第13話(最終話)「手を繋いで」

「ただいま~。あ~疲れた…」

 夜も更けた頃、はやては自宅に戻ってきてソファーに寄りかかる様に倒れ込んだ。

「はやてちゃん、毎晩遅くまで何してるんです? 退院して直ぐにこんな調子じゃ体調崩して病院に逆戻りですよ。」

 シャマルが怒りつつも湯飲みを持って来てくれた。

「ごめんな…ちょっと本の虫になりすぎて…最終のレールトレインぎりぎりやった…」
「レールトレインって…何処に行ってたんですか?」
「………」
「…………」

 彼女の目が怖い。体を起こして彼女に向き合い白状する。
「…聖王教会の書庫に行ってました…」

 彼女が自分の体を心配してくれて怒っているのも判っているし家族間での隠し事はなしという決まりを作った本人が破っていては家長の示しが付かない。
 はやての言葉を聞いてシャマルは半分呆れた様な声で答えられた。

「ちょう気になる事があってユーノ君に頼んだんやけど、芳しくないんよ。聖王教会の蔵書やったら局員権限無くても見せて貰えるし…」

 退院した翌々日からはやては時間を見つけては聖王教会に通っていた。彼女が調べていたのはディスクで見たヴィヴィオらしき人物の正体。
 闇の書と化したはやてを助ける為にディアーチェ達まで呼んできた彼女に戦闘中に変身魔法を使う余裕は無い。だが追い詰められた状態で見せた古代の戦装束に何か意味があった様に思えてならないのだ。
 映像ディスクはバラバラに割ってしまったから残った手がかりはディスクから取った画像だけ。 その画像をカリムやシャッハ達に見せれば何かしらの答えは得られるだろうけれど彼女の立場をこれ以上複雑にしたくない。
 そこで権限を剥奪され民間人となったはやて自らが乗り込み調べ始めた。

「あまり無理しちゃだめですよ。今日みたいな日が続くようなら騎士カリムにお願いして…」
「う、うん。明日からはちゃんと夕ご飯までに帰ります。はい」

 今の彼女なら本気でカリムに言って出入り禁止にしかねない。

「はい♪ それはそうとリインちゃんがナカジマ3佐から手紙預かってきたんです。はやてちゃんに連絡取ろうとしても全然繋がらないから直接渡して欲しいって…。リインちゃんもさっきまで待ってたんですが、もう遅いからって先に寝ちゃいました。」

 書庫に居る間は通信を全部切っている。
 何だろう?と首を傾げながらシャマルから手紙を受け取り封を開くと明日リインと一緒に顔を出す様に書かれていた。
 

 
 そして翌朝、眠い目を擦るリインを肩に乗せ陸士108部隊のゲンヤの下を訪れた。
 しかし…

「はい? まだ来てない?」
「すみません…家を出たのは私の方が後だったんですが…」

 申し訳なさそうに謝るギンガ。

(人を呼び出しといて何処ほっついてんねん!)

 青筋を何本か立てながらもギンガにあたったところで意味はない。

「教えてくれてありがとな、ギンガ。そういやチェントの話聞いた?」
「あ、あの子ですか?」

 名前を聞いた途端、少し顔を青ざめ1歩後ずさる。

(あ~…軽いトラウマになっとるな…)

 その様子を見てはやては苦笑いした。


 1年前、ヴィヴィオによってチェントが保護された後管理局ではスカリエッティの関係者としてチンク達と同じ保護プログラムを受けさせる事が決定した。
 現状を把握せずに命令が下されるのは世の常である。チンクやノーヴェ、セインやルーテシア達の様に物の善悪や人格が出来上がっていて会話や文字による意思疎通が出来れば当然の措置だったのだが、推定年齢4歳の幼女に受けさせるのは無理があった。
 ギンガは担当者として彼女にプログラムを受けさせようとしたのだけれど、思いっきり拒絶され暴れられた末、ギンガは心労で倒れてしまった。
 彼女が倒れた事で予定が変わりプレシアが保護者となり彼女を養子としたのだから、心労の成果はあったのだけれど、未だにその影響が残っているらしい。

「アハハ…昨日カリムから聞いたんやけどチェント、保護観察処分が取れて来月からStヒルデの幼等科に入るんやって。」
「そうですか…大丈夫でしょうか? 保護観察処分になってたって知れ渡ったら…」
「その保護観察処分やけど撮影に協力したのが解除理由なんよ。初等科も近いからアリシアやヴィヴィオもおるし、大人が口を出さへんかったら大丈夫。私も会って話ししたけど普通の子と変わらん。ヴィヴィオよりちょう人見知りな位やな。」
「そうですか。良かった…」

 彼女も気に懸けていたらしい

「おぅ悪い。待たせちまった」

 そう言ってのそっと顔を出したのはゲンヤだった

「師匠~」

 振り返って1言言ってやろうとしたらゲンヤの後ろからもう1人男性が現れた。
 どこかで会ったような…ハッと思い出して立ち上がり敬礼する。
 ヴィヴィオの魔力封印の際、なのはとフェイトと共に直談判をした司令だったのだ。



「今日おめえさんに来て貰ったのは、こいつから相談を受けたからなんだが…司令補を通すより本人同士直接話した方が良いと思ってな。」
「はぁ…」

 なんだか当を得ない話しに相づちをうつ。

「はやてよ、ここで新しい部署立ち上げる気ねえか?」
「……はい? 部隊ではなく部署をですか?」

 いきなり何を言い出すかと思えば…新しい部署を立ち上げる?

「おい、俺にばかり話させるな。」

 ゲンヤはそう言って隣の司令を促した

「全く、いつになっても口が悪い奴だ。新造艦の運用計画書を読ませて貰った。誰かを推薦するつもりだった様だが、自分で部隊…いや部署を創設してみる気はないか?」

 計画書と言われてアッと気づいた。
 司令権限の停止命令書を受け取った後、はやての指示を受けてリインが事務作業を本局、地上本部、聖王教会の3つに分けた。その中で地上本部に関係するものは陸士108部隊へと送られた。
 しかし余りにも膨大で1部隊の事務担当者では処理しきれず、はやてが休暇中の間だけ出向扱いでリインが手伝いに来ていた。
 その際運行計画書がゲンヤの目に留まり彼に話したのだろう。

「陸海空…ミッドチルダは陸士隊が主部隊で空はクラナガンの首都航空隊、海は港湾警備隊か陸士隊の1部隊が担当で機材、人員も陸と比べて貧弱だ。」
「そこで君の運用計画書だ。海上警備の現状と重要性がまとめられて対応策として新造艦の運用についても理に適っている。部隊創設経験もあり聖王教会からの評価も高い。」
「例の秘匿解除で再評価され呼び戻される前におめえさんをそれなりのポストに据えちまえっていう思惑にも乗った形なんだが…どうだ?」

 2人の顔を見る。笑みを浮かべたゲンヤを見て色々悟った。
 マリアージュ撃退の為イクスを伴った巡教団の指揮をさせたのはこれの試金石だったのだ。
 前代未聞、管理局と聖王教会が参加する団体を創設、指揮したとなれば経験も積めるし評価も上がる。
 彼はそれを見越していたのだ。
そして…

(私にも祝福の風くれるんやね…リインフォース)
「はい、謹んで拝命します。」

 満面の笑みで答えるのだった。

 
 
「じゃあなのはママ、フェイトママ、アリシア、プレシアさん行ってきます。」

 はやてがそんな話をしていた頃、ヴィヴィオは目の前のなのは達に言った。
 今からディアーチェ達を元居た世界に送っていくのだ。
 昨日4人に連れ回されあっちのはやてやフェイト、なのは達へのお土産を買ってきたから彼女達の用が済んだのはわかっていた。

「あの…シュテル。1つお願いしていいかな?」

 転移する際離れないように手を繋ごうとした時、アリシアがシュテルに駆け寄る。

「何でしょう?」
「あのね…これを渡して欲しいの…私に」
「…アリシアに…ですか?」
「うん、あっちのヴィヴィオと一緒に来てたみたいだったから。」

 そう言ってメモを見せる。

「レヴィにお願いした方がいいかなって思ったんだけど、レヴィ忘れちゃいそうだしね。」
「…む~っ!!」

 頬を膨らまし怒るレヴィだったがいつもの勢いはなかった。
 先にチェントとさよならした時号泣し瞼が少し腫れていた。アリシアはそれを見ていたから思い出させない様にとシュテルに頼み彼女もアリシアの意を知って引き受けた。

「わかりました。あの事件後の彼女に渡しましょう。」

そう言って手紙を受け取った。

「じゃあいくよ。悠久の書、お願い」

 虹色の光に包まれた後5人の姿は消えてしまった。

「行っちゃったね…」
「うん…良い子達だったわね…」

 アリシアの肩をプレシアが抱える様に言うと彼女は強く頷いた。その際頬を一筋の雫が流れたのはアリシア本人も気づいていなかった。


 
「っと…到着っ♪」

 トンっとステップを踏んでヴィヴィオは降り立った。
 周りをくるりと見て海鳴市だとわかる。臨海公園の端の辺りだ。

「シュテル」

 ディアーチェがシュテルに声をかけると彼女は結界を張る。

「他の者どもに見られる訳にはいくまい。」
「あ…そうだね」

 聞く前に言われて気づく。上空のアースラにはリンディ達がいる。ディアーチェは私が見られて記憶が戻ってしまうを避けてくれたのだ。

「送って貰ってありがとうございました。」
「ううん、お礼を言うのは私の方だよ。来てくれてありがとう。」

 頭を下げて礼を言うシュテルの手を取る。
 ディアーチェ、シュテル、レヴィ、ユーリの4人が来てくれなかったら本当にはやてを助ける事も出来なかっただろう。

「じゃあね。バイバイ、っぐ!?」

 そう言って悠久の書を開いた瞬間、ディアーチェに襟元を引っ張られた。 

「待て、貴様に聞きたいことがある。」
「な、何?」
「向こうの闇の書に倒された時、何故立ち上がれたのだ? あの状況では貴様に力は残っていなかった筈だ。」

 倒された時…思い出す。多分リインフォースから砲撃魔法の直撃を受けた時の事だろう。

「うん…私ももう駄目だって思っちゃった。でもね…」
「でも?」
「教えてくれたんだ、もう1人の私が。私は1人で戦ってるんじゃないって私も一緒だって。だからかな、フェイトママが飲み込まれちゃった魔法も私達には効かなかった。」

 答えると彼女は考える様に暫く俯いた後、頷く。

「心の闇との同一化か…その様な手があったとはな。イクスにも話してやるといい…奴は貴様の…」
「う、うん…」

 頷くヴィヴィオだったが最後にディアーチェが呟いた言葉は聞き取れなかった。

「王様、もういいみたいだよっ♪」
「やっと来ました。」

 こっちに来てすぐに結界の外へ出て行ったレヴィとユーリが戻って来た。ヴィヴィオも同じ方向を振り向くと小さな光点が幾つか見えた。たちまちそれは大きくなってヴィヴィオの前に降り立つ。

「みんなおかえり。待たせてごめんな~」

 はやてとリインフォース、シグナム達だった。

「遅いっ!」
「無理を言うな。これでも急いだのだ。いつ帰ってくるかわからないお前達には合わせられん」

 どうやらディアーチェは話を聞く振りをしながらはやて達が来る迄引き留めていたらしい。

「ヴィヴィオ、これを使え。我らはこのままで良いがはやて達が覚えていては未来に影響する。」

 そう言って渡されたのはアミティエから貰った記憶を変換する機械。プレシアから預かってきたらしい…

「…うん、そうだね。はやて、リインフォースさん、シグナムさん、シャマル先生、ヴィータさん、ザフィーラ…いい?」
「ちょう待って、その前にこれあっちの私に。」

 そう言ってはやてから手渡されたのは6枚のディスク。1人1枚ずつ作ったのだろうか…

「わかった。ちゃんと渡すね。じゃあ…」

 はやての額に機械を翳す。続けてリインフォース

「ヴィヴィオ…ありがとう…」
「うん…」

 囁かれて抱きついて泣きそうになったけれど、必死に我慢して翳す。そしてシグナム、シャマル、ヴィータ、ザフィーラ…
6人が目を瞑っている間に

「じゃあね。みんな、バイバイ」

 もっと色々話したいし、彼女達との日々を聞いてみたい。
 でもそれは私が話すべきではないし聞くべきではない。

「ただいま。アリシアっ、学院行こっ♪」

 光の向こうに降り立つと目の前に居た彼女の手を取る。

 私には一緒に歩いてくれる彼女がいるのだから。

 ~魔法少女リリカルなのはAs Fin~


~こめんと~

 今話は闇の書事件劇中劇、Movie2ndA'sが舞台になったAgainStory3の後日談から始まります。
 異世界の過去から来たシュテル、レヴィ、ディアーチェ、ユーリが何を思い、一時ヴィヴィオの世界に残ったのか?
 残った理由を遂げる為4人は方々へと散ります。一方でヴィヴィオは元の生活へと戻っていきますが、そんな彼女にアリシアは違和感を感じ取ります。
 後日談、繰り返す物語、前作が背景となった物語でありヴィヴィオに連なる物語。今話には色々なAS今話には含まれています。その中であえて付けるのであれば「アリシアの物語『Alicia'sStory』」でしょうか。
 アリシアはヴィヴィオの様子がおかしい事に気づき、何らかの方法でリインフォースを助けようとしているのではないかと考えます。それも聖王絡みで…
 一方でヴィヴィオは撮影での出来事を心に留め、目指すもの-未来を考え始めます。
 その中で古代ベルカ式という特殊な魔法体系の枠に囚われなければいけないのか?という考えと異世界ヴィヴィオ(Vivid)の思い出しミッドチルダ式魔法が使えないかと考え始めます。
 しかしアリシアはヴィヴィオの様子を見てオリヴィエと並ぶ為に聖王になろうとしてるのではないかと考えます。そこでアリシアはヴィヴィオがもし間違えた選択をしても間違っていると言う、並んで歩く為にヴィヴィオに戦いを挑みます。そしてヴィヴィオとの差を埋めるべくプレシアやフェイト、ディアーチェ達を巻き込みます。
 一方で闇の書事件の当事者であるはやての周りも大きく変化していきます。
 撮影中は何も言わなかったシャマル達ですが、終わった翌日にはやてを入院させます。しかもリンディ達を巻き込み彼女が何も出来ないように司令という権限だけでなく管理局員という立場も剥奪します。シャマル達ははやてに療養を専念させる為だと考えていましたが、リンディやレティ、カリム・ゲンヤはこの数週間ではやての身に何が起こるのか暗に示唆しています。
 毎週更新するつもりでしたが、プライベートで色々な事が起こり毎週更新できず申し訳ありませんでした。
 最後まで読んで頂きありがとうございました。

 

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