第20話 「不屈の心と共に」

「オリヴィエさん、私オリヴィエさんと会ってから色々考えたんです。どうして私達を含めてベルカ聖王だけがそんな魔法が使える様になったのかなって。」

 並んで歩き始めてすぐヴィヴィオは話始めた。
 オリヴィエは彼女の話を何も言わずに聞く。

「闇の書、リインフォースさんはこの魔法と資質を【聖王の血に課せられた呪い】【世界を統べる為の代償】だって言ってました。私も時空転移でママ達や友達が消えた時凄く怖くてそう思いました。でも…今はそう思いません」
「どの様に思っているのですか?」
「…最初に時空転移を使った人って凄く優しい人だったんじゃないかなって思うんです。周りの人が悲しくならないように何度も時空転移を使って頑張ったからみんなが聖王として認めて王様になったんじゃないかって。」
「……………」
「だって私の知ってる昔の王様は覇王、冥界の王、闇の書の夜天の王…みんな凄く強くて恐い2つ名で呼ばれています。そんな王様の中で聖なる王、聖王と呼ばれるのは強い以外に何か理由がある気がするんです。」
「それは…」

 彼女の考えは転移の理に触れている。誰からも伝えられず1人でその答えを見つけた事に驚いた。

「そうだったらいいなって言う私の勝手な想像です。でも…もしそんな王様だったら私が今からする事をわかってくれると思うんです。事件がどんな形で終わって未来がどこまで変わるか…私にもわかりません。だけど泣いてる子を放っておけないから…」
「そう…そうですね。私もそう思います。」

 始祖が何を思い時空転移という魔法を生み出したのかはわからない。
 でも今は彼女の言う想いを信じてみたい。



ヴィヴィオがオリヴィエと転送機の前まで来た時、そこには…

「なのはママ、フェイトママ…アリシア…はやてさん」

 4人が待っていた。
 私が何をするつもりなのか気づいていたらしい。

「どうしても行かなくちゃいけないの? クロノさんやはやてさんが立てている作戦じゃだめなの?」
「ねぇ、後はママ達に任せてくれないかな。」
「ここにはここのクロノ君達が居るし、機動6課のフォワード全員、チンクやノーヴェ達も居るんだ。みんなでアンブレイカブルダークを止めよう。」
「なぁヴィヴィオ、ヴィヴィオだけが背負う事ないよ…この時間を作ったのがヴィヴィオでも誰も責めてない。むしろ感謝してる。私はリインフォースとフェイトちゃんはプレシアさん、アリシア、ここではリニスと会えた。私がU-Dを確実に倒す作戦考えるからって言ってもあかんか?」

 4人の言葉はとても嬉しい。
 でも…そうじゃない、そうじゃないから…

「ううん、これは私がしなきゃいけないから…時空転移が使えるからじゃない…私がママやアリシア達と居たいから行くの。」

 私が高町ヴィヴィオで居たいから。

「そう…じゃあ約束。絶対ママ達の所に帰ってくること。終わったらみんなで母さんのお店でお祝いしようね。」

そう言って小指を出す。その指に私も小指を交わして約束する。

「うん♪」
「…無茶しないでって言ってもきっと無茶すると思うから…頑張って」
「うん、がんばる」

 なのはの後にフェイト、アリシア、はやてとも小指を交わして約束する。
 アリシアに頷き返すと転送機に入り小さく手を振る。

「行ってきます」
「海鳴市上空に転送!」



 直後、私の視界には白い雲と青い海が映っていた。
 空を落ちていく間RHdに話しかける。

「ねぇRHd『レイジングハート』って不屈の心、諦めない心っていう意味なんだって。昔ママが教えてくれたんだ。行こう、行って一緒にU-Dを助けよう!」
【Yes Master】

 ― 昔なのはママが教えてくれた ―
「我、使命を受けし者なり。 契約の下その力を解き放て」

 ― 不屈の心を呼び覚ます魔法の言葉 ―
「風は空に、星は天に…そして、不屈の心はこの胸に」

 ― 私はその心と一緒にいる!! ―
「この手に魔法をっ レイジングハートセカンドっ セェエエット・アーップ!」
【StandByReady Setup】

 溢れる力が形となって私を包む。これが私の願いの形。 



 海鳴へ虹色の流星が吸い込まれるように降りていく。

「フェイトちゃんを助けに行った時みたい…」

 その様子を見てなのはは呟いた。

「そうか…ヴィヴィオはU-Dを倒すんじゃなくて助けつもりなんだ…」

 その言葉でフェイトはヴィヴィオが何をしたいのか気づく。
 みんなU-Dを倒す方法を考えていた。
 でもそうじゃない、アンブレイカブルダークというシステムに動かされている本体、泣いている少女が居る。ヴィヴィオはその事に気づいていた…

「裏方に徹するつもりやったけどヴィヴィオが行くやったら私達も舞台に出ようか。先ずは小っちゃいクロノ君の相手と時間稼ぎやね」



「ママ、ヴィヴィオ行ったよ。」

 アリシアは医務室に居たプレシアに言う。すぐ横のベッドにはチェントが眠っていて、それを見守る様に猫のリニスがその様子を見つめている。

「そう…向き合うのね」
「……う゛ぃう゛ぃ…お…」
「「チェント!!」」
「ママ…ねえさま…」

 目を覚ましたのを見て2人に笑顔が戻る。

「チェント、ヴィヴィオが頑張ってるところ…みんなと一緒に応援しようか」

 弱々しいけれどしっかりと頷いた彼女をプレシアが優しく抱き上げる。そして3人と1匹は医務室を後にする。
 その時プレシアの腕輪、アリシアのペンダント、リニスの首輪は淡い光を放っていた。



「魔力反応の強い場所…見つけたっ!!」

 ヴィヴィオは急降下しながら魔力の一際強い場所を探していた。
そして遂に見つける。
 だがその手前に2つの影が見える。白いバリアジャケットと赤い宝玉のついた杖を持つ少女と群青の騎士甲冑を纏った女性。

(なのはとリインフォースさんの…思念体)

 2人はヴィヴィオの姿を捕らえ構える。

「そこをっ、どけぇええええええっ!!!!!」

 それより前に撃ち出された砲撃魔法に呑まれ2人の思念体は一瞬で消滅した。



(子鴉が…無謀すぎる…)

 ディアーチェは再起動の最中、ヴィヴィオが思念体2人を消し飛ばしまっすぐ彼女の所へ向かっているのを見ていた。

『シュテル、レヴィ、計画変更だ。我は急ぎ再起動を終わらせる。だが管制プログラムの生成には…』
『わかりました。それはこちらで…』

 盟主と聖王の激突、どちらが倒れても後味の悪い結果が残ってしまう。もっと早く再起動をしていればと後悔しても遅い。
 2人の様子をただ見続けるディアーチェの心には普段見せない焦りが現れていた。

 
 
~コメント~
 ヴィヴィオがもしなのはGODの時間に来たら?
 U-Dの本体、ユーリの心情を誰よりも判るのは強制的に聖王化された経験のあるヴィヴィオではないかと思います。

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