As06 妹指南
「ええ、その結果は明日送ります。あと、先日の追加については後ほど」
「お願いします」
話が終わり端末が消える。その直後
「フゥ…」
椅子の背にもたれかかって背を伸ばすチンクの姿がそこにあった。
ここは聖王教会が運営する研究施設の1つ。
教会より管理局に近い彼女がここに居るのは施設の管理者プレシア・テスタロッサに助手として雇われたからである。
「まさか私がこんな所にいるとはな…」
呟きながら思い出す。
「お願いします」
話が終わり端末が消える。その直後
「フゥ…」
椅子の背にもたれかかって背を伸ばすチンクの姿がそこにあった。
ここは聖王教会が運営する研究施設の1つ。
教会より管理局に近い彼女がここに居るのは施設の管理者プレシア・テスタロッサに助手として雇われたからである。
「まさか私がこんな所にいるとはな…」
呟きながら思い出す。
始まりは1ヶ月ほど前、自身と妹達が巻き込まれたある事件の後でここに寄った時の事
「プレシア・テスタロッサ。これを返すのを忘れていた。妹達の分も預かっているのだが…」
取り出したのはリング。特殊な空間においてフィールドを作り所持者を守る機能がある。
「ええ、判っています。ですが…そんな急には、ええ…」
【PiPiPiPI…】【PiPiPiPi…】【PiPiPiPI…】【PiPiPiPi…】
モニタ越しに誰かと話しているらしいが、その横で他の端末からもコール音が鳴っている。
部屋の隅には小さな少女が耳を押さえてしゃがんでいる。
「……気持ちはわからないでもないな…」
そう思いコールが聞こえる端末に触れた。
『テスタロッサ氏でしょうか。初めまして、私は…の開発チーフをしています…』
良く耳にする民間企業の名前だ。
「いえ彼女は今別の方と話しています。伝えておきますので要件と連絡先を…」
『失礼しました。そうですか、それでは…に』
自分の端末を出してメモを取る。
「はい、伝えておきます。」
「よろしくお願いします。」
そう言うとモニタは消えて1つコール音が止んだ。続けて別の呼出に答える。
「教会…施設のテスタロッサ氏でしょうか、私は…」
「いえ、私は…」
…10分後
「フゥ…全く、そんな会議に出ても意味が無いのに…」
ようやく話し終わったらしい。
「テスタロッサ」
「あら…チンク・ナカジマ…で合っているわね?」
「ああ合っている。これを返すのを忘れていたので持って来た。妹達の分もある。それとこれは先程かかってきていた通信相手と用件だ。勝手な事をしてすまない。嫌がっていたみたいだったのでな…」
お絵かきしているチェントを見る。音が止んで落ち着いたらしい。
「ありがとう、助かったわ」
「礼を言われる程でもない。彼女自身自覚はないだろうが彼女は私達の妹でもあるのだからな。邪魔をした」
リングとメモを渡して用件が済んだチンクはその場を後にした。
そんな事があった数日後、
「盛りつけはこれでいいかな」
「うん、大丈夫」
ディエチが夕食を作るのを手伝っていた時、家の端末からコール音が鳴った。
【PiPiPiPi…】
「はいはいっと…はい、ナカジマです。え、居ますけど…」
個別端末ではなく家の端末にかかってくるのは大抵ゲンヤに対しての事が多い。今回もそうだと思っていたら
「チンク姉~ちょっといい? アリシアのお母さん…プレシアだったかな、チンク姉に代わって欲しいって」
「私にか?」
予想もしていなかった相手に驚いた。
(名前か要件を聞き間違えたのか?)
「代わりました。」
『この前はありがとう、おかげで助かったわ。それであなた明日は何か予定あるかしら?』
どうもそういう話ではないらしい。
「午前は要件があるが、午後からは空いている」
『そう、それじゃお昼にまた来て貰える? 食事はこちらで用意しておくわ』
「了解した。」
『また明日会いましょう』
そう言うと彼女の顔はモニタから消える。
「チンク姉…何かあったの?」
「明日来て欲しいそうだ…」
「何かあったんスかね~また事件発生とか」
「ウェンディ、怖い事いうなっ」
「冗談ッスよ~っ」
心配そうに見つめるディエチとウェンディを追いかけるノーヴェ、しかしその時チンクは何故呼ばれたのか理由が判らず、
「行けば判るだろう」
曖昧にしか答えられなかった。
翌日、指定された時間に行ってみると、チェントは外で遊んでいた。
「チェント、中に入らないのか?」
「いっぱいぴぴぴって」
「ぴぴぴ?」
その答えはすぐにわかった。彼女の研究室に入った途端
【PiPiPiPI…】【PiPiPiPi…】【PiPiPiPI…】【PiPiPiPi…】【PiPiPiPI…】【PiPiPiPi…】
前より多くのコール音が鳴り響いている。プレシアもまた通信相手と話し中。
「なるほどな…。はい、テスタロッサは今別の…」
再び端末を出してコール音が鳴る端末に触れるのだった。
「今日来て貰ったのはチンク、あなたにお願いがあってなのよ。ここで研究助手として働いて貰えないかしら?」
コールしていた端末を全て受け終わった後、プレシア・チェントと一緒に食事を取る中で突然言われた。
予想もしていなかった彼女の言葉に戸惑いを隠せない。
「私がか? 知ってると思うが私はJS事件を起こした犯罪者だぞ。そんな者を雇い入れるとあらぬ疑いをかけられる。」
戦闘機人に対しての裁判は既に終わっているし今は4人はナカジマ家の養子、3人は聖王教会預かりになっている。
それでもやはり犯罪者に対して世間の風は冷たい。
「勿論知っているわ。私も同じよ。プレシア・テスタロッサ事件…PT事件、ジュエルシード事件の主犯は私だもの。過去は過去…と割り切らなくてもいいけれど、気にしすぎても意味がないわ」
「!?」
(そうか、プレシアとアリシア…彼女達はヴィヴィオが連れてきた)
プレシアはヴィヴィオの時空転移でここにいる。居る理由をはっきり聞いた事はなかったけれど、彼女達の過去にも何かあるのに気づいた。
「チンク、あなたに来て欲しい理由は幾つかあるわ。あなたの優れた情報処理能力と通話相手との対応、まとめて貰ったメモはとても読みやすく要点もまとまっていたわ。それと彼女、私が保護者になったのだけれどずっと一緒には居てあげられないし、観察期間中だから保育施設に預けられない。チンクこの前、彼女は妹だからと言っていたわよね。」
「ああ、確かに言った。チェント…数字上は100という意味だから私達元ナンバーズの妹だ。」
「名目上は助手だけれど、私が期待しているのはクライアントとの交渉と手が離せない時にチェントを見て欲しいのよ」
(そうか、それで呼ばれたのか…)
そこまで言われて納得がいった。
「だが私は地上本部預かりの身で…」
「更に付け加えるともう1つ、これはあなたの妹達にも関係する事なのだけれど…人造魔導師生成計画で作られた身体、今は良くても数年後、十数年後…未来はどうなるか判らない。それに怪我や病気になった時、一般人の用に投薬措置が出来ない場合もある。」
そこまで言われて何を言いたいのかわかり、プレシアを睨む。
「…実験台…ということか? 私をサンプルにして技術を手にしようと」
「違うわ。ごめんなさい、言い方が悪かったわ。そうじゃない、娘や娘の親友もあなた達と同じなのよ。私はあなた達にも色んな未来を見る権利があると考えている。あの子達が悲しむ状況は作りたくない。」
「…………」
「…そうね、何かがあれば調べさせて貰うのは違わないわ。でもこれだけは信じて欲しい。スカリエッティの技術が欲しいんじゃない。私は娘達にとって医者でありたいのよ。」
「ママ?」
隣で食べていたチェントがプレシアの顔を覗き込む。表情を険しくしたチンクとプレシアを見てケンカをしているのだと考えたのか?
「ありがとう、なんでもないのよ。そうだ、チェントこれ美味しいわよ。ア~ン」
「ア~ン…おいしい♪」
その様子を眺めチンクは自分の考えが違っている事に気づいた。
(私は何を間違えていたんだ…)
1時期彼女はチンク達の事を防衛戦力か人造魔導師計画の実験体としてしか見ていないのではないかという疑念を持っていた。だが、そうなら現在が変わってしまった世界でスカリエッティと直接交渉して技術を得るというもっと効率の良い方法も取れるのだから。
技術の為に冷酷な仮面を被っているけれど、素顔は2人の少女の母なのだ。
「ここは教会にも近いし我らの陛下…ヴィヴィオもよく来るのだろう? それに、末妹の成長も見守れるのだから。プレシア・テスタロッサ、あなたの誘いを受けよう。」
頷いて言うとプレシアの顔に笑顔が戻った。
「しかし、私の処遇は私の意志だけではどうにもならない」
「そこは私が教会を通じて依頼するわ、と言ってもあなたの保護者、ゲンヤ・ナカジマからは了承を得ているわ。『あなたが望むなら』と」
(…敵わないな。父上には)
その夜、チンクは夕食の際全員が集まった中で
「父上、今の職から離れたいのだが」
話を切り出した。直後
「「「「ええええええっ!!!」」」」
揃った様にギンガ・ディエチ・ウェンディ・ノーヴェが席から立ち上がって驚く。
「チンク姉、何があったッスか!」
「まさか虐められたんじゃ、パワハラとかセクハラとか…」
「…その趣味を持った人は放っておけない。」
「いい彼が出来てここから出て行くなんて言わないわよね…?」
口々に言いたい放題だ。
「…聞き捨てならない事を聞いた気がするが、何もされてないし家からも出て行くつもりはない。父上…どうだろうか?」
家族の中で唯一何も言わずに聞いていたゲンヤは、ビールの入ったコップをグイッと飲んでから
「決めたんだな。いいさ、好きにすりゃいい」
「父さんっ、チンクはまだ…」
「ああ、判ってる。出向扱いなら問題ねぇよ。無期限は難しいが長期出向で定期的に申請すりゃいい。大体ここから居なくなる訳じゃねぇんだからな。居所もはっきりしてるから問題無い。確認済みだ」
4人は厳重監視の判決が下っていて、チンクは中でも厳しく期限が無期限だ。今は地上本部に居る為それ程厳しい監視も無いが、教会系の施設に行けば不都合もあるだろう。
帰路の途中その事だけがずっと引きずっていたのだが、ゲンヤは既に調べた上で彼女に答えていたのだと気づいた。
『あなたが望むなら』という言葉を
「ありがとう、父上」
再びビールを注いで飲む彼の口は笑みがあった。
翌日、チンクは1日かけて管理局で世話になった人に挨拶に行き更に翌々日
「申し訳ありません、テスタロッサは別室で研究中の為会議には出席できません。資料は本日中に送付します。」
「その情報ですが、調べた際と異なる新しい資料があるようなのですが…」
「そちらについては教会本部と地上本部の承認が…」
窓口となって精力的に動き始めていた。
その一方で少し時間が出来ると
「ね…え…さま?」
「そうだ。私も姉様、ウーノの妹だからチェントのねえさまだな。今日は何をして遊ぼうか?」
「チンク姉~、お茶セット持ってきたんだけど一緒に飲まない?」
「セイン…耳がはやいな。チェント、一緒にお菓子食べようか」
「うん♪」
目指した日常とは少し違うが、こう言う日々も悪く無い。
そう思いつつ年の離れた妹の手を引きシートを広げて用意しているセインの方へと向かうのだった。
~コメント~
時期はAgainSTStoryとAgainStoryの間が舞台です。
チンク・ナカジマは戦闘機人のナンバーズであり、ナカジマ家に入ってからは次女として暮らしています。Forceでは特務6課のメンバーになっていますが、こんな風に交わらなかったキャラ同士が交わっていくのもいいですよね。
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