As04 奇妙な繋がり

 ある日、時空管理局統括官リンディ・ハラオウンが自室に戻ってくると1通のメッセージが入っていた。

「フェイトから、何かしら?」

 端末に触れ開いてみるとメッセージの差出人は娘のフェイトからだった。
 ミッドチルダで同居している彼女の親友高町なのはの母、桃子が交通事故に巻き込まれたらしい。幸い怪我も軽く暫く静養すれば治る位で済んだのだけれど、気になって家事も手に付かないなのはとヴィヴィオと一緒にお見舞いに行ってここには帰りに寄ったらしい。
 送られた時間は1時間位前、今頃ミッドチルダに降りて家に向かっている頃だ。

「残念、会議が早く終われば会えたのに…」

 会って色々話したかったと思いながらも高町家の面々を思い浮かべる。

「桃子も大変ね。大事なくて良かったけれど…」

 喫茶翠屋の売りは彼女手製のシューやケーキ。
 軽傷だから作れない訳ではないだろうけれど、無理すれば治る怪我も治らない。かといって皆が抜けた穴を埋めようと慌ただしく駆け回っているのを見ているだけという状況に我慢出来るとも思えない。

「確か…なのはさんのお姉さん、美由希さんが一緒だったわね」

 なのははミッドチルダ、彼女の兄恭也もすぐに来られない場所にいると聞いている。
 怪我や病気の時は心細くなるもの。

「なのはさんに任務を休んでって…なんて言っても聞かないわね。」

 家族が心配でもその辺彼女は責任感の塊みたいなもの、誰が言っても聞き入れはしない。

『大丈夫です。それにお母さん、そんな事で休んだら許してくれませんよ。』
「そう言うでしょうね…そうだわ!」

 ソファーに腰を下ろした時、名案が浮かぶ。
立ち上がって執務用の椅子に腰掛け端末を引き出して幾つかの書類を作り送った。そして…

「もしもし、久しぶり~あのね…」

彼女に連絡を取るのだった。



「う~ん…もう朝か…朝っ!?」

 ある朝、高町桃子が瞼を開くと朝日が差し込んできていた。
慌てて手元の目覚ましを見ると既に8時を回っている。

「あなたっ!」

飛び起きてベッドの横を見る。だがそこには誰も居らず

『店は任せてくれ』

と書かれたメモが置いてあった。起こさぬ様に目覚ましを切ってそっと出て行ったのだろう。
 松葉杖をついて行っても何も出来ないし、彼やスタッフに心配をかけるだけだと考え

「ありがとう。その間に家事しちゃいますか。お昼くらい持って行っても平気よね」

 夫の優しさに甘えようと考え直し、ベッド横の松葉杖を取って慣れない歩みで部屋を出て行った。

 部屋を出てすぐに奇妙な音に気づく。
 水の流れる音と食器がぶつかる音、洗濯機も回っている。

「美由希かしら?」

 でも桃子が抜けた翠屋から彼女まで抜けてしまったら朝の準備が大変だ。彼女もそれは知っているし昨夜も朝から手伝うと決まっていたのに…

「おはよ~、ごめんね。あとは私がしておくから美由希は店を…? え、ええっ!!」

 リビングへのドアを開けて目を丸くし素っ頓狂な声をあげてしまった。
 それもその筈、キッチンで洗い物をしていたのは美由希ではなくリンディだったのだから。



「え、ええっ!!」
「おはよう。まだ寝ていてもいいのよ」

 目を丸くして固まっている桃子を促すようにテーブルにコーヒーカップを置いて彼女の横で支えながら椅子に座らせる。

「ここにどうして? 仕事は?」
「休暇が溜まっていたから一気に使っちゃおうかなって。ミッドに居たらどうしても仕事が気になるのよね。ここなら羽をのばせるでしょ」

 笑って言う



~同時刻~

「クロノ提督、リンディ提督が何処に行ったのか知らないか?」
「いえ、提督に何か?」
「…休暇届けを出したまま消えおった。それも1週間だぞ、1週間!! 全く何を考えてるのか…」

 青筋を立てた上司はそのまま通信を切ってしまった。

「まったく…しかしたまには、な」

 妹から話を聞いていたクロノは彼女が何処に行って何をするつもりなのか予想もついていた。
 しかし、あえて口には出さなかった。

「羽を伸ばすのもいいだろう。」



 管理局でそんな事態になっているとは知ってか知らずかリンディは洗い物を終わらせてから、自分のカップ持って桃子の前に座った。

「折角のお休みなのに、ごめんね」
「いいのよ。その代わりと言っては変だけど、私達の休暇中お世話になるわね。」
「勿論だいかんげ…私達?」
「ええ♪」 


 
~同時刻~

「クリームはこの位で良いかしら?」

 スプーンを使って士郎と美由希がクリームを口にいれた瞬間、目を大きく開く。

「美味しい…」
「ええ、いいですね。」
「ありがとう。でも彼女には全然及ばないわよ。だから…使って貰えるなら期間限定の新メニューなんてどうかしら? フルーツを入れれば違った味にもなるでしょう。」
「そうですね。それでいきましょう。よろしくお願いします。」
「こちらこそ。皆さんよろしくお願いしますね。」

 仕込み中の翠屋の厨房には見慣れない女性が立っていた。

 幾つかの料理は士郎でも作れる。しかし幾つかのメニュー、特にシュー系は桃子しか出せないフワフワ感と溶けるようなクリームが評判で熱烈なファンも多い。
 だから彼女が出てこられるまで作らない様にした。
 そんな折、リンディとプレシアが訪ねてきたのだ。
 なのはかフェイトから聞いて見舞いに来てくれたのだと思い礼を言いつつ、仕込みの時間も迫っていた為待っていて貰うつもりだったのだけれど

「そうね~家の方終わったら行くから先に行ってもらえる?」
「ええ、いいわよ。行きましょうか高町さん」

 今思い返せば初めからそのつもりだったのだ。
 厨房で一通り材料や器具の場所を聞いた後、士郎や美由希、スタッフの見る前で材料を取り出し慣れた手つきでクリームを作ったのだ。
 海鳴に居た頃の彼女は病気療養中と言っていたが

「あちらで店を?」
「娘と休日に作っている位よ。飛び入り参加でごめんなさいね」
「いいえ、手伝って貰えるだけで本当に助かります。さぁみんな、桃子の抜けた分がんばろう」

 士郎が言うと全員が頷いて開店準備に向けて動き始めた。


 
「そうなの…仕事があるのに…本当にごめ」
「それ以上ごめんなさいは禁止よ。言ったでしょう、休暇の間お世話になりますって」

 桃子が謝る前にリンディが遮った。
 怪我している時に娘が帰って来られないのを申し訳なく思っていた。リンディとプレシアは彼女と違って家族と一緒に暮らしているのだから…
 それに、プレシアの療養中には桃子を含め高町家の面々にはお世話になっている。プレシアに話した直後、彼女も同じ様に休暇を取ったのだから同じ思いなのだろう。

「みんなの食事作って持って行くわね。」 
「じゃあ…甘えちゃおうかな」
「ええ、任せて」

 そんな気持ちを知ってか知らずか桃子の言葉にリンディは満面の笑みで答えるのだった。


 
~数日後~

「美味しい。へぇ~これプレシアさんが作ったんだ。1週間くらいどこか行くって言ってたの…あっちに行ってたんだ」
「ママも言ってくれたらいいのにね。本当に美味しい」

 高町家のリビングでヴィヴィオはアリシアが持ってきてくれたシューに舌鼓を打ちながら話していた。チェントも美味しいらしく夢中になって食べている。

「姉さん、母さん達は私達が居場所を知ってたらみんな連絡しようとすると思ったんじゃないかな。管理局と教会から連絡がいっぱい入って来て休暇にならないし」
「そうだね。母さんもそれを見たら迷惑かけたと思っちゃうだろうね。何も連絡が無いから本当に休暇なんだって甘えられたんじゃないかな。」
「…そうかも、ううん、そうだね。」

 何もなければ決して交わらない奇妙な縁。だからこそ

(これも刻の魔導書のおかげなのかな?)

 そう思いつつヴィヴィオは一口食べた。


~コメント~
 以前劇場版コミックスでとあるショップが桃子・リンディ・プレシアが一緒になって料理するカバーを付けていました。
 Asシリーズでのプレシア・アリシアは病気療養と身を隠すのを兼ねて一時期海鳴市で暮らしています。(AnotherStory --話「再びの地へ」
 その時から交流があったなら、こう言う機会があってもいいのかも知れません。

  

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