~刻の移り人外伝~ 第3話 「見知らぬ姉(前編)」

 近い未来時間軸同士の衝突が起こる。
 ヴィヴィオはそれを避けるべくなのは達を連れて異世界の海鳴市にやってきた。これは深刻な事件の傍らで暇を持て余した者達が織りなす少し変わったお話です。


『対象を発見しました。これより排除します。』
『わかりました。10秒後に30秒間結界を作ります。』

 ジャキと音を鳴らし、目標を追尾する。相手はまだこちらに気づいていない。

(思念体の中でも防御が高い方だけど…ここからなら。あと10秒)

 エネルギーをチャージする間、結界展開までの時間をカウントする。

「ゼロ、イノーメスカノン、ファイアッ」
 突然結界が生まれ慌てる高町なのはの思念体に砲撃が放たれ直撃、こちらに気づく間もなく光となって霧散した。

『対象消滅確認。』
『ご苦労様です。ディエチ、交代なのでアースラに戻って来て下さいです』
『了解』

 ディエチは念話でそう答えるISを解除し、ジャケットから私服へと戻り息をついた。
 ここは海鳴市の中でも1番高いビルの屋上。
そこで彼女は現れる思念体を待ち、見つけ次第撃ち落としていた。
相手から見れば結界が作られたのと同時に物理砲撃が襲うのだ。先程消えたなのはの思念体同様、現れる思念体には物理攻撃を防ぐ事が出来る者は1人を除いて居ないし、その1人は姿を見せていない。周囲の目を欺く為に結界を作れば全員が驚いて止まる。その時には彼女の獲物になった後だ。
万が一、逃げられ反撃を受ける事も想定はしているが、彼女にはその心配はない。

「戻らなきゃ…」

 そう言うと立ち入り禁止と書かれたフェンスを跳び越え、ドアの向こうに消えていった。
 


「えっ? ディエチが帰って来ないんですか?」

 それから3時間ほど経った頃、ヴィヴィオが自室でアリシアと話しているとリインから通信が入っていた。

『最後の思念体を倒して結構経ってるんですが、通信にも出ないので…ヴィヴィオ、探して来て貰えませんか』
「わかりました。」

そう答えてアリシアと一緒に部屋を出て転送機へ向かった。


「っと…」

 ビルの影に転送された2人はそのまま道路の方へと出る。

「ディエチが最後に居たのがあのビルで、1番近い転移座標がここだから…」
「ビルの方に向かえば見つかるんじゃない?」

 そう言って2人がビル街へと向かおうとした時、反対側の方でオオーッと歓声が聞こえた。アリシアと顔を見合わせ、声の聞こえる方へ行ってみる。

「子供が溝に何か落として、姉ちゃんがそれを探してるんだとよ」
「すっごい力持ちだよね~片手でフタを持ち上げちゃうんだから、アレ凄く重いんでしょ」
「……」
「……ヴィヴィオ…もしかして…」
「…だよね…」

 そんな人離れした行動が取れるのは…彼女しかいない。

「すみません、ちょっと通してください」
「ごめんなさい~」

 人だかりを縫うように前に出ると…溝のフタを片手でひょいひょい持ち上げて何かを探すディエチが居た。彼女の奥で目を丸くしてその様子を見る少女。

「ディエチ、なにしてるの?」
「陛下、彼女が大切な物を落としたと泣いていたので…」

横で見ている少女が落とし主なのだろう。

「騒ぎになっちゃってて、このまま帰れないし…手伝おうっか」
「そうだね。私達も手伝うよ」

 アリシアと頷き合い溝の中を探し始める。


それから20分後

「おねーちゃん達ありがと~」

 無事に見つかって少女は笑顔を取り戻し手を振って去っていった。

「私達も帰ろっか」
「ねぇ君」

 近いゲートへと向かおうとした時呼び止められたような気がして振り返る。すると1人の男性が小走りでやって来た。

「さっきお姉さんがこれを忘れていっちゃったんだ…渡してくれないかな?」

 そう言ってアリシアに小さなポーチを渡す。

「お姉さん? フェイトのかな…?」
「頼んだよ。」
「えっ、あっ!!」

呼び止める間もなく彼は行ってしまった。

「フェイトママこんなの持ってたかな?」

 首を傾げる。

「フェイトさん…私と交代して今は待機してる筈…」
「じゃあ誰の?」

アリシアとディエチも首を傾げた。



その頃…

「お姉ちゃん、こんな時に忘れ物するなんてっ」
「ごめんなさい~だって凄く美味しかったんだもん。あっ居た。すみません~」

 20年前の時間で忘れ物をするなんて大失態だ。中を見られても大した物は入ってないけれどそれは管理世界での話。ここは管理外世界だから…流石にまずい。
 少し先を歩いていた男性に声をかける。

「さっき私忘れ物しませんでした。小さなバックなんですけど…」
「ああ、さっき妹さんに渡したよ。やっぱり近くにいたんだね」
「えっ妹?」
「髪を2つに分けてリボンで結んだ子、少し前までそこにいたんだけど…」

 私に似ていてリボンをしてて一緒に妹に似た子が居る…まさか…
脳裏を過ぎる少女の姿…幼いヴィヴィオが来ているなら同い年の彼女が居てもおかしくない。

「ありがとう、近くにいるみたいだから探してみます。」

 そう言って彼と別れた。
 そして数分後、2人は探していた彼女達を見つける。手に持っているのは私のバッグ。思い描いていた最悪のパターンだ。
 隣に居た妹も引きつった笑みを浮かべている。

「どうしよう?」
「取り返すしかないでしょ。船に戻る前に」

こうして私達のポーチ奪還作戦は始まった。



「フェイトに聞こう」

 アリシアは見知らぬ男性から姉が落としたポーチを受け取った。でもアリシアにはお姉さんは居ない。唯一思い当たるのはフェイトママだけど…
 アリシアがペンダントを出したのを見て、止める。

「町中じゃまずいでしょ。待機中なら邪魔しない方がいいんじゃない? もうすぐ交代時間だからアースラに帰ってから聞いてみよ」
「そうだね。じゃあ転送ゲートまで行こう。すぐ近くだし。」


「ねぇお姉ちゃん、転送しちゃうんじゃない?」
「うん、わかってる。わかってるんだけど…どうしよう?」

 アースラの中に入られては手出しが出来ない。ポーチの中を見られてないのが不幸中の幸いな位。
中を見られてはここに居るのがばれてしまう。

「どうするの?」
「う~ん…あっ♪」

 目の前の彼女を見てあるアイデアが閃いた。



~コメント~
もしヴィヴィオがなのはGODの世界にやって来たら?
本編はシリアス展開が多かったので、外伝は軽めなSSを目指しています。


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