第11話 「混迷からの始まり」

 ヴィヴィオと悠久の書から光が消えた後、下方に暗闇の中浮かぶ町明かりが見えていた。

「センサー遮断。軌道上やとエネルギー消費が激しいから海上へ」
「アースラ海上へ着水します。ここは…何処でしょうか?」
「ここは第97管理外世界、海鳴市の近く。時間は…闇の書事件から3ヶ月位経っています。」

 グリフィスの問いに答えるヴィヴィオ。

「海鳴か~懐かしいな。ん? 闇の書事件から3ヶ月後って…軌道上にアースラ居るんとちゃう? リイン、軌道上を含む周囲に管理局艦船の検索」
「了解です。……軌道上を含み周囲に管理局艦船見つかりません。」

そんな筈は…ヴィヴィオが来る前と違っている。

「まさか…違う世界に来たとか…」

 修復された写本、悠久の書になって初めて使う時空転移。刻の魔導書で行った世界には行けないのか?

「リインさん日時わかりますか?」

 リインに聞いて返ってきた答えを聞いて首を傾げる。元の時間に戻ったのは2日前、本当に別世界にきてしまったのか?

「はやてさん、私見て来ます。」
「私も行きましょう…」
「ならば私も、セイン達はここに残ってくれ。何かあれば連絡する」

 セイン達が続けて行くと言う前に抑え自ら転送機に入る。

「ヴィヴィオ、何かあったらすぐ連絡だよ。」
「うん、行ってきます。」

 そう言って転送機に身を任せた。


「っとここは…商店街だから…フェイトの家が近い。行こ」 

 降り立ったのは人通りの無くなった商店街の隅、そのままヴィヴィオ達は走り出す。



【ピンポーン】
「………」
【ピンポーン】

 チャイムを鳴らしても気配はない。表札にハラオウンと書かれているからここがフェイト達の家なのは間違いない。

「……中に気配はありませんね…」
「こじ開けるか?」
「う~ん…あ! アリシアが隣に居るはずだから…」

 リンディが隣の部屋を借りてくれたのを思い出して隣室前で再びチャイムを押す。

【ピンポーン】
「………」
【ピンポーン】
【…ダンっ…ダダダダダッ】
「ヴィヴィオ!!」

 廊下を走って来た足音の後バンっとドアを開けて飛び出して来たのはアリシアだった。

「アリシア、ただいま。遅くなっ…」
「遅いよっ! もう駄目かって思ったんだから」

 抱きついてきた彼女が肩を震わせ泣いていた。ここは先に来た世界だとわかってホッとするが

「ア、アリシア、何があったの?」
「…ママと……チェ…ントが…」
「!?」

 中に入って愕然とした。
 寝室に体のあちこちを包帯が巻かれたプレシアと顔を真っ赤にして苦しむチェントの姿があったのだ。

「プレシアさんっ、チェント、一体何が…って先に連絡しないと」
「危ない状態ですね…これを」

 オリヴィエが両耳のイヤリングを外し2人の胸元に置くとイヤリングは淡い虹色の光を発して2人を包んだ。

「強力な回復魔法が入っています。今の間に2人を」
「こちらチンク。重傷者2名、セイン、近くの2人を連れて今の座標に転送を頼む。あと医務室の受け入れ準備を」
『了解、待っててすぐ行くから』

 程なくしてセインがディードとオットーを連れやってきてプレシアとチェントを抱きかかえアリシアと共にアースラに転送された。その際、すれ違い様にアリシアが言った。

「ヴィヴィオ…さっきはゴメン…来てくれてありがとう。みんな今は八神家にいると思う…」

普段弱音を吐かない彼女の姿…

「ゴメン…アリシア」

 ここでは既に何かが起きていた。
 防げなかった…
 悔しくて唇を噛みつつそのまま八神家へと大急ぎで向かう。

「一体何が…私が居ない間に何があったの?」 



「はやてー、入るよ~っ!」

 20分後、八神家の前に着いたヴィヴィオはチャイムを押すが誰も出る様子が無かった。
 鍵が開いているのに気づいて、声をかけて入る。
 リビングには誰も居ない。

「ヴィヴィオ、2階に誰か居る。」

 チンクに言われて階段を駆け上がる。手前のドアを開けた所で
 ベッドに寄り添い眠ったリンディとはやての姿があった。

「リンディさん! はやて!!」
「ん…んん…」
「んあ…ヴィヴィオちゃん?」
「どうしたの、2人とも…なに…嘘…」

 暗闇の中気づかなかったがベッドには2人の影があった。

「なのはっ!? フェイトっ!!」

 慌てて部屋の明かりをつけて見ると…ベッドで横になったなのはとフェイト、首もとには包帯が巻かれている。
 よく見るとリンディも額にガーゼを貼っているし、はやても手足の何カ所かに包帯が巻いていた。

「リンディ提督、負傷者は他にいるのか?」
「え、ええ隣にリインフォースさんが、シャマルさんが見てくれているわ。」
「こっちも来て貰った方がいいな…ノーヴェ、スバルに話して負傷者5名の搬送準備頼む。怪我は酷いようだが今は安定している。先にセイン達が医務室に3人運んでいる。連絡して準備を頼む」
『チンク姉、何があったの?…これだけ怪我人が居るなんて』
「わからない。状況を知っている者も一緒に連れて行きたい。艦長に伝えてくれ」
『了解。ちょっと待ってて』

10分後、転送魔法が現れスバル達が転送されてきた。

「ええっなのはさんとフェイトさん、部隊長!?」

「驚くのは後だ。先に彼女達と隣のリインフォースを」
「う、うん、わかった。私がなのはさんを抱くからノーヴェはフェイトさんを、ウェンディ、ディエチ、2人で隣に寝ているリインフォースさんをお願い。」
「私も行きます。こっちのシャマル先生ビックリしちゃうから」

 そう言ってリインフォースとシャマルを転送して貰い、ヴィヴィオは最後に車椅子に乗ったはやてとリンディと共に転送されアースラへ戻った。



「ここは…アースラの中?」

 転送直後周りを見て驚くリンディ。世界と時間は変わっても自分の指揮する船。1目見ただけでアースラだとわかったらしい。

「でもアースラは本局のドックに…どうして…」
『ヴィヴィオ、2人をそのまま艦橋に案内して。今は私となのはちゃんとフェイトちゃんの3人だけやから♪』

 彼女から念話が届く。何をするつもりなのかピンときた。
 2人をそのまま連れて行こうか悩む。
しかし後になっても結局驚かせてしまうのだから変わりはない。

「リンディさん、歩けますか? はやても怪我は平気?」
「ええ、平気よ」
「う、うん、大丈夫や。」
「じゃあ艦橋に行きましょう。艦長が待ってます。それで…あの…その…頑張って下さいね」
「「????」」

 首を傾げる2人に心の中で何度もごめんなさいと謝った。



そして…艦橋へのドアが開いた瞬間

「アースラへようこそ、リンディ・ハラオウン提督と嘱託魔導師の八神はやてちゃん、アースラ艦長の八神はやてです♪」
「リンディ提督、はやてちゃん。はじめまして。ヴィヴィオの母、高町なのはです。」
「母さん…すみません。フェイト・T・ハラオウンです」
「「ええぇぇぇええええええっ!!!!」」

 ヴィヴィオの思っていた通りリンディとはやてが驚きの叫びをあげ、ソレを見てしてやったりとニヤリと笑った彼女がいた。

  

「ヴィヴィオさんのお母さん達って…やっぱりあなた達だったのね。なのはさんとフェイト…さん」
「フェイトでいいですよ。母さん」

 2人が落ち着くのを待って、なのは達は手を差し出し握手する。
 世界は違うけれどまさか未来の自分と会えるとは思っていなかっただろう。車椅子のはやては大人はやてが出した手を握らずジーッと見つめている。

「ん? まだ私の事疑ってるんか…じゃあな」

 はやての横に行って何か耳打ちすると子供はやてが顔を真っ赤にした。

「本物やろ♪ 私も子供の私に会えて嬉しいよ。よろしくな子供の私」

 握手をしようと手を出すはやて、その手を握ろうとした瞬間戸惑う。

「私らは別世界の人間や、消えたりせえへん♪」

 その手を大人はやてはギュッと握った。

「よろしくな。子供の私」
「あっ、よろしく…です。大人の私。」



「リンディさん、はやて…私が戻ってる間に何があったのか教えて下さい。プレシアさんとチェントが怪我して倒れてて、アースラは居なくなってるしなのはとフェイトとリインフォースさんまで怪我してる。リンディさんとはやても怪我してるしシグナムさん達も居ない…何があったんですか?」
「……【砕け得ぬ闇】が復活したんや。ディアーチェの持った紫天の書からキリエさんが無理矢理起動させて。出て来たのは小さい女の子やったけど桁違いの魔力を持ってた。ヤミちゃんは…私がつけた名前やけど、その子の広範囲攻撃食らって私は墜とされて…リインフォースが助けてくれたから幸い2人とも怪我で済んだけど…」
「1撃でっ!?」

 驚くヴィヴィオに頷くはやて。広範囲攻撃1撃ではやてを墜とすなんて何て魔力…

「そうよ、管理局では砕け得ぬ闇、システムアンブレカブルダーク【U-D】と呼称しているわ。はやてさんが言った通り彼女の魔力は桁違いだった。彼女ははやてさんを墜とした後、軌道上にいたアースラの右舷・左舷のを吹き飛ばしたのよ。最大出力のシールドもろともにね…。アースラは次元空間へ退避して何とかみんなも無事、でも航行は出来ない程ダメージを受けて今は管理局のドックで修理中。」

 全員無事ときいてホッと安堵の息をつく。

「今U-Dは何処に?」
「わからないわ。でも起動直後に魔力を使いすぎたから回復しているんでしょう。プレシアが次元跳躍砲撃で何度も攻撃していたから、流石条件付きSS魔導師ね…。」
『ヴィヴィオが居ない間くらい任せなさい。私も魔導師ランクSSなのよ、思念体の10人や20人位軽く相手するわ。』

 戻るときに彼女が言った言葉を思い出す。

(戻りなさいって言ったから…私の代わりに…)

 拳をギュッと握りしめる。

「その攻撃でU-Dはこっちに気づいちゃった。ママの次元跳躍砲撃を逆手に取ってこっちにも攻撃したんだ。初発はママが何とか防いだ、でも…2発目は直撃を受けちゃった。私のペンダントのシールドなんて何の役にも立たなかった。」
「アリシア…」
「ヴィヴィオがここに居るって聞いたから。さっきはありがと、もう平気。3発目が来てもう駄目だって思った時、チェントが聖王の鎧を作って私達を守ってくれたの。私のペンダントに入ったレリック片を使って…でも小さい体で魔力を使ったから反動で熱出しちゃって…」

 3人とも無茶苦茶するんだからと言いたかった。
 でもプレシアが砲撃しなければはやて達とアースラは助からず、U-Dも止まらなかった。そしてチェントが3人を守ったから…
 ヴィヴィオには彼女達に怒る事も謝る事もできなかった。

「はやて、リンディさん…あの姉妹は何処に?」
「わからないわ…アースラスタッフ…ここの機能は壊滅、今は手が足りないのよ。クロノとユーノさんに捜査を頼んでいて、知人の使い魔にも出て貰っている。AAランク以上の武装局員の招集にはまだ時間がかかる、それに艦船を1撃で墜とす魔力と対抗する武装隊員なんか居ないわ。」
「しかもマテリアルの3人が出て来てから闇の欠片も活発になっていて、なのはさんとフェイトさんはその時に…今はシグナム・ヴィータ・ザフィーラの3人がこの世界だけを防衛してくれている。八神はやて艦長、現状は話した通りです。これからの指揮をあなたに全て任せます。」
「了解です。リンディ提督暫く休んでてください。でも怪我が治ったら手伝って下さいね。あと私達の事は…」
「ええ、わかっているわ。よろしくね」

 2人は再び力強く手を握った。



「アリシア、プレシアさん達は?」
「うん、シャマル先生のおかげで今は寝てる。あっちも凄かったよ~こっちのシャマル先生入って来た時2人揃って凄い悲鳴あげたんだから。」

 医務室に運ばれドアが開いたら白衣を着た自分が居た。逆も然り…何も言わず連れてきた事に

(シャマル先生…ごめんなさい、驚かすつもりはなかったんです。)

ヴィヴィオは心の中で再び謝った。



「はやてちゃん、これからどうするつもり?」

 なのはに聞かれてはやてはう~んと考える。

「そうやな~とりあえずクロノ君とユーノ君を思いっきり驚かせて…」
「違うって!、U-Dと姉妹の事。」

 この雰囲気では冗談は通じないらしい。

「U-Dの捜索はクロノ君とユーノ君に任せる。あとここの知人の使い魔ってリーゼの2人やから戦力分析も状況把握も安心して任せられる。思念体対策は…消耗戦は避けたいからここだけに絞る。子供でもここのなのはちゃんとフェイトちゃんが怪我させる位やから相当強い。シグナム達もかなり無理してる筈や。」

 子供はやての顔を見る。頷く彼女

「だからここのシグナム達3人を下げて休んで貰う。その上で3人とここのなのはちゃん、フェイトちゃん・私を含めて現地チーム。元機動6課のメンバーはそのままで前と同じ様にスターズ、ライトニング、ロングアーチに分ける。スターズにはノーヴェとウェンディ、ライトニングにはディエチとディードに入って貰う。ロングアーチはアースラの運用と情報整理、あと当分生活は艦内中心になるからその辺色々、こっちはセインとオットーに手伝って貰うつもり。」

 スターズにはなのはとティアナという中長距離に対応出来る2人がいる。ノーヴェは時々スバルと一緒に訓練受けているのを聞いていたから互いにフォローできるだろうし、ティアナならウェンディと息を合わせて対応できる。
 ライトニングはフェイトとシグナム・エリオという高速近接特化したメンバーが主力だ。スターズとの差を埋める超長距離戦特化したディエチと彼女のフォローをディードがすればいい。
 ここで戦闘になるなら空戦が主になる。戦闘に向かず料理が得意なセインと結界と広域攻撃が出来るオットーが艦内に居ればアースラ防衛にもなる。
 部隊編成に異論は無いらしくなのはとフェイトも頷き答える。

「暫くはスターズ・ライトニングが交代で闇の欠片に対応する方向でいいかな。」

「うん、それで良いと思う。部隊内でローテーションすれば消耗戦にもならないし」
「はやてさん、私は?」
「ヴィヴィオはロングアーチ…って言っても特別部隊かな。ヴィヴィオとチンク、王女はアースラと海鳴に居て現地メンバーとの連絡役な。未来組…特に私らは外出を控えた方がいいから代わりに情報収集、誰かに聞かれたら王女もヴィヴィオのお姉さんで通るやろ♪」
「それに…ヴィヴィオ、まだ決心ついてないんちゃう?」

 言うと彼女はビクッと体を震わせる。思った通りだ。

「但し…ヴィヴィオの思念体、特に騎士甲冑来た子が出て来たら相手は頼むな。聖王の鎧までコピーされるとは思わんけど…一応な」

 きっとヴィヴィオは心の傷と向かい合わなくてはいけない。それがどれだけ大変な事なのかはわからない。
 聖王ヴィヴィオと向かい合うのなら、その中には彼女が傷つけたなのはも含まれている。だからなのははフォロー出来ない。そして最後は彼女が自分で答えを見つけなければならない。
 チンクとオリヴィエなら彼女をフォローできるだろう。

「問題は姉妹の捜索やけど…直接会ったことないしデータもないから…休んだ後で現地チームに任せようと思う。ここの私やなのはちゃん、フェイトちゃんが困ってたら2人ともフォローしたってな。はやて、勿論私もフォローするから何でも聞いてな」
「うん、了解♪」
(リンディ提督…闇の書事件の時こんな感じやったんやな…)

 はやての出す指示を何も言わず見つめている彼女。改めて指揮官という名の重さを知る。自ら指揮して判る苦悩と辛さ。先の見えないこの混迷から抜け出す方法を見つけださなければならない。

 今は彼女達を支えるしかないのだ。
 はやては改めてその決意を胸にした。 


~コメント~
ヴィヴィオがもしなのはGODの世界に来たら。
混迷から始まりです。
何が混迷かと言いますと、StrikerSからの登場キャラクター以外が2人になってしまうという
過去最大の登場人数。そして更に…アワワワ

 それはともかく、先日開催されましたComic1にて「魔法少女リリカルなのはASおもちゃ箱」の頒布が始まりました。
 AgainStory2~闇の欠片編~ Vivid編 短編集を1冊にまとめた260頁な本になっています。
 静奈さんの可愛いイラストと一緒に少し変わったヴィヴィオの世界を楽しんで頂ければ嬉しい限りです。
 又、Asシリーズにおいて時間移動が多すぎてわかりにくいという声を聞き、AS設定ということでどんな風に時間が変わって行ったのかを小説・SSと併せて見て頂ければと思います。
(本当はこう言う物を入れなくても判るように書けばいいのですが、文章力の無さに本当にすみません)

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