第11話「理のマテリアル」

(さっきの電話って…アリサだよね?)

 T&Hへ戻る最中、ヴィヴィオはなのはとフェイトの後ろを歩きながら考えていた。
 アリサからの電話の後2人ともどうも様子がおかしい、時々こっちを見て笑みを返すけれどその後ため息をついている。T&Hへ戻る足取りも重い。

「もしかして、なの…」
「なぁ、ヴィヴィオの世界に私も居るよな? …その…」

 ヴィヴィオが聞こうとした時さっきから黙って付いてきていたヴィータが聞いてきた。

「大人の私、シグナムとかリインフォースみたいに大っきいのか?」
「ヴィータ…さっきはやてが聞かない方がいいって言ってたよね?」


 
 『異世界から来た』と言うと決めた後、なのは達に何か聞かれたら素直に答えるつもりだった。しかしはやてはそれを止めなのはとフェイトにも聞かないようにと促していた。

「うん…でもっ!!」

 はやてと一緒に帰らずヴィヴィオ達に付いて来る間、ヴィータが何も話さなかったのは彼女の中で『聞きたい』『聞かない』がせめぎ合っていたらしい。そしてどうやら『聞きたい』が勝った様だ。回り込まれジッと顔を覗き込む彼女を見て歩みを止める。

(どうしよう…)
「す、すっごく素敵な人だよ、ヴィータさん。私が困ってたら助けてくれるし…」
「ホントっ?」
「うん♪」

 頬を崩して笑うヴィータ。

(嘘は言ってないけど…ヴィータごめんね)

 ヴィヴィオの世界でヴィータは闇の書-夜天の魔導書に組み込まれていた『守護騎士』というプログラム。ヴィータを含め守護騎士達は身体的な成長は無い。
 流石にここでそれを話すのは色々まずい気がしてヴィヴィオははぐらかしたが、彼女にとって十分だったらしい。彼女の笑みを見てホッと息をついた。しかし

「ヴィヴィオ、私達は?」

 声を聞いて振り返るとなのはとフェイトが顔が目の前にあった。

「!! でもさっきはやてが…」
「気になるよ~、ヴィータちゃんだけずるいっ」
「うん、でもはやてが言ってた事もわかるから少しだけ。ヴィヴィオが言っても大丈夫だって思う事を教えて」

 フェイトの話に無茶なと思いつつ

「わかった。でも私のママ達の話で魔法が使える世界の話だからなのはとフェイトの未来がそうだって思わないでね。」

 そう前置いて家や学院の事を言葉を選びながら話すのだった。 



そして
「ただいま~、リインフォース店番ありがとな」
「お帰りなさい、我が主。」
「お帰りなさい。」

 ヴィヴィオ達と別れたはやてが八神堂に戻ってくるとカウンターの横で1人の少女が待っていた。

「ただいま~シュテルん♪」
「…呼称の変更を希望します。」
「残念、ただいまシュテル。どうしたん? 研究所の方はもうええの?」

 折角場を和ませようとしたのだけれど拒否されてしまった。ジト目で見られ直ぐさま白旗を振って聞き直す。   

「ええ、今は博士とスタッフがチェックしていますから私達の出番はありません。それよりももう1人の白のセイクリッド、ヴィヴィオでしたか…彼女について教えて貰えませんか?」
「ヴィヴィオちゃんの事ならT&Hに聞いた方が早いんちゃう?」
「あっちにはディアーチェとレヴィが向かいました。私は彼女の所属がT&Hから八神堂に変わったのははやてが関係しているのではと」

はやては『ホゥ』と感嘆の声をあげる。
 シュテルはヴィヴィオの所属を変わった事を知って彼女が居るT&Hではなく八神堂にやってきた。しかもそれがはやてが関係していると確信を持って来ていたのだ。

「彼女は一体何者ですか? 博士に聞きましたが私となのはのジャケット、セイクリッドは防御と火力に秀でていて希少です。その中で白は更に数が少なくなのは以外は知りません。しかも彼女はリライズで初めて見るジャケットを纏い、私達4人が勝てなかったNPC相手に対し1人で圧倒していました。」
「クスッ」

 ついさっき自分がヴィヴィオに対して言ったのと同じ言葉を目の前で繰り返されて思わず笑ってしまう。

「?」
「ごめんごめん。ヴィヴィオちゃんはそうやね…ちょっと変わった旅行者ってとこかな。近い内にそっちにも行くつもりやから詳しい話はその時本人にでも聞いてくれた方がいいな。」
「はやては知っているのですね。その上で彼女から聞いた方がいいと?」

 確認するように聞くシュテルにはやては頷いて答えた。
 ヴィヴィオの話の真偽は兎も角、はやて自身がそれを誰かに話していいか決めかねていた。
 彼女が異世界から来たと聞いて幾つかの疑問は残ったけれど幾つかの疑問が解けた。
 なのはとフェイトだけでなくはやてやリインフォース、シグナム達もその世界には居る。そしてその中でリインフォースとヴィヴィオの間で何かがあってそれを思い出して初めて会った時に彼女は泣いた。
あとフェイトそっくりな少女ーアリシアが一緒に居ると言うことは、大人になったなのはやフェイト、はやての近くにアリシアは居ないかも知れないと言うこと。
 家に帰って来るまでの間その辺りまでは考えを巡らせていたけれど、シュテルに会ってシュテル達が彼女達の世界にいるかどうかは聞いてないからわからない。その意味も含めはやてが聞いた話をシュテルに伝えるよりヴィヴィオ本人に聞いて貰った方がいいと考えた。 

「そうやね、口軽いと思われてもなんやし、私の知りたかった事とシュテルが知りたがってる事と違うみたいやからね。」
「…わかりました。それでは直接聞くことにしましょう。失礼しました。」

 会釈をして出て行こうとするシュテルに

「あっ、ちょう待って。これ博士に渡して貰えるか。ヴィヴィオちゃんがT&Hで使ってたブレイブホルダー、八神堂のブレイブホルダーと交換したから。」
「確かに、預かりました。では」

 シュテルが八神堂を出て行くのを見送って、姿が見えなくなったの見て

「はぁ~びっくりした。」

 安堵のため息をつきながら言う。

「主、お疲れ様でした。シュテル少しピリピリしていましたね。」
「まぁヴィヴィオちゃんのアレは流石にな…」

 ブレイブデュエルそのものを揺るがしかねなかったのだから研究所も慌てたのだろう。
 彼女達も気が気でなかったのだろう。そう思いながら苦笑して答えるのだった。



 その頃、T&Hの前では髪を逆立てる様な形相で1人の少女が待っていた。

「いつまで待たせるのよ~っ!!」
「なのはちゃんもフェイトちゃんも訳があるんだよ。きっと…」

その様子を横で見守る少女、月村すずかは苛立つ友人アリサ・バニングスを宥めていた。
 ブレイブデュエルの新システムを見ようとアリサに誘われてT&Hにやって来ていたのだけれど、そこで2人は何度も驚かされた。
 アリシアが解説してゲームを盛り上げていたり、T&Hのショッププレイヤーのフェイトと彼女と1番仲が良いなのはと八神堂のヴィータが参加するのも当然といえた。でもその後でサプライズゲスト、フェイトそっくりのアリシアとなのはと同じ白のセイクリッドスタイルのヴィヴィオの登場で驚かされた。
 ゲームの最中アリシアはデバイスを2本の短刀状に変えて攻撃していた。あれはなのはが見せてくれた剣術だ。あれだけ見ればなのはとフェイト、アリシアはサプライズゲストの2人を前から知っていて自分たちに隠していたのは確信となっていた。
 デモンストレーションが終わって少し落ち着いてきたのを見てアリサはなのはに電話した。
 そうすると既に彼女は外に出ていたらしい。

「なのは、ブレイブデュエル見てたわよ。どうして隠してたのっ!!」
『ごめんね、隠してた訳じゃないの。…ううん、そうじゃなくて』
「隠してたじゃない。フェイトそっくりの女の子がなのはと同じ剣使ってて知らないなんて言わせないわよ」
『私もなのはもそんなつもりじゃなかったんだ。』
「言い訳は直接聞くわ。お店の前で待ってるからすぐに帰って来なさいっ!!」

 そんなやりとりがあったのが30分前、直ぐに帰ってくると思って仁王立ちで待っているけれど影も見えない。

(そろそろフォローできなくなりそうなんだけど…なのはちゃんとフェイトちゃん…どうしたのかな?)



「そうなんだ、優しいお母さんなんだね」
「うん…」
「怒ると怖いけどね。」

 ヴィヴィオがなのはとフェイトの質問に答えると2人とも嬉しそうに聞いていた。はやてが注意した様に異世界の話とは言え彼女に未来の話をそのまま教える訳にはいかない。そう考えて事件や魔法の話より2人と一緒に居る時の話を主にした。

「ねぇなのは、さっき電話ですぐ行くって言ってなかった? 友達待ってるんじゃない?」

 そう聞いた瞬間、なのはとフェイトの顔からサーッと血が引いて青くなる。

「アリサちゃん…急いで行かなきゃっ!! フェイトちゃん」
「う、うん。急ごう。」
「忘れてたんだ…」

 慌てて走り始めた2人の後をヴィータと一緒に追いかけた。


~コメント~
 もしヴィヴィオがなのはイノセントの世界にやってきたら?
 ようやくシュテル、アリサ、すずかの登場です。
 先日のなのセントでナカジマ家とティアナが登場+αが登場しました。今後どんな風にゲームに参加してくるか楽しみです。

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