第13話「ヴィヴィオの気持ち」

「ねぇヴィヴィオ、さっきのデュエル本気じゃなかったでしょ。」

 T&Hでアリサとすずかとデュエルをして八神家への帰り道、アリシアに唐突に言われた。

「えっ? 本気じゃなかったって?」

 一緒に居るなのはも聞いてくる。1人帰らせるのは心配だからと、家に帰るなのはとアリシアが送ってくれる事になった。

「何て言うか…いつもみたいな感じじゃなくて何か試してた気がして。そうじゃない?」

 2人にジッと見つめられたじろぐ。
「ずっと本気のつもりだったんだよ。でもこんな魔法だったらこう言う防御ってどうなのかな…とか思ったら気になっちゃって」

 ヴィヴィオはアリサの炎熱系魔法とすずかの氷結・炎熱系の魔法に対して攻撃と防御を試していた。ブレイブデュエルは魔法戦に似ているけれど決定的に違う所がある。
 それはどれだけ魔法を受けて負けても怪我しない事。
 ゲームの中の話だと思えば魔法についての好奇心が沸々と沸いてきて…

「デュエル中に試してたの!?」

 驚くなのはとは逆にアリシアは嘆息する

「やっぱり…じゃあ闇の書のアレもそうだったんだ」

 闇の書のアレというのは騎士甲冑の事だろう

「ううんアレは違うよ、本気で倒そうと思ってた。アリシアも気づいてるでしょ、ここが私達の世界と何処かで繋がってるって。防衛システムに何かあってはやてさんとリインフォースさんが巻き込まれたらって考えたら凄く怖くなってはやてさん達に何かある前に倒さなきゃって思ったんだ。でも、最後に特大の魔法を撃ち込もうとしたら怖がっているのに気づいて思い出したの。ここは現実じゃない、ブレイブデュエルの中なんだって…」
「それでかな、魔法戦じゃ負けちゃいけない、負けられないって思ってたけど。『勝つことだけが目的なのかい? 勝ち負けよりも大切なものもあるんじゃないか』って士郎さんが言ってた意味がわかった気がしたんだ。」

 時間と世界を移動出来る魔法【時空転移】が使える様になってから1年、ジュエルシード事件、闇の書事件、JS事件、異世界で起きた闇の欠片・砕け得ぬ闇事件に巻き込まれたり、異世界のヴィヴィオやアインハルト、複製母体オリヴィエとの出逢いを経る中で負けられない、倒れちゃいけない戦闘が殆どだった。
 ブレイブデュエルで闇の書の防衛システムを見た時、脳裏に闇の書事件の撮影の事が思い浮かんでここのはやてとリインフォースに影響する前に倒さなきゃいけないとヴィヴィオの思考はゲームの【デュエル】からリアルの【闘い】へと切り替わっていた。
 でも戦闘中に防衛システムが怖がっていると気づいた時、ブレイブデュエルというゲームの中だと思い直し士郎の伝えたかった意味が判った。
 ブレイブデュエルは魔法を体感しながらみんなで遊んだり競うゲームであってスキルは戦技魔法じゃないということ。だからヴィヴィオはアリサとすずかに勝つのではなく彼女達とのデュエルをする時間を少しでも長く楽しみたいという彼女なりに考えた結果だった。

「まずかったかな?」
「いいんじゃない? 試すのもいいけど私はヴィヴィオと一緒にデュエルで強くなりたいかな…。次は勝とうね。」
「うんっ♪」

 アリシアの手を取り強く握る。

「…私お邪魔虫だったりする?」

 そんな2人の側でやりとりを見つめながらなのははポツリと洩らすのだった。



翌朝、所変わってグランツ研究所ではシュテルがキッチンからダイニングへ朝食を運んでいた。入ってくる影を見て声をかける。

「おはようございます博士。チェックは終わりましたか?」
「おはよう。うんさっき終わったよ。何度も調べてたんだが異常は見つからなかった。昨日はブレイブデュエルで用意されていた物を使っていただけらしい。アリサ君達とのデュエルでは使わなかったからね」

 博士-グランツ・フローリアンは自分の椅子に座りながら答えた。徹夜で調べたのだろうか、目元が少し疲れが見える。

「そんな馬鹿な話があるかっ! 正常であればテストプレイのあやつより弱体化していたと言うのか?」

 キッチンから話を聞いていたディアーチェがフライ返し片手に顔を出す。白のセイクリッドを纏った少女は更にリライズしてあり得ない攻撃スキルと防御シールドを見せていたのだからディアーチェが指摘したことも理解できる。

「それもない。NPCは違うがディアーチェ、シュテル、レヴィ、ユーリが対戦した相手と同じだよ。」
「それでは彼女がリライズしたカードがとても強いカードだったのではないでしょうか?」
「そうだね。そういう可能性もあるから八神堂には昨日連絡して今日あのカードを持って来て貰う様に頼んである。ヴィヴィオ君も一緒に来てくれるそうだ。出来ればヴィヴィオ君だけじゃなくアリシア君にも来て欲しかったんだけれどね。」

 笑って言うグランツにシュテルはコーヒーカップを手渡す。

「博士も興味を持たれたのですね。」
「うん2人とも面白いね。」
「アリシア君はフェイト君と同じストライクタイプだが突破力は低くガンナータイプのアリシア君と比較すると中長距離に弱い。けれどあの両手に持ったデバイスを越えてダメージを与えるのは難しいだろうね。1枚のスキルカードだけで迎撃主体の先を読んでの理詰めの戦略…まだ荒削りだけれどチーム戦では基軸になるだろうね。」

 ディアーチェは頷く。モンスターハントやアリサ・すずかとのデュエルで見せた鋭い迎撃はスキルカードを使った物では無く彼女が動いただけ。敵の動きから予測しているなら先読みの戦略と迎撃能力、チーム戦の指示役としては最適だ。

「一方のヴィヴィオ君はあのタイプは不明でスキルも2つしか使っていないからわからない所も多い。しかし彼女が前に出た時は相手の攻撃を自然に避けていたね。彼女はもしかすると実戦を経験…いや、気のせいだろう。逆にアリシア君が前に出るとヴィヴィオ君は下がって絶妙のタイミングでフォローしていた。彼女達の連携は君達でも苦戦するんじゃないかな。」

 テストプレイヤーとして、全国ランキング保持者として彼はシュテル達の強さを知っている。その彼の評価にシュテルは驚きながらも

「そこまで博士が言われるのでしたら是非1度手合わせ願いたいですね。」
「うむ」

 ディアーチェは勿論、シュテルも負けず嫌い。だからこれ程の評価をされる彼女達と1度デュエルしてみたいと思っていた。

「こんな事なら昨日T&Hで申し込めば良かったですね。ですが昨日のあの雰囲気ではそれどころではなかったでしょうが」
「全くだ」

 ディアーチェと2人クスッと笑うのだった。



「ん~気持ちいい~♪」

 その頃、名前が挙がっているとは知る由もないヴィヴィオは1人海鳴市の山側にある丘でん~っと背伸びをしていた。
 こっちの世界にやってきてから朝の練習をしていなかったけれど、昨日ブレイブデュエルの中で久しぶりに魔法を使って日課となっていた魔法練習をしようとここに来た。
 木々の葉が擦れる音を聞きながら目を瞑り精神を集中する。音がいつしか聞こえなくなり胸の辺りが少し暖かくなった様な気がする。
 体内にあるリンカーコアの反応に心を研ぎ澄ます。リンカーコアが脈打っているのを感じる。
 この状態でプログラムを組み立て起動すると魔法が起動する。でも…

(魔方陣展開っ!)

 起動させるが反応は何もない。魔法を初めて使う時に教えて貰う単純な魔方陣展開の術式…それでも起動しなかった。

「う~ん、やっぱり魔法使えないのかな…RHd」
【……】

 デバイスからの反応もない。ブレイブデュエルで話した相棒はここではあの中でしか会えないのか? そんな事を考えているとこっちに走ってくる人影が見えた。

「恭也さんと美由希さんだ…」

こっちでも少し前にあった2人はこちらに気づかなかったのかそのまま山道を凄い速さで駆け上がっていく。その後少し遅れて2人の後を駆け上がって行ったのは

「アリシア…そっか、そうだったんだ」

こっちの世界に来る前ヴィヴィオはアリシアに戦技魔法での模擬戦を挑まれた。その際両手に それぞれ短剣状のデバイスを持っていて変わったスタイルだとは思っていたけれど、彼女の走る姿を見て納得した。
 アリシアがどうしてプレシア達の家に行かずなのはの家に行ったのか…
 昨日のブレイブデュエルで模擬戦の時より動きが速くなっていた理由…
 恭也達に剣術を教えて貰う為…

『私達がここに来たのも【必然】な訳でしょ。だったらここでしか出来ない事をするのも必然じゃない?』
「アリシアはここでしか出来ない事を見つけたんだね。」

 アリシアは彼女自身にとってここでしなければいけない事を見つけていたのだ。一生懸命になって恭也と美由希の後ろを走る姿を目で追っていると

「ハァッハァッ……」

 3人の後をなのはがゆっくり…というかかなりのスローペースで走って行った。

「みんな頑張ってるんだから、私も頑張らなきゃだね♪」

 彼女達を見送り再び瞼を閉じて集中する。



「え? ヴィヴィオが見ていたんですか?」

 それから少しだけ時間が経った頃、アリシアが高町家の浴室で汗を流していると一緒に入っていた美由希に教えてくれた。ランニングの途中ですれ違ったらしい。ちなみになのははランニングで力尽きたらしく道場の前でひっくり返っていて、ユーノもそっちに居る。

「うん、登っていく途中に丘があったでしょ。そこで何かしていたみたい。」
「丘…ですか。私恭也さんと美由希さんからついて行くだけで必死だったから全然気づきませんでした。まだまだですね、ヴィヴィオにかっこ悪いところ見せちゃったかな?」

 アハハと苦笑する。

「ううんそんな事ないよ。ヴィヴィオちゃんも絶対応援してるって、一生懸命だったから声かけづらかっただけだよきっと。」

 気に障る事を言ったと思われたのか美由希が慌ててフォローする。でも

「はい、私もそう思います。」

 そんな彼女にベロっと舌を出して言うとからかわれた事に気づいて

「アリシア~っ!」

 直後美由希にシャワーを浴びせられた。
 その後浴室からは2人の笑い声とも悲鳴とも取れる声が漏れ聞こえていた。



「ヴィヴィオちゃん、今日は本の整理いいからグランツ研究所にお使い頼んでいい?」
「グランツ…研究所ですか?」

 八神家でみんなと一緒に朝ご飯を食べているとはやてから言われた。耳慣れない名前に聞き直す。

「そうや、ブレイブデュエルの総本山、開発元やね。グランツ・フローリアン博士が率いる研究所。そこでにいるユーリって女の子にこの本持っていって欲しいんや。」

 そう言って椅子の小脇にあった手提げ袋から2冊の本を取り出し見せた。

「ユーリにその本って…」

 本のタイトルを見て言葉に詰まる。ダークマテリアルズの一員としてユーリが居るのは聞いていたけれど幾ら世界が繋がっているとは言え【永遠結晶の作り方Ⅴ】なんて本を彼女が注文しているとは…一体何を作るつもりなのか?

「ヴィヴィオちゃんも知ってるん? ナンバリングもあるし有名な本なん?」
「い、いえ珍しい本だなって。」
「? うん、場所はリインフォースが知ってるから、リインフォース案内頼むな。」
「わかりました。ヴィヴィオ、午後から講義があるから食事後すぐに出かけようと思うがそれでいいか?」

 本を持って行くだけならリインフォースと一緒ではなく彼女に本を託せばいいのに、はやてはわざわざ指名してきた。何か理由があるのかなと思案する。

「リインフォースさんと一緒に?」
「そうや、頼むな♪」

 笑顔でプチトマトを食べながらはやては答えた。


 
 それからヴィヴィオは出かける準備をしてリインフォースと一緒にグランツ研究所へと向かった。

「……」
「……」
「…いい天気だな」
「そうですね……」
「…読書は好きか?」
「はい」
「そうか……」

 並んで歩いているけど話が続かない。リインフォースはどちらかと言えば八神家でも寡黙な方でこっちに来てからも顔を合わせても2人だけで話す事はなかった。

(は、話が続かないよ~)

 はやての事とかみんなの事とか聞きたいけれど踏み込んで聞くのはどうかとも思ってしまう。ぎこちない2人のやりとりが暫く続いた後

「ヴィヴィオの世界の私と何かあったのか?」

 唐突に元世界の話に触れられた

「!? どうして…まさか…」

 私がどこから来たのかを教えたのは昨日、その場にいたのはなのはとフェイトとヴィータと…はやて

「我ら家族には1つだけ約束がある。【家族の中で秘密は作らない】昨日、我が主が教えてくれた。ヴィヴィオの世界には大人になった我が主がいると…。ヴィヴィオと初めて会った時私の顔を見て泣いただろう、それを思い出した。ヴィヴィオの世界で私と何かあったんじゃないかとな…」
「………」
「教えてくれないか? でもヴィヴィオが話さない方がいいと思うならそれでいい。」
(はやてさん…だから私と…)

 はやてはヴィヴィオとリインフォースの間に何かギクシャクした雰囲気を感じていて、昨日話した時にリインフォースと元世界で何かあった事に気づいた。だから彼女と私だけで話す機会を作ってくれたのだろう。

「リインフォースさんとはやてさんが同じになるって話じゃなくて、私の世界で起きた話だって事で聞いて貰っていいですか?」

 そう言って知っている事を話し始めた。


「そうか…そんな事が私や我が主にあったのか…」

 時空転移で経験した闇の書事件でリインフォースははやてを助ける為に自ら消えた事、でも違う世界で残った僅かな時間をはやてと過ごすリインフォースに会った事、そしてその事件を映像化した時はやてが彼女の事を望むあまり甦らせたがヴィヴィオがそれを壊してしまった事。
 話している間リインフォースは何も聞かず話終えた後、冷たい缶ジュースを差し出した。

「ヴィヴィオも知っているだろうが、私達も他とは違う家族だと思う。しかし私達は魔法が使えるとかプログラムでもないし全くの別人だ。だから私を見て悔やまなくていい。」
「でも…」

 戦った相手として、友達の大切な人として…そして時間を超える意味を教えてくれた人として…忘れられる人じゃないし、ここで彼女と話せばどうしてもその事を思い出してしまう。
 胸からこみ上げてくる思いに瞼が熱くなる。

「ヴィヴィオは…リインフォースと戦った時泣いてくれたのだろう? 誰かの為に流した涙は人を成長させる。忘れる必要はない。」

肩を奮わせるヴィヴィオにリインフォースはそっと抱き寄せた。

「…ううっ…わぁあああああぁぁぁぁぁ」

 彼女の暖かさを感じたヴィヴィオの嗚咽は海鳴の風に溶けていった。


~コメント~
 もしヴィヴィオがなのはイノセントの世界にやってきたら?
 今話はグランツ研究所メンバーが遂に登場です。
そして前作より引っかかっていたヴィヴィオの心について掘り下げてみました。
 アリシアはブレイブデュエルは魔法世界より自由に魔法が使え剣術を生かしながら遊べる体感ゲームの1つと思っています。ではヴィヴィオはどう捉えているでしょうか?
 今作に至るまでのヴィヴィオの戦闘は1部の模擬戦を除けば負けると何かが決定的に変わってしまうという正に緊迫した中が殆どでしたからブレイブデュエルも一種の緊張感を持って望んでいました。一方で毎日顔を合わせているリインフォースとの距離感は罪悪感の顕れでもありました。
 次回の舞台はグランツ研究所です。

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