14話 前兆

 翌日までエリオは昨日の嵐で受けた怪我を治す為に医務室で一夜を過ごした。

『結局キャロの部屋で一緒に寝たのは1日か・・』

 あれから、何度も直後のことを思い出そうとするのだが、肝心な所がもやがかかった様に思い出せない。

 何度か考えているうちに、エリオ自身は

『キャロが無事だったんだからそれでいいや』

と思うようになっていた。


 起きた後、隣のベッドで眠っているキャロを見つめていた時、医務室の端末から呼び出しのコールが鳴った

【エリオ・モンディアル三等陸士、八神部隊長がお呼びです。至急部隊長室に来るように】
【了解しました】

「ちょっとだけ行ってくるから、すぐ戻ってくるから」

 エリオは眠っているキャロに呟いて医務室を出て行った。

「エリオ・モンディアル三等陸士です」
「どうぞ」
「失礼します」

 部隊長室に呼び出されたエリオの前にははやて・なのは・フェイトの六課隊長陣が揃っていた。
 なのはは腕に少し包帯を巻いている。エリオがなのはの腕に視線が向かっているのをみて、なのはは何でもないからと言う風に手を振った。

「あ~エリオ、そんなに堅くならんでいいよ、そこに座ってな」

 敬礼をしたままのエリオにクスリと笑いながらソファーを指さした。

「はい・・・失礼します」
「何か飲む?」
「いえ、大丈夫です」
「そうか・・じゃあなのは隊長、フェイト隊長と一緒のでええか?」
「はい」

「見よう見真似やけど、どうぞ」

 差し出されたティーカップから甘い香りが漂う。
なのはとフェイトはそれぞれカップを手にし口を付けると。

「美味しい・・はやてちゃん上手くなったね」
「うん。すごく美味しい。エリオも飲んでみて」

 フェイトに進められカップを手にする。口に含んだ後、甘い香りが体中に染み渡る様な気がした。

「はい、おいしい・・・」

 エリオの言葉を聞いた時、はやてはニッコリと微笑んだ。緊張が解けたのを見てフェイトがエリオに聞いた。

「それで、今日エリオに来て貰ったのは昨日の件についてなんだ・・・私やなのは隊長は六課に居なかったからその時のことを教えて欲しいの」
「僕のですか?解析映像ではなくて?」

 管理局内では【スフィア】と呼ばれる浮遊した自動カメラの様な物が常に動き回っている。警備目的の為、プライベートな局員の部屋には入らないように設定されている。
 しかし、隊舎にはそれなりの数が配置されている筈なので、地下管制室の周りにはかなりのスフィアが居てもおかしくはない。
 それなのに、フェイト達はエリオから答えを聞きたがっている事を変に思った。

「昨日はデバイスの調整をシャーリーさんと行った後、昼食を取って六課の近くの木へ行きました。少し前にキャロが仲良くなった鳥に雛が生まれたってキャロから聞いていたので、巣から落ちても大丈夫な様にネットを下に作ってました」
「あの小鳥の事だね、昨日私も教えて貰った」
「それでその後、ヴァイスさんに道具を借りていたので返しに行って、少し話していたら警戒警報とはやて部隊長からの退避命令を聞きました。その場にいた全員で退避しようとしたんですが、その時なんとなくキャロの声が聞こえた気がして戻りました」
「声ってどんな声」
「何か『助けて』というか何というか・・そんな声でした」

 なのはは頷き

「うん、続けて」

 エリオは思い出しながら言葉を選んで続けた

「何度がその声を聞いて行くと地下管制室に向かっていました。そして窓から中を見ると嵐の様な真ん中にキャロが居たので慌てて中に入ったんです。」
「丁度はやてとリインが魔力を吸収していた時だね」
「はい。でも、キャロから溢れ出ていた魔力の方が大きかったみたいではやて部隊長は外に・・」

 はやてが頷く

「その後、僕がどうやってキャロを助けたのかは思い出せません。もしかしたら僕がキャロに助けられたのかも・・・気づいた時にはキャロの体を支えて部屋の真ん中で立っていました」

「エリオ、うちが飛ばされた後の事で何か覚えてない?どんなちっちゃな事でもいいんよ」

 はやての言葉で再びエリオはその時の事を思い出そうとする。しかし、昨日から何度やっても思い出せなかった物がいきなり思い出せる訳もなかった。

「なんとなく・・」
「「「なんとなく???」」」
「本当に何となくなんですが、以前のキャロと話した・・・様な気がするんです。もしかしたら気のせいかも知れませんけど」
「・・・・わかった、また何か思い出す事があれば教えてな」
「はい」

 はやてはこれ以上エリオから新しい情報が得られないと判断して、切り上げた。


「あと、もう一つ用事があるけど・・・フェイト隊長?」

 はやての問いかけに頷くフェイト。

「うん・・・エリオ三等陸士、本日より1週間謹慎を命じます」
「!っ・・ええっ!どうして」
「部隊長の命令無視による逸脱行為、昨日の地下の場合はうちの命令を拒否したのは覚えてる?結果として上手くいったかも知れんけど規則は規則」
「でもっ・・・あの時は・・・」

 エリオは途中で言うのを止めた。
 最初にフェイトへ確認した事から何を言っても通らないだろうと思って。庇ってくれると思っていたフェイトからの謹慎処分だった事が更にエリオを落胆させた

「はい・・・わかりました・・・」

 落ち込んだエリオをみて

「うん、じっくり反省してな。っていうのは半分で・・・」
「えっ?」
「エリオとフリード、昨日のアレで怪我してるやろ?それが完治するまでおとなしくしてること!」

 確かに、エリオとフリードはキャロを守る為に細かい切り傷ややけどを負っていた。

「こんな傷、訓練には支障ありませんし。もし何かあるならシャマル先生なら一瞬で・・・」

 フェイトが首を振り

「エリオ、普通の怪我ならそれで治るんだけど、今回のは治療魔法が使えないの。魔力そのものが原因だから使っても意味がないの。だから自然に治るのを待つしかないんだ」
「そういうわけやね、一週間大人しくしてること。ただ単に療養っていったらまた命令違反するかも知れんし・・・その辺はちゃんと反省してな」
「それと目覚めたらキャロと仲良くしたってな」
「わかりました。」

 謹慎という名目での療養休暇。エリオははやてやフェイトの気遣いに感謝しつつ、キャロが起きたら色々聞いてみようと思った。



 一度医務室に戻りキャロが眠っているのを見つめるエリオ
「Zzzz・・・・Zzzz・・・・」
『良かった、まだ起きてない』

 少し離れた場所で書類に目を通しているシャマルに近づいて
「あの、シャマル先生?」
「ん?何エリオ?」
「今からスバルさんとティアナさんのところへ行ってきます。もし、キャロに何かあれば・・」
「いいわよ、すぐ連絡入れるわ」
「ありがとうございます」

「じゃあキャロもう少し待っててね」

 エリオは朝練に参加出来なかった事と暫く訓練を休む事をスバルとティアナに知らせる為に部屋に向かった。

【コンコン】

「はーい、誰?」
「エリオです」
「開いてるから入って~」
「失礼しま~す。」

 ティアナの声しかしないのに首をかしげながら部屋に入ると、すぐにその答えが返ってきた。

「あれ?ティアナさんだけですか?スバルさんは?」

 ラフな格好で椅子に座っているティアナ、スバルの姿は何処にもない。

「あ~スバル?そこで唸ってるわよ」
「えっ!?」

 ティアナが指さしたベッドを見てみると、スバルが寝かされていた。額に濡れタオルをあてて唸っている

「う゛~・・う゛・・・ごめん・・なさい・・や・・やめて・・」
「い・・・一体何が?」

 ティアナはエリオを見て

「エリオ、あんた昨日スバルとなのはさんが言った事フェイトさんに言った?」
「昨日の?いえ、フェイトさんとは会えなくてさっき会ってきたところですが?」
「じゃあ、昨日の事誰かに言った?」
「あ・・キャロに少し、それが何か?」

 ため息をつきながら額に手をやり

「あ~、キャロからだったんだ・・・どうも、昨日キャロがフェイトさんにその事を言ったらしくてね、朝練で2対2のチーム戦をしたんだけど・・」
「フェイトさん・・もしかして本気で?」

 エリオの額に冷たい汗が流れる。ティアナ頷きながら

「そう・・私もいきなり待機命令出された後に、リミットブレイク手前まで解除しちゃって。非殺傷設定だったからなのはさんもスバルも怪我はかすり傷程度だったんだけどね・・・魔力ダメージは・・・・」

 よく見ればスバルも大きな怪我もせず少し切り傷があるくらいだ

「昔、どこかで白い悪魔の話を聞いたけど、漆黒の死神もいるんだって本気で思ったわよ!まだなのはさんとスバルの悲鳴が残ってるもの」
「アハハ・・・」

 エリオもフェイトに注意されたことは何度もあったが、本当に怒ったところは見たことが無い。

「それで・・スバルさん・・・すみません。僕が相談しなければ・・」

 唸っているスバルに謝るエリオ

「あ~良いわよ別に、言って良いことと悪いことがこれで少しは身にしみたんじゃない?それより」

 ティアナはエリオの姿を見て

「ちょっとは聞いてたけどどうしちゃったの?その怪我?」

 エリオは昨日起こった事をかいつまんで話した。別にはやてやフェイトに止められている訳でもなかったのと、何よりフロント陣のリーダー役のティアナに知って置いてもらいたかった。
 
「なるほどね~、原因とかはわかんないけどエリオ、ストラーダは常に持っていた方が良いかもよ」

 ティアナの考えが見えないエリオは聞き返した

「どうしてですか?」
「だって、今の話を聞く限り謹慎処分を出す程の事も無いし、エリオの怪我もいくら治りが遅いって言っても1週間休ませるって変よ。」

 言われてみればそうだ。動けないほどの大怪我であれば判る話だが、エリオは少し動きづらい程度の怪我しか負っていない。

「それじゃ・・・どうして?」

 ティアナは少し考えていた。
 キャロの現状・あり得ない魔力量、記憶の欠落・・・そして感染型ロストロギア・・もし魔力暴走が何かのシグナルなら・・いくつかのパーツが綺麗に組み立てられていく

「エリオ」
「はい」
「はやて部隊長って以前は捜査官してたんだよね?」
「たしか・・・そう聞いたことがあります」
「なら、前にシャーリーさんが【キャロにロストロギア自身が仕掛けられた可能性がある】って言ってたのよ。もしかすると昨日のそれが誰かに知らせるシグナルになったんじゃないかって。」
「そっそんな物がキャロに?」

 エリオは驚いた。今までキャロは怪我の影響か、魔力の暴走で一時的に記憶が閉じられただけだと思っていたからである。まさかロストロギアがキャロの中に入っているとは夢にも思っていなかった。

「でも、そんなこと僕はっ!」

言いにくそうにティアナが謝る。

「ごめん。エリオがキャロを看ていた時に教えて貰ったの。でもそれはエリオがそんなことを抜きにしていつもの様に接して欲しいと思ったから。」
「でもっ・・・みんなも知ってるんですが」

頷くティアナ

「でもね、エリオがもしこの事を聞いてたら・・今までの様にキャロと一緒にいることができる?」
「それは・・・」

キャロの中にあるロストロギア。もしそれが今の人格を作っているなら・・・・

「多分・・できません・・」
「だから、だからエリオには知って欲しくなかったんじゃないかな?フェイトさん」
「・・・・・」

 エリオは内心複雑だった。
 キャロと一緒に居るように言われているのに大事な事を教えて貰えていない葛藤と、もしそれを知っていればエリオ自身が同じように振る舞えないのを判って隠していたフェイトの気持ち。
 俯いて何かを考えているエリオに

 「これは私からのお願い。フェイトさんを怒らないであげて。ね!」

 両手を合わせて頼むティアナ

「・・わかりました・・・」

ホッとしたティアナはさっきの話を続ける

「それでね、もしそうなら近いうちにキャロに対して何らかのアクションが起こる可能性があるって事、そしてその対応が一番速く出来るのは・・・」
「僕・・・です」

 エリオ自身、そこまで深く考えていなかった。はやての隠した意図を読み取ったティアナが読み取った事に驚いた。そして、この後も何かが続く事に不安を感じずにはいられなかった。

「私達もバックアップするから頑張りなさいよ」
「はい、でもライトニングが・・・こんな状態じゃ・・・」

 エリオは少し申し訳なさそうに言う。
 エリオが謹慎処分という名の治療中でキャロが長期療養中。残っているフェイト隊長は捜査がメインと言うことで実質シグナム副隊長しか即座に対応できない状態だ。
 だが、レリックやガジェットドローン・召喚師の女の子が出てくれば出動しない訳には行かない。
 暗い表情のエリオをティアナが笑い飛ばした

「大丈夫、大丈夫!副隊長が2人とも戻ってきてくれているし、それに」

 唸っているスバルを見て

「そんなに危ない状態なら、自業自得といっても朝練でここまでしないって」
「・・・そ・・そうですね・・」
「う゛~~~っう゛~~~っ」

 2人はスバルの姿を見て笑い合った。

「じゃあ、すみません。医務室に戻ります」
「がんばってね・・・ん?」
【PiPiPi・・・・】

 いきなり甲高い音が響く。

「何?呼び出しかな?」

 どうやら端末のコール音らしい。ティアナがボタンを【Pi】っと押してでた

「はい、ティアナです」
「エリオっ!キャロの様子が変なのっ」
「「ええっ!」」

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