第25話 「未来への道」

 瞼を開くと何処かで見た林の中に立っていた。…木の陰に小さな動物が倒れている。
怪我をしているのだろうか? 
 駆け寄ろうとして2~3歩足を進めた時、既視感が起こり立ち止まる。
その時こっちへ駆けてくる足音が聞こえた。

「なのはちゃ~ん」

 走ってきた少女は木の陰に横たわる小さな動物を見つけ駆け寄り抱き上げる。
「この子…あなたのペット? 怪我してる…」

 彼女の名はは高町なのは。
 まだママにも…魔導師にも…魔法にすら会っていない普通の女の子。
 小さな動物はここにやってきたばかりのユーノ。
 ここでなのはと一緒に動物病院へ行けば今の未来になる。
 ここで何もしないでなのはに任せて離れればなのははユーノを助け魔導師の道を進んで本当の未来、ヴィヴィオが変えなかった元々の未来が待っている。

 でもそれは…

「ヴィヴィオ、この服いいって思わない?」
「ヴィヴィオだから出来るんだよ。もっと自信持っていいんじゃない♪」
「私、この本ヴィヴィオには絶対に渡さない。どうしても行きたいならRHd使って私を倒してよっ!」

 ケンカするけど大切な親友…

「ヴィヴィオ、あなたが決めなさい。あなたにはその力がある。」

 厳しいけど本当は優しい親友とママのママ…

「ねえさま、わたしも~」
「ヴィヴィオ、まけちゃだめ」

 すっごく甘えん坊で、でも誰よりも純粋なもう1人の私…
 彼女達とは逢うことはない。そしてそれは彼女達と紡いだ時間もなくなってしまう。

【時を導く者、苦しみから解放され既に決められた未来、導く者としての苦しみが待つ汝が生み出した未来。…汝の導く未来を】

 時空転移を知らずに進む時間と今いるこの時間、選べと言うことなのか? 
 その問いかけにフッと笑う。何度聞かれても答えは決まってる。

「私は私の時間がいい。どれだけ大変でいっぱい辛いことや悲しいことがあって泣いちゃってもママ達やみんながいる時間がいい。」
「…ありがとう。」

 答えた時どこからかそんな声が聞こえた。



「ヴィヴィオ、ヴィヴィオッ」
「う…ん…オリ…ヴィエさ…ん?」 

 ヴィヴィオを呼ぶ声がして目を開けるとそこにはオリヴィエの顔があった。
飛べますか? と聞かれて頷きそのまま浮く。

「気を失っている間にレリックを取り出しておきました。封印もしてあります。」

と赤い結晶を手渡す。とういうことは…

「あの子、U-Dはっ! みんなはっ!?」
「ユーリ…というそうです。彼女の本当の名前」

 オリヴィエの視線の先を見るとディアーチェに抱きかかえられたユーリの姿があった。
 そこに飛んで行くなのはとフェイト、はやて。
 こっちに気づいたシュテルが笑って小さく手を振っている
それを見て気づく。賭けは成功したのだと。

「ヴィヴィオには本当に驚かされます。まさかあれを真似するなんて…」

 ヴィヴィオがユーリを薙いだ光の剣、それはオリヴィエとの模擬戦で彼女が見せた力。
 いかなる魔力・物理攻撃からでも主を守る絶対防壁の聖王の鎧。もしその鎧を剣状にしてしまえば防御不可な剣が出来ると考えた。
 オリヴィエは魔力シールドを剣に変えてヴィヴィオのストライクスターズを切っている。しかしヴィヴィオにはそんな強いシールドは作れないし聖王の鎧を自由に使えない。
 但しそれはヴィヴィオ1人だった時の事。レリックを取り込み聖王化していたなら鎧も剣に出来ると考えた。
 その効果はヴィヴィオの予想を越えシールドを破壊し、アンブレイカブルダークに致命的なダメージを与えていた。
 そして無防備になった状態で最大威力の砲撃魔法を撃てば…ストライクスターズによってU-Dのアンブレイカブルダークを完全に吹き飛ばしエグザミアを守る物は無かった。
 最高の状態でディアーチェ・シュテル・レヴィは管制プログラムを撃ち込めたのだ。

「ヴィヴィオ、ひとまずお疲れ様でした。」



 ユーリを暴走させていたアンブレイカブルダークが停止しエグザミアが封印されたのに併せて周りにいた思念体も全て消える。

「結局、私達ははやてに怒られて沸いて出る思念体と魔導騎兵を倒して終わり…って納得いかねーっ!!」

 愛機、グラーフアイゼンを肩にかついで頬を膨らますヴィータ。

「全く…ガキだな。守護騎士8人が束になってかかってもあんな化け物に勝てねえよ。ま、最初に墜ちるのはここの私だな。」

 呆れるヴィータの言葉にキッと睨むヴィータ。

「何だと…ここで潰されてーのか?」
「いいぞ、やるなら受けて立つ。はやての説教をまた受けたいなら…な♪」
「フ、フンっ! 覚えてろっ」

 そう言い残して飛んで行ってしまった。余程あの説教は堪えたらしい。

「ガキだなホント…でも…」

 これからはやて達と一緒に暮らしていく中で笑い、怒り、悲しみ、泣き、考え、背負うものが増えていく。
 今くらい好き勝手にしてもいいだろう。
 ふとそう思って過去の自身を見送る。

「頑張れ…昔の私」



 それから暫く経った後、2隻のアースラはフィールドを解除し海上で合流する。今は周りには船体を隠す結界だけが張られている。

「ヴィヴィオっ!!」
「……ここまで…オリヴィエさん代わりますっ!」

 リボンと鎧やマントが無くなり肌の見える部分は傷だらけ、酷い有様でオリヴィエに支えられながらヴィヴィオがアースラの甲板に降りると、なのはとフェイトはその様子を見て大いに慌てた。

「ただいま…なのはママ、フェイトママ。約束守ったよ♪」

 しかしその狼狽ぶりが事件は終わったという事を改めて教えてくれた。



 ユーリが目覚めた事によって事件は終わりをみる。そしてそれが小さな軌跡へと繋がる。
 プレシア・アリシア・リニスを消滅させようとしていた時間の衝突はアミティエ・キリエ2人の戻る意思を受けたのか消えてしまう。
 だがキリエが望んでいたエグザミアは手に入らなかった。
 少し離れた場所でヴィヴィオの怪我になのはとフェイトが慌てている様子を眺めながら

「はぁ~…こんなに苦労したのに結局無駄足だったなんて…バカよね」
「あら、そうでもないわよ。」
「そうですね。」
「えっ?」

 プレシアとシャマルの声にキリエは振り返る。

「あなた達の星、エルトリアで起きている死蝕というのは魔力、魔法エネルギーの枯渇が原因で起きているのよ。人間は勿論、動物や木々・草花、小さな虫以外にも地そのものも魔力を持っているわ。それが何らかの原因で失われて滅ぶから死蝕と名付けたのでしょうね。あくまで推測だけれど死蝕が起きる前に大量に魔力を消費する何かがあった筈。」
「…でも…私達の世界に魔力なんてエネルギーは…見た事も聞いた事も…」
「これを持って行きなさい。」

 プレシアがそう言って小箱を渡す。

「これは?」
「人造用魔力コアの製造法よ。あなた達を作った博士ならそれ程時間もかけずに作るでしょう。強い魔力は逆効果だけれど微弱な魔力を放ち魔力が尽きた後に自然消滅する小さなコアを大量に作って散布すれば死蝕は消えるわ。魔力の供給源は…」
「これを使って下さい。ユーノさんから預かったレリックです。こういう形で役立つなら祖も喜びます。」

 オリヴィエから差し出されたカプセルを見てプレシアは笑みをうかべる。

「完全体レリックなら十分ね。後で生成法をレクチャーするわ。それともう1つ」
「はい、私からはこれを」

 プレシアに促されたシャマルが1歩進み出るとニコッと笑ってバスケットサイズの鞄をアミティエに渡す。

「これは?」
「あなた達の博士の薬。アミティエさんから聞いた症状と魔力枯渇の死蝕が関係しているならこれできっと…時間はかかるけれど元気になるわ。」
「キリエ…」
「お姉ちゃん…」

 アミティエとキリエは涙を浮かべ手を取り合って喜んだ。



 エルトリアと2人の博士の問題も何とかなりそうだと知ってなのはとフェイト、はやてから笑みがこぼれた。

「ディアーチェ、シュテル、レヴィ…ありがとうです。でも、これでお別れです。」

ヴィヴィオ達に続いて甲板に降りた後、ディアーチェに下ろして貰ったユーリが言う。

「ユーリ?」
「私がここに居るとまたエグザミアを求める者が来ます。今度はディアーチェやシュテル、レヴィを消してしまいます。」
「だから眠りにつくのですか?」
「私が眠っていればみんな笑っていられます。新しい契約者と一緒に居られます。」
「そんな…ユーリちゃん…」
「ユーリ…」

 なのはとフェイトには彼女にかける言葉が見つからなかった。
 彼女の言う通り今後再びエグザミアが起動した時、アンブレイカブルダークが動き出せば止められる者がその場に居るとは限らない。
 今はヴィヴィオやシュテル達が居たから奇跡的に止められたのだから…

「ディアーチェ、何か方法ないん? 管制プログラム持ってたんやったら他に良い方法も知ってるんちゃう?」

 涙を浮かべているのに無理に笑顔を作るユーリ、何とかならないかとはやては横にいたディアーチェに聞く。

「フンッ、そんな些細な事なぞ見越しておるわ。我らが何故はやて達と再び契約したと思う。シュテル、レヴィ!」

 そう言うとディアーチェもエルニシア・クロイツと紫天の書を取り出した。シュテルがルシフェリオンをレヴィがバルニフィカスを出す。

「世話になったな…さらばだ我が杖と書よ」
「ルシフェリオン、今までありがとうございました。」
「バイバイ、バルニフィカス」

 3人の手にあったデバイスと紫天の書が砂の様に粉々に砕け地面に落ち、その砂もすぐに風に流され消えてしまった。

「これで我を含め誰もエグザミアの封印は解けぬ。エグザミアが動かぬ以上アンブレイカブルダークも停止したままだ。」
「ディアーチェ…」
「シュテル…いいの?」

 ユーリが絶句している中でなのはが聞く。

「紫天の書とデバイスが残っていては闇の書再生プログラムがいつ動き出さないとも限りません。魔力供給が無ければ私達は消えてしまいますが今の私達には契約者がいますから。それに、本体は3ヶ月前にヴィヴィオとはやてに壊されて先程のは再生プログラムが作り出した仮初めの物です。」 
「うんうん♪ これでもう記憶を封印しなくてもいいよね~、ね、王様♪」
「た、たわけっ! それは言わぬ約束だと!!」
「記憶を封印?」

 はやては聞き返す。

「私達がなのは達の前から姿を消したのは紫天の書と闇の書再生プログラムの再起動を感知したからです。そのままでは私とレヴィはプログラムに従いなのはとフェイトの魔力を全て使い闇の書復活へと動くと考え、契約を破棄し記憶を封印したのです。ディアーチェは私達より深刻でそのまま闇の書の封印を解きかねない危険な状態でした。」
「あの時私の事忘れてたんは…」
「…ああそうだ。まさかエグザミアを狙って来る輩が居るとは予想外だが…だがそのおかげで我らは記憶を開放できた。」
「どういうこと?」
「僕達がユーリの攻撃からはやてとリインフォースを守ってあげたんだぞ!! 偉いだろ~♪」
「「「ええっ!!」」」

 なのはとフェイト、はやて自身も声を合わせて驚く。
ユーリに攻撃を受けたのは後にも先にも紫天の書から出て来た時だけ、あの時はリインフォースが助けてくれたと思っていたが…

「闇の書のマテリアルとして現れた私達でしたが、アンブレイカブルダークの広範囲攻撃からあなた達を守る為に私達は魔力を使い果たし再起動へと入りました。その時ディアーチェが闇の書再生プログラムに介入し停止させたのです。」
「その分再起動が遅れちゃって、出て来てみたら今度はみんな居てビックリした。」
「つまり…私とリインフォースを助けてくれて、それと一緒に闇の書再生プログラムを止めたん? ユーリを助けようと強化プログラムやエグザミア封印用の管制プログラムを用意したり全部私らの為に?」
「そうです。はやて、ディアーチェは再起動の間、ずっとあなたを罵倒し騙したのを悔いていました。また嘘をついてしまったと…」

 シュテルの言葉にディアーチェは慌てる。

「貴様っ、それは秘密だとっ!」
「八神家の家訓では家族に秘密は作ってはいけないと聞いています。ディアーチェ、あなたは八神家の1員ではないのですか?」
「うぐぐぐっ…杖と書を破壊する前に貴様らの口を塞いでおくべきだったわ」
「ディアーチェ、ありがとうな。何度も助けてくれて…それとごめんな…疑ってしもて」
「そ、そういう事だ。ユーリ、お前はここに居ろ。それが紫天の盟主、最後の役目だ。」

 瞳を潤ませるユーリ、でもその涙は悲しみの涙ではなく…

「本当に…本当にここに居ていいのですか?」
「無論だ」
「当然です。」
「勿論♪」
「…はい、ディアーチェ、シュテル、レヴィと一緒にいます♪」

 一筋の涙が彼女の頬から流れ落ちた後、屈託のない笑みをうかべる。それが長き時を越え4人が集った時だった。

  

「ママ、そんなに慌てなくても…オリヴィエさんに治して貰ったんだから」

 甲板でそんな事が起きていた頃、ヴィヴィオはなのはとフェイトにアースラの医務室へ担ぎ込まれていた。ベッドから起き上がる。フェイトはシャマルを呼びに行っている。

「駄目。シャマルさんにちゃんと診て貰って怪我を治して貰うまでちゃんとベッドから降りるの禁止。シュテルから状況聞いてママ達すっごく驚いたんだからね。」

 ジッとこっちを見る。

(…なのはママ本当に怒ってる…)

 咄嗟に考えた方法だったとは言え、ヴィヴィオの絶対防壁【聖王の鎧】をあえて外し自らユーリの攻撃を受けて捕まえ、至近距離で全力のストライクスターズを使った。
 今思い返しても滅茶苦茶だったと思う。

「それにオリヴィエさんの治療は応急処置だって」

少ししか経ってないのに全て知られている。

「シャマルさん連れてきたよっ」
「フェイトちゃん、走らなくても~全くもう、とりあえず…肩を見せて」

 言われるがままバリアジャケットを解除する。ユーリに貫かれた肩を1目見たときシャマルの顔色が一変する。

「走ってきて正解だったわ。ヴィヴィオそのままじっとしていて。左手、絶対動かしちゃだめよ。今動かせば次動かなくなるから」
「「「え…」」」

 ヴィヴィオも真っ青になって左肩を見る。力は入らないけれど赤く腫れているだけだと思っていた。

「リインがこっちに来るわ。私の魔法でもここまで酷いと…。ユニゾンしなきゃ。はやてちゃんの許可も出たわ。」
「そんなに…」

 シャマルがリインとユニゾンする。それは普段の癒しの魔法では手に負えないということ…
 それを知ってなのはとフェイトも更に顔を青ざめた。
 30分後、ユニゾンしたシャマルの治療魔法を2時間もの間に受け続け、ヴィヴィオの怪我は何とか治った。

「ふぅ…ヴィヴィオ、こんな無茶もうしちゃダメよ。それと今日、明日は手を動かさないで。」

 そう言って腕が動かないように固定魔法をかけ、更に首にかけた3角布でつるされる。

「ありがとうございます。シャマル先生」


~コメント~
 もしヴィヴィオがなのはGODの世界にいったら?
ゲームではユーリを含むマテリアルは全員エルトリアに行ってしまいますが、こんな風に残る道もあったかな~という話です。色んなフラグを一気に回収する回でした。
 次回、ついにラストです。

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