第21話「心の闇の在処」

「全く…」
「命令無視もここまでされると気持ちいいわね。」

クロノとリンディは揃って嘆息した。
リインフォースとヴィヴィオの戦闘は激しさが増していて手の出しようがない。現地にいるエースオブエースと執務官が手を出せない状況に武装隊を入れても何も出来ないとわかっている。
 結界を張った少女の前へクラウディアに居た筈のシグナム達が転移してきた。
 その直後プレシアから『娘の救援はこちらでする』とメッセージが送られて来た。誰に頼んだのかは明白だ。タイミングを狙い方に呆れる。
 しかし半ば無理だと諦めかけていたものに光が見えた。ここはその流れに任せた方がいい。
アースラならこっちの切り札も使える。

「無人世界へ降下、ディストーションフィールドで彼女達の戦闘エリアを固定します。」

 指示を出し艦橋を発つ。 



「ハァアアアッ!! クロスファイアァアアシュートッ!」

 ヴィヴィオの放った砲撃がいくつもの刃を爆発させる。爆風と煙が残る中を目標めがけて突き進む。
 当時の管理局製のデバイスが古代ベルカ式魔法を長く使えるとは思えない。時間は限られる。シールドも何枚かは破っているけどまだ残ってる。
 その焦りが彼女に油断を生んだ。背後をとられナハトヴァールの1撃が打ち込まれた。

「カハッ」

 その1撃は鎧を貫いてヴィヴィオに届き、海上にそびえる何本かの岩を貫き岸壁に打ち付けられる。

「消えろーっ!」

 続けざまに放たれた砲撃魔法で意識が飛びかける。

(!! ここで負けちゃったらはやてさんが…私が…しなきゃ…)

 負けたら全部終わってしまう。拳を握り意識を繋ぎ止めようとするが力が入らない。

【……れないで…】

 その時、どこからか声が聞こえた。誰の声? 聞き覚えがある。

(だ…れ…? チェン…ト? オリ…ヴィエさん?)
【忘れないで。ヴィヴィオ、あなたはひとりじゃない。】
(……わ…わたし?…)

 聞き覚えなんかじゃない。それは私の声だ。

【私が一緒にいる。だから…あきらめないで!】

 その声で意識が呼び戻され魔力がかつて感じた事が無い位溢れてくる。

(この感じは…忘れてた…そうだよ…私は…)
 


【ヴィヴィオがっ!】
「わかっている。中で騒ぐなっ、気が散る。」

 焦るリインのこの結界を今解けばリインフォースへの魔力供給が戻ってしまう。今の状況で彼女を助けに飛び込む事が出来ない。シグナムとヴィータ・ザフィーラが向かっているが間に合わない。1度結界を解くか?

『ディアーチェ、このままでは…』
『王様っ』

 シュテルとレヴィも焦っている。ヴィヴィオが砲撃魔法の直撃を受けて倒れていた。

(荷が重すぎたか…もうこの手しか無いのかっ!)

 闇の書を消す方法はもう1つ残されている。だがそれはヴィヴィオが願う方法とあまりにも違っていたからディアーチェは口に出さなかった。
 それは闇の書の中にあるエグザミアから強制的に力を引き出し、闇の書そのものの存在を消し去るという方法。この手を使えば転生機能を失っている闇の書は確実に消滅する。
 だが闇の書に取り込まれている八神はやても巻き込まれ消滅し、彼女の消滅に伴って彼女の騎士であるシグナム達も消えてしまう。そして…強制的に引き出す引き金を引いた者も力の奔流に飲み込まれ彼女達と共に消えてしまう。
 正に捨て身の戦法。だが目の前のヴィヴィオが倒れ結界が解かれればディアーチェ達も闇の書の1部として飲み込まれかねない。シュテルやレヴィ、ユーリを巻き込む訳にはいかない。

『シュテル、レヴィ、ユーリもうよい。ここから…』 

 彼女達に逃げろと言おうとした時、背筋にゾクリと悪寒が走った。

「何だ…今の感じは?」

白く輝く光の中で【彼女】が立ち上がる。髪を留めたリボンもは消え、彼女の母に似たジャケットも身につけていない。
 その姿は忘れかけた古い記憶を呼び起こす。

「やはり…ヴィヴィオは…あやつの…」

 古代ベルカの戦装束を纏った姿に体を震わせる。

「…あやつの…系譜かっ!」



「あれ…私?」

 気がつくとヴィヴィオは半ば崩れかけた岩場に立っていた。さっきまで感じていた力はなんだったのか? 結界の中で千切れた筈のジャケットや鎧が元に戻っている。
 上空でリインフォースが驚きの眼差しでこっちを見ていた。彼女を見て思い出す。

【忘れないで。ヴィヴィオ、あなたはひとりじゃない。】
【私が一緒にいる。だから…あきらめないで!】

 心の中、もう1人のヴィヴィオ、聖王ヴィヴィオの声

「そうだ、私は…1人じゃない!! 迷っちゃいけないんだ。」

 上空に浮かぶ彼女を見据えインパクトキャノンを放った。



「あれは…オリヴィエさん?」

 遠くに見えた彼女の姿が最後のゆりかごの聖王、オリヴィエ・ゼーゲブレヒトと重なった。
 だがそれは一瞬のことで再びいつもの騎士甲冑に戻った姿を見てヴィヴィオだと胸をなで下ろす。それは再び火蓋が切られた事を意味する。
 今アリシア達が出て行っては作戦が台無しになる。それに今は守らなきゃいけない妹がいる。
 親友が倒れた時、本当にギリギリで飛び出すのを止められた。

「ヴィヴィオ…がんばって」

その時は近い。



「ダァァアアアアアッ!」

 ヴィヴィオとリインフォースの戦闘は激化する。聖王の鎧が何度も貫かれる。でも鎧を貫かれた時にあった力が抜ける感じはもうしない。どんどん力が湧いてくる。
その理由はヴィヴィオ自身にもわかっていた。

「…闇に沈め…」

何度目かの激突でリインフォースが魔方陣を作り出した。

(まずいっ!)

 闇の書事件でフェイトを取り込んだ魔法。相手がどれだけ強くても必ず心にある闇を闇の書へと取り込む。しかし…

【No Problem】
【大丈夫だよ。そのまま行って】

 中からの声を信じ魔方陣めがけて突っ込みインパクトキャノンを放つ。魔方陣は発動するが何も起こらずインパクトキャノンはリインフォースに直撃しシールドを破った。

「…何故取り込まれない? お前の心の中にも闇がある筈だっ。」
「私の心にも闇はあるよ。でもそれは私と今ここに居る。」
【そうだよ。私はヴィヴィオと一緒にいる。】

 胸を張って答える。心の闇、聖王ヴィヴィオ。怖がっていたもう1人の自身。でももう恐怖はない。その闇ははやてを助けるという目的で1つになっている、聖王ヴィヴィオもヴィヴィオがヴィヴィオでいる為に欠かせない自分自身なのだから。

「リインフォースさん、私に教えてくれたよね。私の魔法は聖王の血に課せられた呪いだって。」
「この魔法と力は呪いなんかじゃない。私が私で居られる…オリヴィエさんがくれた意志の…願いの形なんだっ!!」
「そうだ、我らは我らの意志で動く。」
「大人しく寝ちまえぇぇえええっ!」
「えっ!?」

 その声に振り向く。

「ハァァァアアアッ!!」
「ザフィーラっ!?」

 真下から飛び込む影があった。

「ヴィヴィオ遅れてすまん。」
「…シグナムさん、ヴィータさん…ここに…どうして…」

 彼女達はクラウディアの中に居るはずだ。

「私達も元は闇の書の1部だ。それよりデバイス。」
「あ、はい。」

 忘れていた。アギトから預かったまま首にかけていた。シグナムとヴィータにペンダントに手渡すと2人は受け取るなり騎士甲冑を纏い

「無粋な真似をした。我らはディアーチェ達の援護に回る。」
「あとは任せたぞ。私達はヴィヴィオ、お前を信じてる。ザフィーラっ!」
「心得た、ウォォオオオオッ!!」

 ザフィーラは何本もの氷柱を作ってリインフォースを閉じ込め、3人は離れていった。 

「シグナムさん…みんなどうして…」

 どうしてここまで来たのかヴィヴィオはすぐに理解ができなかった。昔は闇の書の1部だったかも知れないけどもう違う。無効化されて取り込まれ消えてしまう危険すらあったのに。
 でも1つだけはっきり判っている事がある。それは…
 リインフォースが氷柱を破り3人を追おうとする。

「行かせないよっ! クロスファイアーシュートっ!!」

 本当は自分たちの手で助けたい筈なのに、任せてくれた。

『私達はヴィヴィオ、お前を信じてる。』
(私達も負けられないねっ!) 

 あと少し、シールドを全部壊せばあとは本体だけになる。

「だぁああああっ!」

 ヴィヴィオは再びリインフォースへ向かって数本のインパクトキャノンを放った。
   


「あなた達は…無茶しますね…」

 シュテルはやって来たシグナムに対し半ば呆れかえりつつ呟いた。
 何処か知っている彼女と雰囲気が違う。

「無茶は主や友譲りなのでな。結界を補助する。」
【結界の強化なら任しとけ】

 融合機が中にいるらしい。雰囲気が違うのはその為だろうか

「助かります。」

 管理局製のデバイスが弱い訳ではないけれど、調整中の段階では高出力を維持できないらしい。制作途中で借りてきたのだから仕方ないとも言える。
 ディアーチェとユーリ、レヴィを心配しているとシグナムが現れた。
 彼女がフォローに入るとたちまち出力が安定する。

「シグナムさんっ! あなた達はどうして」

 結界を維持しつつデバイスのエラーを直しているとなのはがやって来た。

「民間人の救助に来た。今は取り込み中だ、話は後にしてくれ」
「そんな場合じゃないでしょっ!みんなが取り込まれたらはやてちゃんも!」

 普段こんなに大声を出す彼女ではない。焦っているのか苛立っているのか…

「そういう場合です。なのは、あなたは冷静ではありません。私達が最優先でしなければいけないことは何ですか? シグナム達を保護して闇の書に取り込まれないようにする事ですか? それは違います。」

 彼女を一瞥した後正面を見据えエラー修復に戻る。シグナムとレヴァンティンがサポートに回ってくれた分余裕が出来てルシフェリオンへの負担が一気に減った。他の3人も気がかりだけれど結界が維持出来ているところみると他の守護騎士達がフォローしているのだろう。

「なのは、今この時間この場所で貴方しか出来ない事があります。それを見つけてください。」 
「シュテル…でも今は…」

 いつになく厳しい言い方をされて彼女は戸惑う

「っ!! 中で戦っているのは誰ですかっ!!」
「!! う、うんっ」

ここまで言わないと気づかないのかと怒ると彼女はそれに気づいたらしく去っていった。

「王が子鴉はと嘆いていましたがなのはもそうですね…」

 中で戦っている彼女の下には行けないけれどシュテル達に出来ない事がある。

「全く…」


~コメント~
集結する家族や友達的な回でした。
ヴィヴィオとヴィヴィオの時間軸の闇の書(リインフォース)はAgainStoryで戦っています。
※AgainStory第11話「それぞれの中で」参照
もしリインフォースとお話出来る(なのは的お話ではありません)機会があったなら彼女からヴィヴィオはどんな風に見えたのかなと書いていて思いました。

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