第17話 「退却戦」

(全力なのに、強すぎるっ)
「キャアッ!!!」

 U-Dの爪を受け止めようとするが、半端ない強さでそのまま海面に叩きつけられ水柱が上がる。
 直ぐさま飛び上がって魔力弾を数発作って牽制する。自己増幅機能を使った攻撃、クロスファイアシュートが直撃している筈なのにびくともしない。

(U-Dにも鎧があるのっ!?)
 プレシアがやった様に彼女の魔力を削って退かせたいがかなり厳しい。近づけばU-Dの翼から出る大きな手が鎧ごとヴィヴィオを吹っ飛ばすから迂闊に近づけない。かと言って離れれば砲撃魔法が襲いフィールドがない今は海鳴市や周辺地域に被害が出る。つかず離れずを続けながら時間を稼ぐしかない。

「クロスファイアァアアア」
【セイバーッ!】
(魔力剣!? まずいっ)  

 魔力弾を出してクロスファイアシュートを撃とうとした時、先にU-Dが動いていた。
 左右から挟む様に襲う。

「させません、パイロシューターっ!!」
「光翼っ連斬っ!!」

 だがその刃はヴィヴィオに届く前に遮られた。U-Dの上から赤い魔力弾が降り注ぎ、下方から水色の2つの円盤状の魔力刃が直撃する。

「はやて達は全員退避した。ヴィヴィオも下がれっ!!」
「ディアーチェ、シュテル、レヴィも…どうして」
「我らも先の防御でかなりの魔力を消費した。再起動する為にここから姿を消す。その間に逃げろっ、アロンダイトッ!!」
「ディザスターヒートッ!」

 大きな魔力球がいくつも降り注いだ後、シュテルが続け様に3連の砲撃魔法を撃ち出す。U-Dに直撃するが目くらましにしかならないだろう。

「ヴィヴィオはやくっ!!」
「う、うん。3人とも居なくなったら嫌だよ。絶対だよ!!」
「誰が消えるものですか、後で会いましょう。」

 シュテルの言葉に強く頷き悠久の書を取り出しヴィヴィオはアースラへと空間転移した。



「ハァッハアッ…」

 訓練室へと飛んだヴィヴィオは膝をついたままジャケットを解除し荒い息を整える。時を置かずドアが開きアリシアが駆け込んでくる。

「ヴィヴィオーッ!」
「アリシアッ…み、みんなは」
「みんな大丈夫。レヴィ達がさっき消えたよ。」

 アリシアはマテリアル達が消えても驚いていない。先に再起動する事を聞いたのか? それよりも

「U-Dはっ!?」

 結界の無い状態で彼女が砲撃魔法を1発撃っただけでも街は壊滅する。   

「そっちも大丈夫。みんな居なくなったらU-Dも消えちゃった。あっちも魔力かなり使っちゃったみたい」
「そ、そう…」

 安心したら足から力が抜けてその場にペタンと座り込んでしまった。

「本当に大丈夫?」
「アハハハ…良かったって安心したら力抜けちゃった。」

 事件は終わっていない。だた全員が逃げ出しただけ…それでも…

(それでも…そうだ、アミティエさん!)
「アリシア肩貸して。アミティエさん…キリエさんのお姉さんが医務室に運ばれた筈だから」
「うん、んしょっと」

 それでもあの戦闘で誰も落とされずに済んで良かったと思っていた。 



 その頃…

「もう大変だったんだから…交代要員や休暇中の人員まで出して資材も最優先で回して貰って…」
「苦労かけたわね。ありがとう」
「いつになく素直じゃない。まぁそれが私の任務なんだけど。ああそれと追加申請あった機材は全部格納庫に積み込んじゃったけど、こんな物どうするつもり?」
「ちょっとね。驚かされたまま帰られちゃうの嫌じゃない♪…じゃあ行ってきます」
「気をつけて、いってらっしゃい」
 


「シグナムさん、アミティエさんは?」

 アリシアに肩を借りて医務室まで来ると、通路にシグナム達が居た。何故かシャマルまで居る。

「ヴィヴィオ無事だったか。彼女は今治療中だ。」
「治療中?…シャマル先生がここに居るのに?」
「治療と言うより修理中だな。今マリィとシャーリーが見てる。」

 修理中? 余計わからない。治療用の器具にトラブルでもあったのだろうか?
 アリシアと顔を見合わせ首を傾げる。

「落ち着いて聞いてね。アミティエさん…人間じゃなくて機械だったの」
「!!」 

 アミティエとは1度話しただけ。それでもヴィヴィオを助け妹を庇い自ら傷ついた。あれはどう見ても機械じゃ出来ない。…そんなことを考えているとドアが開きシャーリーが出て来た。

「シャマル先生、すみませんが長くなりそうなので今日1日医務室をお借りしていいですか?」
「ええ、いいわよ。」
「シャーリーさん…」
「ヴィヴィオお疲れ様。RHdのメンテナンス? 今日はちょっと出来ないかも知れないけど預かっとくね」
「お願いします…ってそうじゃなくて、それもあるけどアミティエさん、どうなんですか?」
「アミティエ…彼女の名前ね。エネルギーのオーバーロードで各部に負荷が出て止まったみたい。外傷は腕だけだから今夜中には目を覚ますわ」
「話が出来るようになったら教えてください。アミティエさん、妹のキリエさんとケンカしてたみたいだったから…」
「いいわよ。それじゃシャマル先生、お願いします」

 そう言ってシャーリーは再び医務室の中へと戻ってしまった。

「私達も休息を取ろう。アレが襲ってくれば迎撃せねばなるまい」
「そうだな。そうだ、2人ともスタッフルームには近づかねー方がいいぞ。」
「?」
「どうしてです?」
「ここの主がここの我らに対し説教中だ。皆巻き込まれないよう避難している。」
「…はい、そうします。」

 ザフィーラの言葉に頷く。
 U-Dと話し合おうとしていたのにここの4人ははやての命令を無視して戦闘をしかけたのだ。 結局乱戦になってしまいアミティエが負傷しヴィヴィオが殿をする原因になったのだからはやてが怒るのもわかる。

「私の部屋も駄目かな~良い雰囲気だったし。ヴィヴィオの部屋行こう」
「??」

 良い雰囲気というのは何があったのだろうそんな事を思いながら頷き自室へと向かった。



「ヴィヴィオ、無事やったか」
「はやてさん、なのはママ」

 自室前まで来るとはやてとなのはが待っていた。はやてのほおにガーゼが貼られている。

「助けられんでごめん。U-D相手に1人でなんて…」

 はやてが神妙な面持ちで頭を下げた。

「ううん、あの場所で私だけ空間転移出来たから…それに結局私もディアーチェ達に助けて貰っちゃったし」

 U-Dはプレシアの次元跳躍砲撃を逆手にとって攻撃した。それを聞いていたからあの場で転送機や転送魔法を使うとここが迎撃されると考えた。でもヴィヴィオの使った空間転移は時空転移の応用。資質のないU-Dには追いかけられないと考えて1人残ったのだ。

「ヴィヴィオ、何処も怪我してない?」

心配そうに聞くなのはに笑顔で頷く。

「ちょっと疲れちゃったけど休めば大丈夫。RHdも問題なさそうだったけどシャーリーさんにメンテお願いしてきた。それよりはやてさん…ほっぺた…」
「ああこれか。家族思いな人にきつい1発貰っただけ。リインが大げさにガーゼ貼っただけや。」

 なのはがすまなさそうな顔をしている。出ている間に何かあったらしい…

「あれ? フェイトママは?」
「フェイトちゃんは、今大切な人と会ってるんだ。」

大切な人…プレシアと一緒に助けに来た人だろうか?



「リニス…本当にリニスなの?」
「生き返ったと…というわけにはいきませんから、片時の夢のようなものだとは思いますが…フェイト、あなたの事もちゃんと覚えています。」

 リニスがそう言って2人のフェイトの頭を撫でた。

『フェイト、私の部屋に来なさい。』

 ヴィヴィオとマテリアルを除く全員が転送機で転送された後、フェイトはプレシアから念話を貰った。ヴィヴィオがU-Dと戦っているのが気になってそれどころではないと無視したが次の念話が届いた。

『リニス、あなたに魔法を教えたリニスに会いたいと思うなら、今すぐ来なさい』
「!? ごめんっなのは、はやて。何かあったらすぐに教えてっ」

そう言って艦橋から駆け出た。

「リニスっ!!」

そうしてプレシアの部屋に駆け込むとそこには

「フェイト…ですか?」

 いなくなる前と同じ姿のリニスが立っていた。小さなフェイトが彼女に抱きついて泣いていて近くでプレシアが2人を見ている。

「そうだよ…会えるなんて思ってなかった…リニス」
「何か複雑な状況みたいですね。でも、プレシアや元気なフェイトこんな立派な大人のフェイトに会えて幸せです。」
「ごめんなさいフェイト、あなたとプレシアが本当に大変だった時に私は何の力にもなれませんでした。…辛い思い…沢山したんですよね?」
「リニスがいなくなってから辛い事、悲しい事たくさんあったけど…だけどね。今は平気。優しい人達がたくさんいて、母さんも……あのね、聞いて! 私友達が出来たの。高町なのは、同じ年ですっごく強くてとっても優しい子! なのはに助けて貰って学校に行って友達がいっぱいできて、それから、それからね…」

 子供のフェイトにとって、彼女は師であり優しい母でもあった。それがフェイトにもわかったから、彼女の言葉は自分の気持ちを代弁していた。

「…会えない間の積もる話。私も沢山聞きたいです。本当は私が教えたあなたの魔法、あなたに託したバルディッシュ、2人がちゃんと強くなっているか、未来に向かって成長していけているのか…を見るつもりだったのですが…」

彼女はこっちを見る。

「こんな立派に成長した姿も見られたのですから、つまらない心配でした。それにもう時間が無くなってしまったようです。」

そう言った直後、リニスの体が淡く光り始める。

「リニス、体が…」

この前兆は…闇の欠片と同じ。

「リニス、消えないで!! アルフもリニスに会いたいって思ってる。みんなにも紹介してないっ!」
「待ってて、今なのはをっ!」
「私の心残りはもうありません。フェイトの元気な姿と成長した姿、プレシアと仲良くしているのが判ればもう十分です。」

 ニコリと微笑むリニス。

「心残りって…」
「ありがとう、リニス。あなたは最高の使い魔だったわ。」
「その言葉を聞けただけでも…フェイト、プレシア、少し寂しいですが、元々1度消えた身です。こうしてあなた達と片時触れ合えただけでも、奇跡のようなものです。あなた達が強く生きていて幸せだと言う事が知ることができて本当に嬉しいです。それこそ…涙を…こらえられないほど…」
「リニスっ!」
「プレシア、フェイト…あなた達と出会えて、あなた達と過ごせて、私は本当に幸せでした。あなた達の未来がずっとずっと幸せに彩られているように、空の向こうで祈っています。さよなら…ありがとう…」
「リニスっ…リニスっ!!」

 溢れる涙で最後に見せた彼女の笑顔が曇らないように必死に泣くのを我慢した。
 彼女の笑顔をずっと心に残したいから。

「バイバイ…リニス」

 泣きじゃくる小さな背を抱きしめながらその日フェイトは我が師と別れた。
   


「フェイトママ…あの人…」

 ランチルームでアリシアと一緒にご飯を食べているとフェイトが入って来た。少しだけ目下が赤くなっている。

「フェイト、もういいの?」
「うん、姉さんも来れば良かったのに。紹介してあげたかったな…私の先生、リニス。」
(あの人がリニスさん…)

 少し前に行った時の庭園の跡に出来た湖、その湖畔にあった墓石に刻まれた名前。

「ずっと私達を心配していて、闇の欠片の力を使って来たみたい。私や子供の私、母さんに会えたら安心して消えちゃった…」

 笑って答えるフェイト、でもどこか悲しそう。

「前にちゃんとお別れ言えなかったんだ…急に居なくなっちゃったから。でも今は言えた。ウンそれで十分、だって私の魔法とバルディッシュに居るから。リニスの想い」
(そうか…フェイトママの魔法とバルディッシュはリニスさんが)
「じゃあ私の中にもリニスさん居るよね。だってフェイトママの娘だもん♪」
「そうだね、ヴィヴィオの中にも居るよ、きっと。」

 プレシアの使い魔リニス、彼女がフェイトに魔法を教え、バルディッシュを作ったからその未来が続きヴィヴィオに繋がっている。

(私も会いたかったな…リニスさんに)

 そう思うヴィヴィオだった。
 


~コメント~

高町ヴィヴィオがもしなのはGODの世界に行ったら?
U-Dとの戦闘から退却戦、そしてプレシア・フェイトとリニスの別れ。
凄く場面展開が大きい回になってしまいました。
ゲームではリニスはこの後、もうひとつの心残りの元へ行くのですが…はてさて

 先週ホームページトップにありますように、夏コミの当落発表がありました。おかげさまで受かって一安心。
 私も相方の静奈さんも新刊準備をしていたので、どちらを優先させるかという打ち合わせ…で決着付かず、なのはGODで勝負!!の結果、SSの裏で進めていた文庫本を先に作る事になりました。
 5番勝負&どちらかが使ったキャラはその後使用不可というローカルルール内の勝負だったんですが、ディアーチェ、結構強かったです。
 それはさておいて、文庫本ですがAffectStoryとプラスαを予定しています。
 

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