集束砲の負担がヴィヴィオにかかるのを気にしてくれていた。
 負担のかかる魔法を使い続けると何が待っているかを知ってるから…

(やっぱり、ママはママだ)
「帰ろっか、きっとアリシアちゃんまだかな~って待ってるんじゃないかな」
「うん、ママ。」
(いつか使えるようになって見せるよ…ありがと、なのはママ)

 心の中で呟きつつ彼女の手を取った。


~コメント~
 もし高町ヴィヴィオがなのはVividの世界に来たら?
 目を離すと何かに巻き込まれてしまうヴィヴィオ。なのはとフェイトとしては心労の一因になっているかも。


 

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