第22話 「聖王再誕」

「だぁああああああ!!」

 ヴィヴィオの拳がU-Dの作り出した巨大な鍵爪とぶつかる。その激突で空気が震えた。
 RHdの中もコアだけでなくジュエルシードまでもが発動していて、増幅機能も全開状態。それでも互角でしかない。
 溢れ出す魔力を必死に制御しながら四肢に魔力を込めぶつける。
 何度か激突した後、U-Dが離れた。

【その力は人間に過ぎた力だ、すぐに壊れるよ。】
【ゆりかごの聖王、どうしてそこまでする? あなたは別時間から来ていてここで何が起きても関係ない。】
「そうだよ。私は異世界の未来から来た。言う通り私には今のあなたを相手にするのが精一杯。でも引かないよ。さっき言ったよね。『憧れるから悲しくなる』って。そうじゃないよ。憧れるならそれに向かって行こう。もし失敗して悲しくなって立ち止まってもそこは憧れる前よりずっと憧れた場所に近いんだよ。」
「……私はまたディアーチェ達を守る者を壊すのですね…」
(口調が変わった!? 自我が目覚めてる。これならっ!)
「壊されないよ。何度倒れてもあなたを助けるまで諦めないっ!」
【無限連環機構、出力最大。うわぁああああああっ】

 叫びと共にU-Dの衣が赤く染まり、魔力量が一気に増えた。



 U-Dの魔力で周りが暗闇に包まれていく。

「これがアンブレイカブルダークとエグザミアの力…」

 このまま、騎士甲冑のままでは抑えきれない。
 今が向き合う時。
 暴走の話を聞いてからRHdを使うのが怖くなっていた。でも…

『ヴィヴィオ、お前がRHdを信じねば誰が信じるんだ?』

 シグナムとヴィータに言われた言葉を思い出す。
 そしてなのはの父、士郎となのはの顔を思い出す。

(士郎さんは友達や周りに居た人を守る為に怪我をした。)

 重傷を負いながらも逃げず、又似た事があればどうするかをヴィヴィオが聞いた時彼が言った言葉

『それから逃げたら…多分一生悔やむ…』
(ジュエルシード事件の時聞いた士郎さんの言葉。その意思はなのはママにも継がれている。そしてそれは…私にもっ!)
「今逃げたら私じゃない! RHd、私達も全力でいくよっ!!」
【AllRight】

 鎧のポケットからカプセルを取り出し、

「カプセル開放、封印解除っ」

 すぅっと息を吸い込み

「私は…高町ヴィヴィオ、本が好きな普通の初等科3年生で…なのはママとフェイトママの娘で…聖王だぁあああっ!!」

 中に入っていた深紅の結晶を胸にかざした。



「なのはさん、ヴィヴィオ1人じゃ危険です。私達も出ましょう。戦闘機人モードならどれだけ魔力が強くてもっ関係ありません。」
「U-Dは常に周りの魔力を集めています。切り札のスターライトブレイカーも使えません。フェイトさん、はやてさんっ」

 スバルとティアナがモニタを見つめるなのは、フェイト、はやてに迫る。

「ヴィヴィオ、行く前に言ったんだ…私達のところに居る為に私がしなきゃいけない事だって…」
「ブレイカーは使わないよ。ヴィヴィオはU-Dが魔力を集めているのに気づいて自分の魔力を再収集されないようにしてる…それに…」
「ヴィヴィオ、スターライトブレイカーを使う時は先に準備をするんだ。集めやすい用にバスターとシューターの性質を変えて何度も使って魔力密度を上げる。足りない時は自分の魔力を周りに出す。だから使う時は殆ど魔力も残ってないし、1回しか使えない。」
「確かに…そうでした。」

 ティアナはヴィヴィオとオリヴィエの模擬戦を思い出す。確かに無駄と思える位魔法を使っていた。

「でも…今のヴィヴィオは違う。集めなくても充分な魔力…もう持ってるから…」
『私は…高町ヴィヴィオ、本が好きな普通の初等課3年生で…なのはママとフェイトママの娘で…聖王だぁあああっ!!』

 モニタ向こうでヴィヴィオがカプセルを取り出して真っ赤な結晶体を胸にあてると結晶体は吸い込まれていった。

「…レリックを…取り込んだ…?」
「…うん。あれが本当の『聖王ヴィヴィオ』だよ。」



「レリックを…嘘…」

 スタッフルームに残っていたヴィヴィオはモニタを凝視する。
 ヴィヴィオにとって別世界のヴィヴィオは同一人物というより姉妹の様な印象を持っていた。しかし今モニタ向こうで戦っている彼女はヴィヴィオ自身がずっと怖がり避けていたレリックを取り込んだ。
 それも自分の手で。

(どうしてそこまでできるの? あれが…ママ達が言ってた守る為の強さ?)

 なのはとフェイトが話していた彼女の強さ。

「今ならわかります。ヴィヴィオさんは…U-Dさんを倒すのではなく助けようとしています。私達はU-Dを倒す事ばかり考えていました。でもヴィヴィオさんの瞳は違う所を見ていたんです。砕け得ぬ闇の向こうで泣いている女の子が居るのを」
「誰も悲しまない世界…そんな世界は夢でしかありえない。笑ってる人が居たらどこかで泣いている人がいる。」
「トーマも私と会ったから…」
「僕は気にしてないしそうじゃなくて、あそこのヴィヴィオは泣いてる子を助ける気なんだ。どんな時でも諦めない。きっとそれがエースって呼ばれる理由…」

 そう言ってモニタに映る少女の姿を見つめる。

 
 
 レリックがスッと胸に吸い込まれる。
 直後爆発的に増える魔力と共に溢れる感触と憎しみ・怒り・悲しみ…ゆりかごで見たなのはを傷つけていく光景が浮かび上がる。

(制御しなきゃ…ここで私が暴走しちゃ全部駄目になっちゃう…)

 溢れる魔力を抑え、心静かに…怒っても泣いても何も変わらない…私があの子を押さえる…時間を作るんだ)

 意識を集中していると、どこからか声が聞こえる。

【私にはママもパパの居ない。私は作られた。ゆりがごを動かす為に作られた部品…】

 この声がもう1人の私…

(ごめんね…ずっと私、あなたを怖がって逃げてた。でももうそんなことないよ。一緒に行こう。見えるでしょ、あの中で泣いてる子がいるの。一緒に助けよう。聖王ヴィヴィオ)

 この力にまた目覚めたらゆりかごみたいになのはママを傷つけるんじゃないかってずっと怖がっていた。
 今ならわかる、そうじゃない。ゆりかごの中に居たのも私、なのはママやアリシアを傷つけたのも私。
 1人ぼっちは誰だって寂しいし悲しい、間違いはずっと背負っていかなくちゃいけない。
 でもそれが私、高町ヴィヴィオの1部。それがあるから今の私がここに居る。

(行こう、もう1人の私)

 その時目の前が明るくなってパッと開けた。そしてそれまで溢れ出していた黒い感情は消えていた。



 取り込んだ直後から固まった様に動かないヴィヴィオにU_Dの巨大な爪が襲いかかる。鈍い音が響く。しかし何発食らってもヴィヴィオは動かない。
 上下左右、なすがままに強打を浴び吹き飛ばされる。
彼女の唇から血か伝う。

「ヴィヴィオっ!!」

 モニタに向かって叫ぶアリシア 

「大丈夫。それよりもあの光は…」

 続け様にU-Dからの追撃が迫った瞬間、手が動き爪を掴んだ。腕の近くには薄く虹色に輝く光が現れさっきまで届いていた爪が遮られた。

「はぁぁあああああっ!!」

 カッっと瞳を開くのと同時に右手で斬る様な動きを見せた。
直後爪はその軌跡を辿った様に真っ2つに割れる。

「ごめんね…後でいっぱい謝るから…今はがまんして」

ヴィヴィオはそう言うと、右手から白色の砲撃魔法を撃ち出した。



「白い魔力光…ヴィヴィオの魔力色が変わった…」
「違うよ。レリックを取り込んで魔力が凄く上がってる…虹色、7色の魔法色が凝縮されたんだ。ヴィヴィオの周りを見て、かすかに見える。」

 全員がなのはの言葉通り凝視すると彼女の騎士甲冑からは薄く虹色の光を発している。

「この魔力…アースラ降下。ヴィヴィオを中心に広域フィールド展開。周りへの影響を押さえるよ。」
「了解。アースラ降下、広域フィールド展開します」

 さっきの戦闘も陸地から離れているにも関わらず、2人の戦闘の余波で荒波と暴風が襲っていた。今の2人が戦えば激突の衝撃だけ周辺に被害が出る。どちらかの砲撃魔法が都市に1発届いただけで跡形もなく消し飛ぶだろう。
 それに気づいてはやてはすかさず命令を出す。
 しかしアースラは老朽化した船、本局から調達したエネルギーもそれ程残っている訳ではない。
 強力なフィールドを作り続けられる程の余裕は無いし、フィールド展開用のユニットにもがたがきている。物理と魔法の多層フィールドを広範囲に作りたいが厳しい

「闇の書防衛システムは宇宙空間に転移させたけど、今はそういうわけにもいかんし…私らが出て結界を強化するか?」

 オットーのISを主軸にして強度な結界魔法を作る。しかし結界をそんな広範囲に作る事も出来ないし、もし出来ても2人の戦闘にとてもじゃないが耐えられれない。
 良い方法は無いか? もっと良い手が何か…

『手を貸しましょうか?』

 その時通信が届く。モニタに現れたのはリンディ・ハラオウン。
 驚く間もなくアースラの前に転移してきたのはなんとアースラ。修理を終え戻って来たのだ。

『ヴィヴィオさん、U-Dを中心に時空震用の多層フィールドを広域展開、出力最大へ。』
『了解です。フィールドの広域展開、出力最大』
『はやてさん、そちら転送ポートを開いてもらえるかしら。予備エネルギーとフィールド展開用のユニットを転送します。こちらと同じ物、セッティングも終わってるから繋げばすぐに使える筈よ。』

 長く乗っていた船でU-Dにシールドを貫かれた経験のあるリンディだからこそ何が必要で持ってくれば良いのかわかっていたのだろう。
 だからそれをもう1隻分積み込んできた。
 元々アースラに合ったユニットと機材なのだからこちらアースラにもすぐ使えると読んで…

「まったく…敵わんな。こんな返し方…驚くしかないよ。」

自嘲気味に呟くはやて

「アースラから補給を受けたらヴィヴィオの支援に行くよ。戦闘態勢へ、こっちは未来から来てる。昔の…アースラの奇跡に勝つつもりでいくよ~!」
「「「了解」」」



一方で

「艦長、エネルギー・ユニットの転送完了です。まさか未来のアースラを見られるなんて思いませんでした。」
「ええ、でも感動するのは後。後の事は後で考えましょう。先に彼女が全力で戦える状況を作るのに専念しないと。」
「そうですね。アースラ降下始めました。フィールドを強化するつもりですね。」
「そうね。私達はヴィヴィオさんを挟んで反対側へ降下、こちらもフィールドを強化します。」
「了解」 


~コメント~
 もしヴィヴィオがなのはGODの時間に来たら?
 StrikerS以降ヴィヴィオがずっと引きずってきた心の問題。それはヴィヴィオの中のもう1人のヴィヴィオ、聖王ヴィヴィオの存在です。
 血の繋がった家族が居ないという悲しみと自らの手で母に負わせてしまった傷、当時の記憶を精神操作されていたとは言え、簡単に割り切れるのかと考えていました。
 もし再び聖王と向き合う機会を作れたら…その結果が再びレリックを取り込み、聖王化する方法でした。
 そして修理されたアースラが参戦。更に次話では…

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