第09話 「もがれた翼」

「戻っちゃったんだ…ヴィヴィオ。」

 プレシアからヴィヴィオが元の世界へ戻ったのを聞いてアリシアは呟いた。
 シュテル・ディアーチェ・レヴィが立て続けに消え、未知のエネルギーを使う姉妹が現れたのと併せるかの様に再び現れた。
 それもヴィヴィオとはやてが壊したデバイスと魔導書を持って。
 ここまで何か起きれば揃えば大きな事件の前兆とも思えるし、プレシアがヴィヴィオに言った通り闇の欠片事件の記憶から作られたヴィヴィオ達の思念体が現れたらもっと大変な事になる。
 オリヴィエと応援をと言っていたからヴィヴィオはオリヴィエやフェイト達を連れて戻ってくるだろう。
「リンディ、クロノ、エイミィには話したわ。フェイト達にはアリシアから話して貰えるかしら?」
「うんちょっと用事出来たから戻ってる。すぐに帰ってくるよって言うね」
「それでいいわ、お願い」
「じゃあ…私がシュテルとヴィヴィオの代わりに翠屋のお手伝いする。チェント、ママ達のお仕事お手伝いしようか」
「は~い♪」

 屈託無く微笑む妹にアリシアも微笑みで答える。
 この時間のフェイト達を不安がらせず、ヴィヴィオが帰ってくるのを待つ。

(今私が出来るのはこれだけだから…ヴィヴィオ…早く帰ってきて…) 

 だがその頃、既に事態は彼女の想像を超えて進んでいた。



「あ~やっと見つけた。ディアーチェ手間かけさせたらあかんよ。」
「フン、子鴉貴様か。何の用だ?」

 はやては海鳴市から少し離れた海上でディアーチェを見つけた。

「何の用も何も迎えに来たに決まってるよ。それに迷惑かけることしたらあかんってゆーたやろ。さっきもまた揺れてたし何してるん? 家でみんな待ってるよ、さぁ帰ろ」
「離せっ! 子鴉の家になぞ我が行くか。それに答える義理はない。我は王ぞ、成すべき事を成すのみよ。」

 歩く練習にも付き合ってくれたのに、どうも彼女の様子がおかしい。彼女達が探していた『砕け得ぬ闇』が関係しているのか?

「砕け得ぬ闇探しやっけ? 周りに迷惑かけるような事でないんなら私も手伝うから。なっ一緒に帰ろ」
「煩わしいわ無礼者めっ、我らが砕け得ぬ闇を入手した後我が何をするか知らぬであろう。無限の力、砕け得ぬ闇を手に入れて我は真の王となるのよ。何事にも縛られず、いかなる事にも害されぬ強き王に」
「ディアーチェ…」
「闇の書の中でしか自由のなかった我らマテリアルの苦渋の日々もこれまでよ。」
(そうなんか…そこまで…)

申し訳ない気持ちになりディアーチェを抱き寄せる。

「ごめんな…そんなに窮屈やったんやな…今度からちゃんと毎日おやつ買っとくから…」
「ええいっ誰が菓子の話をしたっ! 違うわど阿呆! 離せっ!!」

 暴れてはやての腕をはがす。どうも違っていたらしい。

「ちゃうのん? じゃあもっと自由時間あったら帰ってきてくれるん?」
「我が何故子鴉の家に行かねばならんのだ。それに情けにすがって恵んで貰った自由など自由と呼べぬ。籠の中なぞ誰が喜ぶか!!」

 何となくわかる。
 闇の書によって足の自由を奪われて車椅子は足代わりだった。自由に移動出来ないという障害を車椅子は取り除いてくれていたが逆に車椅子がなければ何も出来ないという籠の中だったとも言える。
 ディアーチェと契約してこれから自由やと言っていたのに決まり事とか色々言って籠に閉じ込めたのははやてではないか…

「ディアーチェ…ごめんな、そんなに辛かったんやな。じゃあ一緒に探そ。みんなが誰にも縛られず幸せになる方法ある筈やから」
「夢物語よ…いずれにせよ時は満ちた。そこの桃色、準備はいいか」

「はぁ~い♪ 強制起動システム始動。リンクユニットフル稼働」
「!?」

 声のした方を振り返るとそこにはキリエが居た。

(何か起動させた? まずい…何か起こる…悪い予感しかせぇへん…)
「さぁ蘇れ、忌まわしき無限連環機構、システムU-D、砕け得ぬ闇よっ!」

 はやての中…心の奥底に残っている闇の書が危険を告げている。
【ここから離れろと】

「やばい…ディアーチェ、キリエさん。ここから離れんと巻き込まれる!」
『我が主、急ぎ避難を。強力な魔力が集まっています。』
「リインフォース…アカンっ!? 来たらアカン!」

 
【システム起動―無限連環機構動作開始】

【システム『アンブレイカブルダーク』正常稼働】

 ディアーチェの持っていた紫天の書から現れたのは小さな少女

「お…おおお?」
「はい?」

 ディアーチェとキリエは呆気に取られている。だが

(この子…なんちゅう魔力の塊や。でも、悪そうにも見えへん。砕け得ぬ闇やから…ヤミちゃん?)
【視界内に夜天の書を確認、防衛プログラム破損。保有者認証…困難】
「あ、あの…こんにちは。現在の夜天の主、八神はやてです」
『はやてちゃん、急いでそこから離れて、その子とんでもない魔力を持ってる。』

 自己紹介をして彼女が一体何者なのかを聞こうとした時、エイミィから通信が入る。

「え…でも…まだ悪い子かどうかわかりませんよ。ちゃんと話して…」
【状況不安定…駆体の安全確保の為、周辺の危険因子を…排除します。】
「排除…って、ちょっと待って!」



「4人を強制転送。このままでは彼女達が危ないわっ!」

 アースラで見ていたリンディは叫ぶ。

「はやてちゃん、今からこっちに転送…エラー!? 範囲限定の結界魔法で空間が固定されています。転送できません!!」

 空間固定系の結界魔法、魔法そのものは知っているがプログラムが複雑で使用魔力も桁違いだ。だから使える魔導師も限られるしその者達でも相応の設備と時間を要する。
 だが、はやての居る場所でそんな兆候は無かった。
…まさかあの少女が一瞬で…

「!?、はやてさん急いで離れて」
「はやてちゃん、急いでそこから離れて、その子とんでもない魔力を持ってる。」
『え…でも…まだ悪い子かどうかわかりませんよ。ちゃんと話して…』
【状況不安定…駆体の安全確保の為、周辺の危険因子を…排除します。】
『排除…って、ちょっと待って』

 直後はやて達に向けられたセンサーから映像は消え砂嵐になった。

「無属性の広域魔法発動、はやてちゃんっ!!応答してっ!!」

 アースラの遠隔モニタが魔力量を無慈悲に表示する。
 その量は明らかにはやてが防ぐことの出来る魔力量を越えていた。呆然とモニタを見つめるリンディ。だがそこに

「高魔力反応こちらに接近。砲撃魔法です!!」
「!? アースラ、下方に最大出力でシールド展開。全員対衝撃防御」

 叫びとも取れる声が艦橋に響いた直後、アースラに砲撃され船体が大きく揺れる。

「ウァアアアアアッ!!」
「キャアアアッ!!」
(ここまでなんてっ…)

 艦長席にしがみつくように体を支えながら歯ぎしりをする。
数秒後、揺れが収まったのを見て…

「みんな無事?…エイミィ、被害報告を…」
「アイタタタ……うそ…右舷艦首消失…シールド展開システム停止、姿勢制御…」

 額を抑えて報告しようとした時、

「下方の魔力量増大。第2射来ます。」
「次元空間へ退避、急いでっ」
「りょ、了解っ!」

 少女1人に船体を破壊されたとは信じられないがこのままここに居ては墜ちてしまう。リンディは咄嗟に判断して次元空間へと転移したのは2射目で左舷艦首を失った直後だった。



「ママっ、アースラがっ!」

 アースラからはやてがディアーチェを見つけたと言う知らせを聞いてデバイスとの通信を続けていたアリシアは状況を知る。

「…大丈夫…次元空間へ逃げたわ。アリシア、フェイト達にはやてさんの救助を頼んで頂戴。その間私の方にあの子を引きつけるわ。桃子さん、士郎さん…少し席外すわね」
「でも、そんなのママが」

 相手はアースラのシールドを1撃で抜く。その魔力はアリシアが見た中でも桁が違う。プレシアが行けば返り討ちにあってしまう。

「私も行く。フェイトとなのはに通信送った後なら良いよね。魔法は使えなくてもママの作ってくれたデバイスでママを守れる」
「アリシア…わかったわ。一緒に行きましょう」



一方

「ハァ~ビックリした。まさか小さいママ達に会うなんて思ってなかったです。」
「…(コクコク頷いている)」
「本当に…小さなユーノ司書長…少し可愛かったです。ティオも驚いてます」
「ニャ~」

 市内のビル影に隠れた2人の少女がホッと息をついていた。

「整理しましょう、アインハルトさん。リオとコロナと別れて練習場へ向かう最中光に包まれて…」「気がついたらヴィヴィオさんと私が空から落ちていました。そこに小さななのはさんとゆーの司書長が現れて、私達は逃げてきました」 
「そうですね…全然整理できな~いっ!」

 ヴィヴィオは頭を抱えながら叫ぶ。

「ここは数年…10数年前、なのはさん達が小さな頃の時間ではないでしょうか? 異世界のヴィヴィオさんが『時空転移で何度も過去に行った』と話されていました。」

 もう1人のヴィヴィオの世界。ヴィヴィオにとっては1晩だけの出来事だったがアインハルト達にとっては2週間近い時間が流れていたと聞いた。

「ヴィヴィオの…時空転移ですか…だったらここにもヴィヴィオがいるんでしょうか?」
「わかりません。でも…はやく帰る方法みつけないと本戦が始まってしまいます。」
「ああーっ!!急いで帰らなきゃ。クリス何かわかんない?」

 ヴィヴィオの慌てふためく様子を見て自分がしっかりしないとという気持ちと、もう1人のヴィヴィオはこんな経験を何度もしていたのかという寂しさがアインハルトの心の中で混じっていた。

(それにしても…ユーノ司書長がおっしゃったはやてさんが…というのは何だったのでしょうか…)

 何か通信を受けた直後彼の様子が変わり、結果逃げられたのだけれど…あの狼狽ぶりは何かあったのではないか…何故か気になっていた。



「なのは、はやて達はっ!?」

 住宅街にある1戸建ての家の庭に金髪の少女が降りてきてそのまま家の中に入る。

「うん…リインフォースさんがギリギリ間に合ったって。でも2人とも酷い怪我で…シャマルさんが治してくれて今は落ち着いて眠ってる…フェイトちゃん、アースラは?」
「アルフが行ってくれた。何とか本局には戻れたみたい。みんな怪我してるけど無事だって。でも…アースラは…それとね…姉さんや母さんと連絡取れないんだ…どこに居るかなのは知らない?」
「ううん、一緒に今から探しに…」
「待てなのは。今は外に出るな。」
「テスタロッサ、お前もだ」
「「えっ、でもっ!!」」
「そうね、2人とも長距離移動して疲れてるし、みんなのこと気にしすぎていて周りが見えてない。今は体を休めていざというときに動ける様にしないと…」
「そうだ。我らも…主やリインフォースを傷つけた者を放っておく気はない。しかし感情にまかせて動けば足下をすくわれる。主の命にも反する」

 ザフィーラの言葉になのはとフェイトは4人の気持ちがわかった。
 はやてとリインフォースが傷つけられたのだ。何も思っていない訳がない。

「うん…ヴィータちゃんごめんね」
「シグナムさん…すみません」
「判ればいい…」



「ヴィヴィオ…お願い…はやく戻って来て…このままじゃ消える前に…みんな…」

 2人の影に寄り添う少女から小さな雫が落ちていた。

~コメント~
 ヴィヴィオがなのはGODの世界に行ったら?
 U-Dついに登場。今回は話が長いように見えて凄くGODネタバレ要素を含んでいます。GOD内でつい面白くて笑ってしまったのがはやてとディアーチェの掛け合いでした。
 少しおっとりな天然系と突っ込み高飛車系…中の方は本当に凄いです。

Comments

Comment Form

Trackbacks