18話 ルシエの巫女(前編)

 キャロとフリードが仲直り(?)してから数日の間、機動六課も平和な日々が続いていた。
 特にキャロ・ヴィヴィオ・フリードの2人と1匹は隊舎の近くで遊ぶことが多くなった。
 時折シャマルが検査を兼ねてキャロとヴィヴィオに簡単な勉強を教える事もあった。
 その間エリオはザフィーラと一緒にキャロ達を眺めたり、エリオ自身が知らなかった事があったときは真剣に聞いて授業に参加する事もあった。
 一方フェイトは一時的なりとも元気に笑うキャロを見て複雑だった。眺めていると

『本当のキャロもこういう風に一緒に暮らしたかったのかな』とか『いつも無理をさせちゃってたのかな・・・』という悲しさと
『最初は怖がってばっかりだったのにすごく元気になった』
という嬉しさを感じていた。
 それでも年齢なりの姿で遊ぶキャロ達を見ることが出来たのは本当に良かったと思っていた。


 しかし、なのはやはやて達は悠長な事を言ってられる状態ではなかった。
 フェイトが捜査に参加した時点でライトニング分隊がシグナムのみとなることになる。なのはのスター分隊とロングアーチでレリックやガジェットドローン・そしてホテルで確認された召喚師とまだ隠し手がある相手への対策にはやては頭を抱えずにはいられなかった。


 部隊長室で思わずぼやく

「慢性的な人員不足や~っ!」
「でもっいざとなればリインもっ」

 隣の席に座っているリインがフォローするもリインの言葉は右から左に抜けていっている様ではやての耳には入っていない

「フォワード系の前線人員は何とかなっても後衛と回復系がな、うちも広域系は得意やけど・・・」

 背伸びを師ながら言いかけていた所でピンと閃く。

「そや!今度ユーノ君が来た時に出向扱いで暫くいてもらお!なのはちゃんも喜ぶし何よりキャロの話も・・・名目はレリックの詳細情報収集ってことで!うんいけるっ!ユーノ君元々結界や回復系得意やし」
「えっ?ええっ!!」

 いきなりの発案にリインが驚いている間にも、はやては早速連絡を取った。
 元々思い立ったが即動いてしまうのは八神はやての長所でもあり短所でもある。過去にこの行動力で助けられた事もあったが、それ以上に窮地に立った事も多々あった。

 今回はこれがどっちに働くのか・・・

「はい、あらはやてさん。久しぶり」

 はやてはモニタ前で一度敬礼する

「ご無沙汰しています。ハラオウン統括官」

 モニタにはクロノ・フェイトの母親リンディ・ハラオウンが映っていた

(はやてちゃん、ユーノさんに連絡いれないでどうするつもりですの???)

 首をかしげているリインを置いてはやては話を切り出した。

「どうしたの、今日はいきなり?」
「リンディ統括官、実は少しお願いと相談がありまして」
「何かしら・・・」
「あのですね、」

和やかに話すはやてとリンディ

「あわわわ・・・・」

 しかし、それは端で見ているリインにとっては凄まじい狸と狐の化かし合いであり、自らの名前通り「蒼く」なって見ている事しかできなかった。



「ねぇお兄ちゃん?」
「どうしたの?キャロ」

 それは更に数日が経った日の夜、エリオとキャロがベッドで横になった時だった。

「あのね・・・もう1人の私の事、知らない?」
「えっ?もう1人のキャロ」

 エリオはキャロの方を振り向く。

「うん。私、前はお兄ちゃんと一緒に仕事していたんだよね?デバイス・・【ケリュケイオン】とかフリードも私の召喚獣だって・・・」
「誰から聞いたの?」
「アルトさんが少しだけ話してくれたの、あと、タントさんって人から私宛にメールも来てて、そこにフリードの事も・・・。
 でも私・・・全然覚えてないからお兄ちゃんが知っている事があれば教えて欲しいの」

 真剣な眼差しで見つめる。エリオは戸惑った。それはフェイトから『キャロが情緒不安定になったら【魔力暴走】が起こるかもしれない。だから過去の事とかあまり教えない様に』と口止めされている為だった。

(どうすれば・・話逸らせられるか・・・このまま考えた風にして寝てしまう・・・いやダメだ間違いなくキャロは起こしにかかるだろう。それじゃ明日フェイトさんに聞いて・・・これもダメだ。フェイトさんレリック捜査で忙しいのにこんな事で困らせるのはまずい・・・)

 考え込むエリオ。ふとエリオが気づいた時

「クスクスクス」

と笑う声が聞こえた。
 我に返ったエリオが見るとキャロが手を口にあてて笑いをこらえている。

「お兄ちゃん、おかしな顔いっぱいするんだもん・・クスクスクスッ」

 どうやら悩んでいた事が顔に出ていたらしい。少し恥ずかしくなった。落ち着いたキャロが

「もういいよ、お兄ちゃんを困らせたくないし。みんなに聞いてみるから、おやすみなさい」

と反対側を向いた。

(このままじゃ、誰かが言ってしまうかもしれない・・・そうすればキャロはまた・・僕がなんとかしないと・・)

 エリオは決意し、そっとキャロを後ろから抱きしめる。

「えっ!お・・お兄ちゃん?」

 体をビクッと硬直させるキャロ、エリオにもキャロの声が響いた

「あのね・・キャロ、今から話す事を聞いて欲しいんだ」
「う・・うん」

 キャロの心臓の音がエリオにも判るくらい鳴っているのがわかる。 キャロも自分自身の鼓動が大きくなっているのが聞こえているだろう。

「あのね・・少し前は言った通り僕とキャロ、フェイトさんとシグナムさんは一つのチームだったんだ。今のなのはさんやヴィータさん・スバルさん・ティアナさん達みたいに。」
「うん・・・」
「ある日僕たちが出かけた所でキャロがみんなを庇って怪我しちゃったんだ。すぐに病院へ行ったんだけど・・」
「あ・・・」

 気づくキャロに続けて話すエリオ

「そう、キャロが知ってる病院がそう・・・その時にね先生に言われてるんだ『自然に思い出すから無理に思い出さない様にしてあげて』って」

 エリオはこの『嘘』をキャロの真摯な瞳に見つめられて言うことは出来なかっただろう。でも、言わないとキャロが同じ事を起こしてしまうかもしれない。キャロを守りたい一心だった
 しかし、その事にキャロが気づく

「それじゃ、フェイトママはママじゃないの?お兄ちゃんも・・・」
「ううん、フェイトさんが僕やキャロの保護者・・お母さんなのは本当。それにキャロ聞いたよね?『お兄ちゃんって呼んでいい?』って?僕も・・・少し嬉しかったんだ・・・妹が出来たみたいで」

 エリオは幼い頃に管理局養育施設に半ば強制的に預けられ、自暴自棄になったという暗い過去を持っている。
 フェイトはそんなエリオを預かる事で心に安らぎを取り戻したが【家族】と呼べる人はエリオにとってもフェイトとフェイトの使い魔アルフだけだった。
 しかし、今回のことでキャロが、ヴィヴィオが自分の事を兄として慕ってくれることに喜びを感じていた。

「お兄ちゃん・・・・」
「だから無理に思い出さないで、ゆっくりと治そう。僕もフェイトさんもキャロに何かあったら悲しいから、ね」

 キャロの背中が少し震える。そしてエリオの手に手を重ねるキャロ。
「泣いてるの?ごめん・・」
「グスッ・・・おかしいね、嬉しいのに・・・だってここが私の場所じゃない気がして・・・グスッ・・・でも、ここに居てもいいんだって・・」

 キャロは心細かったのだ。六課の宿舎に暮らす者は全て何らかの任務か仕事を持っている。そんな慌ただしい中でキャロは暮らしていた。
 エリオはほんのすこしだけ腕に力を込める

「ここに居てもいいんだよ、だってここは僕やキャロの家なんだから」
「うん・・・あのね・・お兄ちゃん。私が眠るまでこのまま・・・」
「いいよ、おやすみ」

 キャロはエリオの暖かさが心地よく瞼を閉じた。



「まさかっ・・・」

 同じ頃、無限書庫内で大きな声が響き渡った。
 声の主はユーノ・スクライア。六課から戻った後そのままあるモノを探すために必至に探していた。連続の任務の疲労からか表情には幾分疲れも見せていた。

「こんな物がどうしてっ!」

 一冊の書物をキーとして何冊かの情報を照らし合わせるとある道がはっきりを見えてしまった。
 しかも、その前兆は既に彼女に出ていた。

「僕は・・・応急処置で進行を早めたのか・・・」
「何か過去に治った症例は・・・」

心だけが焦るユーノ、そんな彼に

「ユーノ司書長。本局から通信です」

 入り口の方から声が聞こえる。「あ~もう!」と悪態をつきながらも叫んで答える

「後でかけなおすから連絡先だけ聞いて置いて~!」
「それが・・直接はなしをしたいそうで・・・」

 困っている声に少し頭を掻きながら答える

「わかりました~っ!こっちに繋いで下さい」

 するとユーノの目の前に映像が現れた。

「は、ユーノです。」
「お久しぶり、ユーノ司書長」
「えっ?レティ提督?」

 ユーノは驚いた。元々はやての上司であり司書として入局する際に色々と助けて貰った事をもありレティとは顔見知りだった。しかし何年も前に異動したのを聞いていたユーノはこの時期に連絡が来るとは思っていなかった。

「私だけじゃないわよ、ほらっ」
「久しぶり、ユーノ司書長♪」
「リンディ統括官!」

 これでは窓口の者も断り切れない筈である。しかしこの時期にどうして・・・驚くユーノに対してリンディが話し出した

「これは管理局というより統括官からの依頼です。ユーノ司書長、申し訳ないけど今の調査が終わり次第はやてさんのところに出向してもらえないかしら?」
「ええっ?でも僕は今・・・」

 今日は何度も驚かされると思いつつもいきなりの出向要請に反論するユーノ。しかしリンディがユーノの言葉が終わらないうちに続けた

「ユーノ司書長が今何の調査をしているかは把握しています。だからその話が一区切りしてからでいいの、必要なら本局とクラナガン間のポートを優先的に開放する事もできるし、もちろん無限書庫の立ち入り等は今までと同じで」
「六課・・・なのはやはやて達に何かあったんですか?」

 ユーノはリンディの言葉から嫌な予感がしていた。
 今までも危険なことはたくさんあったし、実際なのはが墜とされた時もあった。しかし今回はなのはやフェイト・そしてはやてに守護騎士達が集まり、更になのはが直々に教育している局員もいる。それなのに・・
 その答えに首を振るリンディ

「ううん、今は大丈夫・・・でも、今機動六課はユーノさんも知っている様に少し大変な状態なの。特に結界系を得意でAMFに通じている魔導師とロストロギアについての知識を持つ人が必要らしいの・・・だから」

 リンディの言ったことは半分が本当で半分が嘘だった。
 実際はやてリンディと話したことは、なのは達が回収したガジェット・ドローンⅢ型から検出された物がジュエル・シードというロストロギアだった事。そして、過去になのはやフェイト・ユーノはジュエル・シードを発掘・集めていた経緯もあり、ユーノは特に回収した後も研究していた事。
 ガジェット・ドローンⅢ型にはジュエルシードをベースにして作られていた事から対策方法を研究したいという申し出であった。
 しかし言葉の裏に隠されていたのは

【本局が貸し出した物が犯罪に使われているのだから、本局でも融通きかせて】

といった意味合いも含んでいた。八神はやてが一部の士官、提督達に【たぬき娘】と呼ばれる所以がここにある

 ユーノはここまでリンディやレティが頼むと言うことは既に他の部署には手が回っており、本人の承諾だけになっているのが想像できた。

「・・・わかりました」

ため息をつきながら項垂れるユーノに対して喜びながら

「ありがとう。それじゃ他の手続きはこっちでやっちゃうから、今の調べ物が終わったら六課に出向お願いね~~」

とハンカチを振って画面が閉じられた。


画面が落ちた後、ユーノは少し腹立たしかった

「でも・・それなら先にはやて達から連絡くれればいいじゃないか・・・まったくっ!」」

 本人の意志とは無関係に勝手に動かされた事が特に気に入らなかったユーノは六課に連絡を試みた。
しかし、その通話は繋がる事がなかった。

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