第05話 「夜天の策略」

オリヴィエが来た時既に日は変わっていた為はやては彼女を家に泊めた。そして翌朝なのはとフェイトに連絡を取った。
 既にヴィヴィオは何処かの世界に行った後であり、何かが起きていてアリシアやプレシア、チェント、リニスまで連れて行ってしまったのを知った。

 そして…

「はやてさん…考えたわね」
「全く…何故こんな手の込んだ方法を使ったんだ?」
「この方法なら盗聴もされないでしょうけど…」
「すみません。でもカリムは怒る権利ないよ。こんな大変な役私に押しつけたんやから」
「……ごめんなさい」

 はやてが取った方法はかなり強引な方法だった。
 レイジングハート・バルディッシュ・夜天の書の直接通信機能を使い管理局・地上本部・聖王教会を結んだのだ。
 フェイトには本局に行って統括官のリンディと地上本部との仲介役が多いクロノを同席させ、なのはには聖王教会でカリムの執務室へ行く。はやてはオリヴィエを連れ108部隊の部隊長ゲンヤの下を訪れた。
 そして昼食時間になった時それぞれのデバイスと繋いだ。

「オィオィ、俺の数少ない楽しみを奪う気かよ」
「すみません、師匠の分はちゃんと弁当作ってきましたから後で一緒に食べましょう。わざわざ朝早く起きて作ったんですよ」

 大きな包みを机の上に置く。

「はやて、こうまでして秘密にしなければならない話とは何なんだ」

 どうやって呼び出したのかは判らないがクロノは相当不機嫌らしい。

「クロノ君ごめんな。教会と地上本部と本局の責任者に聞いて貰いたい話があるんです。王女どうぞ」
「王女?」
「ありがとう、夜…八神はやてさん。挨拶したいところですが急いでいるので省かせて貰います。私はベルカ聖王家のオリヴィエ・ぜーゲブレヒト、ヴィヴィオとチェントのオリジナルです。」

 リンディ・クロノ・ゲンヤが驚いている。
 いきなり正体明かすかと突っ込みつつそのまま聞くことにする。

「この時間…いいえ、ここを含め並行したいくつかの時間軸に危機が迫っています。近い未来、この時間は消滅します。」
「……………消滅?」

 何を言われても驚かないようにと先に覚悟を決めていたはやてだったが、彼女の言葉はそれを簡単に吹き飛ばした。

「ベルカ聖王家には時間移動魔法が使える資質を持った者が希に生まれます。私はその1人でヴィヴィオ達もその資質を継いでおり既に何度も過去へと行っています。本来進むべき未来がある時間に私達が行けば分岐し新たな未来が生まれ進むべきだった時間と並行して進みます。今はその様にして生まれた世界が幾つもあります。」
「これらの時間は交わる事がありません。しかし今何かの原因で交差・ぶつかろうとしています。既に兆候は顕れプレシアとアリシアが巻き込まれています。ヴィヴィオは彼女達を連れ原因を調べに向かっています。」
「オリヴィエ、王女でいいですか、話はわかりました。突拍子もない話であり王女の素性や時間移動についても聞きたい事はありますが、ヴィヴィオが行ってしまった後では我々には手出し出来ないのではありませんか? 私達には時間移動魔法もその資質も持っていないのですから。」

 クロノの返答にはやても頷く。一緒に行くならともかく先に別の時間に行かれては助けようもない。

「ヴィヴィオは必ず戻って来ます。その時迄に見つけなければなりません。彼女に合う、融合可能なレリックを」

 上手く言葉が出ず唾を飲み込む。
 彼女がスカリエッティに会わせて欲しいと言っていた理由がわかった。
 ヴィヴィオがゆりかごを動かした時に使ったレリックを探しているのだ。レリックとヴィヴィオの関係を知っているのは彼だ。

「オリヴィエさん、まさか…ヴィヴィオにレリックを使わせるつもりなんですか。融合させられてあんなに苦しがっていたのをまた…」

 なのはは唯一ゆりかごでレリックを取り込んだヴィヴィオを見ている。だからまた同じ様な体験をさせたくないのだろう。どんな辛さかはわからない、でも闇の書の浸食と同じなら…当時の痛みを思い出す。
 
「今はまだわかりません。ですが必要になった時に手元に無ければ意味はありません。」
「なぁ王女さん。年食った俺の頭じゃ被害の規模が想像も出来ないんだが、そもそもその事件が起きて未来が消えるって証拠はあるのかい? 兆候が出た2人…原因の証拠と言われてもな…」
「そうね~何か決定的な物があれば…相応の対応も出来るのだけれど…」

 ゲンヤとリンディが口を揃えて聞く。

「形で見える物はありませんが…私が今ここに立っているのが証拠です。私は時間移動が困難な遠い未来や過去を見る力があります。ですがこの先の未来は何度使っても見られませんでした。即ち、この時間には未来は無い」

 その答えに聞いていた全員が息を呑む。

「私を疑い何もせずに時を迎えようと思われるなら最早何も言いません。私は戻ります。ヴィヴィオが戻ってくる迄はまだ少し考える時間があるでしょう、皆さんに判断を託します。」
「ですが、私は皆さんとここの私達が平和な時が続いて欲しいと思っています。」

 そう言い残しちらりとはやての方を見てから部屋から出て行ってしまった。



 オリヴィエが出て行ってから暫く誰も口を開こうとしなかった。そんな空気の中でゲンヤが頭をかきながら言った。

「気を悪くさせちまったかな…」
「言いたい事は全部言い終わったから後は私らに任せるって事でしょう。時間移動魔法とか方法については私となのはちゃん、フェイトちゃんが保証します。今は王女が言った未曾有の危機に対してどうするかって事を話しませんか。さしあたってはレリックとスカリエッティについて」
「全く…とんでもねぇ問題に足を突っ込んじまった…時間移動魔法…公表したら大騒動だな」
「同感です。テスタロッサ親子の件は後で提督とフェイトに話を聞くとして、その魔法については私達の中で止めた方が良い、過去を変えたいと思わない者は居ない。はやて、君がこんな方法を取った理由も理解した。」
「ありがとな」

 ゲンヤが呻く様に呟き、クロノも一瞬リンディとフェイトの方を見て言う。
 2人はヴィヴィオの能力については初めて知る。特にクロノとってプレシア・アリシアがまさか生きているのは驚きであり、その事をずっと隠し続けてきた彼の母と妹にひと言言いたい気分だろう。
 表情を見る限りリンディは話すつもりが無いらしいが…

「ええ、そのうち。はやてさんレリックは全部で幾つ見つかっているのかしら?」
「スカリエッティの使っていた施設から34個のレリックが回収されました。私達が発見したのは8個、その内4つを回収、3つは発見前後に爆発、1つは破壊されましたが破壊された後の欠片はヴィヴィオとアリシアのデバイスに入っています。」

 リンディの質問にはやてが機動6課時代に作った資料を見せる。

「スカリエッティは聖王のゆりかごを動かす為の起動キーとしてヴィヴィオを作りました。レリックも切り札のゆりかごを安定稼働させる為に集めていた筈ですから1番合う、適合する物をヴィヴィオに使ったと思うんです。」

 JS事件当時聖王のゆりかごが軌道上に上がっていたら、2つの月の下、ミッド全域が攻撃可能になってしまいミッドチルダに住む全員を人質に取られた管理局は撤退するしかなかった。
 切り札は確実に使えてこそ効果を発揮する。

「はやては管理局で保管、スカリエッティが持っていて失われた物も含めたレリックの中にヴィヴィオに適合する物があったとしても今はもう無いと考えてるのね。」
「そうです。理由は幾つかありますけど1番の理由はヴィヴィオとヴィヴィオのデバイスRHdの相性です。ランクSSの集束砲の広域放射や魔導制御、私が私のリンカーコアの1部を持ったリインフォースとユニゾンしても魔力はともかくあれだけの魔法を使いこなせません。」
「仮に王女の頼みを受け入れても実現不可能と言う事か…適合するレリックを探すためにスカリエッティと面会出来ても探しているレリックは既に破壊され欠片をヴィヴィオが持っていると…王女が納得すればいいが…」
「「「……」」」

 再び黙ってしまうクロノとリンディとカリム。なのはとフェイトも黙ってしまった。

 だがしかし

「なぁそろそろ本題に入ろうや、飯を食う時間が無くなっちまう。今までの話は既に終わってる話だろう。そうじゃなけりゃわざわざ3年前の資料がポンと出て来る訳がねえ。」

 ニヤリと笑みを浮かべてゲンヤが言った。

「師匠にはバレてましたか。」

 今まで真剣だった表情が崩れ、ペロリと舌をだす。
 ゲンヤに指摘された通りはやてには既にある考えがあった。

「レリックの件ですがまず師匠とカリムには王女と一緒に軌道拘置所に行ってスカリエッティと面会して貰います。2人ともチンク達やセイン達の保護者責任者ですから許可も簡単に下りるでしょう。王女が教会騎士の格好で行けば護衛という名目もたちます。」

 ゲンヤとカリムが頷く。

「そこで王女がスカリエッティからレリックの情報を貰ってユーノ君にリンディ提督経由でそのレリックの持ち出し申請をして貰います。ユーノ君は無限書庫司書長という肩書きと遺跡発掘でも有名です。更に管理局にはジュエルシードの紛失したという負い目もありますからこっちも許可は簡単に下りるでしょう。」

 リンディ、クロノ、なのはとフェイトも頷く。

「でもさっき話した様にレリックが既に失われている可能性もあります。その場合は失われた時間より前…さらに私達かスカリエッティが見つけた時間を聞き出してヴィヴィオに取りに行って貰います。使い終わったら同じ時間の同じ場所に戻します。そうしたら新しい時間軸も生まれません。」

 昔、海鳴の図書館で読んだ本の中に似た話があったのを思い出した。

「時間移動魔法を逆に利用した方法か…考えたな。騎士カリム、ナカジマ3佐、リンディ提督を呼び出した理由は判った。僕を巻き込んだ理由は何だ?」

 今度ははやてがニヤリと笑みを浮かべる。

「次元航行部隊からちょっとこっちに回して欲しい人と物があってな、私じゃ許可が下りひん♪」

 5人が首を傾げる中でゲンヤだけがソレ気づいたらしく

「ヤレヤレ…とんだ狸に化けたもんだ」

 椅子の背に体を預けながら言った。


~コメント~
 子狸娘の昇格的な話です。
 Asシリーズの根本、オリジナル魔法な時空転移、説明回が出来ない様にしたかったのですが…ゲンヤとクロノを巻き込んだ時点でこうなってしまいました。無念

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