第09話「決戦前夜」

「…うん、そうや。私ももう治ったからな、検査結果送ったやろ?」
「……ええよそれくらい。帰りに買うから。シャマルまた後でな」

 アリシアがはやての所に見舞いに来た翌日、知らせを聞いて病院に駆けつけたシグナムとヴィータが目にしたのは私服に着替え衣類や小物をバックに詰め込むはやての姿だった。
 シャマルが念話で引き留めようとしたものの軽くあしらわれてしまった。
 
「はやて、まだ寝てなくちゃ…」
「ヴィータ、丁度いいわ。これ持って。アリサちゃんとすずかちゃんからもろた見舞いや。帰ったら一緒に鉢へ植え替えような。」
「お見舞い? ってわっ!!」

 ポンと花瓶を投げられて慌てて受け取るヴィータ。

「我が主、今退院されても地上本部司令の権限は…」
「わかってるよそんなこと、それより先に行かんとあかん所があるや。シグナム、ヴィータはどうするんか決めたんか?」
「それは…」
「……」

 彼女に聞き返され黙ってしまう。
 昨夜はやてから念話で伝えられたアリシアとヴィヴィオの模擬戦。 アリシアから頼られてはやては中立を決めた。しかしそれははやて個人の考えであって八神家の総意ではない。
 話を聞いた直後は模擬戦を止めさせようと考えた。しかしなのはやフェイト、ディアーチェ達が全員止める気が無い事を聞きどうすればいいか迷っていた。

「アリシアはもう動いてるよ。対戦経験のある魔導師や騎士からアドバイス貰えたら喜ぶやろうな~♪」

 驚く2人。彼女が暗に協力しないかと薦めている。

「…良いのですか?」
「はやて、どっちにも協力しないって…」
「私は協力する気ないよ。会わなあかん人も居るし、調べ物や依頼…準備もあるしな。」
「「………」」
「私は止めへんよ。どっちにも協力せんからな。でも…シグナムとヴィータは見たいと思わん? フェイトちゃんの姉さん、短期間で魔力コアを使いこなしたアリシアの本気。」

 言われなくても思っている。
 僅かな期間で飛行魔法を覚え高度な空中戦を見せた彼女が本気になった所を…見てみたい。
 彼女に魔法の使い方を教えたヴィータは勿論…隣のシグナムもそう思っているに違い無い。 

「わかりました。あくまで我らの意志で…」
「ああ、試験の借り返してやる!!」



「ごきげんよう ?アリシアはまだ来てないの?」

 翌朝、ヴィヴィオが登校して教室内を見回す。普段ヴィヴィオより早く来ている筈なのに彼女の机には鞄も無かった。先に来ていたコロナも首を傾げている。

「ちょっと前から調子悪そうだったし…RHd。」

 RHdを取り出し通信を繋ごうとするが繋がらない。何かあったのか?

「ヴィヴィオ、ごきげんよ~。さっき先生から聞いたんだけどアリシア今週お休みするんだって。」

 入ってきたリオにごきげんよ~と挨拶を返しつつ

「そんなに悪いの? 帰りにお見舞い行かなきゃ」
「違う違う、お母さんのお手伝いで…何だったかな…遠くの管理世界に行ってるみたい。」

 通信が繋がらない理由とシュテルが先日帰ってしまったのに納得する。
 プレシアの仕事にアリシアが関係するならディアーチェ達も一緒に行ったのだろう。

(アリシアやっぱり凄いな~私も頑張らなくちゃ!!)

 
 
 その頃、アリシアはというと…
 小さな部屋の中でシュテル・ディアーチェと話していた。

「アリシア、あなたがヴィヴィオに勝つ足りないものが多く補わなければなりません。魔法力、センスや戦術、戦略…何よりも戦闘経験は差を埋める事すら出来ないでしょう。これは私達やフェイトが助力できません。無策ではないと思いますが…どうするつもりですか?」
「うん…賭けみたいな…ものなんだけど。戦術と戦略は何とかなるって思ってる。私が考えてる事は夜に話すね。今は魔法の使い方っていうかどんな時でも魔法が使える様に練習したいの。だからはやてさんにお願いしてここを使わせて貰えるようにしたの。」
「ふんっ、子鴉は子鴉なりに何か策があるのだな。よかろう我ら元闇の書のマテリアルと紫天の盟主、そして守護騎士が相手してやる。貴様等もそれで良いなっ!」

 そう振り返り言うと扉が開き2人が入ってくる。

「シグナムさん、ヴィータさん…どうして?」
「我が主はどちらにも協力しないと言われたが、我らまでとは言っていない。」
「1から魔法を叩き込んだ弟子が無茶しようとしてんだ。見てるだけなんてつまんねーだろ。」
「あ、ありがとうございます。」

 笑顔で答える2人に頭を下げた。



「わざわざこちらに来られるとは、思いも寄りませんでした」
「予定より早く退院できましたんで、お礼をと思いまして。」

 シグナムとヴィータがあっちに赴いた頃時空管理局本局にあるカフェではやては椅子から立ち上がり彼を出迎える。
 彼というのは本局広報部に所属しはやてに闇の書事件の再現映像撮影を依頼しに来た局員だ。
 飲み物と軽く摘める菓子を注文するとカフェのスタッフはその場を離れた。

「確かまだ局員権限を停止されたままなのでは?」

 耳が早いというか流石というか、苦笑する。

「ええ、地上本部限定で局員権限を戻して貰いまして今日は一般パスで来てます。」

 地上本部で発行されたゲストパスを見せる。彼も事情を知っているのか苦笑いする。

「…それで…ここに来られたと言うことは…」

 彼がリインフォース用の衣装にジュエルシードを忍ばせた事が事件の発端となっている。
 はやてが受け取ったディスクには事件の動機や自供も入っていたからディスクを出すところに出せば彼は更迭、局員どころか犯罪者となるだろう。
 彼はそれを知ってはやてにディスクを託したのだから…その時が来たのかと表情を固める。

「ええ、そうです。ですからこれを…」

 バックから取り出したディスクをバキッと2つに割る、その後何度か音を立ててディスクはディスクだった物に変わり果ててしまった。

「……どうして…」
「ジュエルシードについては私の不手際です。前の撮影でも何かの拍子に本物が混ざったみたいですし、今回もそうだったんと違いますか。」
「今日来たんはお礼を言おうと思いまして。闇の書事件の再現映像作ってくれてありがとうございます。まだ映像は公開されてませんけれど秘匿制限が解除されてから私やうちの家族に対する風当たりが無くなりました。」
「あの事件や家族が起こした事はずっと背負っていくつもりで局員になりました。でもあなたのおかげで皆未来を見られる様になりました。どんだけお礼しても足りん位です。」
「そんな…私は…」 
「どんないきさつがあったか私は知りませんし、これからも知ろうと思ってません。でも貴方が企画し秘匿制限を解除してくれたから私はここに来ようと思いました。重ねてありがとうございます。」

 入院していたはやてが秘匿制限の解除による反響を知ったのは退院して自宅に帰った後だった。
 局内ではやて達の処遇を見直す意見が次々と出ているとかつての部下であり本局勤務のグリフィス・ロウランから伝えられたのだ。
 レティやリンディがシャマル達の考えに同意しはやての司令権限を停止させ入院させた背景にこの可能性も含まれていたのだろう。
 そう考えた時、はやては自ら本局に出向き彼に直接会おうと決めた。
 彼に礼を言った時、彼の瞼が光っていたのをはやてはあえて見逃した。 



「………う~ん…」

 はやて達がそんな話をしていた頃、少し離れた本局の一角にある武装教導隊のスタッフルームで高町なのはが頭を悩ませていた。
 昨夜帰って来たヴィヴィオにそれとなく学院での様子を聞いた。その時彼女から何をしようとしているのか話してくれた。
 本当の事を彼女に伝えれば蟠りも解ける。でも…心の何処かで彼女が本気でぶつかってきてくれる事の喜びも感じている。それに応えるには…ヴィヴィオがしようとしていた事を応援するのが良い。そう考えて色々過去の訓練マニュアルを探したのだけれど…

「…元々が自己流だからね~今度もそうするしかないか…」

 あの魔法そのものが自己流なのだから教えるのもそれしかない。
 

 
 そして…ヴィヴィオ、アリシア、なのは、はやて、ディアーチェ達、シグナム達がそれぞれの場で動き、1週間が過ぎた。

「なのはママ、フェイトママおはよ~」
「おはよ、ヴィヴィオ」

 休日の朝、起きてリビングに下りてくるとアリシアがなのはと一緒に朝食の用意をしていた。

「アリシア! おはよ~。ビックリしちゃった。いつ帰ってきたの?」

 駆け寄るヴィヴィオ。

「昨日…かな。来週からは学院に行くよ…それでね…ヴィヴィオにお願いがあるんだ。」
「何? ノートならリオとコロナと一緒に取ってるよ。」

 だがその直後彼女の顔から笑みが消え

「ううん、私と戦って欲しいの。戦技魔法を使って本気の勝負」
「!?」

 その瞬間、ヴィヴィオの眠気は遠い星の彼方まで飛んでいってしまった。


~コメント~
 ヴィヴィオとアリシアの全力勝負
 半オリジナルなキャラとなっているアリシアと模擬戦とは言え戦わせるのはどうなのか? 今作を作る際に何度も悩みました。
 今までの話でヴィヴィオはほぼ化け物と化してるし(苦笑)、立ち位置としてヴィヴィオが前衛、アリシアはサポート役なイメージを固めていたのでそれをわざわざぶっ壊すのはどうなんだろう?
 又あくまでASシリーズは「ヴィヴィオの物語」なのでアリシアメインの話は…
 でもなのは2ndA'sのなのはとフェイトの関係を見ると一緒に歩くシーンが多く、アリシアの心変わりを含めて今話に至りました。
 ちょっと思ってたのと違うと思われる方もいらっしゃるかとは思いますが、おつきあい頂けると幸いです。

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