第26話(終)「丘の上の少女達」

「シグナム、シャマル、ヴィータ、ザフィーラ、リインお疲れさん。アギトも色々ありがとな」

 本局広報部が用意してくれた車で送って貰ったはやては家に着くなりドサッとソファーに倒れるように身を預けた。 
 撮影が進む中でリインフォースに会いたいと思う気持ちは強くなっていた。それがまさかジュエルシードを発動させるとは…身につけていたのにも気づかないなんてロストロギア管理の専門部署責任者が聞いて呆れる。

(暫くクロノ君に話のネタにされそうやな)

記録映像が公開された時、私達はどんな目で見られるのだろう? 
 厄災を止めた者?
 記憶が蘇り悪意の目を向けられる?
 …出来れば今までと同じ様に見て貰いたい。でも私を含め家族の境遇を知って貰えれば色んな所からの風当たりも和らぐだろう。

(まぁ良かったんとちゃうかな…)
「また…ヴィヴィオに甘えてしもたな…」
「そうですね。」
 シャマルが湯飲みを盆に乗せて持ってきた。起き上がって座り直し湯飲みを受け取る。口に近づけ息を吸い込むとお茶の香りが身体にしみこんできて教えてくれる。ここが自宅で心落ち着く場所なのだと。

 なのはとフェイトから状況を教えて貰った時は我ながら背筋が凍り付いた。まさか自ら闇の書を蘇らせようとしていたとは。
 そしてヴィヴィオとアリシア、チェントが取った方法を聞いて驚きを通して呆れかえった。
 ヴィヴィオは異世界からマテリアル達を連れてきて、自らはレリックと融合して単身突撃。マテリアルが作ったフィールドの中でリインフォースの自動防衛システム、ナハトヴァールが作り出した何層もの複合シールドを全て破壊。
 その後なのはとフェイトがバインドで固定したところにアリシアとチェントが向かい、その最中に拡散型のスターライトブレイカーを放った。
 どういう方法かは判らないがブレイカーはアリシアとチェントだけを避けてリインフォースに直撃しはやてとジュエルシードを残し消し去った。
 残された発動中のジュエルシードはチェントとアリシアによって願いを上書きされ力を失い、はやては助けられた。

(こんな無茶な方法、私でも思いつかんわ…)

 単身で突撃したのはなのはとフェイト、マテリアル達が居れば巻き込むと考えたから、自動防衛システムの複合シールドを全部壊せるという確信があったから。

(ヴィヴィオのブレイカー、なのはちゃんのと効果がちゃうとはな。)

 なのはのスターライトブレイカーには結界破壊という付加特性がある。ヴィヴィオのそれも何度か見てきて同様の効果があると考えていた。しかしいくら強い結界破壊特性があっても闇の書を消し去れる筈がない。
 彼女の集束砲には異なる特性がある。
 思い返せばシグナムとの模擬戦で初めて見た時からどこか違和感があった。いくら初見の拡散型ブレイカーでもシグナムが何もせず直撃を受けて気絶するとは思えない。何らかの対抗措置を打っていたもののヴィヴィオのブレイカーがそれを全て消したのだろう。 
 多分それは魔法の無効化特性、オリヴィエが見せた光の剣の砲撃バリエーション。闇の書の闇や発動中のジュエルシードの魔力を消せる位だから相当な干渉力だ。しかもそれの拡散砲撃となると…周囲の無効化も含んでいる。
そしてそんなヴィヴィオを信じて異世界に来たディアーチェ達、リインフォースへと向かって行ったアリシアとそんな環境でもジュエルシードの願いを上書きしたチェント。闇の書に取り込まれる、消されてしまう危険があった。ヴィヴィオを信じていてもその度胸は大した物だ。

 目を瞑り昔の闇の書事件を思い出す。
 昔、自身を助ける為に頑張ってくれた2人の親友と1人の少女の姿を…その姿はいつの間にかヴィヴィオとアリシアの姿に変わっていた。

「かなわんな…もう…」  


 
 同じ頃ヴィヴィオ達より一足早く自宅に戻ったなのはとフェイトもリビングで息をついていた。

「色々ありすぎちゃって疲れちゃった…」
「私も…」
 2人とも体の重みをテーブルに預けるように伏せる。
 撮影への協力と助言、あとは不測の事態に備えて待機、ヴィヴィオ達の引率くらいと思っていたけれど不測の事態があまりにも予想外すぎた。

「……」
「……」

 2人とも暫く無言の時間が続く 

「ねぇ…これからどうしよう?」

 その空気を払うかの様になのはが聞く。
 これからとはヴィヴィオが帰ってきてからの事。
 はやてを助ける為とは言え、ヴィヴィオ達はなのはが出した避難命令とクロノの侵入禁止命令を破った。このままでは処罰対象になると考えたリンディの機転でなのはとフェイトへの支援という形で事なきは得ていたけれどそれが形式上なのは誰が見ても明らかだ。
 そこは怒らなきゃいけない。
 でもヴィヴィオ達が来なければはやてを助けられなかったのも事実。
 親友を助けてくれた彼女を抱きしめて褒めてあげたいし、母として無茶して心配させないでと目の前で泣きたいし、管理局員として怒らなくてはいけない。

「そうだね、どうしようか?」
「フェイトちゃん…楽しんでない?」

 嬉しそうに答えるフェイトになのはが突っ込みを入れる。

「うん…楽しい…嬉しいのかな。管理局とか親子とかじゃなくて誰かを助けようと命令違反しても行くなんて…嬉しかった。それにリンディ母さんがなのはも私に同じ事してくれたって教えてくれたの思い出してたんだ。やっぱり似ちゃうんだって…」
「あ…そうだね…」

思い出して頬を赤める。

「執務官がこんな事言っちゃいけないんだけど、誰かを助ける為に守らなきゃいけない決まりってあるのかなって思う時があるんだ。勿論管理局は組織で行動してるんだから規律は守らなきゃいけないし、全員が助ける為だからって違反していたら組織は成り立たない。でもそれじゃ手が届かない助けられない時もある。今思い返したらはやての時はそうじゃなかったのかなって…」

 その気持ちはわかる。あともう少しで何とかなるのにと思ったことは数え切れない。でも彼女の言う通りその度に命令を無視しては組織は成り立たない。
 だからなのはは教導隊を志願した。教え子が同じ場に立った時、もう1歩足を進め手を伸ばして掴める様に…

「フェイトちゃんはどうするの?」
「何もしないよ、いつもみたいにお帰りなさいって迎えてあげるつもり。怒るのはなのはの役だからね。」
「ああっずるーい!!フェイトちゃんだけいい子になって~!」
「うん、私は優しいママだから。お風呂用意してくるね。なのはに怒られてションボリしてるヴィヴィオと一緒に入って慰めてあげようかな~♪」
「ええーっ、一緒に考えてくれないの~っ」

なのはの声を聞かずパタパタと出て行ってしまった。 

「…………うん、そうだね。私もおかえりなさいって言おうっと。夕ご飯の用意しなくちゃ。」

気を取り直してキッチンへと向かうのだった。



そして…

「本当に凄いわね…これが本当の力なのよね。」
『そうよ、魔力センサーはどうだったの?』

 2つの家でそんな事が話されているとはつゆ知らず、リンディは久しぶりの艦長室でお茶を入れて1人くつろいでいた。その前にはモニタがあってプレシアが映っていた。彼女は家に戻り料理中らしい。家族とささやかなお祝いでもするのだろう。

「バリアジャケット時は兎も角、騎士姿でSS、ユニゾンした後はアースラは勿論クラウディアのセンサーも振り切っちゃったままだったわ。機材のテストって報告しちゃってるけど…総合SSランクのはやてさんを取り込んだ闇の書を倒しちゃったんだからSSSオーバー、計測不能レベルね。」
『情報が洩れる可能性は?』
「データは抹消、撮影された映像はプロモーションにしてくれる様に頼んだけれど、何人もの目に止まったから口づてには洩れるわね。箝口令を出せば逆効果になるでしょうし少しの間有名になってもらって真実は私達の胸の中…そんなところかしら?」
『あっちの能力が知られなかっただけでも御の字と考えた方が良いわね。暫くは私がフォローするわ。あの子達も同じ目に遭うでしょうし。彼女が連れてきた友達は暫くこちらで預かるわ。チェントの遊び相手にもなってくれそうだから』
「助かるわ。」

 彼女達が持っていたデバイスは管理局製だったがそのコードは見当たらなかった。局側で預かれば色々問題もあるから教会側の彼女に預かって貰った方がいい。

『誰かさんが無茶しないでくれたらこんな事には…まぁ言っても仕方がないし、感謝してるわ。機会があれば孫でも連れて遊びにいらっしゃい。娘達も喜ぶわ。』
「ええ、そうね。」
『待ってるわ』

 そう言うと端末は消えた。

「最後に痛いところを突いてきたわね。さて…と…上層部はどう動くかしら?」

 彼女の魔力が機器の故障ではなく純粋にセンサーを振り切るレベルだと気付く者がいないとも限らない。目を光らせているがどこから洩れるか判らない。
 万が一洩れた時の事を考えておく必要がある。
 レティからの報告ではヴィヴィオが闇の書と戦闘状態になった頃に本局から闇の書消去命令が下されていたらしい。彼女達の遅延工作のおかげでその命令が届く前に解決することが出来た。
 いくら闇の書を蘇らせたとは言え地上本部の期待を背負う彼女を消す命令を本局が単独で発令していたら…地上本部や管理世界にある支部に知られた時何が起こるか?
 今頃発令した者は誰もその事に気づかない様に願っているだろう。だがリンディにとってそれは知らぬ事。友人を消す命令を下した者を放っておくつもりはない。

「子供を守るのは大人の役目よね。発令の記録でも探そうかしら」

 クロノが聞くと額を抑えるに違いない事をさらりとつぶやくのだった。



 そして…それから少し時間が過ぎていって…ヴィヴィオ達の前には丘の上で本を開く少女の姿が映っていた。

 少女の水色の髪を翠香る風がすく用に流れていく。
 少女は膝の上で分厚い1冊の本を広げ懐かしむ様に眺めて頁をめくっている。

 これが私の知る限りの闇の書事件の全て
 優しい魔導師達と小さな主はそれぞれまっすぐに時を過ごして
 騎士達は人々を守り救う仕事で過去の罪を購いながら、主の側で日々を生きる事を許されて
 そして冬の夜空を渡った祝福の風の思いは、春に生まれた同じ名前の新しい風が確かに受け取りました。

 リインフォース、空の向こうで見てくれていますか?

 本を閉じ青く澄み渡った空を見上げる少女。少女にむかって歩いてくる足音が聞こえる。
 その姿を見て微笑む少女。

「いこか、リイン」

それが少女の主、八神はやて

「はい、マイスターはやて♪」

私達は笑顔でいます。

元気です。


魔法少女リリカルなのはAgainStory3 ~Fin~


~コメント~
 もしヴィヴィオの時間、Asシリーズの世界でMovie2ndA'sが作られたら? 
 ヴィヴィオは今まで色んな事件に巻き込まれ、その中で色んな人に会ってきました。友達に、家族に、敵になった人もいました。
 色んな時間・世界のなのはやフェイト、はやて達は勿論、アリシアやプレシア、チェント、シュテル、レヴィ、ディアーチェ、ユーリ、アミティエ、キリエ…
 今回、ヴィヴィオはMovie2ndA's【闇の書事件の記録映像】で八神はやて役に抜擢されます。ヴィヴィオにとってはやては家族の親友でありヴィヴィオにとっても友人です。彼女の悪ふざけで今まで何度も酷い目に遭ってきたヴィヴィオは今度もその類だと考えてしまいます。
 でもその中にははやてだから伝えられるヴィヴィオへの想いがありました。
 最後の夜天の主、古代ベルカの騎士の先輩として…その気持ちに気づいたヴィヴィオははやて役を受け入れます。
 闇の書事件を劇中劇にしようと考えた時、はやてや守護騎士の思いという見える面とは逆に闇の書事件に囚われた局員、陰の面もあります。はやての誓いを破りリンカーコアを集め始めた騎士達によって被害を受けた者、前回、前々回の闇の書によって犠牲となった者やその家族、友人、上司、部下…その人数はどれだけ居るのか見当もつきません。
 AgainStoryで闇の書事件を体験しているヴィヴィオにとってそんな者達はどんな風に見えたのでしょうか?
 冷静に見つめるのか、それとも子供っぽく友人を敵視する対象に見えるのか…
 そんな考えの先に出てきたのがはやてやヴィヴィオ達に依頼しにきた広報部局員と制作開始直後に登場した運転手役の局員とMovie1st制作編に続くジュエルシードの発動でした。
 記憶封鎖され曖昧になったが為に強い想いを抱いてしまって自らを媒体にリインフォースを蘇られたはやて、一方はやてを助ける為に消えた筈なのに成長した彼女によって蘇らされ最悪の結末に進むのが判っているのに止める事が出来ないリインフォース。
 2人の気持ちを知っているからこそヴィヴィオは悩みます。そしてリインフォースを倒さねばならないという辛い選択を迫られます。
 リインフォースはヴィヴィオにとって時空転移の怖さを最初に教えてくれた大切な人です。闇の書として蘇りつつある彼女を倒しはやてを助けなければはやてや守護騎士が消えてしまうと知った時どうすればいいのか? 2人とも助けたいと思うけれど思いだけが空回りしてどうすればいいかわからず迷い動けないヴィヴィオ。
 そんな彼女に道を示してくれたのは家族や親友でした。それに気付いたヴィヴィオは初めて覚悟をします。母の親友でありヴィヴィオにとっても大切な人、八神はやてが心の底から願ったものを潰し、リインフォースを倒すという枷を背負う覚悟を。それは今後時空転移を使い何かを変えようとした時、喜ぶ者の裏に悲しむ者も居るという現実と向き合う覚悟につながっていきます。  
 Movie1stのBD・DVD化され2ndA'sの話が出て来た時からこんな話が作れたらいいなと考えていました。でもキャラクターを使った学芸会的な流れになってしまわないか、とか映画を見ていない方には完全にネタバレになってしまわないかという思いもあり実際に話を作るのを躊躇していました。そんな話を相方の静奈君にしたら「A's自体7年前に放送してるんだからネタバレにならない」と笑われまして、AgainStory3の話を書き始めるに至りました。
 書き終わってから振り返って見ると…本当に誤字脱字が多く申し訳ない限りです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。


Comments

かーな
連載、お疲れ様でした。
マテリアルズ、帰れてないんですね(笑)
マテリアルズ(レヴィ)とチェントによるドタバタも楽しそうですね。
2013/04/13 06:23 PM

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