第04話 「家族の食卓」

「違う世界の未来から来た…の…ね…」
「はい」
「モニタで見た雰囲気と少し違う…」
「…信じられない…」
「……」

 海鳴市に居ればいつかは見つかる。そうなる前にと考えたヴィヴィオは3人と1匹を連れハラオウン家を訪れた。
 ヴィヴィオ達を出迎えたのはリンディ・クロノ・エイミィの3人だった。
 幸か不幸かフェイトはまだ学校に行っていてレヴィとアルフも散歩で出かけているらしい。
「本当にプレシア・テスタロッサ…なのか」
「まだ疑ってるのクロノ? 私、アリシアがここに居るのが証拠だってさっきから言ってるじゃない。オバケじゃ無いって証拠見せようか?」

 立ち上がって自分のスカートをガバッとめくろうとするアリシアに慌てるクロノ。
 
「いや…すまない。余りに気が動転していて理解が追いついてないんだ…プレシアの事もそうだがヴィヴィオが時間移動出来るなんて…」

 気持ちはわからないでもなかった。
 ヴィヴィオとアリシア、チェントだけなら3ヶ月前にも来ているから平静を保てただろう。しかし彼女達にとってプレシアは9ヶ月前のジュエルシード事件で虚数空間に呑まれ死亡したという認識。そんな彼女が一緒に来たら…

(それで「オバケェエエエエッ!」だったんだ…)

 ドアを開けた時にエイミィがあげた悲鳴がそれを物語っていた。

(気絶しないだけ良かったって思わなくちゃダメなのかな?)

そんなことを思いながら話を切り出す。

「リンディさん、エイミィさん、クロノ、前の事件から今まで何か変な事起きてませんか?」
「変な事? 今目の前で起きててすっごく驚いてる」

 エイミィの言葉にリンディとクロノがウンウンと頷く。

「そうじゃなくて冬から私達が来る前までで」
「レヴィちゃんが色々騒ぎを起こしてるけれど? あ~でもアレは日常茶飯事か…」
「そうだな…君達が帰ってからここで何も起きていないが…」
「いたって平和なものよ。でもあなた達が来たと言う事は…何か起こるのね」

 リンディに頷いて答える。

「はい…私の時間ではもう起きちゃってて、プレシアさんとアリシアが消えそうになっちゃったんです。多分リニスも同じだったと思ってます。」

 そう言うとRHdから刻の魔導書を取り出す。

「これを使って時間移動、私達は時空転移って呼んでてアリシア達が消える原因の世界に行きたいって願ったらここに…」

 3人の様子を見て本当に何も起きていないらしい。

「ね、言ったでしょ。来ても何か起きてる訳じゃないって。ねぇエイミィさん、フェイトいつ帰ってきます?」
「今日はなのはちゃん家で遊んでから帰るって言ってたから夕食前には帰るんじゃないかな。」
「そうなんだ…ヴィヴィオ、チェント、なのはさん…ややこしいからこっちはなのはでいいや、なのはの家に行かない?」
「えっ、でも…」

 何が起こるかどうすればいいのかも何もわからない。

「私はここにいるわ。何かあれば連絡するからいってらっしゃい」
「行こう♪」
「う、うん…」

 ヴィヴィオは手を引っ張られて部屋から出て行った。



 ドアがガチャンと音を立てた後、1人残ったプレシアに3人の視線は集中した。

「先に言わせて貰っていいかしら。聞きたい事は沢山ある筈、答えても構わないけれど今から起きている事は私も知らない。あと未来に関係する事は話せない。それと…これは事件が解決して私達が帰る時、別れる時にだけれど私達の記憶は消させて貰う。リンディ…さん、あなたは理由はわかるわね」
「…ええ、リンディでいいわよ。聞きたい…というよりこれはお願いね。今夜夕食を一緒にどうかしら」

 微笑みを崩さないリンディ。
 それは即ちフェイトと会って欲しいと言うこと。
ここの彼女はまだ…

「リンディ、もうフェイトに話してるわよね? 家族になりませんかって」

 ここのフェイトはやがてハラオウン家の一員になる。でも彼女がプレシアが居るのを知ればテスタロッサの名前をそのまま残そうと考えるかも知れない。
 フェイトと会う事そのものが未来に影響を及ぼすのではと考える。
 特定の記憶だけを消す準備はしてきた。しかし彼女の心の奥深くには間違いなくプレシアとアリシアがいる。
 深層心理まで消せるのか?

「ええ言ったわ。私はフェイトさんが望むなら家族にならなくても、テスタロッサのままでも良いと思ってる。家族として一緒に居たいだけ。今のあなたにはわかるわよねこの気持ち。」
「ええ…」
「フェイト・テスタロッサ・ハラオウン…良い名前だと思わない?」
「そうね。」

 フェイトの心に傷があろうが、プレシア達の記憶があろうが構わない。それを包み込むのがリンディ・ハラオウンの家族に対する想い。

「じゃあ、エイミィこのマンションの空き室があれば借りて来て貰える。そうね~近く…同じ階があれば良いわね」
「…あっ! わっかりました。折角だからクロノ君一緒に行こうか」
「えっ、どうして僕が」
「いいからいいから、か弱い女の子のボディガードって事で」
「か弱いって、引っ張ってるのはか弱いに入らないのか?」
「細かいことは気にしない~♪ 後で何か奢ってあげるからっ」

 バタンと再びドアが閉まる音が聞こえ静かになる。

「ゆっくり話してみたいと思っていたの。お茶のおかわりいかがかしら?」
「ありがとう。頂くわ」

 彼女の優しさ・器の大きさを感じる。彼女が母になってくれたからフェイトは真っ直ぐ育ったのだと。



「で、それでね…」

 リンディとプレシアが2人談笑していた頃、高町家にあるリビングでもなのはとフェイト、アリサとすずかが集まっておしゃべりしていた。その時チャイムが鳴る。

【ピンポーン】
「誰かな? は~い」

 なのはが出て行く。

「えぇぇぇええええええっ!!」

 直後叫び声が響き渡った。
 
「なのはっ」
「なのはちゃん!」
「何今の悲鳴」

 慌てて3人が玄関へ向かうと

「ヴィヴィオっ!、久しぶり~♪」

 ヴィヴィオに抱きついたなのはが居た。そしてその横で

「フェイト、アリサさん、すずかさんこんにちは~」
「こんにちは~」

 アリシアとチェントが居たのだ。

「アリシア!!」
「フェイトのお姉さん!?」
「チェントちゃん♪ こんにちは」

 驚くフェイトとアリサ、すずかだけが落ち着いてチェントの頭を撫でている。

「3人とも上がって上がって♪。お母さん達はまだお店なの。ヴィヴィオまた暫くこっちにいるんでしょ?」
「うん…多分…」
「じゃあまたうちに居ようよ。みんなすっごく喜ぶから。」
「うん…あとで聞いてみる。」
「アリシアとチェントもまた家に来るんだよね?」
「多分…あ、でも…後にならないとわかんないかも…」

 何故か2人とも言葉を濁している。何かあるのだろうか?

「それにしてもよっ、居なくなる時はパッと消えちゃって来る時は突然、お祝いしたいのに出来ないじゃない!」
「ごめんねアリサ。本当に急だったから連絡出来なかったんだ。」
「ヴィヴィオちゃんアリサちゃんは怒ってるんじゃなくて照れてるだけだから」
「すずか~っ!!」

 笑顔のなのは、アリサ、すずかと比べてフェイトは

(ヴィヴィオ達が来たの…何か事件が起こるから?)

 ジュエルシード事件、闇の書事件、闇の欠片事件いずれもヴィヴィオは事件の少し前にやってきて解決した後帰っている。
 胸に何かモヤモヤした不安が残っていた。 



「ただいま戻りました。艦長、部屋を借りてきました。」

 1時間程経ってからエイミィとクロノが戻って来た。クロノが何故か酷く疲れた様に見える。

「お帰りなさい。良い部屋あったかしら?」
「それはもう、お隣です。去年私達が来たのとすれ違いで引っ越しちゃっててそれから誰も居なかったそうです。長期で借りてくれるなら2部屋繋げてもいいしリフォーム費用も少し出すって言ってくれて…事務手続きは全部済ませてきました。鍵もこの通り」

 凄く手際がいい。

「酷く疲れている様だけど…大丈夫?」

 プレシアが帰ってからソファーに座って無言なクロノに声をかける。

「大丈夫です…勢いに呑まれただけですから…」
「弱いな~クロノ君。こんなんじゃ不動産屋さんじゃないけど将来奥さんにも尻にしかれちゃうよ」
「エイミィ…不動産屋の担当が僕達の新居だと勘違いしたみたいで、色々あったんです。それをエイミィが乗って色々言っちゃって…まったく」

 何となく想像がついた。

「それも良いんじゃないかしら? まぁ~それに~将来の事は2人が決めればいいのだけど」

 言い返す気力が既にないクロノは何も言わなかったが、エイミィは顔を真っ赤にしていた。

(そういう事…ここの未来も同じなのね)

こちらにもなかなかに複雑な事情があるようだ。

「じゃあ、そろそろ夕食の準備にかかりましょうか。クロノ、隣に荷物を転送してくれる? 事件時にアレックス達が使っていた家具、格納庫にあったわよね」
「わかりました。エイミィ手伝ってくれ。僕じゃ配置がわからない。」
「は~い、でも食事…」
「私が手伝うわ。」
「え、でもお客様に…あ! お願いします。」

 遠慮するエイミィ。しかし次の瞬間、プレシアが見せたエプロンを見て頭をさげた。



「アリサ、すずかまた明日。」
「またね~♪」

 なのはの家でヴィヴィオと別れ、アリサの家の車でマンションの前まで送って貰った。

「バイバイ~」

 手を振り部屋マンションの中に入ろうとしたところ

「あっ、オリジナルのオリジナル!!」
「フェイト~…とアリシアっ!?」

 レヴィとアルフと鉢合わせした。

「オリジナルのオリジナルって…まぁいいや。レヴィ、アイス買ってあげるからちょっとだけ私に付き合わない? チェントも一緒に行こう。甘くて冷たくて美味しいよ~」
「アイスっ!? 行く行く~♪」 
「うん♪」
「じゃあ私も…」
「ダ~メッ、フェイトとアルフは先に帰ってて。そんなに時間かからないから」

 そう言ってチェントの手を取って商店街へと向かう。

(フェイト、アルフ…いっぱい泣いちゃっていいからね…)



「アリシア…どうして私とアルフだけ…」

 何を考えているのかわからない。

「フェイト、すぐ帰ってくるって言ってたんだから、先に帰ろ」
「そうだね。」

 数分後にそんな疑問も吹き飛んでしまう事が待っているとは思いもしなかった。



「ただいま。…? お客様?」

 靴を脱いで上がろうとした時、見慣れぬ靴を見つける。パタパタとスリッパの音が聞こえる。

「遅くなってごめんなさい、リンデ……」

 直後凍り付く様に固まってしまった。

「……お…おかえりなさい。フェイト、アルフ…」
「か…あ…さん?」

 目の前に居たのはプレシア。虚数空間で消えた筈…  

「フェイト離れてっ! よりにもよって私達の前でこんな変身するなんてっ。何者だいっ!!」

 子犬フォームから一気に人型に変わったアルフは呆然と立ち尽くしたフェイトの前に割り入る。 

「落ち着けアルフ、彼女はプレシア・テスタロッサ本人だ。最も僕達の時間のプレシアではなくアリシア達の母のプレシアだが…」
「えっ、じゃあ…」
「本当の…母さん…」
「フェイト」

 プレシアの優しい顔が記憶の中にある彼女と重なる。

「ただいま…母さん…アレ…どうして私…泣いて? アレっ」

 ずっと見たかった優しい顔が目の前にあるのにその形は歪んで見えなくなってしまった。
 目を擦っていると抱き寄せられる。
 彼女の暖かさが伝わって来て目の前が何も見えなくなっていた。

(私の…母さんの暖かさだ…)

 抱きしめたプレシアの背に手を回すフェイトだった。



「ただいま~、ってこっちでいいのかな?」

 20分後、アリシアがチェントとレヴィを連れて帰ってきた。

「アリシア、おかえり。」

 フェイトが3人を出迎える。彼女の瞼が少し赤くなっている

「…良かったね、フェイト」
「えっ?」

 フェイトの頭をサッと撫で

「ママ~私も手伝う~」

 良い香りのするキッチンへと走って行った。


~コメント~
 フェイトにとってプレシアという存在は特別です。そしてAsシリーズの様にプレシアとアリシアが一緒に居たら、プレシアにとってフェイトという存在も特別なのではないでしょうか?
 今話では時間を越えた時にある出会いが幾つかあります。その中でもやっぱり特別なのかなと筆を進めている中で思いました。

 さて、ここで告知をさせて頂きます。SS本第5弾ですが脱稿しました。今は静奈さんがイラストや挿絵を準備して下さっているので、もう少しお待ち下さい。
 今回は拍手で多く頂きましたAgainStory2~闇の欠片編~・AdmixingStory・短編集を1冊にまとめたものになります。
 
 

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