第23話「事件の真実」

 意識を失ったはやてはそのままクラウディアの医務室へと運ばれた。半日後、クラウディアのあてがわれた部屋で休んでいたヴィヴィオは目覚めたはやてに呼ばれ医務室へと行った。

「ごめんな、迷惑かけてしもて…ありがとな。」
「うん…」

 経緯はなのはかフェイト、シャマル達から聞いたのだろう。いつもみたいに冗談やからかいもせず何ともいえない表情の彼女にヴィヴィオもそれ以上何も言えなかった。
 ヴィヴィオはクロノとリンディにこってり絞られる覚悟をしていた。しかし特にとがめられはしなかった。それはクラウディア内で保護されていたシグナム達や見逃したチンク、オットー、知りながらヴィヴィオ達を援護したプレシアも同じだった。
 そして翌日1日かけて機材のチェック、撮影エリアの再構成が行われ、次の日撮影は再開された。



 その撮影の最中、クロノとリンディはクラウディアにいた。本当は撮影を見たかったのだが先にするべき事があり艦長室で待っていた。
 ノックされドアが開き待っていた者が入ってくる。
 その者とははやてやヴィヴィオ達の勧誘にあたった広報部局員。

 撮影現場の撮影中にどうしてはやてがジュエルシードを発動させられたのか? そもそもどうして持っていたのか? 撮影前の映像を見てもそんな様子はどこにもなかった。
 はやてが意識して持っていない場合、彼女が身につける衣装、道具に仕掛けられている可能性しかなかった。
 そして調べていく中で浮かび上がったのが彼だった。
 エイミィが丸1日半かけてアースラや無人世界に蒔いた全てのセンサーを駆使して微弱な魔力値の座標を事細かにチェックし、それがリインフォースの衣装から発していたことを調べ上げた。
 これは八神はやてがジュエルシードを所持していたのではなく、持たされていたという確証となり、衣装を用意した者か触れられる者が計画した事になる。
そして…  

「君の気持ちは判るつもりだ…クライド・ハラオウンだけが英雄視され、あの場で犠牲になった局員、君の家族は名前すら出てこない。だが今の彼女達を責めるのは筋が違う。」

…彼のファミリーネームを聞いてリンディは思い出した。

「いいえ…わかりませんよ。わかっているなら記録映像を作ろうと思いません。」

 彼の父がクライドと共に犠牲になっていた事を。

「父があの事件で犠牲になったのは悲しいですが入局して…そのような事件の担当になった時から覚悟していました。私も憧れて入局しましたが子供達に同じ悲しみを味合わせたくないと最初から安全な広報部を志願しました。」
「先の映像…ジュエルシード事件の記録が評価され上から続けて闇の書事件の映像化が求められました。まさか家族を失う事件の関係者…彼女達と交渉しなければならないなんて…彼女達がミッドへ降りたと聞いた時、私はもう彼女達と顔を合わせなくていい、正直刺さっていた棘が抜けた気持ちでした。そんな彼女達と再び会わなくてはいけなかった私の気持ちわかりますか?」
「…失礼しました。わかっているなら闇の書事件の記録化を勧めなかったでしょう…」
「………」

 リンディには彼にかける言葉が見つからなかった。
 夫、クライドが殉職したと聞かされた時、目の前が真っ暗になり何も聞こえなくなった。でもリンディは悲しみを乗り越え進む決意をした。彼の残してくれた光、クロノが居たからだ。
 しかし彼女の様に悲しみを乗り越え前を見て進んでいた者だけではない。過去の記憶に苛まれ事件から10年以上経った今になって再び古傷を剔られる思いをする者もいる。
 彼のように…

「…ジュエルシードは広報活動中の管理世界で見つけました。先の映像で多くの広報用のイミテーションでが作られていたのでその1つだと思いそのまま手元に置いていました。最近本物だと知り驚きましたが幸い封印状態で発動の兆候もありませんでした。機動6課でロストロギアの捜索、封印処理する部隊を統括していた彼女があれに気づけば発動もせず正規の手続きを経て保管庫へと戻ったでしょう。まさかこんな事になるなんて…」

 彼にとってもこんな大事になるとは考えてもいなかったのだ。

「……ごめんなさい。あなたの名前を聞いた時に思い出していれば…」
「………」

 深々と頭を下げる。
 ジュエルシード事件を映像化する。リンディが計画を進めたその時から事件は始まっていた。
 プレシアとアリシアが別人で存在する事を証明したいが為に先の映像を多くの目に触れさせようと動いたのも、その際に偶然見つけたジュエルシードを用いて事件を起こしたのもリンディだった。
 映像が多くの目に触れ好評になれば次に闇の書事件が取り上げられる可能性があったことを気づかなければいけなかったのだ。



「私は…更迭、逮捕されるのでしょうか?」

 聞こえるかどうかの小さな声で聞く。彼にも家族がある。これだけの事件を起こしてしまえば只で済む筈がないと覚悟しているのだろう。その言葉にクロノは静かに首を横に振った。

「本件の被害者、八神はやては何も知らない。今日来てもらったのはジュエルシードを何時、何処で見つけたのかを聞きたかったからだ。ジュエルシードを発見し報告しなかった件についてはとがめられるだろうが始末書1枚で済むだろう。前例もある。」

 一瞬隣に座る彼女を見る。
 事件が起こる事を予想して忍ばせた事と事件が起こるとは考えておらず偶然が重なって起きた事、どちらが悪質かは言うまでもない。もしこの事件で彼の立場が危うくなるのであれば全力で支援するつもりだ。

「僕達が八神はやてと交友があるのは知っているだろう。」
「はい」
「彼女はここに来た時話していた。君が熱心に闇の書事件の映像化に取り組んでくれている事を喜んでいた。『あんなに頑張られたら私らも全面協力するしかない』とな。」
「彼女は今まで闇の書事件の被害者から向けられた悪意を全て受け止めてきた。それがどれだけ不当な物であってもだ。しかし君も知っている通り彼女も闇の書によって運命を変えられた1人だというのを忘れないで欲しい。13年間…彼女や彼女の家族が背負ってきた枷を外してくれた君には僕達も感謝している。そのまま今の仕事を続けて欲しい。」

 もしはやてが真相を知っても知らないと言う確信があった。彼女はそういう女性だ。
 彼はクロノやリンディ、フェイトやなのは達では出来ない事をしてくれたのだ。

「それと、これは僕からの個人的な頼みなんだが…あの子、ヴィヴィオの力は秘密にして欲しい。彼女や彼女の家族、友人は今の生活をこれからも続けたいと望んでいる。」

 クラウディアやアースラ、艦内機器に残されていたヴィヴィオの魔法力に関する情報はエイミィの手によって全て削除された。
 そして事件も機材の動作試験として報告、処理された。
 しかし今回の事件でロストロギアに単身で挑み全ての複合シールドを破壊し、艦船クラスの集束砲を放った1人の少女の姿は多くの目に焼き付けられた。それが人づてに伝われば色々と問題も起こるだろう。
 そこで広報部の彼の力を借りたいと

「判りました。プロモーションの1つとして取り上げます。そうすれば彼女が本当に使ったとは誰も思わないでしょう。暫く目立って貰う形になりますが…」
「その辺はこちらでフォローする。勿論プライベートで。まだ撮影中だろう、一緒に見ないか?」

そう言ってモニタを出し現地撮影本部と繋ぐのだった。


~コメント~
 もしヴィヴィオの世界でMovie2ndA'sが作られたら。
今週末に掲載出来ませんので少し早く掲載しました。
闇の書復活の謎説き回でした。本作を含めなのはA's以降の時間(StrikerS、vivid、Force)で闇の書事件の劇中劇が作られたらどうしても気になる事がありました。
 それは当時やその前の闇の書によって被害に遭った人には拭えない傷があるのではないかと言う事です。勿論本人だけでなく、当人の家族や友人、上司、部下にも当てはまります。
はやてやシグナム達は闇の書事件において言われた事は受け取っていましたが、被害者にとっての闇の書事件の劇中劇、どんな印象を持つのか書いていて考えさせられました。

先ほどAgainStory3脱稿しました。
もう暫くおつきあい頂けると嬉しいです。

Comments

か~な
お疲れ様です。

AS3、凄く楽しみです。
2013/03/20 11:23 PM

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