第08話「アリシア・テスタロッサとして」

「う~ん…ユーノ君でもきついか…」

 ユーノにある調査を頼んで2日後、はやては彼から届いたメッセージに目を通していた。
 ヴィヴィオに関わっているのを気づいているのか、古代ベルカ関係を主に調べてくれたらしいがかすりもしないらしい。

「…やっぱりヴィヴィオやったんかな?」

 端末を切ってベッドに寝転ぶ。
 成長したヴィヴィオだと決めつけてしまえばそれまでなのだが、どこか引っかかる。
 ヴィヴィオのRHdの解析結果が欲しいが、権限が奪われている今はこの映像しかとっかかりがない。
「検査結果見せてさっさと退院して調べ回ろかな…」

 オーバーワーク気味で溜まっていた疲れも取れて検査結果も良好だ。さっさと退院して聖王教会の蔵書を漁ろうかと考えていた時ドアを叩く音が聞こえた。

【コンコン】
「どうぞ~」
「こんにちは、はやて」
「お見舞いにきたよ」
「なのはちゃん、フェイトちゃん。ありがとな」

 入ってきたのはなのはとフェイト。なのはは少し大きめの箱を持っている。

「これ、すずかちゃんとアリサちゃんから。」

 そう言って渡された箱を見る。

「ありがとう、わざわざあっちに行ってくれたんや…」

 そう言って開けてみると鉢植えに植えられた植物が入っていた。

「…鉢?」

 子供の頃入院していた時に入院している人へのお見舞いで鉢植えの植物は【根付く】と縁起が悪いと教えて貰った。アリサやすずかも常識として知ってる。なのに鉢植えの植物…

「…なのはちゃん、フェイトちゃん…私、2人になんかした?」
「クスッ。はやてちゃんよく見て。それ鉢に見えるけど違うよ」

 よく見てみる。
 鉢に見えるがよく見るとシールが貼られていて、剥がすと水が並々入っていて植物は根をたゆたわせていた。上の方だけ土の色をしたスポンジで水が零れないようにしている。

「ポトスだって。アリサちゃんからはやてちゃんが焦ったら伝えてって頼まれているの。『次は本当に鉢植え送るわよ』。すずかちゃんからは『お家に帰ったら鉢に植えてあげてね』って」

 なのはの後ろでしてやったりと笑みを浮かべるアリサと少し困り顔のすずかが見えた気がした。

(もう…冗談きついわ。でも、心配してくれてありがとな、アリサちゃん、すずかちゃん)

「それとね…今日来たの私達だけじゃないんだ。入ってきて。」

 そう言うと再びドアが開き4人の少女が入ってきた。ディアーチェ、シュテル、レヴィ、ユーリだ。

「ユーリが海鳴に行って2人から預かってきてくれたんだよ。」
「さっき王様と一緒に帰ってきてそのまま来たんだぞ。」

 ディアーチェとユーリは何処かへ行っていたらしい。

「はやて…身体は…大丈夫ですか?」

 シュテルが1歩歩み寄って聞く。

「何ともないよ。検査も受けて特に異常ありませんって。」
「なによりです。ディアーチェ…」
「…す…すまぬ…。まさかあれが影響してここに来たとは」
「ううん私こそごめんな。おかげで目が覚めたよ。」

 フェイトの方を向くと彼女はウィンクして答えた。どうやら彼女がこの場を作ってくれたらしい。

「それで、4人が揃ってここに居るって事はこれからあっちに帰るん?」
「そのつもりでしたが…帰れなくなりました。レヴィ」
「うん、さっき着いたからもう来るよ」

 何かあるのだろうか? マテリアル達も少し困惑している様子が感じられる。なのはとフェイトは何も知らされてないらしく首を傾げている。
そうすると…

「お邪魔します。」

 入ってきたのは何とアリシアだった。



 昨夜、一足先に帰ってきたシュテルとレヴィからディアーチェとユーリが明日帰ってくる事を聞いた。
 本局のゲートになのはとフェイトが迎えに行き、クラナガンの病院で入院しているはやてを見舞ってから帰ってくるらしい。
 アリシアはそれを聞いてディアーチェ達とフェイト達が揃う機会だと考え

「レヴィ、シュテル、少し遅れちゃうけど私も行く。」

 2人に伝えた。



「はやてさん、元気で安心しました。」
「アリシアも見舞いに来てくれたんやね。ありがな」

 はやてはそう言いながらも彼女が入ってきた時からディアーチェ達の表情が難くなったのを気づいていた。

「それもあるんですが…みんなにお願いがあって来ました。」
「ええよ、アリシアのお願いなら聞くよ。助けてくれた借りもあるしな。」

 アリシアからのお願い。
 ここに居る全員にお願いがあるとするとヴィヴィオかチェントの事だろう。蘇らせた闇の書から助けてくれた彼女の願いであれば是非もなく2つ返事で聞くつもりだった。
 しかし、その口から告げられたのははやての予想からかけ離れたものだった。

「ヴィヴィオとの模擬戦で私が勝つ方法を一緒に考えて欲しいんです」



「ヴィヴィオとの模擬戦で私が勝つ方法を一緒に考えて欲しいんです」

  彼女の1言で病室の空気が凍り付いた。

「「「!?」」」
「「「「…………」」」」
「…アリシア、理由教えてくれるかな?」

 その空気が払拭されたのはなのはが口を開いた時だった。、 
 


 ディアーチェはアリシアが話す間静かに聞いていた。
 力が足りずリインフォースを助けられなかったとヴィヴィオが悔いているのではと予想していた。彼女は異世界のはやてとリインフォースが家族として一緒に暮らしているのを見ているし、2人が互いを大切に想っているかを知っている。
 そして…もし砕け得ぬ闇事件が起きなければ…起きてもヴィヴィオが軽傷であれば…【彼女】が正しい道へと導いただろう。
 でももう彼女はここには居ない。ユーリを助けた代償として消えてしまったのだから…
 ディアーチェ達やはやて達がヴィヴィオに話を聞き彼女がアリシアの言うような道を選んでいるのではれば諭して止める事も出来るだろう。
 しかし今後を考えれば…ヴィヴィオの近くに居るアリシアが適役だ。
 だが…方法が無謀過ぎる。 
 判断が揺らいでいた。

『ディアーチェ…』

隣で聞いているシュテルから念話が届く。彼女も迷っている。彼女の近くに居るユーリとレヴィもこっちを見ている。
 手を貸すか、静観するか、模擬戦そのものを妨害するか…

『…我はアリシアに手を貸す。我が手を貸さずともあやつはヴィヴィオに挑む。ならば手を貸し無事に戦いを終わらせるのが良策であろう。シュテル、レヴィ、ユーリは好きにせよ。元より我らが関わらずとも良い話だ。』
『いいえ、私もディアーチェに賛同します。』
『うん、2人とまた遊びたいよねっ♪ やっぱり王様優しい~』
『はい、ディアーチェは優しいです。』
   
レヴィを少し問い詰めたいところだが、今ははやて達がどうするかを聞くのが優先だ。



『なのは…』

 アリシアから話を聞いている最中、フェイトから念話が届く。
 この中で彼女が1番複雑な気持ちだろう。姉が娘に挑戦状を叩きつけるというのだから…
 アリシアの言葉の節々からヴィヴィオを大切に思い彼女の為にしようとしているのが感じられる。ヴィヴィオと2人、話をすればわだかまりもなくなるだろう。
 でも彼女が求めているのはそれだけじゃない。

『フェイトちゃん、きっとアリシアは…昔の私と同じ気持ちなんだよ。フェイトちゃんと初めて会ってお話して友達になりたいって』

【ヴィヴィオと一緒に歩きたい。】

 昔、なのは自身がフェイトに対して抱いていた感情を彼女が持っている。反対すれば止められるけれど、するなら思いっきり2人がぶつかった方が普段伝わらない事も伝えられる。

『なのは、止めなくていいの?』
『うん、でもまだヴィヴィオに教えなくちゃいけないから…アリシアを手伝えない。フェイトちゃんが手伝ってあげて』
『!! …いいの?』
『うん♪』


(アリシア、相変わらずぶっ飛んだ事考える…)

 アリシアの話を聞きながらはやてはどうするかを考えていた。
 アリシアが言うようにヴィヴィオが聖王教会を目指すなら、間違いなく騒動が起こる。そんな大事、ヴィヴィオが将来についてなのはやフェイトに相談せず決めるだろうか?
 ヴィヴィオは何か別の目的を持っている。でもそれをアリシア達に話していないだけではないか?
 頭が切れる彼女でもその辺りはまだ子供だと思いつつ、子供だからこそ無茶もする。
ヴィヴィオをここに呼んで話をさせるのが手っ取り早い解決方法だけれど、起点の解消でしかない。彼女の希望がヴィヴィオと同じ目線に立つこと。

(どうしよ…?)

 はやて自身としては協力してもいいと考えているけれど、アリシアにだけ協力するのはどこか違う気がする。
 そう考えているとアリシアの横で話を聞くフェイトとなのはが何か視線のやりとり…念話で話しているのに気づいた。

(フェイトちゃんがアリシアについてなのはちゃんは…ヴィヴィオに話を聞くってところやね) 

 ならば自身はどう動くべきか… 
  


「………」
「………」
「…………」

 話し終えて無言の時間が続く。
 元よりアリシアは全員の賛同を得られるとは思ってない。
 それでもヴィヴィオに話す前に全員に理由を話さなきゃいけない。じゃないとここに居る誰かに止められる。それだけは避けたかった。

「わかった…姉さんに協力する。」

 しばらくフェイトが答える。真っ先に反対されると思っていたからホッと安堵の息をつく。でも…

「アリシアごめん…手伝えない。フェイトちゃんと私が協力したら…ヴィヴィオが寂しいよね。でもアリシアが言うようにヴィヴィオが何か違う事をしていると思う。私、心当たりあるからヴィヴィオに聞くね。」
「なのはさんっ!」
「安心して、アリシアがヴィヴィオに話すまで言わないよ。だってヴィヴィオの事こんなに思ってくれてるんだから。」
「私は…どっちにもつかへん。さっきも言ったけど、アリシアの頼みなら何でも受けようって思ってたけど、ヴィヴィオも同じやから。うちの家族にも言っとくな。」
「ありがとうございます。フェイト、なのはさん、はやてさん」

 そして3人の奥でアリシアの方を見ていた彼女を見る。

「我らは貴様に手を貸す。その代わり…」
「全力で挑んで下さい。でなければ容赦なく撃ち落とします。」
「本気でかかってきてよね。じゃないと切り落とすよ。」
「頑張ってくださいね。」
「うん、ありがとう!」

 アリシアは4人の笑顔を見て強く頷いた。



 そんな話が病院で繰り広げられていた頃、高町ヴィヴィオはミッドチルダの港湾地区へとやって来ていた。
 その目的はというと…

「おーいスバル、小さなエース様の面会だ。」

 湾岸警備隊特別救助隊に居るスバルに会う為だった。



 前日にスバルに行くと伝えていたからやって来てそのまま会えると思っていたけれど、受付で名前を告げると何故か近くに居た女性から謝られ、そのまま司令室へ案内された。

「高町ヴィヴィオ司書、先日のマリアージュ撃退は見事だった。本来は表彰すべきなんだがこっちの実績になってしまった、すまない。」

 出迎えられ頭を下げられ何の事かわかった。

 数ヶ月前、マリンガーデンにマリアージュが現れた。ヴィヴィオがマリアージュを屋上に誘い出そうとしていた時、一緒に居たアリシアがヴィヴィオの名前を語ってスバルに連絡したが直接話が出来ず伝言を残した。その後状況を知ったヴォルツがヴィヴィオのRHdに直接通信してきた。
 結局現れたマリアージュ6体はヴィヴィオが撃退したが、彼女の魔力やその場に居た彼女の複製母体等の事もあり、スバルとオットーが撃退したと報告された。

「あ、あのっあの時私がスバルさんを待っていなきゃいけなかったので…すみません。」
「いや、あの状況で冷静に判断して屋上に誘い出し、被害を出さず撃退したのは誇って良いぞ。さすが空戦Sランクだ。」

 笑みを浮かべて言われて思わず固まる。どうやら色んな所に知れ渡っている…らしい。

「話が長くなった。特別救助隊に案内しよう。」
「あ、ありがとうございます。」

 髪のリボンを揺らせて彼の後を追いかけた。

~コメント~
 もしヴィヴィオの世界でMovie2ndA'sが作られたら?
 今章は決戦前夜的な話でした。
 入院患者への見舞いの品では鉢植えの植物は【根付く】と避けられる事が多いそうです。

 先日の台風で関西の河川が氾濫して京都や滋賀が大きな被害を受けました。
 テレビやツイッターで濁流と化した鴨川を見て本当に同じ川かとショックを受けました。
 嵐山は少しずつ復旧しているそうなので次の休みにでも行こうと思っています。

 

Comments

Comment Form

Trackbacks