~刻の移り人外伝~ 第5話 「機動6課●物語」
「ヴァイスさん、僕達と一緒に釣りしませんか?」
ある日、格納庫でアースラの機材をチェックしているとエリオが声をかけてきた。彼の手には釣り竿が握られている。
「いや、いいわ。まだチェックが残ってるからな。」
「そうですか。甲板にいますから終わったら来てください。」
「オゥ、サンキュな」
そう言うと格納庫から出て行った。
「…元気だな。エリオも…」
ある日、格納庫でアースラの機材をチェックしているとエリオが声をかけてきた。彼の手には釣り竿が握られている。
「いや、いいわ。まだチェックが残ってるからな。」
「そうですか。甲板にいますから終わったら来てください。」
「オゥ、サンキュな」
そう言うと格納庫から出て行った。
「…元気だな。エリオも…」
数日前、教導隊に復帰していたヴァイスに上司で先輩の高町なのはから呼出があった。
ある事件で少しだけ手伝って欲しいらしい。
任務内容を教えられないのを訝しげに思いながら指示された通りミッドチルダの臨海空港跡へと赴いた。
そこにはなのはだけでなくはやてやフェイト、スバルやティアナ、アルトや整備スタッフの面々、ノーヴェ達元ナンバーズが集まっていた。整備スタッフも同じ様に呼び出され任務を教えられずここに来て欲しいとだけ伝えられたらしい。
そうして全員が集まった後ではやてからこの時間が消えてしまうかも知れないという事を伝えられた。
「まさかこんな昔に来るとはな…ここの俺はエリオくらいか…」
ヴィヴィオだけが使える魔法、時空転移。半信半疑だったが実際に連れてこられたら言葉もない。
だから余計に考えてしまう。
「はぁ…ったく…らしくねぇ…」
機材チェックは何度もやっている。急いでする任務でもない。
今日何度目かのため息をつく。
「ヴァイスさん、どうしたんですか? ため息なんてついて」
「ティアナ…」
振り返ると私服姿のティアナが立っていた。
「まさか時間を越えてこんな所に来るとはなってな…話しても誰も信じちゃくれねえだろ。何て言い訳しようかって考えてたんだ。」
「そうですか…てっきり悩んでるんだと思いました。」
「アハハハハッ 俺が悩む? 何にだ」
思わず笑ってしまう。しかし彼女はそんな自分の瞳から目を離さず
「過去の失敗、ラグナちゃんとの事、悩んでませんか?」
「っ!!」
そう言ったティアナにヴァイスは言い返す言葉を失った。
時間移動魔法、時空転移という魔法を聞いた時から消えたと思っていた思いが再び生まれていた。
「…どうして…わかったんだ?」
「アルトや整備班のみんなから聞いたんですよ。こっちに来てからヴァイスさんの様子がおかしいって。でもみんな心当たりがなくてアルトが私に相談してきたんです。」
「ったくあのスピーカー娘がっ」
悪態をつく。
「ああそうだよ、お前の言うとおりだ。」
ラグナ・グランセニック。ヴァイスの年の離れた妹。
武装隊所属時、ある事件で人質にされた彼女を誤って撃ってしまい彼女の片眼から光を奪ってしまった。そして彼にとってもそれは取り返しの付かない心の傷になってしまった。
そのせいで再びストームレイダーを構える事もスコープを覗く事も出来なくなり、自ら進んで武装隊から離れ縁のないミッドチルダの整備スタッフへの転属を希望した。
転属理由には書かれていなかったがその事件が発端だった事も、その後ラグナと顔を合わせなくていいという彼の逃避行動だという事も武装隊のメンバーには知られていた。
それから時は流れ、なのはやシグナムからの要望を受けて機動6課へも整備スタッフとして転属した。
だがJS事件において隊舎襲撃の際トラウマが仇となり隊舎を守れずヴァイス自身も重傷を負ってしまい、幸か不幸かその時見舞いに来たラグナと久しぶりに話をし、今は少しずつ打ち解けている。
だが…発端の誤射…事件が起きなければ?
「時空転移の話を聞いてからずっとこびりついて離れねえんだ。もしあの時撃たなかったら、あの事件が起きなければ、俺はラグナに寂しい思いをさせずに済んだんじゃないか…。帰ったらヴィヴィオに頼んで事件前に連れて行ってくれと何度も頼もうと考えた位だ。こんな悩み…俺らしくねぇだろ?」
ここに来てからヴァイスは無意識に彼女の影を探していた。
「クスッ、全くです。」
洩らした本音をティアナは笑う。
「ティアナ、俺がまじめに話してるんだぞ」
「すみません。だってヴァイスさんらしくないですよ。そんなことで悩むなんて。」
「俺らしくって…俺もまじめに考える時くらいあるわっ!」
「以前ヴィヴィオに聞かれたんです。『もし兄や家族が生きていたらどうしますか?』って…」
言われて気づく。ティアナは兄を含め家族も既に亡くなっている。
「私も何の冗談かと思って思わずスープを吹き出しちゃったんですが、ヴィヴィオが真剣な表情で聞いてきたから考えて答えました。」
生きていたら、会いたいだろうし一緒に居たいと思うのは言わなくてもわかる。
「何て…答えたんだ?」
「『私はここに立って居ないんじゃないか』って。家族もそうですが、兄が居たから管理局を目指して…あの事件があったから執務官を目指して、スバルと会って機動6課に入って…フェイトさんの執務官補佐になって今は執務官になってここにいます。そんな色んな事が積み重なって今私がここにいるんです。ヴァイスさんも一緒ですよ。」
「俺が? ティアナと? 1発で執務官試験に合格したエリートと一緒な訳ねぇよ」
壁を逃げた自分と幾つもの壁を乗り越えてきた彼女とでは比べる事すらあつかましい。そう思いヴァイスが笑う。
「同じですよ。あの時ヴァイスさんが怪我を押して助けてくれなかったらディードやウェンディに倒されてました。そうするとなのはさんやヴィヴィオさん、はやてさんも助けられなくて…結局ヴィヴィオはここに居ないかも知れません。だから同じです。」
些細な事が幾つも積み重なってその結果が現在になっている。もし~なら~とか考えれはその未来は無限に変わるだろう。そんな未来まで見ようなんて考えたら…
「…俺にはわかんねえな…」
「クスッ、私もわかりません。でもどれだけ沢山の未来があっても今は今なんですから楽しみましょうよ。そんな事で悩んで時間を使っちゃうなんて勿体ないですよ。」
(俺らしくない悩みか…全くだ。)
彼女に言われて今まで悩んでいた事が馬鹿らしくなる。
「そうだな。じゃあ一緒にその辺ぶらついてみるか。ティアナ、前にここ来てるんだろう? 案内してくれよ」
「はい♪」
そう答えるとヴァイスは格納庫の重い扉を開け出て行く。ディアナも彼の後を軽やかなステップで後を追った。
~コメント~
もしヴィヴィオがなのはGODの世界に行ったら? 以前の機動6課●物語After的な話です。
なのはやフェイト、はやては既にヴィヴィオが時空転移魔法について知ってますが、大多数の元機動6課メンバーにとっては初耳です。スバルやティアナだけでなくヴァイスも過去の傷を持っています。もしその傷を治せる可能性が目の前に居たら? 割り切った彼女達とは違い割り切れない心の葛藤と2人の距離感が良い感じに出ていれば嬉しいです。
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