第12話「決戦、灼熱の氷と凍える炎」

「どうしてこうなっちゃったんだろ…」

 シミュレーターの中でヴィヴィオは呟く。既に日は暮れてT&Hも閉まっている。

「仕方ないっていうかみんなからお願いされちゃったらね…」

 隣のシミュレーターでアリシアが苦笑している。
 釣られてヴィヴィオも苦笑する。

『ヴィヴィオちゃん、アリシアちゃんもごめんね。』
「いいですよ。お話するより手っ取り早いです。」
「うん。」

 アリシアの言葉に笑って頷く。確かに複雑な自己紹介するより簡単だ。

『じゃあいくよ。ブレイブデュエルセット、レディゴーッ!』
 
 今日2度目のブレイブデュエルの世界へ飛び込んだ。
 地面に下りて周りを見回す。管理局の訓練場より少し広く、その周りを階段状に囲まれている。

「競技場?」
「競技場って言うよりこっちの闘技場だね。それよりも…」

 トンッと降り立った2人を見る。2人は既に臨戦態勢。

「アリサさんとすずかさん…」
「RHdいくよ」
【StandByReady Setup】

 ブレイブホルダーにカードを読み込ませジャケットを纏った。



 ヴィヴィオとアリシアがアリサ・すずかとデュエルをする羽目になったのは

「許す代わりに私達とデュエルしなさい!」

というアリサの一言が原因だった。
 なのは達はヴィヴィオとアリシアが来た事をアリサとすずかに話していなかったらしい。モンスターハントでサプライズゲストとして登場したヴィヴィオ達を知り、彼女達が出ても平然としていた事でなのは、フェイト、アリシアが隠していると考えていた。
 ゲームが落ち着くのを待ってなのはとフェイトを問い詰めようとしたら2人とも出かけてしまったとエイミィに聞いて直ぐなのはに電話をかけて呼び戻したけれど、なかなか帰ってこなくて余計に苛立たせていた…らしい。

(アリサさん、すずかさんごめんなさい…)

 すずかから経緯を聞いて心の中で2人に謝る。
 外に連れ出して電話の後も戻ってくるのに時間がかかってしまったのはヴィヴィオのせいでもあり、きっとなのは達が話さなかったのはフェイト本人ですら会った直後は取り乱していたから2人を混乱させたくなかったというアリサ達への配慮や何処から来たのかもなのはとアリシアには伝えていなかったから不審に思われていても仕方がない。

「だったら君たちも2人とデュエルすればいい」

 クロノが店前で言い合うアリサ達を説得してくれて、アリサとすずかもそれで納得してくれて、結局アリシアは知らぬ間に、ヴィヴィオも何も言えずデュエルが決まってしまった。
    
 
「ヴィヴィオ…」
「うん…わかってる。強いよね」

 ゴクリと喉を鳴らして頷く。なのはの砲撃型、フェイトの近接攻撃型は元の世界でもそうだったし模擬戦もしていたから戦闘スタイルは知っている。でもアリサとすずかのジャケット姿は初めて見る。どんな闘い方をするのか全然わからない。
 しかもこっちは昼のデュエルで知られている。
 唯一判っている事と言えばアリサは剣型のデバイスですずかはグローブ状のデバイスだということ。

「アリサさんをお願い。私はすずかさんと…あとは互いにフォローで」
「OK♪」

 剣タイプならヴィヴィオよりアリシアの方が対処しやすい。すずかがどんなタイプかは
(デュエル中に調べるっ)
 
一方

「すずか、セイクリッドの子お願いね。」

フェイトそっくりな子は2刀流で、もう1人はなのはと同じ白のセイクリッド 

「うん、アリシアちゃんもフェイトちゃんと同じストライクタイプだったよね」
「なのはとフェイトを相手にするより楽勝でしょ。でも違うジャケットになったら注意、いい?」
「わかった。」

 最後のジャケットとスキルは警戒しないといけない。あとは…

(私達のチームワーク見せてあげる!)
「行くわよ、先手必勝!!」

 真っ赤な炎を上げた剣【フレイムアイズ】を振り上げまっすぐヴィヴィオ達へと向かった。


「アリシアっ!!」

 ヴィヴィオはアリシアに声をかけて飛び出した。アリシアはバルディッシュをサイズフォームに変え水色の刃で迎撃態勢をとっている。

(交差を狙うっ)

 私がすずかと、アリサがアリシアとぶつかろうとすると真っ先に私がアリサと交差する。
 もし彼女が私を攻撃してくるなら受け止め迎撃し更にアリシアが波状攻撃出来る位置にいる。逆に彼女の目標がアリシアなら私との交差で魔力を消費せずに望みたいだろう。
そこが狙い目。

「RHdっ!」
【All Right】

 交差前にアクセルシューターを放ってすずかを狙う。そして更に速度をあげる。アリサと最接近した瞬間、振り下ろされた刃に作った1個のアクセルシューターをぶつけ爆発。

「てぇええい!! うそっ避けられたっ!」
「インパクトキヤノンっ!」

 爆発で生まれた隙を生かしてアリサから離れ背後へのインパクトキヤノンを放つ。当たれば相応のダメージになるし切られても魔力がその分減らせるからアリシアの援護になる。しかし…

「!? 弾かれたっ」

 彼女に当たる手前で何か盾の様なものが現れインパクトキヤノンが弾かれた。

「ありがと、すずか」
(あれがすずかさんのスキル…じゃなくて読まれてたっ)

 微笑む彼女に対し気を引き締め直す。

「RHd シューターからクロスファイアシュートのコンビネーションいくよっ」

 すずかに追撃のシューターを放ちながら彼女との距離を縮めるのだった。



「ヴィヴィオとアリシアすごーい!」
「本当にブレイブデュエルを始めて数日だなんて思えない。」

 アリシアの感嘆の声に頷きながらクロノも驚く。近くで見ているなのはとフェイトも驚いている。
 T&Hエレメンツでもなのはとフェイト、アリサとすずかのタッグは相性とバランスの良さもあってか全プレイヤーの中でもトップクラスだ。
 クロノもテストプレイヤーとして、フェイト達が不在の時はサポート役としてブレイブデュエルに参加しているからタッグ戦における相性の良さはよく知っている。

(ブレイブデュエルは本当に奥が深い…)

 フェイト達と同じストライクとセイクリッドでも全く違う。
 フォワードのアリサに対しアリシアが迎撃し、センター的なヴィヴィオが前に出てすずかを攻撃する。そしてヴィヴィオとすずかは隙があればアリサ、アリシアを攻撃・フォローしている。
 互いに似た戦略だからこそ勝敗がつきにくい。だからこそ

「アリサー、すずかも奥の手を出さなきゃ負けちゃうよ♪」

 アリシアの応援に苦笑した。 



「ヴィヴィオ交代っ、魔法力に注意して」
「うんっ」

 捕獲魔法と防御シールドを使うすずかに対し放出系魔法を使うヴィヴィオの方が魔力消費が早い。気づいたアリシアに言われて4人が近づいたところで攻守をスイッチする。

「次はヴィヴィオね。セイクリッドでも手加減しないわよ」

 燃えさかる刃で切り込んでくる彼女をセイクリッドで受け止められるか自信はない。魔法世界であれば個々の魔力資質差で手はある。でも…

(ブレイブデュエルにジャケットの性能差は…ない!)
「てぇえええいっ!!」

 振り下ろされたフレイムアイズと目の前に迫る5本の炎から目を離さない。狙うは1点のみっ。

(ここでシールドっ!)

 張ったシールドは一瞬で砕かれる。しかしヴィヴィオにとって避けるにはその一瞬で十分だった。



「なっ!?」

 炎で焼かれた地面から半歩離れた所に無傷のヴィヴィオが立っているを見て呆然とする。
 一方ですずかも驚きのあまり呆然としていた。

「なのはちゃんと…同じ?」

 持ち前の動体視力で捉えきれず、4枚のアイスミラーが一瞬で砕かれたのだ。
目の前には両手に短剣を持ったアリシアが立っていた。
ブレイブデュエルでは皆同じ魔力しか持てず魔法もジャケットも大差がない中で差が付くものがある。戦略や戦術、現実世界での身体能力。でもヴィヴィオとアリシアの強さはどちらでもない。

「アリサちゃん!」

ジャケットの特性を越えて攻防を切り替える相手にそれぞれ攻防を切り替えていたら追いつかない。ブレイブホルダーへカードを読み込ませる。

「リライズアップ、マキシマムフレアッ!」

自らを灼熱の赤に染めた少女が姿を現した。



「そっか、そんなに強いんだあんた達。始めて1週間経ってないって聞いたから甘く見てた。」
「え?」

 構えを解いて言ったアリサにヴィヴィオは思わず聞き返す。

「手加減なしで行くわよ。リライズアップ、タイラントゼロッ」
「!?」

 アリサのバリアジャケットの色がみるみる内に変わり炎の熱がひんやりとした冷気になっていく。

「バリアジャケットのチェンジ…だけじゃなくて属性までっ!?」

 魔法世界で属性持ちは少なからず存在する。フェイトの雷属性、シグナムとアギトの炎熱属性、リインの凍結属性。又その中でも複数の属性持ちは居るけれど炎と氷の様に相反する属性持ちはまずありえない。アリサとすずかのバリアジャケットと属性が変わった事に今度はヴィヴィオとアリシアが驚きの余り呆然となった。


 
「…で、そこまでは良かったけどそのまま押し切られちゃった感じだったね。」
「でも初めてアリサとすずかとデュエルしてリライズさせたのは凄いよ」
「あはははは…」

 シミュレーターから出てきた後、見ていたフェイトとアリシアに感想を言われてヴィヴィオは苦笑いした。
 勝敗の分かれ目は2人がリライズした後のヴィヴィオが精彩を欠いたのが原因だった。
 すずかに徐々に追い詰められ魔力と体力ゲージを削られて負けてしまい、アリシアも息の合った2人の猛攻に為す術なく負けてしまう。

「…まぁ本気になって大人げないかなって思ったけど、それだけあなた達が強かったのよ。胸を張りなさい。自己紹介がまだだったわね、私はアリサ・バニングス、でそっちの彼女が月村すずか。2人ともなのはとフェイトのクラスメイトよ。よろしくね♪ ヴィヴィオ、アリシア」

 名前を聞くまでもなく、ヴィヴィオもアリシアも彼女達の事は知っている。けれど彼女達から見れば初めて会う訳で…アリシアと頷きあって2人と握手した。

「よろしく、アリサさん、すずかさん」
  


「結局、あの子達の事あんまりわかんなかったわよね~」

 夜も遅くなった事もあってアリサはお迎えの車の中で呟いた。

「あの子達ってヴィヴィオちゃんとアリシアちゃん?」
「うん。新しいゲームですっごく強いって思ってたんだけど…最後まであのジャケットに変わんなかったし。」

 セイクリッドとストライクのコンビだから凄く強いと思っていたが少し拍子抜けした気がしていた。もしなのはとフェイトが相手ならリライズしてもこうも簡単に勝てなかっただろう。

「う~ん、そうなのかな?」
「すずかは違うの?」

 隣の席にいる彼女に聞く。

「2人ともブレイブデュエルで遊び始めて数日なのに思う様に動いていたじゃない。アリシアちゃんアイスミラーを剣だけで壊しちゃった。まだスキルカード持ってないんじゃないかな。」

 カードが貰えるのは1日に1枚だけ。パーソナルカードを含めて10枚位しか持っていない筈だ。 その状態でなのはと同じ剣を使っていたのを思い出す。

「それにヴィヴィオちゃん、まだデュエルに慣れてないから先に負けちゃったけどアリシアちゃんのフォローしながら私の攻撃を受け続けてたよ。それでもちょっとずつしか…」
「そう言えば…私のアタックも全部避けてた。」
「私達、グランツ研究所で特訓してもらってみんなと一緒に練習して強くなったって思ってたけど…始めて1週間の頃と比べたら、ヴィヴィオちゃん達は強いよ、凄く。」

 ヴィヴィオ達より長くデュエルをしていて、みんなと一緒に練習してカードの種類もそれなりにあるアリサとすずか。それでもリライズしなきゃ負けると思った。

「前言撤回。またデュエルしましょ。」
「うん♪」

今度こそ完勝する。そう決意して頷きあった。


~コメント~
 世の中はゴールデンウィークと素敵な連休があるそうです。
 ですが私の職場では人が減るので逆に大忙しでした。
ボロボロに疲れた身体はインフルに大敗してしまいました。
 不幸中の幸いは…職場でインフルが流行らなかった事です。
(流行ったら死者続発必至ですが…) 

 掲載が滞り申し訳ありません。4月末~5月8日まで連勤で9日に体調崩しインフルエンザとわかり昨日まで高熱と闘っておりました。
 本当に健康第一ですね。

 それは兎も角、1章で登場しなかったT&Hのメンバーアリサ&すずかの登場です。ヴィヴィオとアリシアは今まで他の世界で2人に会っていますがアリサ&すずかとバトルは初めてです。

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