As05 淡い想いは?

(ここは親友としてしっかりサポートしなくっちゃね!!)

拳を握りしめて密かに思う少女の姿がそこにはあった。

「テスタロッサさん、次読んで下さい。」
「えっ、は、はい!! えっと…どこ」
「…176ページです。次からはきちんと授業を聞いてくださいね。」
「はい…ごめんなさい」 
(それどころじゃないんだけど…)

 先生が聞けばこってり絞られる様な事を思いつつ、ヴィヴィオの方を見るアリシアだった。


 話は数時間前に遡る。
 ある朝、アリシアはヴィヴィオと一緒に登校してきた。
 テキストをバッグから出して机に入れ、授業が始まる迄話をしようと彼女の席へと向かおうとしたところ、ヴィヴィオが見慣れぬ手紙を持っていた。管理局や教会で使っている様な物ではなく、淡いグリーン色の可愛い封筒。

(手紙、ヴィヴィオが書いたのかな? それとも誰かから?)

 様子を見ていると裏を見てキョロキョロと周りを見回す。そして教室の後ろに向けて手を上げ会釈した。その方向には数人集まっている男子のグループ。
 中の1人がヴィヴィオに気付き手を上げて答えていた。

「あれってもしかして…」

 そう、それは紛れもなくラブレター!!


 その後の授業中、アリシアの頭の中はフル回転していた。
 もちろん授業なんか右から左に聞き流していて、ヴィヴィオへのラブレターをどうするかの1点のみにリソースは振りっぱなし。

(ヴィヴィオも隅に置けないよね。相手の子…少ししか話した事無いんだけどどんな子なのかな?いじめっこで言う事聞かなかったヴィヴィオをいじめたりしたらどうしよう。私が先に…でもそんなことしてヴィヴィオが悲しむのも嫌だし…戦略を立てるには先に情報!!)

 親が元機動6課、教導隊のエース『高町なのは』と執務官『フェイト・T・ハラオウン』というミッドチルダでも有名な2人で本人も管理局司書の肩書きを持っている。しかも教師陣しか知らないが彼女自身がSSランクに登録された古代ベルカの魔導騎士、王であり教会との繋がりも強い。
 そんな彼女をいじめようとする者が居るならそれは命知らずの者だけだろう。
 しかし、この時アリシアの頭からは抜け落ちていて。

(ここは親友としてしっかりサポートしなくっちゃね!)

という結論に至っていた。



 かくしてアリシアの情報収集は始まった。

「ねぇヴィヴィオ、何か嬉しそうだね~♪」

 まずは本人への聞き込み。早速授業後の休み時間に聞いてみる。

「そうかな?」
「うん。何か良いことあったのかな~って、」
「う~ん…無いよ別に。朝も話してたじゃない」

 目を一瞬逸らして答えるヴィヴィオ。どうやら素直に話す気は無いようだ。

(フ~ン…そのつもりなら私だって、決定的な瞬間を見てやろうじゃない!)
「そうなんだ。次選択授業だよね、また後でね~」

 そう言って、次の授業の教室へと向かった。



「ねぇ、みんなで何話してるの?」
「て、テスタロッサ!?」

 教室移動の途中で男の子のグループを見つけて中に入る。
 普段は加わってこないアリシアに話していた男子とさっきまで話していた女子は驚いている。後で気になる男の子が居るのかとか色々聞かれるだろうがこの際気にしない。ヴィヴィオへの手紙の差出人な子もそのグループに居る。

「ねぇねぇ、何話してたの?」
(直接話してもいいけれど、先にみんなと話してた方が油断するよね。)

 そんな事を考えているとは誰も気づかず、教室までの移動と終わってから戻る際に彼等の輪の中に入っていた。


(まとめてみると、友達も多くて性格も優しいし細かいところも気にかけてくれる。お父さんが地方教会との連絡役なんだ。勿論特に仲の良い女の子も居ない…と)

 母の作ってくれたお弁当を食べ終えてアリシアは小さな端末を出して調べた事を書いていく。
 当初考えていたのとは全く違った結果に対象者を見直す。元々彼女の想像がかけ離れていただけなのだが…
 パック入りのジュースにストローを指して飲みつつ

「ヴィヴィオも気にしてるなら…応援しちゃおうかな…」
「私がどうしたの?」
「ブッ!?」

 ヴィヴィオが覗きこんでいた。思わず吹き出しかける。

「ケホケホッ…ヴィヴィオ、驚かさないでよ」
「ゴメン、さっきからずっと何か考えてたみたいだったから。これ何のデータ?」
(マズッ!)
 
 慌てて端末を消す。

「な、何でもないよ。選択でわかんないところを後で調べようかなって」
「そうなんだ。ねぇ、アリシア変な事聞いていい?」
「いいよ~、変な事?」

 何がだろうと思いつつ、さっきのメモは見られなくてホッとする。焦りを隠し落ち着こうと再びストローを咥える。

「アリシア…クラスの中にね…気になる男の子いるの?」
「ヴッ!! ゲホゲホ…」

 今度は気管に入ってしまった。

「アリシア大丈夫?」
「ヴィヴィオが変な事言うからっ!」
「でも…さっき聞いたんだよ。アリシアが男の子達の中に入って話してるって」
(そっか…そっちに行っちゃったか)

 普段ヴィヴィオやクラスメイトの女の子達とよく話す。下級生や男子と話さない訳ではないが、ヴィヴィオ達と比べると少ないし、珍しく見えたのかも知れない。

「違うって、少し面白そうな話をしてたから聞いただけだよ。」

慌ててフォローする。
 ヴィヴィオに手紙を送った子も居たのだから、彼女が気になるのは当たり前。

「そうなんだ…もしそういう人出来たら言ってね。全力で応援するよっ♪」
(そうなのよね…ヴィヴィオは)

 アリシアにも気になる彼が出来て、その彼がヴィヴィオの想い人だったら彼女はそう言うだろう。だから…

「ありがと、私も応援するからね。全力で♪」

 勘違いなんかされては元も子もない。  



 そして放課後…

「アリシア、今日頼まれてる用事あるから先に帰るね~。」

そう言ってヴィヴィオは教室を走って出て行ってしまった。

「ヴィヴィオはやい、ってまさか」

辺りを見回す。朝手を振っていた彼も居ない。

(追いかけなきゃ!)

慌てて教室から飛び出した。

(何処に行ったのよ~っ! もう)

 こう言う話に放課後に校舎裏は当たり前。そう思って言ったけれど校舎裏には人影もない。
 人気の無くなった教室やヴィヴィオが行きそうな所へ行ってみたが姿もなかった。

「あーもうっ!」

 決定的瞬間の見逃してしまったという残念さと共に、彼女がどう答えたのかが凄く気になる。
 諦めて教室へと向かう最中、前から来る2人の姿を見つけた。

「ヴィヴィオ~っ!」
「アリシア、どうしたのこんなとこで? 教室にバッグまだあったし」
「ヴィヴィオこそ何処に行ってたのよ。それに…」

 散々探し回ったのに何処にもいなくて、見つけたら2人一緒で…

「私? 先生の所だよ。そうだ、アリシアも一緒に行かない?」
「一緒に? どこに?」
(私、デートを邪魔して良いの?)
「管理局。なのはママの所とか無限書庫とかマリィさんのとことか…」
「はい?…」

 何を言ってるのかその時のアリシアには判らなかった。

「管理局に行ってみたいんだって。」

 続けてヴィヴィオがそう言った時

(…あ…ああ…そうなんだ…そういう事か~)

 全部アリシアの壮大な勘違いだったのだ。



「ええっアリシア、そんな事考えてたの!?」

 バッグを取りに行って2人に合流した後アリシアは

「ごめんなさい」

 素直に頭を下げた。
 そう、彼がヴィヴィオに渡した手紙はラブレターではなく、

『高町さん、僕管理局ってどんな所かすごく興味があるんけれど見学ってどうすればいいのかな?』

 色んな質問や気になる所が書かれた手紙を見てハァーとため息をつく。彼は管理局本局を見学したかっただけだったのだ。

(彼のお父さんが教会関係者なんだから、頼んでも難しい。ヴィヴィオは本局無限書庫の司書なんだから何度も往復してるし、私も連れて行って貰ったの話してたんだから…ヴィヴィオに頼むのは当たり前じゃない…私何やってるのよ…)

 頭を下げラブレターだと思っていたと話した瞬間、2人揃って顔を真っ赤にしながら

「「ちがうって、そういうのじゃないって」」

と声を揃えて否定した。

「それで、大丈夫だとは思ったんだけど。後で何かあると大変だからユーノさんに教えて貰うって名目で先生にも聞きに行ってたんだ。」
「先生も『知りたい事もきちんとまとめてあるから課外学習として許可します。でも聞いたらみんな行きたいって言うからナイショだよ』って言われちゃった。」
「今から申請しておけばクラナガンに着く頃に許可出るはずだから、アリシアも行く?」
「うん。私も付いて行って良いの?」

 勘違いしていた身としては申し訳なく、彼に聞くと

「うん。一緒に行こう」



 その後、地上本部から本局へ渡ったヴィヴィオ達は先に無限書庫を案内し、ユーノに話を聞いた。ユーノは彼の質問についてわかりやすく教えてくれた。
 そして、その後でなのはと訓練生達の教導訓練中の様子やマリエルの所でデバイスの開発場所を見学する。
 見る物全てが新鮮らしくヴィヴィオとアリシアの間で彼はユーノの話す遺跡発掘について積極的に聞いたり、なのはの教導と訓練生達の魔法に目を輝かせ、マリィやメンテスタッフがデバイスのメンテナンスする過程をジーッと見つめていた。
 そんな彼の後ろ姿をヴィヴィオと2人見る。

『来て良かったね』
『うんっ!!』

 管理局と聖王教会、双方は仲が悪い訳ではない。それでも管理局本局へと来るのがどれ程高い壁なのか。
 改めて気づかされた。
 


~翌朝~

「ごきげんよ~ヴィヴィオ、昨日はありがとう。フェイトにも家まで送ってくれてありがとうって伝えて」
「ごきげんよう、アリシア。私もママのお仕事してるの見られたから。」
「そうだね。ちょっと待ってて」

 ヴィヴィオの後を追いかけ靴を履き替えて校内に入ろうとすると…靴箱から何か紙切れがはみ出していた。引っ張り出して見るとそれは可愛いデザインの封筒。

「なんだろ? これ…」
「アリシア~はやく行かないと…それもしかして」

 昨日は気にとめて無かったけれど…

「き、きっと…私にもママの研究所に連れてって…みたいな話じゃないかな…」

 こういう可能性もあった訳で…
 手紙を出して読んでみると、そういうのではなく…

「ふ~ん…昨日の彼と良く一緒に居る男子だよね。下級生にも優しいって聞いた事あるし、いい人だよ。うん、ここは親友の私がしっかりサポートを…」

 それはどこかで聞いた…じゃなくて

「ヴィヴィオっ、魔導書持ってくるから今すぐ昨日に飛んでっ!! そして私を止めてきてっ!!」

 横から手紙を読む彼女の肩を強く掴んで頼む。

「いいじゃない♪ アリシアかわいいんだから。今までそういうのが無かった方が変だったんだし。嫌じゃないんでしょ?」
「嫌なんじゃなくて、ちょっと嬉しい…そうじゃなくてっ! だからお願い~!!」

その後どうなったのかは…また次の話。

~コメント~
 Asシリーズのヴィヴィオやアリシアは主人公・影の主役(?)でありヒロイン役ではありません。でももし彼女達に好意を寄せたクラスメイトが現れヒロインになったら?
 今話はそんな話でした。
 でもこういうのがきっかけでっていうのもいいですよね。

 少し前の話になりますが、なのはのPSPゲームPVが追加されました。マテリアルsと守護騎士・リインフォース・ユーノにクロノ・リーゼ姉妹だけでなくプレシアとリニスにヴィヴィオにアインハルト!? ここまでするとアリシアを出して欲しいばかりです。
 え? 幼児虐待? ですよね~
 何はともあれ、どんな風に前作と繋がっていくのか? とか凄く楽しみにしています。
 そして「時の操守キリエ」と「運命の守護者アミティエ」の存在
時と運命を変えて来た彼女達もきっと…

  

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