第26話 「願い」(最終話)

 その日翠屋のドアには貸し切りの札がかけられていた。
 中からは賑やかな声が聞こえてくる。
 ヴィヴィオやアリシア達異世界から来たアースラスタッフとアミティエ・キリエ、ユーリを含むマテリアル達、未来から来たヴィヴィオとアインハルト、トーマとリリィ、そしてこの時間のなのは達が初めて顔を揃えたのだ。

 カウンターで2人のはやてと嬉しそうに話すリインフォースとリイン、その奥の厨房では桃子・士郎とプレシアに何故かセイン加わり料理を次から次へと作って大皿に盛り合わせる。
 それを美由希・恭也と一緒に手伝う大人のなのはとフェイト。子供のなのはとフェイトが2人の後を追うように一緒に飲み物を持って回っている。
 4人が通った1つのテーブルではスバルとティアナと楽しそうに話すトーマとリリィ。その奥のテーブルにはリンディとエイミィ、グリフィス、ルキノ、双方のアースラスタッフが楽しそうに話しながら料理を食べている。
 大皿が並んだ中央のテーブルではシュテルが4人分の料理を小皿に取り分けてディアーチェ、レヴィ、ユーリが待つテーブルに運んでいる。
 アミティエとキリエも賑やかな中でノーヴェやチンクと楽しそうに話している。 
 重なる事のない幾つもの世界と時間の人が一同に会する。



「みんな…楽しそうだね。」

とアリシアが呟いたのにヴィヴィオは頷く。

「これもあなたが作った未来ですよ。」

オリヴィエの言葉に再び頷く。

「うん。消さなきゃいけない記憶だけど、こんな風に楽しいのもいいよね」

 アミタさんとキリエさん、私達が帰る時、ここでの記憶は消さなきゃいけない。幸いアミタさん達がその機械を持っていて2個ある中の1個貰える事になった。記憶を全て消すと何かの拍子で思い出すから消したい部分だけ曖昧にするらしい。
 でも時間移動が出来る人には効かないかも知れないから、私とチェント、アインハルトさんだけは戻っても話して思い出さないように気をつけるように言われた。
 隣で楽しそうにパスタを食べるアリシアにはちょっとすまないと思う。

「ヴィヴィオ~シュークリーム出来たよ~♪」
「私達の合作だよ♪」
「小っちゃいママとママの合作~♪」
「美味しそうです。頂きます。」

 そんなことを考えているとテーブルに2人のなのはが揃って持ってきてくれた。同じテーブルのヴィヴィオとアインハルトが1つずつ取り食べる。ヴィヴィオも取ろうとするが、右手で届かず左手を動かそうとして固定されているのを思い出す。

「ヴィヴィオ今日は私が手の代わりしてあげる。はいア~ン」

 アリシアが1個シューを手に取って近づける。

「ありがと♪ あ~ん」
「って見せかけて、チェントはい、あーん」

 そのまま反対側に座っていたチェントが食べる。

「んっ…おいしい♪」
「アリシア~!!」
「ごめん、冗談だって♪ はい、チェント♪」
「あ~ん♪」
「アリシア-!!」

 その光景をなのは達とヴィヴィオとアインハルトは笑って眺めていた。



 翌日、オーバードライブの影響が癒えたアミティエとキリエが元の時間に戻る事になった。
 2人の時間移動が原因で飛ばされたヴィヴィオとアインハルト、トーマとリリィは途中で送ってくれる。

「来た時と同じ方法なら新たな交差も作らないでしょう。」

 そう言ったオリヴィエに4人も頷いた。
 ヴィヴィオの肩の傷はまだ治っていない。それに魔力の使いすぎで暫く休まなくてはならない。
 RHdも聖王化の影響を受けていて、アースラでマリエルとシャーリーが直してくれている。だから今すぐに戻るに戻れない。
 6人に対する記憶を消した後、ヴィヴィオとアリシア、なのは、フェイトとプレシア、チェントは見送りに来ていた。

「本当に…ご迷惑おかけしました。これでエルトリアを元通り、綺麗な星にして見せます。」
「そして、自然に溢れた星を博士にも見て貰います。」

 アミティエの手にはオリヴィエの持っていたレリックとプレシアが作った魔力コアとその生成方法、キリエの手には薬の入ったバッグ。

「ヴィヴィオ、なのはママ、フェイトママ…またね」
「うん、ヴィヴィオ今度また模擬戦しようね。今度は私が勝つから。アインハルトさん。また会いましょう。」
「はい。お元気で」
「ヴィヴィオ…もし未来で僕達に会ったら」
「うん♪ 未来に私がいたら仲良くしてね。」
「皆さん、ありがとうございました。」

 6人は手を振って空の彼方へと消えた。


そして………  

「私も…そうですか………ヴィヴィオ、チェント…皆さん、お別れです」

とオリヴィエの体が淡い光を放っていた。

「オリヴィエさんっ!?」
「光ってる…」
「まさか…」
「思念体……」
「…………」

 驚く一同の中で

「……はい。」

 ヴィヴィオは1人頷いた。
 オリヴィエはヴィヴィオ以外の誰とも戦おうとしなかった。
 マテリアルが再び動き出した時も、ヴィヴィオがユーリと戦った時も自ら戦いに加わらなかった。
 ヴィヴィオよりも強くてレリックも持っていたのに使おうとせず、アドバイスをするだけでユーリともヴィヴィオ1人で戦わせた。

 最初は過去から来た彼女が未来に関わる事に関わらない方がいいと考えているのではと思っていた。
 その疑問は事件が進んでいく中でヴィヴィオをある答えへと導く。
 プレシアの使い魔リニス、彼女はフェイト達を助けた時他の思念体にはない意識と記憶を持っていた。
 プレシアの今とフェイト達の成長を見届けたいという強い想いを彼女は持っていた。そしてその想いが満たされた時、彼女は消えていった。
 オリヴィエ・ゼーゲブレヒト、彼女は遠い過去から時空転移を使って来たのではなく…
 ……刻の魔導書が作り出した思念体。
 強く持ち続け死んで数百年経っても消えなかった願い。
 それがヴィヴィオとチェントという自身の遺伝子から作られた者と再び起動した刻の魔導書が呼び起こしたんじゃないかと考えた。
 もしそうなら彼女は何を願ったのか?
 彼女の願い、ヴィヴィオ達に会いたかったという願いと、近い未来で時空転移が起こす災いからヴィヴィオ達を守りたいという願い。
 それらが叶えられた時、残された時間は限られていた。

「…あなた達と会い、寝食を共にし、拳を交えられて本当に心が高鳴るひとときでした。ヴィヴィオ…あなたはあなたの願う未来を進んでください。ゆりかごの聖王…ベルカ聖王の末裔という枷に捕らわれず、私に話してくれた転移の始祖の思いを持って…1人のヴィヴィオとして。それが私の願いです。チェントにはまだ難しいでしょうから彼女があなたくらいになった時、教えてあげてくださいね。」
「うん、うんうん…ありがとう、オリヴィエさん」
「こちらこそ、ありがとう…会えて…本当に…」

 ヴィヴィオの腕の中でオリヴィエは光の粒となって消えていった。



「………」
「………」
「…………」

 ヴィヴィオの背を見守るなのは達は何も言い出せなかった。
でも、ヴィヴィオは頬の涙を袖で拭いて

「……なのはママ、フェイトママ、アリシア、プレシアさん、チェント…アースラに戻ろう。みんな待ってるよ♪」

振り返って笑顔で言った。



 世界は必然が積み重なってできている。

 いくら偶然と思えようと何か理由があるからそこにある。

 必然が連なっているからこそ世界は成り立っている。

 例え幾つもの事象が目の前にあっても、選んだ事象だけが必然になる。

 それがどんな些細な事でも、どんな重大な事でも。

 選んだ必然、それがあなたの進む未来になるのだから。



魔法少女リリカルなのは AffectStory・AffectStory~刻の移り人~ 終



~コメント~
 もし高町ヴィヴィオがなのはTHE GEARS OF DESTINY の世界に行ったら? このコンセプトで新SSを考え始めてからほぼ1年が経ってしまいました。
 THE GEARS OF DESTINY は「時を越えた物語」という題目通り、なのは達やマテリアル達だけでなくVividのヴィヴィオ・アインハルトやForceのトーマ・リリィ、消えてしまったプレシア・リニスが登場します。ASシリーズでは当初から時間・世界を越えた場所での話を書いていたので、これはどうしても行かなければならない世界だと考えていました。しかしその前に解決させておかなければならない問題もありました。
 それがヴィヴィオと聖王の関係です。公式にヴィヴィオの後の話としてVividがありますが、ベルカ聖王をヴィヴィオがどう考えているかの描写はありません。(聖王の鎧はなくなってしまったと書かれたシーンがあったので、聖王については終わったものと考えられているのかも)
 聖王の悩みを考えるなら聖王を出してしまおう。その上でなのはGODの世界へ行くという考えから話を3本に分けました。

 As世界がどんな場所でヴィヴィオは日々どんな風に過ごしているのかを短編集として。
 自身のオリジナル、オリヴィエの登場で本来聖王が居た時間と今を比較し時空転移をこれまでとは異なった視点で見てもらう話としてAffectStoryを、
 そしてそれらから連なった本話、AffectStory~刻の移り人~へ。

 As世界のなのは・フェイト・はやて達は2度目の時空転移、シグナムや元機動6課メンバー、チンクやセイン達は初めて時空転移を経験し、やってきた異世界&管理外世界です。
 この辺りは加えたい話も幾つもあったのですが今回はヴィヴィオに関連する話と事件の本筋のみにあえて絞りました。
 シグナム達とリインフォースの再会やグリフィスがリンディが鉢合わせ、アリサ・すずかとの再会・大人なのは達と子供なのは達のやりとりや、桃子・士郎との対面等々…。

 U-Dとヴィヴィオの強さをインフレさせすぎたり、ゲーム中の会話を使わなければ話が進められなかったりと私自身の力量不足がもう色んな部分で見えてしまってます。本当にごめんなさい。
 もう少しだけ後日談的な話は続きますが、本編はこれでおしまいです。
 最後まで読んで頂きありがとうございました。

それはさておき、今日なのはA'sの劇場版が公開されました。
私は友達と地元の映画館に見に行きました。大阪や名古屋、東京は凄く大変だったみたいですが(静奈君が買い物惨敗したそうで…珍しい)
A'sの再構成版だと思って見に行きましたが…もう色々裏切られました。もちろん良い意味でです。(凄く感情豊かでしたよね)
また闇の書編を書いてみたいです。

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