第10話 「再び舞い上がる翼」

「ただいま…」
「………」
「あれ? なのはママ~、フェイトママ~?」

 ヴィヴィオは魔力が回復して再び時空転移が使えるようになる前に家に戻った。
 理由は2つ、なのはとフェイトにも一緒に来て貰う為、そして…

(通信切って行っちゃったから…怒られると思ってたのに…ママ達どこに行っちゃったんだろう?)

 レイジングハートとバルディッシュにも通信出来ない。どこにいるのか?
 そう思いながらもリビングのテーブルにカプセルを置く。中に入っているのはレリック。
 リビングの椅子に座ってカプセルを見つめる。

 私の中にいるもう1人の私、聖王ヴィヴィオと向き合う為…


 レリックは嫌な思い出しかない。それもトラウマと言っても良い位酷いもの。
 張り裂けそうな痛みと苦しみ。
 本当のママが居ないと知った悲しみとそれを隠していたなのはに対する怒りがいやおうなく増幅され憎しみに変わってしまった。
 そしてそんな気持ちが作られた、操られたものだとも気づかずに何度も彼女を殴り、蹴り、魔法で攻撃して…
 そのせいで彼女は今も全力が出せなくなってしまった。
 思い出すだけでズキンと胸が痛くなって締め付けられる。

「魔法が使えない位リンカーコアが消耗して、RHdもメンテナンスに出ちゃう…暴走しちゃってたんだ…私とRHd。ごめんね…知らない内に無理させちゃってたんだね…」

 プレシアに言われるまで気づかなかった。
 RHdと一緒だから使える魔法、力だと思っていたのに…
 次使うと本当に壊れるかも知れない…壊れない様にするには相互増幅機能を止める。でもそうすればバリアジャケットにも遠く及ばない。ヴィヴィオとRHdの魔力源としてレリックを使わなきゃいけない。

「向き合わなきゃいけないのかな。聖王ヴィヴィオに…私は高町ヴィヴィオで聖王じゃないって言ってきたのに…」

 でも使いこなせなかったら…また暴走したら今度はなのはだけじゃなくフェイトやアリシアまで…そんな光景が次々と脳裏に浮かんでくる。
 頭をブンブンと振って振り払う。

「みんなが消える前に、キリエさん達に帰って貰わなくちゃ」

 悩んでいる余裕は無い。考え直してカプセルをRHdにしまい立ち上がる。

「ママ達、本局かな」

 通信出来ない時は大抵本局か遠方へ出ている。呼びに行こうと玄関を出るとそこには

「心は決まりましたか?」

 オリヴィエが立っていた。

「オリヴィエさん…どうしてここに…」
「ヴィヴィオを連れてくる様にとなのはさんとフェイトさんから頼まれています。私達を個々に連れて行くより領域を固定して移動した方が魔力消費も少ないのです。行きますよ。」

オリヴィエは踵を返し歩き始めた。

「ま、待ってっ」

ヴィヴィオは慌てて彼女を追いかける。



「ここにママ達が?」
「そうです。」

 オリヴィエに連れてこられた場所にヴィヴィオは驚く。そこは何度も来た場所だった。

「でも…ここで領域を固定って…まさか…アースラで行くつもり…なの?」

 巡航L級8番艦、次元空間航行艦船アースラ。 
 幾つもの難事件を解決し事件航行部隊に奇跡とまで名を残した船。
JS事件では機動6課の旗艦になった。
 事件解決後に退役したが廃艦されず臨海空港跡地でその身を休めている。

「「ヴィヴィオ~っ!!」」

 アースラの搭乗口で手を振っている影が見える。あれは…

「なのはママ、フェイトママっ」

 2人の所へヴィヴィオは駆けだした。

「お帰り、戻ってくるの待ってたんだよ。」
「ごめんなさい、でもね…」
「ヴィヴィオ、ママ達は怒ってないよ。オリヴィエさんから理由を聞いたんだ。でもね…次からちゃんと話して欲しいな。」
「うん…ごめんなさい。なのはママ、フェイトママ」
『感動の対面やろうけど…4人ともそろそろいい?』
「あっ、ごめん。今連れて行くから。みんなスタッフルームで待ってるよ♪」

 みんな? 一体誰が?
 その答えはすぐに判った。



「来たな」
「おせーぞヴィヴィオ」
「えっ!? ええっ!?!?」

 スタッフルームに入るなり素っ頓狂な声をあげる。中で待っていたのは

「シグナムさん、ヴィータさん…シャマル先生、ザフィーラ」
「お帰りヴィヴィオ。」
「お疲れ様。次は私達も手伝うわ」
「スバルさん、ティアナさん、エリオ、キャロまで…」
「お帰りなさいヴィヴィオ。RHdのメンテナンスは任せてね」
「遅くなった。妹達の資材搬入ももうすぐ終わる。」
「マリィさんにチンク…チンクさっき研究所に居たはずじゃ?」
「艦橋にははやてちゃんとグリフィス君、ルキノ、アルト、リインとアギトが準備していて、格納庫には武装隊からヴァイス君達も来てくれてるんだよ」

 機動6課のフロントアタッカーだけじゃなく主力メンバーが揃っているなんて…

「どうしてみんな…ここに…」
『オリヴィエさんが本局と地上本部、聖王教会を説得してくれたんよ。ヴィヴィオは戻ってくる。その時すぐ動ける様にしなきゃいけないって。アースラは武装外されてるけど、動力は生きてるしシールドも張れる。チェントの事件を耳にしてな、ナカジマ3佐と口合わせて修理してたんや。いつでも動かせる様にって。本当は地上本部の新造艦使いたかったんやけど、まだ建造中で機密も多い。こっちなら動かしても少々壊しても怒られるだけやろ♪。』

 笑って言うはやて

「私は状況を話しただけです。皆ヴィヴィオを信じているのですよ」
「ほとんど脅迫、無茶苦茶な説得だったんだけどね。オリヴィエさん、これ…ユーノ君から預かってきました」
「ありがとうございます。手間をかけました」

 なのはが小箱をオリヴィエに渡す。 
  


『はやてちゃん、出力安定。全システムオールグリーンですっ』
『よし、固定フックとワイヤーカット。アースラ起動、浮上開始っ!! ヴィヴィオこっちに来て。』
「はいっ!」

 アースラは周りの空気を震わせながら休ませていた翼に力を入れ再び羽ばたかせる。



 ヴィヴィオは知らない。
 かつてチェントに変えられた現在を戻す中で彼女の為に舞い上がった翼があったのを…

 ヴィヴィオは知っている。
 その翼が彼女達と幾度の窮地を共にし、数々の奇跡を起こしたのを…



「アリシア…みんな…待ってて…今戻るから」

 はやてやなのは達が見守る中、艦橋の中央で悠久の書を手にとって開きイメージを送る。

(力を貸して…悠久の書。私達をアリシアの所に連れて行って)

 ヴィヴィオから出た虹色の光が広がりアースラを包み込む。
そして次の瞬間、アースラの姿は消えていた。

~コメント~
 ヴィヴィオがもしなのはGODの世界に行ったら?
 2つの世界で進んでいた話が1つになって進みます。
 そして今まで身体が残ってしまう時空転移ではなく、本当の時空転移を初めて使うヴィヴィオ。
 ここからGODの世界に一気に食い込んできます。

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