~刻の移り人外伝~ 第6話 「星の交差」
「んしょっ…うん、これでよしっ♪」
鏡の前でいつもの様にリボンを付けてニコッと微笑む。
隣の机に置いたフォトスタンドが目に止まり手に取る。そこには騎士甲冑をボロボロにしているのに笑う私が映っている。
そんなに日が経っていない筈なのに何故か懐かしさを感じる。
「ヴィヴィオ~、朝ご飯出来たよ~」
「は~い…行ってきます。なのは、フェイト。は~い、今いきま~す。」
私と一緒に写っている彼女達に言ってドアを開けて出て行った。
残されたフォトフレームにはヴィヴィオを挟む様に2人も写っていて同じ様にバリアジャケットをボロボロになっているのに笑っていた。
鏡の前でいつもの様にリボンを付けてニコッと微笑む。
隣の机に置いたフォトスタンドが目に止まり手に取る。そこには騎士甲冑をボロボロにしているのに笑う私が映っている。
そんなに日が経っていない筈なのに何故か懐かしさを感じる。
「ヴィヴィオ~、朝ご飯出来たよ~」
「は~い…行ってきます。なのは、フェイト。は~い、今いきま~す。」
私と一緒に写っている彼女達に言ってドアを開けて出て行った。
残されたフォトフレームにはヴィヴィオを挟む様に2人も写っていて同じ様にバリアジャケットをボロボロになっているのに笑っていた。
それはアミタさん達が元の時間に帰って、オリヴィエさんが消えてから数日が経った頃
「肩の怪我もういいわね。」
「ありがとうございます。シャマル先生」
腕に巻かれた包帯を外しながら彼女が言う。ベッドを椅子代わりにしてヴィヴィオはペコリと頭を下げる。
数日前にあった砕け得ぬ闇-U-Dとの戦闘でヴィヴィオは左肩を貫かれる重傷を負った。なのはとフェイトを青ざめさせ、治癒魔法が得意なシャマルだけでは治せないと1目見て判断した程の怪我。リインフォースとのユニゾンを使い更に長時間の治癒魔法を使っても治しきれず、ヴィヴィオは数日間肩を動かさないようにきつく言われて3角布で吊っていた。
その布も先日ようやく外れて、今日は最後に巻かれた包帯も外された。
ブンブンと腕を振っても痛みも何もないし自由に動く。数日動かしてなかったからちょっと重い気がする。でもこれ位ならもう出来る筈だと拳に力を込める。
「シャマル先生。」
「なあに?」
「あの…治っていきなりなんですが…模擬戦しちゃだめですか?」
「………」
「………」
「……はぁ~…」
「えっ?」
こっちを見て何と言っていいか判らない様な表情でため息でつかれてしまった。何か変な事を言っちゃったのかと慌てる。
「全く…こういうところはフェイトちゃんに似たのかしら…すぐ模擬戦って…誰とするつもりなの?」
「なのはママ、ここのなのはです。前に約束していたから」
「なのはちゃんと約束?」
これはここで私がして残った最後の約束だから…
「あの…治っていきなりなんですが…模擬戦しちゃだめですか?」
機材を片付けようとしたとき、シャマルはヴィヴィオからの相談を受けた。
「……はぁ~…」
ため息しか出なかった。
普段の彼女の素振りを見ていると気づかないのだけれど、時々彼女の後ろに誰かの姿が見える時がある。誰かの為なら危険を省みずに飛び込んで行く時は彼女の母、高町なのはが…そして今みたいな時はもう1人の母、フェイト・T・ハラオウンの姿が…
「全く…こういうところはフェイトちゃんに似たのかしら…治ってすぐ模擬戦って誰とするつもりなの?」
「なのはママ、ここのなのはです。前に約束していたから」
「なのはちゃんと約束?」
聞けばここの時間で砕け得ぬ闇事件が起きる3ヶ月前
刻の魔導書に導かれヴィヴィオ達はやってきて事件が起きる迄ヴィヴィオは高町家で過ごしていて擬戦の約束はその時にしたらしい。
「ここ、私達の時間と違う世界ですし次はいつ来られるかわかりませんから…」
もう1人の家族リインフォースが居て闇の書の中に眠っていたマテリアルと更にその奥で封印されていたユーリが居る世界。シャマルが知る過去とはかけ離れた世界。
ヴィヴィオの言う通り何度も来られる世界じゃないし彼女の怪我が治ったという事は元の世界に戻る日もすぐに決まる。
「ダメでしょうか?」
少し考える。模擬戦なら怪我をする様な事はないけれど熱が入りすぎてリンカーコアを消耗させて戻るのが延期になるのは避けたい。でも彼女が約束してしたいと思うのもわかるからいいわよって言ってもあげたい…ここは彼女達に任せた方がいい。
「そうね~なのはちゃん、フェイトちゃん、はやてちゃんとリンディ提督が良いわよって言ってくれたら…いいんじゃないかしら」
そう答えると彼女は凄く嬉しそうに笑って
「♪ ありがとうございます。ママ達に聞いて来ま~す」
椅子代わりに座っていたベッドから飛び降りて出て行ってしまった。
「…あんな顔されちゃったら駄目なんて言える訳ないじゃない。無茶しなきゃいいけれど…きっとするわね…」
ヤレヤレ顔で彼女が出て行ったドアを見ながら呟いた。
「子供の私と模擬戦?」
「いいんちゃう?」
『そうね~、この前は簡易結界しか作っていなかったけれど、今は次元震用のフィールドユニットもあるし』
「良いんじゃないかな。」
ヴィヴィオはなのは、フェイト、はやてを探して艦橋へ行ってみると、3人は隣で停泊しているアースラのリンディやエイミィと話していた。
「なのはママ…だめ?」
「う~ん…いいよ。その代わり、中止って言ったらすぐに止めること。ヴィヴィオもそうだけどあっちの私が怪我しないように注意すること。」
「うん♪、じゃあ今からなのはに話してくる」
そう言って艦橋を嬉しそうに飛び出していった。
「…なのはちゃん、いいん?」
「うん、ヴィヴィオ…わかってるんじゃないかな。また来るって言っても今度はいつ来られるかわからないから約束守りたいんだと思う。それに…」
「それに?」
「シャマルさんとマリィさんから教えて貰ったんだけど今までヴィヴィオが何かの事件から帰ってきた時と違うんだって。」
ヴィヴィオのリンカーコアは全力を出した後必ず1週間くらい休まないと戻らなかった。彼女のデバイスRHdも相応のダメージを受けていてその都度丈夫なフレームに交換していた。しかし今回の砕け得ぬ闇、ユーリとの戦闘ではそれらの兆候は見られなかった。
ヴィヴィオは肩に大怪我をしたが、彼女の体に異常があったのはむしろそれだけでリンカーコアもそれ程消耗しておらず、少し魔法を使いすぎた程度の疲労。RHdもフレームには傷1つなく、消耗部品を交換しただけで済んだらしい。
それを聞いたフェイト、はやて、リンディは目を丸くする。
『2隻分の対次元震フィールドを使ってようやく抑えられた魔力、影響がその程度で済むなんて…信じられないわね』
「はい、私も聞いて驚きました。」
リンディの言葉に頷く。
「レリックにはベルカ聖王の能力を安定させる力があるのでしょう。」
振り返るとシグナムが立っていた。
「シグナム、どうしたん?」
「上陸許可を頂けないでしょうか。こちらのシグナムが恭也氏と剣を交えるので一緒に行かないかと誘われまして。」
過去とは言え自分と戦える時なんてない。更になのはの兄とも練習が出来るのだから行きたいのだろう。
「ええよ~、でもこっちのシグナムと一緒に居たら騒ぎになるからその辺気をつけてな。それはそうと、さっきの安定させる力って?」
「ヴイヴィオが騎士甲冑を使った時に起きる魔力上昇は暴走していたからだと聞きました。ヴィヴィオはテスタ…プレシア・テスタロッサから教えて貰ったそうです。その彼女がユーリとあれだけの戦闘をして影響が軽微なのは今までと違う力を手に入れたからではないでしょうか。」
ヴィヴィオが暴走状態だった事を聞いてなのはは絶句する。
教導隊に所属して今まで何人もの魔導師を指導してきた。いくらヴィヴィオとRHdの関係が特殊とは言え暴走状態だというのに気づいていなかった。
事件が終わって帰ってくる度にリンカーコアを酷く消耗させていたのはスターライトブレイカーの反動だと思っていた。
RHdのメンテナンス報告を貰っていたのに気づいてなかった。
「わ…私…気づかなかった。増幅魔法の負荷で使用者とデバイスに影響あるの…知ってたのに…」
「ええんちゃう?」
「えっ?」
「なのはちゃんが心配してもヴィヴィオが解決方法見つけるしか無かったんやし、それにもう見つけてる。丁度いいな、模擬戦のモニタリングをプレシアさんとマリィさんにしてもらおう。フェイトちゃんシャーリーにも手伝って貰いたいんやけど…」
「うんいいよ、シャーリーには私から話すよ」
「プレシアさんには…なのはちゃんから話してな」
「……うん、わかった。」
そんな話がされていた頃、アースラ内の自室に戻ったヴィヴィオは早速RHdでレイジングハートを呼び出していた。
『ヴィヴィオ~どうしたの?』
「ちょっとお話があって」
『そうだ、ちょっと待って…』
そう言うと念話から端末通信モードに切り替わり、モニタが現れ青空が映る。
『今みんなでお弁当食べてたんだよ♪』
「学校だったんだ。ごめ…」
『ヴィヴィオ? 何これ凄いじゃない!! これも魔法?』
『ヴィヴィオ? おね…アリシアもいるの?』
『ヴィヴィオちゃん、こんにちは』
アリサとフェイト、すずかが次々モニタに映る。
「こ、こんにちは。なのはいいの? アリサとすずかに見せちゃって…」
『うん、今は4人しか居ないしアリサちゃんとすずかちゃんには魔法の事話してるから。』
『えっ、じゃあヴィヴィオも魔法使い!?』
話どんどん逸れ始める。それに気づいてなのはが元に戻す。
『ヴィヴィオ、お話って何?』
「前に約束したよね。模擬戦しようって。怪我も治ったしデバイスも直ったから今日、夕方の練習でどうかなって。ママ達とリンディさんから許可も貰ったよ。」
そう言った直後、アリサとフェイトの顔を押しのけアップになったなのはの顔迫っていた。
『するするする~♪』
『いいな~なのは。ねぇヴィヴィオ私とももう1回…』
「いいけど、なのはの後だから…」
なのはとの模擬戦、それは全力全開の後に更に…それに元に戻ったと言うことは元の世界、時間に戻ることを意味している。あくまで模擬戦だから無理は出来ない。
「ちょっと難しいかな…」
『じゃあさ、みんなでしようよ♪』
「えっ?」
『えっ?』
それから日は沈んでいって…
「は~い順番だからね~。急がなくても全員分あるからちゃんと並んで~」
「飲み物まだ貰ってない人居ませんか~?」
「まさか僕達がまた焼きそば作る事になるなんて…」
「いいじゃない、お祭りみたいなものなんだから」
「「「「………」」」」
煌々とした明かりが照らされる甲板。目の前に異様な風景が広がっていてヴィヴィオ達は良い言葉が見つからず唖然と立っていた。
『そんな面白そうな話聞かせて、見れないなんて言わないわよね』
『私もなのはちゃん達の魔法見てみたいな~』
そう言ったアリサとすずか、そしてシグナムを通じて聞いたという高町家の面々はシートを敷いて持って来た飲み物やお菓子を並べているし、少し離れたところでセインとウェンディが大きな鍋を持ってきて香ばしい香りと音をたてているし、隣でエイミィとクロノが焼きそばを紙皿に盛っている。
艦長2人がお祭り好きだという事を忘れていた。
「まぁ…いいんちゃう?」
「はい、見学させて貰います。」
「フェイト、頑張れ~負けるな~!」
ヴィヴィオは目の前で旗を振るレヴィに引きつった笑顔を浮かべていた。
「ヴィヴィオの足引っ張ってしまうから私は応援するよ。ディアーチェ私の代わり頼むな。」
「なぬっ!?」
フェイトを加えたチーム戦を提案したなのはとヴィヴィオは真っ先にはやてに聞いた。しかし彼女は断りディアーチェに参加を勧める。
そして…
「私とレヴィが出てはなのはとフェイトが全力を使えません。」
「僕達の分も頑張って!」
なのはとフェイトと契約しているシュテルとレヴィも参加せず。ユーリは契約直後で魔力運用がまだ上手く出来ないからと断られ…
「私らが出たら現地組とわからなくなるからな。しっかり見させて貰うぞ」
「我らが参加すればあちらの我らも参加したいと言うだろう。」
双方の守護騎士達も同じ理由で参加せず
「空戦がメインになるから僕達も応援するよ」
スバルやエリオ達も参加せず
「なのはさん、フェイトさん相手に模擬戦!?…ゴメン無理」
「空中ではヴィヴィオの足を引っ張ってしまう」
顔を青くしたディエチとチンクもそう言いい元ナンバーズ組も参加しない…
「ママ達が出ちゃったら目的が変わっちゃうから応援するね」
大人のなのはとフェイトも参加せず。
「マテリアル、ディアーチェが出るん? じゃあこれ使って」
とはやてからシュベルトクロイツを受け取ってしまった。はやても参加せずディアーチェが使えるデバイスが手に入った。
「私達…嫌われてるのでしょうか?」
声をかけた全員から何か理由をつけて断られた。隣に居るなのはとフェイトも気まずそうな顔をしている。
「う~ん…多分見たいんとちゃうかな? なのはちゃんとフェイトちゃん、ヴィヴィオちゃんにディアーチェが競うところ。参加したら見れへんやろ?」
ヴィヴィオとしてははやての言葉を信じたかった。
かくしてなのは&フェイトの現地Asコンビとヴィヴィオ&ディアーチェの元王様コンビという異色対決が決まった。なのはとフェイトに対してヴィヴィオとディアーチェはコンビネーション訓練どころか一緒に戦ったのも殆どなく
「私、サポートね~♪」
アリシアが2人の連携をサポートしてくれる事になった。そして
「魔力限定に絞ったらここのなのはちゃんとフェイトちゃんがどれだけ頑張ってもヴィヴィオの鎧は抜けんからな、ヴィヴィオは反応できひん攻撃を受けたらダウン判定な。判定はなのはちゃんとフェイトちゃん、ヴィータとシグナムでするから。」
はやての言った通り聖王の鎧があると模擬戦が成立しない。
それこそエグザミアを開放したユーリ辺りが出てくれば別だけれど…
「なのは、どうする?」
バリアジャケット姿に変わったなのはにフェイトが相談する。
「ヴィヴィオとディアーチェは初めて組むんだし合わせよう。フェイトちゃんと一緒にっていうのちょっとずるいよね? 途中で交代出来るタイミングがあれば交代しよ」
「そうだね。わかった。」
一方でヴィヴィオの所にはディアーチェとアリシアが揃っていた。
「なのはとフェイトが2人一緒になったら勝ち目無いよ。だから1対1を基本にしよう。フォローする時は必ず念話で言うこと。戦闘中は気づかない事なんていっぱいあるんだから仲間割れしても仕方ないもん。2人を出来るだけ離していこう」
「うん」
「ああ」
「よろしくね、ディアーチェ」
ヴィヴィオが手を差し出すと
「き、貴様と共に戦うのははやてがまだ魔法を使いこなせぬからだ。勘違いするなっ」
その狼狽え様がおかしくてクスッと笑う
「うん、はやても見てるから一緒に頑張ろうね♪」
そう言って半ば無理矢理手を取って握手した。
海上に作られた仮想都市に移動するとモニタにはやてが現れた。後ろにリンディも居る。
『一応お約束、攻撃は全て魔力ダメージ限定、戦闘範囲は仮想市街とその上空。結界越えたら離脱判定、勿論壊すのも禁止な。なのはちゃんとフェイトちゃんは予備カートリッジは4つまで。ヴィヴィオの鎧判定はさっき言った通りな。ディアーチェは…こっちの私に無理させん程度にな。』
4人は頷く。
『それじゃあ始めっ!!』
はやてのかけ声と共に4人は飛び立った。
~コメント~
もし高町ヴィヴィオがなのはGODの世界に行ったら?
模擬戦を含めてフェイトとは何度かしていますが、なのはとヴィヴィオは初めてだったりします。シリアスな戦いばっかりじゃなくて競い合う楽しさというものも面白いですよね。
次回作ですが、骨子がほぼ出来上がりました。今の時点でほぼ全てのフラグを回収しているので、新たな気持ちで進めたいと思っています。
Comments