第18話 「作られた心」

 ヴィヴィオは部屋に戻った後寝付けず外部通路から外を眺めていた。
 窓の外には幾つもの星と青い地球が見えている。

「私…U-Dに全然歯がたたなかった。私じゃ無理なのかな…」

 話せば何とかなると思っていたけどU-Dは危険があれば排除しようとする。でもU-Dの強さは想像以上でなのは達を逃がすのが精一杯でヴィヴィオ自身もシュテル達が来てくれなかったら負けていた。
(U-Dとお話する前に私が向き合わなくちゃいけないのかな…)

 もう1人の自分と向き合うのが怖い。でも怖がっていたらダメな気もする。

「ヴィヴィオここに居たんだ。休まなくていいの?」
「キャロ…ちょっと考え事してただけ。ここから見る地球って凄く綺麗だね」
「綺麗だね。」
「でも…U-Dが暴れちゃったらこの綺麗な場所が無くなっちゃうんだよね…」

 そう思うと休んでいられなくなる。早くU-Dを探し出さなくちゃと気持ちが焦る。

「…私ね、ルシエの一族から追い出されたんだ。アルザスの守護竜ヴォルテールの巫女、使い手になっちゃったから。フリードだけでも制御出来ないのに…みんなに怖がられたんだと思う。」

 そんなヴィヴィオの気持ちに気づいたのか気づかなかったのかキャロが唐突に話をし始めた。首を傾げながらもその話を聞く。

「それからフェイトさんに会うまで色んな場所に行って何回も暴走させちゃって沢山の人に迷惑をかけたんだ。こんな辛い思いをするなら召喚術なんて覚えなきゃ良かったって何度も思って泣いた。」
「キャロ…今も?」
「ううん、今は覚えて良かったって思ってる。機動6課が解散した後だったかな…私考えたんだ、どうしてヴォルテールは私を選んでくれたのかなって。」
「私よりずっと召喚術も上手に使えて魔力も強い人が居たのにどうして私を選んだのかな?って。ヴィヴィオどうしてだと思う?」

 キャロの使役竜、フリードリヒは彼女が卵から育て契約した竜。でもヴォルテールは違う。古代、それこそオリヴィエの居る時間を直に見たかも知れない位昔から居る真竜。
 何故ヴォルテールがキャロを巫女、使役者として選んだのか?

「…………わかんない…」
「うん、私もわかんない♪」

ペロッと舌を出すキャロ。

「キャロ~っ!」
「でもね、きっといつか何処かでヴォルテールと私が契約しなきゃいけなかったんだってわかる時が来るって思ってるんだ。」
(…キャロ…もしかして…)

 真竜との契約、それは守護された一族でさえ恐れられる力…即ち…

(私の事言ってるんだ…)

 優しさとどんな苦境にも負けない心の強さを持った巫女、ヴォルテールがどうして彼女を選んだのか…その時何となく判った気がした。

「そうだね…でも、もしかすると外の世界を見たかっただけかも♪ だってずっとアルザスに居るんでしょ。」
「アハハッ♪ そうだね。そうかも知れないね~」
  

 
「ん…んん? …ここは?」
「起きた?」

 声に気づいたスバルはベッドの方へ歩く。

「水…だけど飲める?」
「はい、あ…手…直ってる、あなたが直してくれたのですか?」
「ううん、今寝ちゃってるから後で紹介するね。アミティエさん気分はどう?」
「アミタと呼んで下さい。もうバッチリです、ウィルスも無くなってるしこれで…」

 ベッドから降りようとする彼女を慌てて止めた。

「駄目だって。まだオーバーロードの負荷が残ってるから今夜一晩は寝てるようにって。それでね…色々教えて欲しいんだ。」
「ご迷惑をおかけしてまして本当にすみません…実は私達は…」
「そっちの話じゃないよ。そっちの話も聞きたいけどそれはみんな起きてから聞かせて欲しいな。私が聞きたいのはアミタが居た場所ってどんな所だったのかなって。」

 スバルがマリエルとシャーリーに頼んで彼女の当直になったのはこれが聞きたかったからだった。

「どんなと言いましても、山があって河や湖があってという…」
「う~ん…私の目を見てて…戦闘機人モード、オン」
「瞳の色が、戦闘機人モードってあなたも?」
「戦闘機人って言って人間に機械を融合させて作られたんだ…」

 肘をアミタの耳にあてて手を握ったり開いたりする。耳を澄ませないと聞こえない位かすかな音だけれど

「…小さい音ですが駆動音が聞こえます。」
「私の姉妹5人居るんだけどみんなこんな感じ」
「私達って似てるよね。人間なのに機械が入ってる私と機械なのに心があるアミタ」

 スバルの言葉にニコリと笑みを浮かべるアミタ。

「ほんとそうですね。…私の世界は…」

 2人の話し声は夜遅くまで聞こえていた。


 
「ごめん、こっちでそんなに進むって思ってなかった」
「遅い~っ!って言いたいところだけど、ギリギリ間に合ったみたい。」

 あるマンションの屋上に居た女性の前にもう1人別の女性が降りる。

「それで今はどこに?」
「多分あっち…凄い魔力反応がある…」

 指さした方にセンサーを向ける。凄まじい魔力反応が表示される。

「…SSレベル…ううんもっと上だね。多分私じゃ無理…」
「そう…じゃあやっぱり…使う?」
「うん…でも今すぐじゃない。私達も寒いし中に入ろう、手…冷たくなっちゃって…。」

 そう言うと2人は歩きだしドアをあけて屋上から姿を消した。



「私達の故郷は今ゆっくり死んで行ってるんです。私達の住む星、エルトリアは何百年も前から世界そのものが死んで行っています。」
「星が…死ぬ?」

 スバルからアミティエが起きたという連絡を受けてはやてはなのはとフェイト、ティアナと共に医務室を訪れていた。スバルを含む5人は彼女の言葉の意味がわからなかった。
 星が崩壊する時、星自身の重力を維持出来ず膨らんでいく。恒星であれば爆発し、惑星や衛星であればそのまま崩れ周囲に破片が散らばり新たな星の基になる。でも彼女の言う【星の死】はそういうものではないらしい。

「水と大地の腐敗が幾つも生まれて臭きや動物が生きられない場所に変わっていく、私達は【死蝕】と呼んでいます。みんな死蝕から逃げながら今は他の惑星へ移住をしています。」
「でもエルトリアに残った人達もいます。エルトリアで生まれエルトリアが好きな人達、私達のお父さん、フローリアン博士もその1人です。博士はずっと死蝕の対策を続けています。『この星の不調を直して綺麗な世界に戻すんだ』って…私達はその実験過程で生まれた死蝕地帯を復旧する自動作業機械【ギアーズ】…」
「全員アミタみたいな人?」
「いいえ、博士はよく失敗する人で私と妹は人格形成システムを作り込みすぎてしまって、機械ではなく普通の人間と同じ様に育てて貰ってました。」
「優しい人なんですね。」
「今も私の妹や弟達が死蝕を止める作業を続けてくれています。私とキリエの計算によればあと数年で成果が出始めるんです。でも…博士はそれを見る事ができない。妹はそれが辛くて、悲しかったんだと思います。」
「それで…世界が死んでいくのも不治な病の博士もどうすれば防げるのか、治せるのかなんてわからなかったんです。」
「時間移動技術は? 元々持ってた技術なん?」
「時間移動・異世界渡航機は博士が見つけた過去文明の遺産です。解析も終わっていてどうすれば使えるかもわかっていました。」
「じゃあ、それを使って未来から死蝕を止める技術を探したり病気の治療法を見つければ…」

 そう言ったティアナにアミティエは首を静かに振る。

「過去や未来に行って運命を変えるのは今を生きる事を放棄した事になる。人のするべき事ではないって…」
「「「「「う…ん………」」」」」

 彼女の言葉に5人とも何も言えなかった。
 何故なら博士から見れば自分たちは放棄した者達なのだから…

「それに1度に移動出来るのは1人が2人が限界で、負荷も凄くかかるんです。私達がここに来るだけでも大変でしたから博士の体じゃ…私は博士の言いつけ通り時間移動に頼らないで済む方法を探しましたが妹は時間移動に賭けていました。可能性はそれしかない筈だって…」
「それがエグザミア?」
「そうです。死蝕で死にゆく世界を救う方法、無限連環システムの核、エグザミア。妹は何度もシュミレーションをして見つけたんです。この時代でのみ持ち帰れる可能性がある事を、闇統べる王が完全に目覚めていて砕け得ぬ闇を制御下においたタイミングが…」

 はやてとリンディの話と全て繋がった。
 どうして闇統べる王と共にキリエが居たのか、砕け得ぬ闇の存在をどうして知っていたのか、そしてU-Dを蘇らせてまで何をしようとしていたのか…

「アミティエさん、あなた達が来た事で併行している時間同士がぶつかろうとしています。ここも衝突すれば近い未来に消えてしまいます。私達はそれを止める為にここへ来ました。そしてあなた達の転移の影響を受けて他の時間から飛ばされた子も居ます。」
「…私達のせいで…すみません。」
「でも、2人が元の時間へ返れば衝突は回避できます。砕け得ぬ闇は私達が倒し、エグザミアも封印します。辛いお願いだと思いますが2人で帰って貰えませんか…」

 死蝕が進むエルトリア、出来る事なら助けてあげたい。その場に居た5人はみんなそう思っていた。でも今の自分達にとってそれはどう手を広げても届かない世界であり、まず自分たちの世界を守るのが最優先。

「…わかりました。キリエと一緒に元の世界へ戻ります。その時一緒に飛ばされた人達も送ります。」

 アミティエはこっちの考えに気づいてか頷いた。

「お願いします…ごめんなさい…」



「アミティエさん、あなたの世界の『死蝕』について教えて貰えるかしら?」

 5人が部屋を出て行ってからプレシアはその話を聞く。チェントのベッドの側に座っていたから彼女達の話をプレシアも聞いていた。

「ええ? はい…映像くらいしかありませんが…」

 その会話が後の奇跡に繋がるのだが、その時はアミティエ本人もその事に気づいていなかった。
 


『クロノだ、レヴィと合流した。間もなくそちらに着く。』
『ユーノ・スクライアです。こちらももう1人の未確認渡航者を保護しました。ちょっと怪我…が酷い状態です。アースラへの転送をお願いします。僕とリーゼの2人も一緒に』

 ヴィヴィオが戻って数時間後、クロノとユーノから通信があった。

「了解、リイン、アギト全員の転送お願い。アミティエから聞いた話だと多分これで全部揃った。」
「これで事件を解決出来る。」
「まずはU-Dを倒してこの世界を元に戻さなきゃ。」
「なのはちゃん、フェイトちゃん、基本方針はそのままで…あとは全員に聞いてみようと思う。それでいい?」
「…うん」
「それがいい」

 アミティエ・キリエがこの世界に来た理由、U-Dを倒す方法が見つかった。あとはどう詰めていくか…

「なのはちゃん、気にせんでもいいよ。私がなのはちゃんの立場ならひっぱたいてると思う。だから、逆の立場になった時は覚悟してな。今日の分きっちり上乗せするから♪」

 そう言って頬のガーゼをペリッとはがし

「おし治った。1時間後全員をスタッフルームに集合、現地メンバーにも声かけて、整備班と通信班はそのまま、通信開くからそれを聞いて。機動6課動くよ。」
「「「「了解」」」」
 

~コメント~
ヴィヴィオがもしなのはGODの世界に来たら?
一気に話は進みます。


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