第20話「王の激突」

「エイミィ、今から起きる事全てをアースラ、クラウディアから全て破棄してくれ。」
『えっ? 何? 何かあったの?』

 クロノはエイミイの個人端末を呼び出す。彼の代わりに調査をしていた彼女はあまりに突然の事で事態がわからず聞き返してきた。
 説明しようとするがクロノ自身にも状況を説明出来る程把握手来ている訳ではない。
口で説明するより早いと考え端末を操作しメインモニタの映像をそのまま送った。
 モニタ向こうで彼女の表情が驚きに変わる。

「破棄理由は…動作試験中のミスか機器のテストでいい。彼女の魔力反応がSSレベルだなんて機器の異常としか説明できない。」
『………』
「………」
『…………』
「…………」

 暫く沈黙した後、彼女が見せたのはとびきりの笑顔だった。

『了解♪ やっぱり私の旦那様だね。愛してる♪』

 いきなり告白されて顔から火が出そうになる。

「さ、さっきの件も引き続き頼む。」

 そう言って通信を切る。
 普段なら艦橋の誰かに冷やかされそうなものだが、幸か不幸か状況は普段とはかけ離れていて皆それどころではなかった。
 アースラのメインモニタには闇の書の所へ向かうヴィヴィオ達が映っている。全員の眼差しは彼女の一挙手一投足に釘付けになっている。

「フェイトやなのはが呼びかけても反応しない状況で…ヴィヴィオ、何をするつもりだ?」



 オットーが作った結界の中でヴィータ達守護騎士は思い思いの場所に座っていた。皆目が虚ろで宙を見ていて表情は沈んでいる。心ここにあらずといった状態だった。
闇の書、リインフォースが蘇った事よりもはやてがそれ程彼女を求めていた事。
自らも心の何処かで彼女の陰をこの撮影で求めていたから誰もその事に気がつかなかった。
 窓の無い部屋、窓があって状況がわかってもヴィータ達にはどうしようもない…

(一緒に居たくせに…何が家族だよ…馬鹿野郎…違う…馬鹿は私達だ…)
「少しは落ち着いたか?」

 目の前にチンクが立っていた。いつ入ってきたのか…そんなことどうでもよかった。
彼女の顔を1度見て再び床に視線を戻す。

「…私達を見に来たのか?」
「そうだ。夜天の王が消えればお前達も消えるのだろう? 守護騎士の最後、誰も見たことの無い光景が拝めるのだ、見ない手はない。」
「チンク、そんな言い方…」

 アギトがフォローに入ろうとするが既に遅かった。

「…ケンカ売ってるのか?」

 思わずカチンとくる。立ち上がって彼女の襟首をつかんで睨む。だがその手は彼女の顔を見てすぐに緩んだ。

「買ってくれ。買っていつものお前達に戻るなら幾らでも売ろう。」
「チンクお前…怒ってるのか?」

 チンクの瞳は明らかに怒っていた。
 逆上するでも怒鳴りちらすのでもない静かな怒り。ただその怒りはヴィータを怯ませるには十分だった。

「お前達はここで何をしている? どうしてここでジッと座っていられる?」
「それは…私達が行けば闇の書に取り込まれてなのはやフェイトを…」
「お前達はそれを受け入れるのか? 可能性ではないのか? …受け入れるなら私の見込み違いだった。興味も失せた、闇の書に成り果てた八神はやてと共に消えるがいい。私達を…ドクターと姉妹を止めた時のお前達の方が遙かに強かった。」
「酷いですっそんな言い方あんまりですっ!」

 リインがアギトの加勢に入る。

「チンク、てめー言いたいこと言いやがって。上等だ、そのケンカ買ってやる。」

 拳を振りかざし思いっきり頬を殴る。鈍い音と共にチンクが2~3歩後ずさるが彼女は拳を振り上げようとはせず、代わりに口は笑っていた。

「そうだ。そうでなくては来た意味がない。」
「チンク…」
「アリシアからこれを預かっている。まだ居るなら目を覚ましてやってくれとな」

 小さな手に渡したのは

「クラールヴィント…」

ここに連れてこられた後、リインから闇の欠片事件で似た状況があったと聞き、想いを込めてヴィヴィオに託した。
 私達は何も出来ないからせめて何かの力にと思いグラーフアイゼンやレヴァンティン、リインの髪飾りと一緒に渡した筈なのに…

(…何でもかんでもヴィヴィオに頼んな、人任せにすんなってか…あのやろう…)

 アリシアはそれを突き返してきたのだ。
 だがその時自分で気づいた。

「闇の書が復活したって思って、取り込まれるってなのはとフェイトが言ったから…ここに来た。私はそんな簡単に割り切った性格だったか? 闇の書の時もはやてを助ける為に傷だらけ泥まみれになってリンカーコアを集めてた…何で私はここにいるんだ。居るのはここじゃない、私達が居なきゃいけないのははやての隣だ。」
「私達があきらめていてはだめよね。」

 手にあった2つのリングを取り指にはめるシャマル

「そうだ。我らがここに居る理由はない。」
「ああ」
「そうです。私達にも出来る事がきっとあります!!」

 立ち上がるシグナム、ザフィーラ。
 5人の瞳にはさっきまで無かった光が戻っていた。

「現地に民間人の子供が3人取り残されている。局員は今皆手いっぱいだ。保護を頼む。残りのデバイスはそこで…陛下が持っている。」

 想いを託した者達は既に現地にいる。オットーも状況を理解して結界を解いている。阻むものはもうない。

「了解した。いくぞ!!」

 全員が頷くとシャマルの作った転移魔方陣に入った5人と1匹は無人世界へと飛んだ。

 

 
 何度かの砲撃を放ってリインフォースを海上に移動させると、ヴィヴィオは彼女の前に立った。

「聖王の血族…ヴィヴィオ…」
「闇の書…リインフォースさん、私は…あなたを倒さなくちゃいけない。それが私の…あなたとあの人の願いだから」

 ヴィヴィオは今まで2度闇の書、リインフォースと戦っている。
 1度目はザフィーラを助けに行った過去の闇の書事件で
 2度目は異世界で顕れた思念体リインフォースと…
 目の前の彼女はジュエルシードと総合SSと言われたはやての魔力も持っていて、更に今までのヴィヴィオの戦闘経験・能力も知られているかも知れない。
 どこまで実体化しているかわからないけれど手加減して無力化出来る相手じゃない。

(いくよ…RHd、ヴィヴィオ…)

 RHdからカプセルを取り出し

「レリック封印解除…ユニゾンインッ!!」

 莫大な魔力がヴィヴィオから溢れ出す。
 その魔力は強烈な光となって彼女を包み込んで彼女特有の魔力色、7色の輝きを白色へと変えていく。
 その中でヴィヴィオはインパクトキャノンを放つ。
だがリインフォースに当たったと思った瞬間何かに遮られた。既に彼女の防衛システムが再生されている。彼女の左手には何かが巻き付いている。リインフォースの左手を凝視する。

(…あれ、闇の書の防衛システム、ナハトヴァールを取り込んでる…)

 幾つもの物理・魔力の複合シールド、無力化するにはそれを全部壊さなければならない。

「ごめんね…」

 そう呟くと辺りの雰囲気が変わる。ディアーチェ達が結界を張ったのだ。舞台は整った。リインフォースめがけてセイクリッドクラスターとインパクトキャノンを撃ちまくる。そして自ら放った魔力弾の中に身を入れ彼女に迫った。
 これが3度目の、王同士の戦いの幕が開いた時だった。



「無茶苦茶だ…」

 クロノの瞳はモニタに釘付けになっていた。
 先程までSSと表示していた魔力センサーは振り切ってしまったらしくしきりに警告音と赤いランプが灯っている。
 その中で唯一彩りを見せているのがメインモニタだった。

「これが彼女の言っていた力か…」

 数ヶ月前に通信で話した遠き昔の王の言葉が呼び起こされる。

『ヴィヴィオは必ず戻って来ます。その時迄に見つけなければなりません。彼女に合う、融合可能なレリックを』

 彼女の話を聞いた時、レリックは時間移動魔法と何か関係があるものだと考えていた。だがその考えは目の前の光景を見た瞬間に根底から吹き飛ばされた。
 リンディが記録を全て消すように言った理由はまさしくこれだ。
 彼女だけが使える魔法もそうだがこの力、表に出せるものではない。

(センサーを振り切る魔力…これが聖王の力か…)

 一方、クラウディアに接舷したアースラのメインモニタにも同じ映像が映し出されていた。
 操舵士、通信士達は呆然とした表情で目はそこから離せられないでいる。
 リンディも皆と同じく何も言わず見つめていた。だがその瞳には悲しみがあった。ヴィヴィオとリインフォースの叫び声だけが響く。時折見える光の粒、2人の瞳から散っている。ヴィヴィオが連れてきた4人の少女については何も判らない。
 でも彼女が今から何をしようとしているのかは判っていた。

(あの子達は本当に…)



「ヴィヴィオ…」
「…はやて…リインフォースさん…」 
 無人世界に残っていたなのはとフェイトは手が出せないでいた。
 ヴィヴィオとリインフォースの戦闘場所に合わせ4人の少女達がそれぞれを頂点とした結界を常に移動させているから離れざるえない。
 そして何よりも…ヴィヴィオの拳、蹴り、魔力弾の全てがSランクを超えている。
 ユーリを助けようとした時、ヴィヴィオは自らの身を顧みず重傷を負ってまでユーリを操っていたシステムを破壊した。
 その事を思い出した2人は願う事しか出来ないでいた。



「沈めぇええええっ!!」

 左手から伸びた杭の1撃が迫り聖王の鎧を貫かれた。
 相手も強固を誇る防衛システムなのだから攻撃に転化すれば破る力になる。いつか聖王の鎧を越える力とぶつかると覚悟していたヴィヴィオは紙一重でかわしそのまま攻撃に転じる。

「私もあるんだからっ!」

 拳に集めた魔力を全力でリインフォースにぶつける。

【ガキッ!】

 シールドが割れた音を聞いた直後零距離インパクトキャノンで吹き飛ばし彼女を追いかけ更に追い打ちをかける。インパクトキャノンは当たるがまだ残っているシールドに阻まれた。
 それと見て舌打ちしながら魔力弾を数10個作ってクロスファイアシュートの発射態勢を取る。



『レヴィ、後ろに下がってください。そっちに行きますよ。】
『う、うん。』
『2人が中心へ行くように動け。』
『はい』

 ヴィヴィオが激戦を繰り広げている間ディアーチェ・シュテル・レヴィ・ユーリがヴィヴィオとリインフォースが動くのに合わせ遮断フィールドの位置を変えている。
 この中であればリインフォースは闇の書の力以外の魔力は全て遮断できる。

『転生システムまで再生は至っていません。このまま魔力を使い切らせてしまえば…』

 リインフォースは既にある魔力の中でしか動けない。シュテルの予想通り闇の書の復元は本体まで及んでいなかった。今なら防衛システムも使えば使う分だけ魔力を消耗させられる。シールドが壊れれば再生出来るだろうが相応の魔力を消費するからいつかは尽きる。聖王の鎧の効果でヴィヴィオも中に居られる。

『あとは時間だ…』

 問題は張った結界の方だ。ディアーチェ達が使っているデバイスは管理局の特別製ストレージデバイスだ。はやての魔力に耐えられる設計を目指していたとは言えこの出力を長時間維持出来るのか?
 特にユーリのデバイスは支援型だから今の彼女は自身の魔力に頼っている。

(…もう少し、あと少しだけ持ってくれ…)

 ディアーチェの願いとは裏腹にエルニシアクロイツがいくつもエラーを出し始めた。
 そんな時、目の前に転移魔法の魔方陣が広がる。そこに現れた者達を見て一瞬言葉を失った。

「こんな時に…お前達は…何しに来たっ!」
「民間人を保護しに来た。…我らのデバイスは…この中か。」
「そうみたいだな。ザフィーラっ」
「乗れっ!!」

 シグナム達だった。

「ばっ馬鹿者っ! お前達が取り込まれたらもう誰も子鴉をっ」

 だが言いかけた言葉は途中で止まる。
 シグナム、シャマル、ヴィータ、ザフィーラ、リインにはそんな心配なんか気にも留めない強烈な意志が瞳から感じ取れたからだ。

「誰が取り込まれるんだって? そんなの可能性だろ。取り込まれない可能性だってあるんだ。」
「可能性があればそれで十分。」
「我らはそれに懸ける。」
「ですっ!」
「…おまえ達は…この中は闇の書の魔力しか使えない特殊な結界、中でヴィヴィオが戦っている。我らのデバイスは長く持たん。」
「心得た。リイン!」

 そこまで言っただけで理解したのか目の前に小さな祝福の風がやってきて

「はいです。ディアーチェいくですよ~ユニゾンインッ!」

 そのままディアーチェの中に入って強制的にユニゾンした。

「貴様っ!?」
【はやてちゃんと魔力共有してるディアーチェなら私ともユニゾンできます。蒼天の書を起動、魔力を安定させて展開中の結界を維持します。】

 いきなり体が軽くなった。厳密に言えば軽くなったのではなく魔力の総量が上がったのだ。これがユニゾンなのかと感触を確かめる。
 エルニシアクロイツのエラーが少しずつ正常に戻っていく。リインが中から制御しているのか?

「シュテル達を」
「了解した。」

 そう言うとザフィーラの背に乗ったシグナムとヴィータ、アギトは中へ入り、シャマルは1番近いユーリの方へ向かった。



~コメント~
 時の移り人でヴィヴィオはデバイスが壊れる恐怖に囚われて全力が出せなかった時がありました。その時ヴィータとシグナムはデバイスを信じる大切さを教えました。
 Again3では逆に守護騎士がはやてと離れてしまう恐怖や友人を傷つけてしまうという思いに囚われています。 
 ディアーチェとリインのユニゾンは…どんな姿になるのか書いていてワクワクしました。

【お詫び】
 先週の告知で3/3の都久志祭について触れておりましたが生憎静奈氏も私も会場へ行くことが出来ない為欠席させて頂きます。
 次週3/10のマジカルフェスティバル2には参加出来るそうです。

Comments

ima
>かーな様
 読んで頂きありがとうございます。
 ユニゾンすると白くなる傾向があるので真っ白になっちゃうかも知れませんね。

シャマルのデバイス名間違えてました。指摘ありがとうございます。
2013/03/04 07:15 AM
か~な
リインとディアがユニゾンしたら同色なんで、逆に髪が真っ黒になるのでは?
2013/03/03 10:28 AM

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