As09 Mother&Children

「遅くまでごめんね…」

 夜も更けた頃、閑静な住宅地の一角にある家のドアが開いた。そこから出てきたのは1人の女性、後を追うように少女が出てくる。そして少女に続き彼女の母と思える女性も現れた。

「ううん、私も一緒にお話出来て楽しかった。ママもそうだよね。」
「ええ、またいらっしゃいフェイト」
「はい。おやすみなさい、母さん、姉さん、チェントにも」

 そう、フェイト・T・ハラオウンはテスタロッサ家に遊びに来ていたのだ。
 事の始まりは少し前にあった不審者騒ぎ。
 『不審者出没』、テスタロッサ邸のある住宅地に流れた話をアリシアから聞いたヴィヴィオはフェイトを不審者と見間違えてもう少しで砲撃魔法を撃ちかけるところだった。
 ヴィヴィオがフェイトを見間違える筈はないのだけれど、見慣れた管理局制服ではなく、私服でしかも黒いロングパンツと黒っぽいジャケットを着て長い髪を同じく濃い青色の帽子の中にまとめたといういかにも怪しい人と思われる格好だったから仕方がないとも言えた。
 更に悪い事にアリシアとチェントが家に向かうところを見かけてテスタロッサ邸までの道順を覚えようと後をついて来たものだからそれも不審者と見間違える要因になっていた。
 幸い不審者は管理局地上本部局員が捕まえたらしく、それ以降怪しい人も見ていない。

 そんな騒ぎから数日後、フェイトは時々顔を見せるようになっていた。

「ねぇママ、フェイト良く来るけどいいの?」

彼女を送り出してリビングに戻りながらプレシアに聞く。

「ええ、かまわないわよ。フェイトも私の娘だもの。気になるの?」
「う~ん、何か気になるっていうか…フェイト、今はリンディ提督の子供なんでしょ? それにヴィヴィオやなのはさんと一緒に暮らしてるんだよね。」
「ええそうね。アリシアが気にしている事はリンディは納得してるわ。フェイトも…もう気づいてるでしょうし、もし気づいていなくてもすぐに気づくわ。あの子ももう大人なんだから…」

 アリシアの感じている違和感の正体にプレシアは承知しているらしく。笑って答えてからリビングへと行ってしまった。

「フェイト…本当にわかってるのかな?」



「ただいま~」
「おかえり、フェイトママ」
「おかえりフェイトちゃん。」

 ヴィヴィオとなのはが出迎える。最近フェイトは機嫌がいい。
 なのはは勿論、ヴィヴィオもその理由を知っていた。
 ジュエルシード事件でのフェイトとプレシアの関係は親子とは遠く離れたものだった。しかしここのプレシアは彼女の記憶に残るプレシアとアリシアとの関係は願っていた家族であり、『フェイトの心にあった家族の姿』が近くに居るのだから彼女が頻繁に行くのも当然。
 でも、だから余計に気になる。

 フェイトはどうしたいのかを?

「ねぇママ…フェイトママ、プレシアさんの家族になるのかな? それともリンディさんの家族に残るのかな?」

 フェイトがお風呂に入っている最中、なのはに聞く。

「う~ん…そうだね。ヴィヴィオは私の娘だから高町だよね。でもフェイトちゃんをフェイトママって言ってるよね?」
「うん。」
「じゃあヴィヴィオにとってもフェイトちゃんはフェイトママなんだからフェイトちゃんも家族だよね?」
「うん。」
「フェイトちゃんにとってプレシアさんとリンディ提督がなのはママとフェイトママなの。家族って名前じゃないでしょ?」

 なのはが言いたいことはわかる。
 でも、フェイトがアリシアの家に頻繁に行くとその分ハラオウンの家に行く機会が減るんじゃないかと気にしていた。

「そうだね~。丁度フェイトママ出てきたみたいだし聞いてみようか? フェイトちゃーん」
「どうしたの?」

 呼ばれたフェイトはタオルを1枚巻いた姿でリビングに入っててきた。  

「フェイトちゃん、最近リンディ提督に会ってる?」
「リンディ母さん? うん、今日も会ってきた。プレシア母さんにお届け物だって渡されちゃった。プレシア母さんからもリンディ母さんへってお菓子預かってるから明日少し早く出て届けなくちゃ。」
「ねっ♪ 2人とも仲良し。」
「そう…なんだ、うん、そうだよね。」

 よく考えてみれば桃子が怪我をした時、リンディはプレシアに連絡して休暇と称して手助けに行った。それまでも…ヴィヴィオが知らないだけで2人は色々あって、今の関係を作ってきたと思えば…

「それがどうしたの?」
「ううん、フェイトママ最近嬉しそうだったから。」

 

「フ~ン、フェイト何も話してくれなかったのに。」

 翌朝ヴィヴィオは登校した後アリシアにフェイトの事を話していた。アリシアも似たような事を感じていたらしい。

「フェイトママ、きっとアリシア達と一緒に居る時はフェイト・テスタロッサになってるんじゃないかな? リンディさんの話がでたら話すけど、そうじゃない時はいつもどんな風に過ごしてるのかとか聞いてみたいんじゃない?」

 きっとそれが元の親子として戻っていくのに繋がる

「そうかも、ヴィヴィオが学校で何をしたのかとかもっと教えてって言ってたし」
「…アリシア、まさか…変な事まで話してないよね?」
「えっ、大丈夫。ちゃんとあった事だけしか話してないから」

 答える時に一瞬目を逸らしたのをヴィヴィオは見逃さなかった。

「も~っ、でもいいや」

 アリシアやプレシア、それにフェイトが楽しい時間を過ごせるならそれでいい。



 そんな話をヴィヴィオとアリシアがしていた同じ頃

「母さん、これプレシア母さんからです。」

 管理局本局の執務室でリンディはフェイトから小箱を受け取る。中を見ると手作りと思われるお菓子が入っていた。

「ありがとうフェイト。楽しかった?」
「はい。とても」

 フェイトの笑顔を見て自然と頬が緩む。

「じゃあ、次に行く時はまた来て。プレシアにお返し渡さなくちゃ」
「はい。次は母さんも一緒に行きましょうね」

 そう言って彼女は部屋を出て行った。


 フェイトが出て行ったのを確認した後、

「全く…手の込んだ事するんだから。」

 そう言って菓子を容器に移した後箱の下敷きをめくる。そこにあったのは1枚のディスク。
 慣れた手つきでそれを取り出し自分の端末差し込んだ。
 モニタに現れる幾つかのグラフとデータ。先程までと打って変わったように真剣な表情になったリンディはそれらに目を通す。

「プレシアもそう考えているのね…私達の開ける箱がパンドラの箱じゃなければ良いのだけれど…」

 そしてそのデータの最後には

『アリシア、ゴメン…すぐに終わるから。終わらせてプレシアさんのところに帰ろう。待ってて、すぐに終わらせるから…』
『いっけーっ!!』
『そんな事させないっ!!』
『いっけぇええ、スターライトッブレイカー』

 ゆりかごの中、元機動6課訓練場、異世界の海鳴市海上で集束砲を放つヴィヴィオの映像と併せて表示される魔力出力が表示される。
 更にはJS事件で現れたもう1隻のゆりかごから発した虹色の光の画像も出ていた。

「ジュエルシード事件と闇の書事件でヴィヴィオさんは集束砲を使っていない。とすると使い始めたのはチェントさんを連れ帰った事件から…」

 端末に入っていた報告書を引き出す。それはレティに頼んで貰った技術部マリエルの書いたRHdの報告書。 

「デバイスにインテリジェントシステムが入った後から使い始めて既に5回以上、拡散型に変わって威力が落ちる筈が逆に使う度に増している…総量出力だけならフェイトやなのはさん以上か…」 

 ミッド地上本部が実力行使でリミットを付けたがる理由も、聖王教会が強引に彼女を取り込もうとするのも理解できる。だから余計に

「…持ち出し許可を早く取り付けなければいけないわね。」

 広げていたデータを全て閉じ部屋を出て行った。そして

【急激な能力上昇を抑え安定させる機関の可能性は…】

 箱の中から手書きのメモがはみ出していた。
 

~コメント~
 今回はヴィヴィオのもう1人のママ、フェイト・T・ハラオウンが主役です。フェイトの幼少時期の記憶の中で優しいプレシアの記憶はアリシアから移植された作られた記憶だけです。
 そんな彼女の前にプレシア・アリシアが居れば一緒に居る時間を作りたいと思うのではないでしょうか。

 

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