第11話「最初で最後の本気の勝負(後編)」

 常にアリシアがヴィヴィオに勝てる可能性はあった。
 彼女と彼女のデバイスのリンクを切ってしまえばいい。
 融合してしまっているから取り出しようも無いが、そのリンクを一時的にでも阻害できれば…彼女の力は消えてしまう。
 でもアリシアはその考えを最初から捨てていた。
 ヴィヴィオとRHdは相乗魔力増幅機能を使っているから切った時ヴィヴィオに何が起きるかわからないからだ。
 だからと言って彼女を本気に、聖王化させた上で勝たねば意味がない。
アリシアにとって彼女のレリックとの融合-聖王化は最初の目的であり、1番の難題だった。
 彼女がそれを使ったのは砕け得ぬ闇事件でのユーリ戦、なのは&フェイト戦、はやての願いで蘇ったリインフォース戦だけで余りにも特殊な環境か複数人を相手にした乱戦でしか見せていない。
 今までの戦闘スタイルが大きく変わり、シューター1発でも聖王化していない時のクロスファイアシュート以上の魔法力があるから受ければ即座に落とされる。

(それでもっ!!)

 上がった息を整える間もなく突っ込んでくる光を両手の刃を使って軌道を何とか逸らす。
 続けざまに繰り出された拳を右手の刃で絡ませ左で打とうとする。
 しかしその刃はヴィヴィオに届かなかった。聖王の鎧は越えても彼女の纏う甲冑から溢れる魔力が鎧となっていたのだ。そしてその光に触れた瞬間

【ガキッ!!】

 音を立てて刃は折れてしまった。

「!?」
 


「ここまでだな…」
「ええ、バルディッシュもそうですが…もう心身が限界でしょう。まだ飛んでいるのが不思議な位です。」

 ヴィヴィオを組み合ったアリシアが即座に離れ再び水色の刃を作り出す。だがその様子を見てディアーチェとシュテルは悟った。
 彼女はもう…魔法を使うのも辛いほど疲労している。

「どうしてこんなになってまでするの?」
「アリシア…もう止めた方が…」

 レヴィとユーリも辛そうに見ている。
 モニタ向こうでは肩を大きく揺らして息をするアリシアが映っている。
 シュテルの指摘した通り体力だけではなく精神的にも疲労しているのが見て取れた。隠す余裕も無いのだろう…。
 アリシアがここまでヴィヴィオについてこれたのは彼女が今までヴィヴィオ動きを先読みしそれに対応していたからだ。
 僅かな仕草も見逃さず高速で迫る相手を迎撃するには体力もそうだが何よりも集中力を疲弊させる。慣れていればある程度緩急をつけて時間を延ばすのだが彼女には無理な話だった。

『みんな知ってるんでしょ。どうしてこんなになってまでアリシアは戦おうとするの? 只の模擬戦だよ?』

 戦闘中のヴィヴィオから念話が届く。
 彼女の様子に気づいたのか…

『貴様が聖王なぞ目指すからだ。何故貴様も子鴉も過去ばかりを見て、未来を見ようとせん…』
『えっ?』
『アリシアはあなたがリインフォースを救えなかった事を後悔し、聖王となり何かの方法で救おうとしているのではないかと思っています。そうではないのですか?』
『そ、そんな…全然違うよっ!』
『だからアリシアはヴィヴィオを止められる力を見せようとしてるんだよ。ヴィヴィオが言ったんでしょ、オリヴィエがそう思ってたって』
『【もしヴィヴィオが間違った方へ行きそうになったら止めてあげて】と…アリシアはそう言っていました。』
『嘘…』

直後ヴィヴィオの動きが止まった。



「…ヴィヴィオ、気づいたみたいだね。」
「…うん…」

 アリシアの戦術は理にかなっていた。相手の動きを観察し、僅かな仕草から次の動きを予測、迎撃する。なのはやフェイトは勿論、高位の魔導師は少なからず似た事をしている。
 だがその精度を高めるのは容易ではない。相手を観察する集中力もそうだが何より対戦経験がものを言うからだ。
 しかしアリシアはヴィヴィオに対し互角と言っても良い状況を作っている。短期間でどれ程ヴィヴィオに対し研鑽を積んできたか…その思いの強さが感じ取れた。
 だからなのはとフェイトは見て取れる程疲弊した彼女を見てもこの模擬戦を止められなかった。
 でも、ヴィヴィオはアリシアの思いに気づいてしまった。ヴィヴィオはきっと彼女にこれ以上無理をさせたくないと思い、模擬戦を止めようとするだろう。

(ここまで…かな?)

 そう思い2人に通信を送ろうとした時、RHdを通してヴィヴィオから通信が届いた。

『なのはママ、使っちゃだめ? アリシアがこんなに私を思ってくれてる。私も本気で相手したいの!』
(ヴィヴィオ…)

 ヴィヴィオが負けたと言えば模擬戦は終わる。
 しかしそれは2人の間に禍根を残す不安があった。でもヴィヴィオは自ら止めるのではなく、全力でぶつかりたいと言ってきたのだ。

「…いいよ。使っても。」
「なのは?」
「でも絶対無茶しちゃだめだよ。」
『うん!』

 そう答えると通信が切れた。

「なのは、ヴィヴィオの全力って大丈夫なの? これ以上魔力上がったら…」
「なのはちゃん、ヴィヴィオの全力って何かあるん?」

 近くに居たはやても聞く。さっきの通信を聞いていたらしい。

「フェイトちゃん、大丈夫だよ。ヴィヴィオの言ってたのってそういう使い方じゃないから。はやてちゃんも見てて。」

 そう答えて娘の方を向いた。

(頑張って、ヴィヴィオ)
 


 私が聖王を目指す…そんな風に思われてるなんて思ってなかった。
 私の近くにアリシアが…何でも話せる親友が居るからオリヴィエさんはレリックを託してくれたって言いたかっただけなのに…
 そこまでアリシアを追い詰めていたのにどうして何も気づけなかったのか…

「ハァッハァッ…も、もう終わり? 私はまだ動けるよ?」

 デバイスを構える親友を見る。


 オリヴィエさんがこう思ったんじゃないかって言ったのは私

 リインフォースさんを助けられなくて、はやてさんの願いを壊して泣いちゃったのも私

 そして…オリヴィエさんみたいに魔法を上手く使えなくちゃって言ったのも私

…アリシアはみんな知ってるから…

『ごめんね…私、アリシアが私の事考えてここまでしてるから…最後は1人で相手をしたいの。』

 心の中で呟くと聖王ヴィヴィオが笑って応えてくれた。

【…うん…見てる。頑張って】

 ユニゾンを解き、騎士甲冑を解除しバリアジャケットに戻す。



「…もう勝ったって思ったの? 私がもう動けないからバリアジャケットに戻したの? どうして…私が勝てないって思ったのっ!」

 怒るアリシアに対し静かに首を横に振って答える

「違うよ。アリシアがそこまで私の事思ってくれて…私の為に頑張ってくれたのに…手なんか抜けないよ。バルディッシュ、シールド超えそうになったら教えて。直ぐに止めるから。」

 ブレイズフォームで構え直したアリシアの前でヴィヴィオが動いた。迎撃態勢に入るアリシア。
 次の瞬間ヴィヴィオはアリシアに対し急接近する。
 近接戦、彼女に怪我させると思って避けていた。
 ヴィヴィオの拳を右のバルディッシュで受けつつ左を振り抜く。しかしその刃は空を切るが振り抜き切った瞬間、刃は虹色に輝く光を受けて砕け散る。続けざまに右の刃も彼女の拳を受けて散った。

「!?」

 それを見て思い出す。異世界のレヴィ達を助けた時、彼女が本人ではなくデバイスに目標を絞って破壊した事を…
 そしてアリシアがそれに気づいた時には既に遅く

「セイクリッドッブレイザァァァアッ!!」

 目の前が虹色に包まれた。
  
~コメント~
 ヴィヴィオvsアリシアの決着。
 アリシアの気持ちを知った時、ヴィヴィオがどんな風に動くでしょう?
 もう終わりにしようと言ったり負けを認めたでしょうか? それより全力で挑んできた彼女に応えようとしたのではと考え今話に至りました。

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