第03話 「交差する世界へ」

「ヴィヴィオ、心の中で魔導書に問いかけて下さい。『交差の軸になる時間はどこか?』と。その時見えたイメージが交差する原因となる世界です。」

 言われた通り刻の魔導書を持って目を瞑り心の中で問いかける。

『こことぶつかる時間はどこ? 交差の軸になる時間はどこ? お願い、教えて…』

 見えて来たのは砂漠、人影が3つある。
(あれは…私とシュテルとレヴィ…)
 リインフォースとマテリアル達が居た世界だろうか?

 次に見えたのはStヒルデ学院の教室。でも…どこか違う。
その理由がわかったのは映った3人の少女を見た時。
(私…じゃないヴィヴィオとリオとコロナ…)
 もう1人の私が居る世界。 

 再び光景が変わる。森の中でたき火を囲む3人…
(誰?…私知らないよ?)
 管理世界、管理外世界かどうかもわからない。

 その光景が見えた後真っ暗になってしまった。

「何か見えましたか?」
「3つの光景が見えました。1つは私とシュテルとレヴィ…闇の書のマテリアルと居た砂漠。次に学院の教室で、でもここじゃなくてコロナとリオが居ました。多分もう1人の私が居る世界。最後はたき火を囲んだ1人の男性と2人の女性がいました。でも…私、3人とも知りません。」
「3つ…ヴィヴィオが知らないという光景は置いておくとして2つ…どちらが軸なのかわかりませんね…行くしか」
「行くって…今からですか?」
「勿論です。3人を連れて」

 家を開けて出て来たのだ。凄く緊急事態なのは判るけれどこのまま行っちゃうと…
 なのはとフェイトの怒った顔が目に浮かぶ。

「少しだけ時間貰えないかしら。私達はフィールドが無いと消えてしまうわ。予備のもチャージして暫く動ける様に用意したいし、アリシアのペンダントもチャージする必要もあるわ。」
「どれ位で用意できますか?」
「30分」
「判りました。後でここに集まりましょう」



(何て話せばいいのかな…)

 ヴィヴィオは部屋の壁に背中を預けながらプレシアが端末を触っているのを眺めRHdを手に取り悩んでいた。2人のママに何て言えばいいか…

「何も言わずに行っちゃったら…絶対怒られるし、プレシアさん達とちょっと異世界へ行ってきます…なんてメッセージを残しても一緒だよね…」

 元々何も言わず飛び出して来ているし、ここに来て結構時間も経っている…

「言いづらいのでしたら私が代わりに話しましょうか?」
「えっ…でも…」

 ちょっとだけ惹かれる。でも彼女の口から話を聞いたら2人は悲しい顔をするだろう。どうして私から話してくれなかったの?って

「ううん、私から言います。」

そう言ってRHdからレイジングハートを呼び出した。

『ヴィヴィオ、こんな夜遅く何処にいるの? 凄く心配してたんだよ。フェイトちゃん、ヴィヴィオから』

 なのはの横からフェイトも顔を見せた。

「なのはママ、フェイトママ黙って出て来ちゃってごめんなさい。私…アリシア達と行かなきゃ行けない所があるの。行かなきゃ私のせいでみんなに迷惑かけちゃうから」
『行くって何処へ…まさか…またどうして?』
「別の世界。急がなきゃアリシア達が消えちゃう。帰って来たら全部話すから、ごめんなさい」

そう言って通信を切った。



『帰って来たら全部話すから、ごめんなさい』
「ヴィヴィオっ!!」

 話す間もなく通信が切れてしまった。

「なのは、姉さん達が消えるって…別の世界に…どうして?」
「わかんない。わかんないけど、今は研究所にいるみたい。行こう。」
「う、うん。車まわしてくる。」
「待って、私も一緒に」

 なのはとフェイトは部屋を飛び出した。

「準備出来たわ。アリシアのデバイスの魔力もチャージ。私達は指輪じゃなくて暫く持つブレスレットと予備の指輪とチャージ用のコア、アリシア。」
「ありがと。私も準備OK。っと…重っ」

 アリシアが持ってきたのはヴィヴィオが入りそうな大きなバッグだった。

「アリシア…それは何ですか?」
「何ってママと私とチェントの服とか…ヴィヴィオのは私ので大丈夫だよね♪ あとどっちに行くか知らないけどフェイトやレヴィ達とアインハルトさんにお土産。あと忘れちゃ行けないのは、おいで」
「ニャー」

 入って来たのはリニス。首輪に指輪がつけられている。

「「「…………」」」

ヴィヴィオとプレシア、オリヴィエは嬉しそうに話すアリシア。

「だって向こうに行ってもすぐに何かある訳じゃないでしょ? 前は何にも持って行かなかったから大変だったんだよね~」
「アリシア…私達旅行に行くわけじゃ…」
「アハハハハハッ」

 いきなりオリヴィエが笑いだした。静かでおしとやかな人と言うイメージとは正反対の笑い声に驚くヴィヴィオ。

「すみません。そうですねアリシアの言うとおりです。緊張し続けていればいざという時疲れてしまいますね。」
「クスッ。そうね…じゃあ私もあと1つ持って行こうかしら」

 そう言って部屋を出て行きすぐ持って帰って来た。手に持っているのは黒色のエプロン。胸の所に「翠」と書かれている。

「それって…」
「海鳴に行った時に貰ったのよ。チェントはいいの?」
「これっ♪」

 ウサギのぬいぐるみを抱いている。


「ヴィヴィオお願いします。」
「うん。」

 オリヴィエはここに残るつもりらしい。

(刻の魔導書、お願い。時間がぶつかる少し前に私達を連れて行って)

 願うと言葉が送り出される。それを紡ぐ。


 ― 旅の扉の集う地から ― 

  ― 隔たる目下の地へ ―

  ― 願うは遠き過去 ―

    ― 潮の鳴る地 ―

     ― 時は双葉芽生える季節 ―

      ― 願うは閉ざされし時の交差 ―


 虹色の光が4人と1匹を包み込み、その後折り重なる様に眠っていた。

「期待していますよ、ヴィヴィオ。さて…彼女達を何処に寝かせましょうか…」

 誰も居なくなった場所でふと考えるオリヴィエ。
どのボタンを押せばドアが開くのだろう?

「ここからどう出ればいいのでしょう?」

 勝手の判らない機器を触れられず、なのはとフェイトが駆けつけるまで何も出来なかった。



「っと、到着…ってわっ!?」

 降りた直後背中に重い物が降りてくる。そのまま受け身も取れずバタッと前に倒れてしまった。

「ヴィヴィオ…ゴメン、バッグぶつかっちゃった」
「ううん、アリシア、プレシアさん、チェントも大丈夫?」
「うん、私達は平気。こっちだとフィールド要らないみたい」

 アリシアの手を借りて立ち上がる。さっきまで動いていたブレスレットは待機状態に戻っている。連れてきたのは正解だったらしい。

「今はいつ頃かな? 前より暖かいけど…」

 どこかの路地裏。多分97管理外世界に来たと思うけれど自信がない

「春間近…というところかしら。アリシア」

 はーいと答えて走って行く。

「私もっ」

 彼女を追いかける。すると路地裏から道路に面した歩道に出た。どうやって調べるのだろう?

「海鳴なのは間違いないから…あとは…あった♪」

 そう言って再び駆け出す。

(お店?)

 そして店にあった紙を見て…

「今は3月の末だから…私達が帰ってから3ヶ月位経ったみたい。ママの所に戻ろう。」

 手を掴んで再び駆けだした。

(アリシア…消えるんじゃないかって怖かったのかな)

 ここではそんな感じは無いらしいから気を張らずにすむのだろう。

(絶対見つけなくちゃ…時間がぶつからない様にする方法)



一方で

「ヴィヴィオっ」
「母さん、姉さん、チェント」

 ヴィヴィオ達が行ってから暫く経った頃なのはとフェイトが駆け込んできた。

「待っていました。4人を何処かに寝かせて貰えませんか?」

1人残ったオリヴィエの姿を見て2人は立ち止まる。

「オリヴィエさんは一緒に行かなかったんですか?」
「私はここで仕度があります。彼女達をよろしくお願いします」

 そう言うとドアが閉まらぬ内に部屋を出た。 



「夜遅くすみません。騎士カリム」

 部屋に戻って休もうかとペンを置いた時、ドアがノックされる。鍵を開け出てみるとオリヴィエが立っていた。

「かまいませんよ。何か御用かしら」

 彼女を部屋に招き入れ角にあったティーセットを取りに行く。

「急いで探して貰いたい物があります。色は赤く大きさは手の平くらいの高魔力結晶体です」

 彼女の言った結晶体が何か思い当たる。

(ロストロギア…レリック…)
「魔力結晶体、何に使われるのでしょう?」
「今はまだ言えません。ですが近く必要になります。それと、ヴィヴィオとチェントを作り出した研究者と会いたいのですが」

 今度はティーポットを持つ手が止まる。
 レリックを何の目的で使おうとしているのか? スカリエッティに何を聞くつもりなのか? どちらにしてもカリム1人で答えは出せない。

「け、研究者ですか…そうですね。彼や結晶体についてははやての方が詳しいですよ。」
「ありがとう。今から行きます。申し訳ありませんが先程話した高魔力結晶体の捜索をお願いします」

 お茶を出す前に出ていってしまった。

「何かあったのかしら…」



「ただいま~今日も疲れたわ…」

 夜も更け日付が変わろうとした頃
 リビングのドアを開けてソファーにドカッと座ろうと思っていたら

「こんばんは、夜天の王」

 オリヴィエが座って待っていた。シャマルが駆け寄って来て耳元で囁く

「はやてちゃんおかえりなさい。何か頼みたい事があるそうです。はやてちゃんが帰ってくるの遅いですよと言ったんですけど、帰ってくるまで待つって」
(オリヴィエ聖王女が私に?)

 ヴィヴィオやチェントとの仲が気まずくなったから知恵を貸して欲しいとかだろうか? この時間に来るということは高町家に居られない状況になったから…
 そんなことを考えつつ

「王女少し待ってて貰えます? すぐに着替えてきますので」
「はい。」

 20分後ゆったりした服に着替えてソファーに越を下ろす。

「お待たせしました。ヴィヴィオかチェントとケンカでもしました?」
「いいえ、今日ここに来たのは騎士カリムからあなたが知っていると聞いたからです」
「カリムから? 何です?」

 何を聞いたのだろう?

「急いで探して貰いたい物があります。手の平程の大きさの赤い結晶体で中には魔力が凝縮されています。形はこのような…」

 紙に書かれた形を見てゴクリを息を呑み込んだ。

「レリック…」
「夜天の王、そのレリックを出来るだけ早く持ってきて貰えませんか? それとヴィヴィオとチェントを生み出した研究者にも会わせて欲しいのです。」
「…はい? ヴィヴィオ達を作った研究者って…スカリエッティにですか?」
「彼はスカリエッティと言うのですね。はい、騎士カリムがあなたが詳しいと言っていましたが本当でした。彼女に感謝です。」

 笑みを浮かべるオリヴィエ。そんな彼女とは対称に

(カリムーっ!! こっちに押しつけたな~っ!)

 はやては心の中でカリムを罵っていた。
 レリックの在処とスカリエッティの居場所は彼女も知っている。知っていてわざとこっちへ振ったのだ。

「王女、ヴィヴィオ達の事どの辺までご存じです? ゆりかごの話とか…」
「アリシアから少し聞きました。ヴィヴィオがゆりかごを動かす為に作られ、ヴィヴィオが暴走した時の安全装置としてチェントが作られた。ゆりかごが既に落とされているという位ですが」

 彼女が知っている位は聞いているらしい。

「その事件はこの世界を揺るがす程大きな事件で、首謀者スカリエッティは犯罪者として逮捕…拘束され、レリックも厳重に封印処理されました。」
「ですからその2つを実現しようとすると…事件の再発を恐れて大騒ぎになるんです。」
「……レリックを用意出来ないし、スカリエッティにも会えないのですね?」
「はい。特に王女はこの時間の人と違います。私達が信用していても管理局から見て信用出来ない者には渡せない、会わせられないって判断されるんです。私が代理でもレリック借りてスカリエッティに会おうとしたら…止められます。」

 JS事件が終わってから数年経った。しかし人々の記憶からは消えていない。

「ではどうすれば叶うでしょう?」
「そうですね~、力ずくで…遺失物管理課の司令を脅して頷かせて、スカリエッティの居る拘置所を壊せば手っ取り早いですね~」
「流石夜天の王、わかりました。」

 立ち上がって出て行こうとするオリヴィエを慌てて引き止める。

「冗談、冗談ですっ!」
「冗談ですか…」
(アカン…王女には冗談通じん…)

 ストライクスターズを断ち切る魔法とあらゆる攻撃を無効化できる聖王の鎧を持つ近接特化したベルカ騎士…彼女が1人で攻め入ったら拘置所どころか再び地上本部の壊滅もありえる。
 再びソファーに腰を下ろしたのを見てホッと息をつく。

「どうしてレリックが要るんです? それとスカリエッティに会いたいって…理由を教えて貰えませんか?」
「今は…本当は話すつもりありませんでしたが、仕方ありません。夜天の王、明日ヴィヴィオの能力を知りこの世界で権限のある者全員に集まって貰えませんか。その時に話します。」

 ヴィヴィオの能力、SSランクの魔導師ではない。時間移動能力者、即ち現在・未来に関わる事 何か事情があってレリックが必要で何かの情報が要る様になりスカリエッティに会おうとしている。
 ヴィヴィオがこの時間が関係するのであれば断る理由はない。

「わかりました。」

 と力強く頷き答えた。


~コメント~
 Asシリーズの話の根幹「時空転移」が起こしてしまった事件。
 今話から数話「ヴィヴィオの向かった時間」と「現在」が同時に進みます。
 ヴィヴィオの行った時間は…どこかわかりますね(笑)

 

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