番外編 「家族の作り方」

 アミティエ、キリエ姉妹と異世界のヴィヴィオ、アインハルト、トーマ、リリィが去り、オリヴィエと別れたヴィヴィオ。
 でもその頃新たな事件は起きていた。

 なのは達と契約したマテリアル達、彼女達は元通りそれぞれ契約者の家で暮らす事になった。
 でもそんな中で…。
「我だ」
「ううん僕、僕が1番いいっ!!」
「いいえ、私です。」

 ヴィヴィオが医務室で怪我を診て貰おうとランチルームの前を通ったところ、中から何か言い合っているのが聞こえた。

(ん? シュテルとレヴィ?)

 ドアをあけて中を覗いてみると、ディアーチェとレヴィ、シュテルが何か言い合っている。
 その横でオロオロするなのはとフェイト、ユーリ。

「なのは、どうしたの? 声通路まで聞こえてたよ」
「ヴィヴィオ、シュテル達を止めて!」
「止めてって??」

 首を傾げ話を聞く。事件は30分ほど前に起きたらしい。
 みんなで食事をしている最中なのはが言った一言が発端だった。

「シュテル、お母さんがまたお店手伝って欲しいんだって」
「はい、喜んで手伝います。ユーリも一緒にどうですか?」
「私ですか?」
「昨日私達が行ったお店です。手作りのお菓子がとても美味しく、皆さんもとても優しく暖かい印象が店内にまで出ている素敵な場所です。一緒に手伝ってみませんか?」
「楽しそうです。シュテルと一緒にお手伝いしたいです。」
「待ったーっ!! ユーリは僕と町を探検するんだ。だからダメっ! ユーリ、さっき町の中見たいって言ってたよね?」

 シュテルの話にレヴィが割り込む。

「は、はい。レヴィ、町の案内お願いします。」
「僕に任せて~♪」 
「待て待て待て、ユーリは我と共に八神家に来るのだ。闇統べる王と紫天の盟主が共に居るのは当然であろう。我が家族も来るのを待っているしはやても承諾している。」
「うん、ええよ~♪」

 更にディアーチェが割り込んだ。 

「は、はい…将や騎士、管制システム、リインフォースとお話したいです。」
「待って下さい。ディアーチェはもう王でありませんし、ユーリも紫天の書が無くなりエグザミアが封印された今、盟主の名も消えました。つまりディアーチェの話には根拠がありません。ユーリ、レヴィの代わりに私が町を案内します。ですから一緒に…」
「待てぃ!! シュテル、大人しく聞いておれば…我は王ぞ!!」
「だから王様はもう王様じゃないって。」
「何だとレヴィ、騒がしく力しか取り柄のない輩が、社の鈴に相応しいわ!! ぶら下がって鳴っておれ」
「!! 言ったな~っ!! 王様だって威張ってばっかりで何にも出来ないくせに~っ!!」
「…なんだと…もう1度言ってみろ!! 鈴頭がっ」 

 そんな感じで一気に状況は悪化しあわやバトルになりかけた。しかし寸前でなのはとフェイト、はやてが主として魔力を抑制してしまい、魔法が使えずデバイスも無い3人は戦いの舞台を口喧嘩に移したのである。

「面白い例えだね社の鐘って。クスクスっ」
「私もちょっと合ってるって思ったけど…そうじゃなくて、ケンカ止めさせなきゃっ」

 再び3人を見る。騒がしいが誰も居ない部屋だし実害も無いから放っておいていいと思う。
 奥に居るはやても同じ考えらしく3人の様子を時折眺めつつ持ってきた本を読んでいる。ヴィヴィオの視線に気づいて手をあげて答える。

「このままじゃだめ? はやては止めるつもりないみたいだよ。それにケンカする程仲がいいって言うじゃない。大体、なのはとフェイトなんかもっと凄かったじゃない。全力全開の魔法ぶつけあって」
「あ…うん…」
「そうだけど…」

そう言うと口を噤んでしまう。2人に比べれば口ケンカだけなら可愛いもの。それに…

(ケンカ出来るって事は3人は違う感情を持ってるって事だもん♪)
「ヴィヴィオ、でもね…ユーリは誰とも契約してない。これでもし契約の話が出て来たら大変だよ。」

フェイトがそう言った直後

「王と盟主は共にあると決まっているのだ。はやてがユーリと契約するに決まっておろうが」
「ダメーっ、王様の家にはもういっぱいいるじゃない。その点僕の家は広くなったからユーリが来ても大丈夫。だからフェイトが契約するんだっ!」
「いいえ、2人の主は私達の前に契約している人がいます。その点なのはは私だけですからかかる負担も少ないです。理を司る私の考えでは3人の中ではなのはが適任です。」
「そんなもの貴様が共に居たいだけだろうが!!」
「そうだそうだ!!」

ホラと言わんばかりに3人の口ケンカが激しくなった。

「なんやなんや?」
「喧嘩?」
「止めなくていいの?」

 通路で声を聞いたのか大人のはやて・なのは・フェイトが入って来た。

「なのはママ、あのね…」

 ヴィヴィオはなのはとフェイトと一緒に説明する。

「確かに3人の言い分は合ってるね。ディアーチェちゃんは王だったから盟主と一緒にいるのが当然、元は夜天の魔導書の中に居たんだし。レヴィちゃんは八神家じゃ狭いからハラオウン家の方が良いっていうのもわかる。隣借りたばっかりだしね。シュテルちゃんの言うとおりここの私はシュテルちゃんとしか契約してないから魔力負担は1番少ない。」
「肝心なのはユーリがどうしたいかじゃないかな? ユーリはどう思ってるの?」

3人の方を向けば少し遠巻きにオロオロしたユーリがいる。

「喧嘩しちゃだめです~」「やめてくださ~い」と言っているが声が小さくて3人には届いていない。あの様子では決められないだろうし、もし決めても他2人の追求されたら…

「なんか本局と管理世界の局員のぶんどり合いみたいやな。肝心のユーリがアレじゃ誰を選択しても角立つか…。でも長引かせたらややこしくなるから手っ取り早く片付けようか♪」

 そう言ったはやてはニヤリと笑みを浮かべた。

(…この笑み…嫌な予感…)

 ヴィヴィオは嫌な予感が過ぎる。

 彼女がこのニヤリとした笑みを浮かべると…決まって何か面倒事を押しつけられる。そしてそれはすぐに当たった。

「なぁ3人とも、ここはヴィヴィオの意見聞いてみるのはどうや? アンブレイカブルダークとエグザミアを止めるのに1番頑張ったのはヴィヴィオとちゃう? このまま口論してて決まらんし…どう?」

 そう言った直後、ヴィヴィオに3人の視線が集まる。さらっととんでもないことを言った。

「確かに…私達では手に負えなかったシステムU-Dを止めて管制プログラムを撃ち込む機会を作ったのはヴィヴィオです。」
「いいよ。ヴィヴィオ強かったから。」
「いいだろう。個奴も王の末裔だ。正しき判断を下すに違いない。」
「えっ、えっ、ええーっ!?」

 端で静観するつもりだったのに、何故か1番重要な事を任されてしまった。

(はやてさん~っ!!)

彼女をジト目で睨むがニヤニヤ笑う彼女はどこ吹く風だ。仕方なく考える。

(3人の中で選ぶとケンカになる…だったら…)
「クロノさんと契約…」
「却下だ!」
「嫌です」
「駄目!」

 即答される。
 この場に彼が居なくて良かった。居たらまた落ち込んでしまうだろう…

「じゃあ…何日か交代で」
「それも却下だ」
「拒否します」
「駄目駄目っ!」

こんな時だけ揃って答えるのだから仲がいいのか悪いのか…
 なのはとフェイトは苦笑いしているし、はやては2人とも笑っている。子供なのはとフェイトはユーリと一緒にどうなるのかオロオロ心配している。
 そんな時

「ヴィヴィオ~医務室でシャマル先生が待ってる…って何してるの?」

 アリシアが入って来た。



「ふ~ん、ちょっと待ってて♪」

 これまでの話をすると何か思いついたのか部屋を出て行き、数分も経たない内に戻って来た。

「レヴィ、シュテル、ディアーチェ、この紙好きなの選んで。選んだら開いて見せて」

 手を開くと折りたたまれた紙が3つあった。何をするつもりなのか全員判らず、3人はそれぞれ紙を取り開くと数字が書かれていた。
 レヴィの選んだ紙には数字の1。シュテルの紙には2、ディアーチェの紙には3と書かれている。

「最初に行くのはレヴィの家…ハラオウン家だね。」
「やったーっ!!」
「こんな物で決めるな。」
「納得できません。」

 喜ぶレヴィとは対象にディアーチェとシュテルが詰め寄る。

「レヴィの紙に1って書いてたでしょ。シュテルは2番目でディアーチェは3番目。」
「だから誰がそんな紙で…」
「知ってる? 魔力共有契約って凄く大変なんだよ。はやては今でも5人、フェイトもアルフとレヴィの2人と契約してる。契約者が増えれば負担も大きくなる。ディアーチェははやてにそんなに無理させたいの?」
「うっ…」
「ですから私が適任ですと」
「なのははシュテルとしか契約してないけど、なのはの家族ってみんな民間人だよね。今日から家族が1人増えます、なんてシュテルだけで決めていいの?」
「それは…」

 2人とも黙ってしまう。

「勿論レヴィもレヴィ1人じゃ決められない。契約すればフェイトに負担かけちゃうし、リンディさん達にも話してないから。でもみんな一緒に居たいのは同じ、だから暫く暮らしてみてユーリが良いと思ったところが良いんじゃないかな?」
「ウンウン♪」

 最初に来るのが判って嬉しいらしくニコニコ顔で頷くレヴィ。

「でも例えばレヴィが何か問題起こして誰かに迷惑かけたら次のシュテル…なのはの家に行く。ディアーチェまで行ってディアーチェが何かトラブル起こしたらまたレヴィの所に戻る。ユーリが他2人の所に行ってる間、邪魔をしたら1回飛ばす。ユーリがその家に居たいと思うまで魔力供給は…クロノさんが駄目なら…リンディさんはどうかな?」

 心の中で拍手を送る。マテリアル達、特にレヴィとディアーチェはまだここの暮らしに慣れていない。クロノからここに来たときレヴィの起こすトラブルがが日常茶飯事だと洩らしていた。その対応策、飴と鞭の飴としてユーリを使ったのだ。

「ユーリ、リンディさんには私から話すけど…どうかな?」
「はい、お願いします♪」

 喧嘩が収まって安心したらしい。

「ユーリがいいなら…仕方ない。レヴィの事だ、1日持たぬわ」
「…そうですね。なのは、先に桃子さんに話をしておきたいのですが一緒に来てくれませんか。早ければ今日にでも1人家族が増えると」 
「なんか窮屈…」

 納得したディアーチェとシュテルとは違いトラブルメーカーなレヴィにしたら何か押さえつけられている気がするのだろう。ここはフォローする。

「う~ん…レヴィ、この前ヴィータさんやおじいちゃん達のスポーツ、一緒にしてたよね。みんな順番にボールを叩いてたけど、待ってる間退屈だった?」
「ゲートボール? ううん面白かった。また来てって言われちゃった♪」
「スポーツってルールがあるから楽しいんだよ。もしみんな好き勝手にボール叩いたら全然面白く無いよ。それと一緒。アリシアが言った問題起こすっていうのは好き勝手にボールを叩く事なの。それにこっちじゃレヴィはユーリより先輩なんだからお手本見せなきゃ。」
「! そうだ、僕は先輩なんだからお手本になる。」

 彼女が納得してその場は落ち着いた。



「流石フェイトちゃんのお姉さんやね、よく頭切れるわ。誰も気づいてなかったんとちゃう? アリシアの目的」

 騒動が収まり、3人で食事をしているとはやてが唐突に言った。

「姉さんの目的? まさかあの紙に細工してあったの?」
「ユーリを使って4人にこの世界の生活に慣れて貰う?」
「ちゃうちゃう、あの紙は誰がどの順番で取っても良かったんよ。生活に慣れさせるのも目的の1つやけどちょっと違う。」

 なのはとフェイトははやての言葉に首を傾げる。

「システムU-D消えて、エグザミアが封印されてもユーリの潜在能力は3人と比べて桁違いに高い。レリック使ったヴィヴィオと同程度…の魔力に耐えられるんやから今でも魔力量だけはSランクくらいある。ここのなのはちゃん、フェイトちゃん、私がそんな彼女と今契約したらどうなると思う? 既にシュテル、レヴィ、ディアーチェとも契約してるから…」
「「あっ!」」
「維持するだけでも大変、魔法使うどころか動くのもきつい筈や。かといってあの時誰か別の人の名前を挙げたら3人は嫌がる。クロノ君みたいにな。そこでアリシアは順番を決めるように見せてそっちに関心を引きつけて3人以外の誰かと契約する状況を作った。中立な立場のリンディ提督の名前を出したら3人とも納得するやろ。さっき後で聞くって言ってたけど、アリシア部屋出て行った時にリンディ提督には先に話してOK貰って戻って来てるやろうね。」
「しかもアリシアが言ってた様にユーリがここで暮らすなら3人は先輩、教える方は自分も学ばんとあかんから今まで起きてたトラブルも一気に減るな~♪。ミイラ取りにならんとも限らんけど、ユーリをローテするからその可能性も低い。」
「そこまで考えてたんだ…私ケンカの仲裁しただけだって思ってた。」
「まぁ単に4人が仲良く過ごせれば良いと思っただけかも知れんけどな」

 そう言いながらも、そこまで考えていなければあの順で話をしないという確信があった。
 先にリンディの話をしたり、注意をしてからではシュテルあたりが先に手を打ちかねないからだ。



「イタタタ…アリシア、そんなこと考えてたんだ…」

 ヴィヴィオは医務室で腕を吊っていた布を外し怪我の状態をシャマルに診て貰ってる間にアリシアからどうしてあんな方法を取ったのか聞いていた。
 聞き終わって息をつく。呆れるほど冴えている。

「まぁね♪ 事件の後でユーリと契約するの誰になるんだろうなって考えてた。高い魔力を持ってて誰とも契約してない人ってリンディさんとクロノさんしか居ないから。」
「そうね~、ユーリちゃんがどれ位の魔力を持っているのか判らないけれど、U-Dだった時はSSランクを軽く超えていたんだから相当なものよね。今の3人じゃ重荷になるのは間違いないわ。」
「クロノさんが拒否されてたからどうしてもリンディさんで納得して貰わなくちゃいけなくて、順番にっていうのもあまり良くないしちょっと強引かなって思ったんだけどね。リンディさんに話したら『いいわよ~』って言ってくれたし。」
「先に聞いてたんだ…凄いね」

 全部アリシアの考えた通り進んでいたのだ。振り返って彼女の顔を見ようとすると肩が動いてしまった。

「まだ動かない。ヴィヴィオも凄いわよ。全員でかかっても勝てるかどうか判らなかったU-D…ユーリちゃんを1人で止めちゃったんだから。それにこれだけの怪我してるのにもう誰かの心配するなんて…やっぱり親子。はい消毒終了♪」

そう言って軽くシャマルがぽんと傷口を叩く。

「!!、!★&#■*%&@」

ヴィヴィオの悲鳴が医務室を木霊した。


~コメント~ 
もし高町ヴィヴィオがなのはGODの世界に行ったら?
なのはGODでは4人ともエルトリアに行ってしまいますが、話の都合上残って貰いました。
(AgainStory2で登場する大人ヴィヴィオが闇の欠片事件に来たのはマテリアルからの聞いた話がきっかけだったりするので…)
 シュテル・レヴィ・ディアーチェが残った世界があるならユーリも残る筈、そうすると…こういうシーンもあったかも… 

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