第22話「夜が明ける時」

(…何をしているの?)

 クラウディアとアースラの通信士はサブモニタを見て首を傾げていた。現地で指揮を執っていたハラオウン執務官と高町教導官が揃って奇妙な行動を取り始めたからだ。
その行動とは…

「ディバインバスターッ!」

 桜色の光の筋が伸びて海から伸びた岩に直撃し粉砕する。
続けて同色の魔力弾が残った岩を砕き何本もの水柱を作り出した。

「トライデントスマッシャーッ!!」

 水柱から少し離れた岩塊に金色の光が伸び消滅させた。
辺りの岩塊が見当たらなくなったら2人はその場を移動し進行方向の岩塊を壊していく。
 少女達が作った結界の周囲に岩塊は全て無くなっていた。
 気が動転したのか? それとも何かの作戦なのか? 意図が全く見えない。
 しかし後ろで指揮する彼はその様子に気付いている筈なのに何も言わなかった。

 
『なのは、あなたは冷静ではありません。私達が最優先でしなければいけないことは何ですか? シグナム達を保護して闇の書に取り込まれないようにする事ですか? それは違います。』
『なのは、今この時間この場所で貴方しか出来ない事があります。それを見つけてください。』 
『っ!! 中で戦っているのは誰ですかっ!!』
(私、何にも判ってなかった。ヴィヴィオがどんな思いでこっちに来たかなんて…)

 シュテルに一喝されてなのはは自分の考えが間違っている事に気付いた。
 今居る無人世界から撮影スタッフ全員を避難させる。
 シグナム達が取り込まれない様にクラウディアに退いて貰う。
それは全て闇の書が復活したという前提での考え。
 なのはとフェイト、武装隊のみ残された世界で2人が闇の書の中で眠るはやてを呼び覚ますという計画。
 だがそれはヴィヴィオとアリシア、チェント、シュテル達が現れた段階で意味は無くなっている。
 それなのに拘って…思考を止めていた。
 それに気付いたなのはとフェイトはプレシアに連絡を取り、彼女の口からヴィヴィオ達が立てた作戦を知る。
 分の悪い賭としか言えないもの。
 でもそれをより確実なものにする為にヴィヴィオはシュテル達を連れてきた。シュテル、レヴィ、ディアーチェ、ユーリとシグナム達が維持している結界がその方法なのだろう。

(それなのに…私、ヴィヴィオに怒っちゃった…)
『ヴィヴィオ…戻りなさいっ』

 プレシアからではなくヴィヴィオ本人から聞かなきゃいけなかった。はやてを助ける事にばかり頭がいってしまっていて聞こうともしなかった。
 家族なのに、母親なのに…

「…だから、私達が今出来るのは、ヴィヴィオを信じる事だけ。ディバイーンバスタァーッ!!」 

前方に見える岩目がけて砲撃魔法を撃ちだした。



「フェイト…わ、私まだ帰らないからねっ!!」

 遠くで起きている戦闘の光をジッと見つめていたアリシアの前にフェイトが降りてきた。
 クラウディアに強制転送されると思い、妹を庇いジッと睨む。

「そんなことしないよ。私もなのはも…姉さん達の計画知ってるんだ。」
「ここまで来ちゃうと任せるしか無いわよね~。」
「…そうね」

 そこに転移してきたのは

「ママ、リンディさん…」
「母さん」

リンディとプレシアだった。プレシアは錫杖の様な杖を持ち、リンディの背には金色に光る小さな羽がある。

「ディストーションシールドを介してアースラ・クラウディアの出力を魔法力に転化、周囲に展開します。プレシア」
「フォローは任せなさい。フェイト」
「はい、母さん。ここを守ります。」

 3人がそれぞれ魔方陣を展開する。

(ママ、フェイト、リンディさん…何を…)

 一体何をしようとしているのか…アリシアにはわからなかった。


 
数度にわたる激突でリインフォースの鎧があちこち破れていた。
 それは彼女がジュエルシードからの魔力を得られない、回復できない状況になっている事の証明であり、シュテル達から連絡が無いということは闇の書の転生システムが再生されていない証拠でもあった。
 即ち、このまま押し切ればリインフォースの魔力を使い切らせられる。

「やぁあああああっ!!」
「ガアアアアッッ…」

 ヴィヴィオの拳がシールドを破壊した時、その勢いのまま彼女のみぞおちに食い込んだ。初めて彼女が苦悶の表情を浮かべる。
 防衛システム、ナハトヴァールのシールドが全部壊れたのだ。そのまま体をひねり背後から思いっきり蹴りを入れる。リインフォースはそのまま結界を突き抜け岸壁にめり込んだ。
 ヴィヴィオも追いかけディアーチェ達の結界の外へ出た。 

『ディアーチェ結界解いて。なのはママ、フェイトママっ、リインフォースさんをバインドで捕まえてっ!』
『わかった』

 直ぐさま結界が消え、意識を失ったリインフォースに金色と桜色の拘束魔法がかかり宙に固定される。

『ヴィヴィオ、ジュエルシードは止まっていない。すぐに元に…』

 ディアーチェから念話が届く。遠くから見ても破れた彼女の服が直り始めているのがわかる。ジュエルシードからの魔力供給が再び始まったからだ。

『うん、アリシアおねがいっ』
『わかった!』

 岸壁に隠れていたアリシアはチェントを抱いてリインフォースへと飛び出す。それを見てRHdの通信を全方位に開く。

『闇の書の近くに居る全員に伝えます。今から拡散型スターライトブレイカーを撃ちます。射線方向に居る人は巻き込まれないよう離れてください。』

 周囲に呼びかけた。



(やっぱり…)
「ヴィヴィオっ、それ…」

 なのはは何か言いかけたが止め唇を噛んだ。そう、ここまで進めたのはこの為なのだから止められる訳がない。
 ヴィヴィオとリインフォースの戦闘で既に魔力濃度は異常に高くなっている。更に彼女は聖王化して魔力が上がっている。
そして…それが判っていてそんな場所へ…なのはとフェイト、リンディ・プレシア・クロノは再収集可能な魔力を蒔いたのだから。

『ママ、大丈夫だよ。だってあそこにいるのは闇の書じゃない。祝福の風リインフォースさんと私の大切な友達、はやてさんなんだから。』

 気持ちに気づいたのか彼女から念話が届く。もう願うしかない。

(お願い、ヴィヴィオを…はやてちゃんを守って…)



 使い終わった魔法の欠片を小さな欠片に集めて、その欠片を更に集める。その過程であり得ない位再収集出来る欠片を感じた。

(これ…なのはママ、フェイトママ、プレシアさん…リンディさん…そうか…そうなんだ。)

 異世界ではやてが闇の書に取り込まれた時、2度目で再収集も上手く出来ずに撃った集束砲は彼女の闇を払うのが精一杯だった。
 元々集束砲撃魔法、スターライトブレイカーは1点集中することで威力を増す魔法。それを拡散して使えば威力は激減する。それを補うにはより沢山の魔力を集めるしかない。
 その為にレリックからより多くの魔力を引き出し使うつもりだった。でも…周囲に散らばった欠片はヴィヴィオの予想を遙かに越えていて、まるで再収集出来る様に用意されていた。
 誰が用意したのかは魔法色を見れば判る。

『全員、次元震、次元断層に注意。クラウディア、アースラの周囲に対次元震フィールド展開。衝撃に備えろ。武装隊は安全距離へ避難っ』

 クロノの怒声が通信を通して聞こえる。

(次元震なんておこさせないよ)

 リインフォースを拘束していたバインドが食われ外れかけている。
 ヴィヴィオとリインフォースの間で唯一動いているのはリインフォースに向かって一直線に向かっているアリシア達だけ。
 まだもう少し時間がかかる。だが先にリインフォースを止めていた枷が外れた。2人の防御は無いに等しい。
 ギュッと目を瞑った後彼女を見据えありったけの声で叫んだ。

「リインフォースっ選びなさい。望む未来を!!」

 ジュエルシード事件と闇の書事件、これらが起こらなければヴィヴィオはここに居ない。はやてを生かすために消えたリインフォース。
 彼女にも望む未来を決める権利はある。でも…それは…
叫んだ声が届いたのかリインフォースの動きが止まった。

(今だっ!)
「いっけぇえええっ! スタァァアアライトッブレイカァァァアアアアッ!!」

思いっきり叩き出した。
 白色の光の奔流がリインフォースへ向かう。そして彼女に向かうアリシアとチェントにも迫る。だが光の奔流はアリシア達だけを避け、リインフォースへ伸びる。
 その時、遠くて見える筈も無いのにリインフォースは微笑みを浮かべこっちを見て

『ありがとう…これで私は…』

目を瞑るのが見えた。
 光に呑まれるリインフォース。その中でかすかに蒼い光が見えた。スターライトブレイカーの反動を相殺しきれず吹き飛ばされるヴィヴィオ。その中でも必死に念話を送る。

『アリシアっ!!』



『アリシアっ!!』

 ヴィヴィオからの念話が届く。
 彼女がここまでしたのだ。周りを包む白い光に彼女の気持ちが込められている気がする。
 さっきまで彼女が居たところに小さな蒼い光が見えた。アリシアは速度を上げその光へと向かう。

「チェントあの光に触って!!」 

 ジュエルシードは強く純粋な願いを叶える。アリシアが考えたのは異世界ヴィヴィオを呼び出した時チェントがジュエルシードの力を使った事。
 彼女が願うものは何かはわからない。でもここは妹に賭けるしかない。小さな手が伸びて蒼い光に触れた時その光は更に輝きを強めた。そのまぶしさに目をつぶった。

(ジュエルシードお願い、私達の願いを聞いてっ!!)


 光が弱くなって消え瞼を開くとそこには意識を失ったリインフォースが居た。
 作戦は失敗したのか? 妹を庇うように抱きかかえるとリインフォースの長い髪がずれて中からはやての髪が見えた。

「はやてさんっ!!」

 気を失い落ちていく彼女に慌てて手を伸ばし抱き上げるが2人を抱えられるほどの余裕も無くズルズルとそのまま落ちていく。

「アリシアっ!」
「姉さんっ」

 ヴィヴィオとフェイトが向かう。しかしヴィヴィオ達が着くより早く3人を支える者が居た。
 その姿を見て驚きの余り声が詰まる。
それは…

「オリ…ヴィエさん…?」
「はい♪」

 支えられた手をを見て呟くアリシア。
岩場に2人を下ろし、はやてを寝かせた後で彼女は振り返った。

「オリヴィエ…これあげる」

 チェントがポケットから取り出したのは1個のキャンディ。いつから持っていたのだろうか、
 彼女の体温で半分溶けかけていてクシャクシャになった包装がその時間を感じさせる。
 でもオリヴィエはそれを大事そうに両手で受け取って

「ありがとう、チェント。またどこかで…いつかきっと」

 チェントの頭を撫でるとそのまま蒼い光の粒となって消えていった。

「そっか…会いたかったんだね…」

 チェントが望んだ事を知る。彼女はオリヴィエの正体を知らない。怖がらされ追いかけられても心の何処かで会いたかったのだろう。
 それが彼女が持っていた願いの形。

~コメント~
 ジュエルシードに何を願うか? 色々考えましたがこういう結果に落ち着きました。ヴィヴィオ、お疲れ様。

Comments

Comment Form

Trackbacks