第11話「彼女の真意」

「なのはママ、フェイトママおはよ~…」

 ある朝、寝ぼけ眼でリビングに降りてきたヴィヴィオを出迎えたのは…

「おはようございます。朝早く2人とも出かけましたよ。」

 オリヴィエだった。しかも彼女はここに来た時と同じ服を着て鎧まで身につけている。
 リビングのテーブルを見るとメモがあり、2人とも仕事で帰りは夜遅くになると書かれていた。

「オリヴィエさん、その格好、どうして鎧まで…」
「ヴィヴィオ、アリシアとチェントにここへ来るように伝えて貰えませんか?」

 時計を見る。まだ8時を過ぎた頃。

「アリシア? …まだ寝てて…起きるかな?」

言いながらRHdでアリシアを呼び出す。

『ヴィヴィオ、おはよう。どうしたの朝早く?』
「おはよ~、アリシア起きてたんだ。珍しい」
『私も朝早く起きる時くらいあるもんっ!』

 それがどれ程珍しいかはヴィヴィオも良く知ってる。

「そ、そうだね。アリシア、チェントを連れて今日私の家に来れる?」
『ごめん、今ママと一緒に研究所に居るの。コアの調整したいからって。今日ずっとかかるかも…』

 プレシアの作った魔力コア、魔法が使えないアリシアにテストして貰った方が効率良いのだろう。

「オリヴィエさん、アリシアはお母さんのお仕事手伝ってて来れないそうです。」
「そうですか…」

 オリヴィエは少し考えてから

「…彼女達が居るのは教会近くの研究所でしたね。あの外は広かったと記憶していますが」
「ええ、広いですよ?」
『??』

 ヴィヴィオとモニタ向こうのアリシアは何をしたいのかわからず?マークを浮かべている。

「でしたら私達がそちらに行きます。ヴィヴィオ、なのはさんが作った朝食がそこにあります。私は先に行きますので食べてから来て下さい」

 そう言ってスタスタと出て行ってしまった。

「えっ、はい。アリシアまた後でね。」
『う、うん…じゃあまた後で』

 何をしたいのか? 全くわからない。それでもヴィヴィオは急いで朝ご飯を食べて彼女を追いかけた。



「オリヴィエさん、お待たせしました…ってオットー? アリシア、チェントもおはよ~」
「陛下、おはようございます。」

 プレシアの研究所へと走ってやってきたヴィヴィオ。出迎えたのはオリヴィエとアリシア、チェントだけでなくオットーもいた。

「オットーどうしてここに?」
「わかりません、王女が僕に来て欲しいとカリムから聞いて…」

 どうしてオットーまでいるのか? ますます訳がわからない。

「では始めましょう。ヴィヴィオ、先の甲冑を纏ってください。オットーさん、先日の結界を周囲に作って貰えますか?」
「? 何をするつもりですか?」

 どうして騎士甲冑をという質問にオリヴィエは微笑んで答えた。

「何をって…決まっているじゃありませんか。手合いをするのです。私とヴィヴィオが」
「いっ!?!?」
「「!!」」

 その場でチェントだけが何が起こるのか判らず姉の顔を見ていた。



「いいのかな…ここでやっちゃって…」

 ここは聖王教会の管理区域。一応魔法使用の申請は送っておいたけれど…

「かまいません。私を倒すつもりで本気でかかってきてください。」

 バリアジャケット姿になる。その直後もの凄い威圧感がヴィヴィオを襲った。

「いつでも良いですよ」
(本気だ…)
「じゃあ…いきます。」

 構えた後、シューターを2つ作って放つ。直後ヴィヴィオ自身も飛び込む。拳は既に魔力を集めた状態。オリヴィエは先のシューターをその場で避けた。

(前と一緒だけどっ!!)

 今の拳はシューターの威力だけでは相殺出来ない。避けられたシューターはオリヴィエの背後を狙う。ヴィヴィオは正面から距離を詰める。
 だがシューターもヴィヴィオも彼女に触れることは出来なかった。

 オリヴィエとの間には虹色に輝く光の盾が遮っていた。

「聖王の…鎧…」

 チェントとの戦い、聖王同士の戦闘では現れなかったのに…
驚きの余り動きが止まってしまう。その隙を狙って腕をつかまれ数メートル投げ飛ばされた。

「本気でと言った筈です。聖王の鎧は聖王を守る鎧ではありません。自らを守る鎧です。同族相手だと生まれないとでも思っていましたか」

 ゴクリと唾を飲み込んで立ち上がる。

(今までで…1番強い…きっと全力のママ達よりも…)
「アリシア、チェントと一緒に離れてて。本気で行くから」
「動かなければそこに居て構いませんよ。遠くからではよく見えませんから」
「行くよ…RHd、威力調整忘れないで」

 鎧があるなら鎧を越える魔法を撃ち込めばいい。

「ハァアアッ!」

 インパクトキャノンを撃った直後再度飛び込む。狙いは彼女の直前に作られる鎧。
 だがオリヴィエは手を前に出しインパクトキャノンをそのまま反射させた様に撃ち返した。

「!!」

 慌てて拳の魔力を使って相殺する。周囲の空気を震わせる程の大きな音が響き渡る。

「魔法を跳ね返した…」
「砲撃魔法と魔力付加した打撃の相乗効果で鎧を壊す。良い方法です。私もあの威力は相殺しきれませんね。ヴィヴィオ、前言を撤回します。あの魔法を使われると2人を庇いきれないので放出系の魔法は控えてもらえますか」
「う、うん…」
「代わりに私も鎧は使いません。それと…もし私に1撃でも入れられたら願いを聞き入れましょう」
(帰る方法が見つかっても…ここに居て欲しいって願いでも?)

 せめて自分の答えが見つかるまで…そう思い立ち上がる。 

「まだ練習中だけど…」

 今の速度を捉えられてるからこのままやっても勝算はない。申請してないから後で怒られるかも知れないけど…全力でっ!

「RHd、いくよ…全力で」
【Master…yes,Armored module Startup】

 ヴィヴィオの体が再び虹色の光に包まれ、バリアジャケットが羽の様になって散る。そして新たなジャケット、騎士甲冑が現れヴィヴィオを包んだ。

「オリヴィエさん、もう1回行くよ」



「オリヴィエさん、もう1回いくよ」

 ヴィヴィオが騎士甲冑を着た。
 彼女がこの姿になったという事は全力で来ると言う証拠。オリヴィエは動かなければ大丈夫と言っていたけれどこんな間近で大丈夫か?
 チェントと繋ぐ手に力が入る。

「はい、何度でもどうぞ」

 ヴィヴィオが飛び込んできて前回りで勢いをつけてかかとを落とす。オリヴィエはそれを見切って左腕で受け方向を逸らせる。だがヴィヴィオもそれを読んでいたのか地に手が着くと反動を利用して体を捻る様にして横回転しそのまま足を払おうとする。
 しかしそれも少しジャンプして避けるオリヴィエ。

「そこだっ!」

 すかさずヴィヴィオが地に足をついて飛び上がり光った拳で殴ろうとした時

「遅いです」

 オリヴィエは鳩尾を蹴って数メートル吹っ飛ばした。

(こんなの…無茶苦茶だよ…)

 オリヴィエはヴィヴィオに対して自分から攻撃しようとしていない。ヴィヴィオのパンチやキックを防ぎ避けた後隙があれば容赦のないカウンターをしているのだ。
 何度も同じ様な攻防が繰り返されヴィヴィオは土まみれになっている。
一方的すぎる。思わず目を背ける。

「アリシアしっかり見ていてください。あなたは見た全てを伝える義務があります。姉として」
「ガアッ!!」

 ヴィヴィオの背中を回し蹴りで蹴り飛ばしたオリヴィエが強く言う。

「ヴィヴィオっ!!」

 駆け寄ろうとするとオリヴィエが手でそれを制した。その時

「あなた達でしたか…」
「事件かと急いで来たが…」

 騎士甲冑姿で空から降りてきたのはシグナムとシャッハだった。

「止めてください、ヴィヴィオがっ!!」

 2人はオリヴィエとヴィヴィオに何度か目を移す。

「はじめまして烈火の将。私を止めますか?」
「……いや、続けてくれ。シャマルに帰る前に寄る様言っておこう。」
「助かります。」

 2人のやりとりを聞いてシャッハも

「そうですね。私も拝見させて頂きましょう。」

 そう言って2人とも騎士甲冑を解除してしまった。

「そんな…」
「アリシア、元の場所に戻ってしっかり見てください。あなたには伝える義務があると言った筈です。ヴィヴィオも寝てないでそろそろ起きてください。それとももう終わりですか? あなたの意思はそんなものですか?」
(もう立たないで…)

 これ以上一方的にボロボロになっていく彼女をを見たくない。でも…そんな願いも叶わずヴィヴィオは立ち上がった。



「それとももう終わりですか? あなたの意思はそんなものですか?」
「…んな…そんな訳、ないでしょっ!」

 土を握りしめて立ち上がる。こんなに差があるなんて思ってなかった。

「ハアアアアッ!」

再び構えてオリヴィエに挑む



「シャッハ、シグナム、どうしたんだこんな時間に?」

 チンクがクライアントとの通話を終え、外が騒がしいのに気づいて出てきてみると変わった光景が広がっていた。ヴィヴィオとオリヴィエが模擬戦していてすぐ側でアリシアとチェントがそれを見ている。遠巻きにはオットーが結界を作り、その近くでシャッハとシグナムがヴィヴィオ達の模擬戦を見ている。

(これは、どういう状況だ?)

 近くにいたシグナムとシャッハに声をかける。

「地上本部で高魔力が検知されまして、発生場所が教会本部付近ということでシグナムから連絡を貰い一緒に来たのです。」
「ヴィヴィオが原因だったから私達の任務は済んでいる。外に被害が出ないようにオットーが結界を作っているし2人とも砲撃系を使っていないから問題ない。それに滅多に見られない物が目の前にあるのでな…」

 嬉しそうに言うシグナムの視線を追いかける。
 ヴィヴィオはかなり速い動きでオリヴィエを攻めている様に見えるが、全て見切られている。今度は隙が生まれた瞬間に腹に掌底を受けそのまま飛ばされた。

「ヴィヴィオ大丈夫なのか? アリシアとチェントも近すぎるんじゃないのか?」
「カウンターですが全て急所を避けています。何発も貰えばそれなりに堪えるでしょうが、後に引く怪我はしていないでしょう」
「2人も大丈夫だ。小石1つ飛んでいない。」

 ヴィヴィオの顔には余裕が無い、反面オリヴィエは何でも無い様な澄ました顔をしている。オリヴィエが余波を計算しているのだろう。
 それ程差があるのか…と少し驚く。
 更にシグナムもシャッハも気づいてる筈なのにヴィヴィオを助けようとしない。何を考えているのかと訝しげに思ったが

「ヴィヴィオ達は幸せ者だな…」
「そうですね…」 

 2人が洩らした言葉を聞いて納得する。

「医務室を開けておこう、それと…シャマルに連絡する。早めに帰って来て欲しいと」
「頼む」

 そう言い残しチンクは所内へと戻った。


~コメント~
もしオリヴィエがヴィヴィオ達の時間に来たら? 
オリヴィエの目的の一端が見えた回でした。
痛いのを書くときは書いている方も痛いです。イタタタ…

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