第08話 「繋がる糸」

「ヴィヴィオ、昨日は大変だったね。」

 無限書庫に来たヴィヴィオは挨拶する前にユーノに言われて驚いた。

「も~っ、ママおしゃべりなんだから…」


 先日ヴィヴィオはマリンガーデンでマリアージュ6体と戦った。
 市街地区での戦闘魔法や飛行魔法は事前に使用許可が要る。はやてが先に申請してくれたけれど、魔法使用に関しては彼女の管轄外で何らかの使用理由が要るらしい。
 港湾警備隊との辻褄もまとめて合わせようという彼女の発案でその夜は八神家での食事会という流れになった。
 はやてやザフィーラ、シグナム達と一緒にご飯を食べるのは楽しかった。

 でも遅れてきたなのはとフェイトがその話を聞いて…

「どうしてスバルが来るのを待たなかったの!!」
「ヴィータちゃんが近くで教導してるの知ってるよね? どうしてママに連絡に取れなかった時にすぐ連絡しなかったの?」

 アリシア共々思いっきり怒られた。
 言われた通りヴィータは元機動6課のあった隊舎で教導中でマリアージュは朝からマリンガーデンを彷徨っていて被害を出していなかったのだから10分遅らせるどころかスバルが到着してから誘導しても良かったのだ。
 結果から言えば一歩間違えば大災害になる危ない綱渡りをしただけ…
 ヴィヴィオにとってはマリアージュが見つかってイクスが危ないという気持ちと、マリンガーデンが炎に包まれその中に沢山の人が残されるという気持ちが先走りしたのだけれどそれは気持ちの問題であり冷静な判断じゃなかった。

「ヴィヴィオ、【管理局】の名前を出すって言うことはそこに居る人の安全を最初に考えなきゃいけないんだよ。」
「中にママ達やアリシア、チェントが居ても特別扱いしちゃだめなんだ。」
「はい…」
「…ごめんなさい…」

「なのはさん、フェイトさんもその辺で…まさかまだマリアージュが居るなんて誰も思ってませんでしたし、ヴォルツ司令も民間人から離れて屋上に誘い出した上で砲撃が当たらないように上空にまで気を回ってるなんて凄いって驚いてたんですから」
「そうや、ヴィータについては私も同罪や。アリシアから連絡貰った時にヴィータに連絡してなかったんやから…」

 シュンとなる2人を見かねてスバルとはやてがフォローに入る。

「でも…」
「なのは、フェイトお前達も悪いんだぞ。本局に居て手が離せないんだったらデバイスへの通信設定くらいしとけ。こいつらならはやてやスバルより先に連絡したんじゃねーのか? そうだろ?」
「そうなの?」

 アリシアにはなのはとフェイトにもと話していたけれどRHdに応答があったのははやてとスバルとスバルの上司であるヴォルツだけ。
 アリシアに聞くと彼女は頷く。

「うん…スバルさんには真っ先に連絡した。でも窓口の人に伝言しか出来ないって言われて。それでヴィヴィオの名前を借りてスバルさんか上司の人に『マリンガーデンにマリアージュが居る』って伝言して貰って、その後でフェイトとなのはさんを呼んだんだけど繋がらなくて、はやてさんに連絡したんだ。」
「『マリンガーデンでマリアージュがいる。ヴィヴィオが何かするつもりだ』ってな♪」

 はやての言葉に頷くアリシア。

「スバルは何て聞いたん?」
「防災指導中にヴォルツ司令から連絡がありまして急ぎマリンガーデンへ向かうようにって、それとヴィヴィオのデバイスの通信番号を教えてくれって」

 それでいきなりヴォルツがRHdに連絡出来たのかと納得する。

「いつマリアージュが爆発して火災が起きるかわからん状況で良く考えたって私は感心してるよ。港湾警備隊の対応は置いとくとして、私の前になのはちゃんとフェイトちゃんにちゃんと連絡しようとしてる。どっちかがアリシアの通信取ってたらもっと早く何とかなってたんちゃう?」
「だな♪」
「………そう…だね…」
「…ヴィヴィオ、アリシア…ママ達も悪かった。怒ってゴメンね」

はやてとスバル、ヴィータのフォローでその場はそれで無事治まった。 



「こっちに居ると世界間の時空が乱れたら通信出来ない事もあるからね…でも、2人ともずっとミッドに居るわけにはいかないし…」
「そうですよね。」
「まぁこの話はここまでにしておいて始めようか」
「はいっ!!」

 ヴィヴィオはユーノに元気よく返事した。



「聖王教会からの調査依頼は『長時間、100年単位で時間移動する方法を調べて欲しい』って事。刻の魔導書…写本の方がわかりやすいね。ここには管理局発足時に聖王教会から借りてコピーした写本が幾つもある。僕が見つけて中を確認した物はあっちにまとめてる。」

 彼の指さした方を見ると本で小さな山が出来ている。

「貴重な本なのが判ったからね。近いうちに修理するつもり。ヴィヴィオにはミッド以外の世界で時空転移について書かれている本を探して欲しい。範囲が広いからね、僕も一緒に探すよ」
「はい」

 ユーノと一緒に調べられるのにヴィヴィオは心を躍らせた。



(何この量…)

 検索魔法を展開した直後検索に引っかかった本の量に驚いた。RHdのリソースがみるみる減っていく。

「え、ええええっ! RHd待って、ちょちょっとストップ。」

慌てて止める。
 引き出されてきた本で作られた壁を見て唖然となる。

「どうしてこれだけいっぱい…?」

 中の1冊を手に取り本の指定されたページを読んでみるとその理由が判る。

「これ…昔話だよね? そうか、昔話にいっぱいあるんだ…」

 その予想は当たっていて、引き出された本の大部分がそうだった。他にも事件の記事をまとめた物や伝記の類等々。
 検索対象は時間。絞り込み範囲が広すぎた。
 絞り込み方法を考え幾つかの方法を試していく。
それを何度か繰り返して範囲を広げつつ検索で見つかった本を幾つか確認する。

「検索魔方陣、再展開っ!遅れた分を取り戻すよ~♪」

 再び虹色の魔方陣が広がった。



(ヴィヴィオのこういう所も凄いと思うんだけどね)

 自分の検索魔方陣の中でヴィヴィオの様子を見ていたユーノはクスリと笑う。
 ヴィヴィオが取った方法は思いつく方法を試してそれを更に改良していく。魔法を習うのではなく作る側、研究者の考え方。
 シグナムやヴィータはなのはと同じ管理局の教導隊や武装隊を薦めたいそうだし、聖王教会も門戸を開けていると聞く。でも、ユーノ個人としては検索環境が整った無限書庫で今の様に調査依頼を受けていって欲しいとも思っている。
 生まれが変わっていても今の彼女の考え方や魔法は引き継いだ物でも元々持っていた物でもなく彼女が望んでユーノが基本を教え、それを応用して彼女自身が作った物だから。

(ヴィヴィオは将来の事考えてるのかな?) 
「僕が遅れちゃいけない。検索処理加速」

 調査依頼主は管理局理事カリム・グラシア。でも彼女の為ではなく本当の目的は別にあるのはユーノ自身もわかっている。



「ん? また変な本見つけた?」

 検索魔方陣を起動してから2時間程経った頃、本の中身を見て首を傾げた。
 検索対象になっていない筈なのに、なぜか紛れ込んでいたのだ。かなり汚れていて本の名前も擦れていて読めない。

(この本…魔導書じゃないよね?)

 ヴィヴィオは写本をここで広げた時に時空転移の力に目覚めている。今度は下手に起動させないように魔方陣を1度消してそーっと開く。
 その中は歴史書だった。

「歴史書か…ベルカ史も載ってるのかな? 検索、ベルカ統一戦争」 

 本の中からピックアップされたページを見ていく。
 戦死者数や砦の攻防や国の盛衰、世界間の武器交易の情報が次々と引き出される。その中でイクスヴェリアとマリアージュの記述もあった。

「死すら厭わない兵士が奉る王イクス…こんな風に思われてたんだ…」

 描かれた凶悪な形相の王。この本をまとめた人が実際の彼女に会ったらどんな風に思うだろう。
ポカーンと目を点にして彼女を見る様子を思い描き笑ってしまう。

「もしかして…オリヴィエの事も載ってるかな? 検索、オリヴィエ、ゼーゲブレヒト」

 彼女の事を知りたい。その時はただ単に興味本位だった。

「あった。オリヴィエ・ぜーゲブレヒト。…守護する砦を攻められて戦死。戦乱に身を投じた若き王女…ユーノさん!!」

 その本をギュッと握りしめユーノの所に飛んで行った。



「ヴィヴィオ、見つけちゃったんだね…僕が一通り調べたからもう無いって思ってたんだけど…」

 本を見た後、ユーノは少し悲しそうな顔で答えた。

「ここに書かれているのは本当だよ。彼女が居る時間は戦乱の真っ只中。シグナムやシャマル、ヴィータ、ザフィーラ、リインフォースが心を痛めて戦い、イクスの作り出したマリアージュが大勢いた時間なんだ。」
「オリヴィエは強襲された砦から兵を助ける為に殿(しんがり)に立っていて、その時深手を負って…」
「そんな、でも今ここにいますよ? じゃあオリヴィエさんにずっとここに居て貰ったら!!」

 何も争いが無い平和な世界とは言わないけれど、彼女の居た頃に比べたらずっと安全な筈だ。良い案だと思ってユーノにもちかける。きっと彼もその案に乗ってくれるだろうと
 しかし、ユーノは首を横に振って答えた。

「ううん、僕達は彼女を元の時間に帰って貰わなくちゃならない。そして…戦争で深手を負って死んで貰わなければならないんだ。」

 いつになくはっきりと答えたヴィヴィオ何も言えなかった。



 どうしてダメなんだろう…
 無限書庫からミッドへのポートへ向かう間ずっと考える。
 せっかく危ない時間から来たのだからずっとここに居ればいいのに…
 ユーノが帰り間際のヴィヴィオに言った言葉

「今日のヴィヴィオは色んな事知りすぎちゃって疲れてるんだよ。暫くの間こっちの事は僕に任せてなのは達と一緒に居たら良いんじゃないかな」

 暫く来なくて良いと言う事…それが更に輪をかけて不安にさせていた。

「時間をあげるから答えを出しなさいって事かな…ユーノさん…」



「あらヴィヴィオじゃない。」
「…………」
「ヴィヴィオ~っ!」
「…………」
「ワッ!!」
「キャッ!?」

 駆け寄って耳元で大声をだす。驚いてやっとこっちを見てくれた。

「無視するなんて酷いんじゃない~?、ヴィヴィオ」
「ティアナさん…ごめんなさい。」

 いつも元気の塊の様な彼女が沈んだ表情をしていて気になったティアナは

「どうしたの? 元気ないわね~、私今からご飯食べに行こうと思ってところなの。一緒に行きましょう。」
「えっ、えええっ!? 私帰らなきゃ…」
「呼んだのに無視した罰。強制参加。なのはさんとフェイトさんには私から連絡するから。行くわよ~」

 このまま彼女を1人にしておけない。そんな気がした。



『なのは、ごめんね…僕がもっとちゃんと調べていれば…』
「ううん、私もいつか気づくと思ってたんだ。ヴィヴィオ妙なところで冴えてるから」
『うん…それで少しきついこと言っちゃって…ヴィヴィオが来たいならいつでも待ってるからって言っておいてもらえる』
「わかった。ありがとう,ユーノ君」

 キッチンで夕食の用意をしていたなのはの所にユーノからの通信が入った。
 なのはとフェイトは彼女がやってきた時からいつかこういう時が来ると思っていた。そしてそれを知らないヴィヴィオにとっては酷く辛い事を知るということも…

「ねぇフェイトちゃん、明日か明後日お休み取ってヴィヴィオとオリヴィエさんと一緒に遊びに行かない?」
「えっ、いいの? なのは今教導中なんでしょ?」
「うん。でも…たまにはね」
「…そうだね。シャーリーと話してみる。」

 なのはの顔を見て何かを感じたらしい。フェイトはそう言ってリビングから部屋に戻った。
その時

【Master、It is message from Teana(ティアナからメッセージです)】
「え、なんだろう?」

 ティアナがフェイトではなくなのはに直接メッセージを送って来た事に首を傾げる。
 でもメッセージの内容を見てそれも判った。

『ヴィヴィオ一緒に食事するので遅くなります。帰りは送ります』

 帰る途中で会ったのだろう。

「たまにはいいよね…」



「ウ~ン…もしそうだったら私はここに居ないんじゃないかな」
「えっ?」

 巷で美味しいと評判なお店にティアナはヴィヴィオを誘って入った。評判通りの味で美味しいと舌鼓をうつ。でも、目の前の彼女は何か考えている、思い詰めた感じで沈んでいる。
 そんな彼女が発した一言目が

「ティアナさん…もしティアナさんのお兄さん…家族が生きていたらどうしますか?」
「ブッッ!! ゴホゴホッ」

 スープを吹き出しそうになって思いっきりむせた。

「ヴィヴィオっ、いきなり」

 なんて事聞くのよと言いかけたが彼女の真剣な眼差しを見て言葉が続けられず、考える。
 家族…兄、ティーダがもし首都航空隊にいたら。それでも同じ様に管理局を目指すだろう。執務官ではなく兄の居る航空隊を目指して…

「ウ~ン…もしそうだったら私はここに居ないんじゃないかな」
「えっ?」

 ナイフとフォークを置いて答える。

「執務官にもなって…目指していなかったと思うし、機動6課にも入れなくて…ううん、それより前にスバルと会わかなったと思うから、ここには居ないわよ。ウン♪」

 執務官を目指す為に入った学校でスバルと会って、今に続いている。根本が変わればどうなっていたかわからない。

「もしそうだったらヴィヴィオもここに居ないわよきっと。ゆりかごの中で私達が行かなきゃゆりかごと一緒に消えてたかも知れないし、そもそもなのはさんと会わずにそのままスカリエッティの所に行っちゃってたかも…そうでしょ?」
「え…あ…そうですね…」
「だから昔は昔で今は今。そんなもし~とか~だったらなんて考えてたら頭が幾つあっても足りないわよ。これが私の答え。折角の料理が冷めちゃう、何か悩んでる事があるんでしょうけどご飯の時くらい笑って食べましょ。」
「そう、そうですね」

 少しは気が紛れたのか、彼女もフォークとナイフを持って料理を食べ始めた。



『昔は昔で今は今。そんなもし~とか~だったらなんて考えてたら頭が幾つあっても足りないわよ。』

 ティアナの言葉が胸に刺さる。ある時間に起こらなかった事が起きたら未来が変わる。
 それが昔になればなる程大きく広がっていく。
 だからと言ってもしさよならする時がきたら『元気でね』なんて笑顔で手を振るなんて出来ない。
 目の前に広がった闇、どうすればいいのか?
 ヴィヴィオの中で答えは見つからなかった。 



~コメント~
 もしヴィヴィオの時間にオリヴィエがやってきたら?
 ヴィヴィオの前に広がる闇、
 オリヴィエがずっとヴィヴィオと一緒に居れば、ヴィヴィオやチェントの存在理由が無くなってしまいます。でも彼女を元の時間に送ると言うことはヴィヴィオ達は残りますがオリヴィエの死ぬ未来は避けられません。
 その不文律はオリヴィエ登場を決めた時からありました。答えの無い問題にどんな風にしてヴィヴィオ自身が納得できる答えを導くのか?
 今章はその部分が主題になります。

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