第14話「登場、小さな助手たち」

「ここがグランツ研究所ですか?」
「そうだ。」

 研究所の敷地に足を踏み入れたヴィヴィオは周りの光景に驚いていた。建物の大きさもさることながら、周りに幾つもの花壇があって色とりどりの花が咲いている。しかも凄く手入れが行き届いている。
 その一角に動く影を見つけた。その影がこちらに気づくと立ち上がって

「こんにちはリインフォースさん、とようこそグランツ研究所にヴィヴィオさん」
「ユーリ遅くなった。彼女はユーリ・エーベルヴァイン、ここで博士を手伝っている。」

 リインフォースに紹介されたユーリは頬を赤めて会釈をする。

「こんにちはユーリさん、ヴィヴィオです。」
(やっぱり、ユーリだった。でも…)
 ヴィヴィオは挨拶しながらも彼女の印象が違う事に少し違和感を持った。
 ヴィヴィオが知っているのは砕け得ぬ闇事件とその数ヶ月後の彼女だ。初めは敵として、後にはシュテル達の家族として会い、はやてを助ける時にも手伝ってくれた。
 目の前の彼女は少し成長して…話し方からヴィヴィオより何歳か年上の様な気がする。
 ジッと見つめられるのが恥ずかしいのか更に赤くなった顔を手で隠すユーリ

「博士がお待ちです。こちらにどうぞ」

 そう言って小走りで研究所の中に入っていった。

「ユーリは恥ずかしがり屋なんだ。すぐに慣れるよ」
「そ、そうですか」

 リインフォースの言葉に再び驚いた。



その頃…

「王様っシュテルん急がないと遅れちゃうよ」

 私立天央中学校では水色の髪をなびかせながら走る少女の姿があった。

「レヴィ、いつも廊下は走らず騒ぐなと…」
「急がなくても十分間に合います。」

 歩いてくるディアーチェとシュテルの声を聞いてレヴィ・ラッセルは急ブレーキして反転、再び2人の前まで来てプゥっと頬を膨らませる。

「えーっ、でも早くデュエルしたくないの? 白のセイクリッドの子帰っちゃうよ?」
「大丈夫です。博士には私達が帰ってくるまで引き留める様にお願いしてあります。それに博士のとの話が終わった後に頼んでいる物もあります。ですから話が終わる頃を見計らって帰りましょう。」
「うむ。レヴィ、あやつとデュエルしたいのは我らだけではないぞ。あやつらも時間を合わせて帰ってくるだろう。」
「ヴ~…わかった。」

 言い返せない程2人に言われたレヴィは肩を落として答えた。



 所変わって、アリシアはというと翠屋の中で桃子の焼いたシューを並べていた。
 その時電話が鳴る。

「はい、翠屋です。…ええ、デリバリーですね。午後からでしたら…え? はい、少々お待ち下さい。」

 そう言うと桃子と士郎の居る厨房へと入っていった。それから少し経って桃子が一緒に出てくる。

「アリシアちゃん、これからお使い頼んじゃっていいかな。」
「はい?」

 今の時間子供は皆学校に行っている。外に出ていれば目につきやすいし、補導されるかも知れない。もしそんな事になったらアリシアそっくりなフェイトやT&H・お世話になっている桃子や士郎にも迷惑がかかる。
 桃子や士郎もそれを知っていたからこの時間にデリバリーを頼まれるとは思ってなかった。

「デリバリー様のバック持っていけば大丈夫よ。それにお得意様なの、お願い~っ」
「はい、わかりました。」

 そこまで言われたらと2つ返事で引き受けた。

「それじゃお届け先なんだけれど、地図渡すわね。」

 見せられた場所と名前を聞いて

「えっ…ここですか?」

 思わず聞き返した。



「ようこそグランツ研究所へ、リインフォース君とヴィヴィオ君」

 ヴィヴィオはリインフォースの後ろについて研究所に入って、スタッフにある部屋に案内された。
 そこに居たのはさっき会ったユーリと見知らぬ男性だった。

「私はグランツ・フローリアン。ここの所長だ。」
「博士はブレイブデュエルの開発者でもあるんですよ。」

 ここに来て見知った人ばかりと会ってきたからどこか繋がっていると思っていたけれど全く知らない人も居るんだなと妙な感慨を覚えていて挨拶してないのに気づき

「はじめまして、た…ヴィヴィオです。」

 思わずフルネームを言いかけて詰まってしまった。

「博士、我が主よりこれを。」

 リインフォースがバックから小箱を取り出してグランツに渡す。

「ありがとう、はやて君にもまた遊びに来て欲しいと伝えてくれないか」
「わかりました。授業があるので失礼します。ヴィヴィオ、また家でな」

 そう言うとペコリと頭を下げ部屋を出て行った。彼女を見送った後ソファに座るよう促され腰をかける。

「今日来て貰ったのはヴィヴィオ君と少し話をしたくてね。はやて君から君のカードについて調べて欲しいって頼まれていたんだ。」

 ドキッとなる。

「『リライズは出来るのにスキルカードが全く使えない』と…先日のモンスターハント戦も見ていたけれどカードにセットされた魔法しか使っていなかったね。最後の1戦以外は」

 そこまで聞いた時、彼がどうして私を呼んだのか判った。

「最後のモンスターは5人以上で倒せる様にプログラムしてあったんだ。それも5人が上手く連携しないとね…でもヴィヴィオ君は1時的とは言ってもアレを超えていたんだ。」
「ブレイブデュエルはね、子供達が持ってる可能性をもっと知って貰いたくて作ったんだ。魔法と言う存在しない力を通して体感しながら色んな遊び場で遊んで貰いたいって。魔法戦をするデュエルの他に各種のスポーツや障害物競走みたいに運動会でする競技なんかもある。」
「モンスターハントを作ったのはね、1人で遊ぶプレイヤーにもみんなで遊ぶ楽しさを知って欲しいからなんだ。何人かの友達と一緒にプレイしている子は競ったり、一緒にチーム戦で遊んだり出来るけれど1人だと輪の中に入れない子も居る。フェイト君やアリシア君、ヴィータ君はそんな子達を見つけて一緒に遊んだり、遊んでいるチームに加えて貰ったりしてデュエルのフォローをしてくれているけれど目が行き届かない。モンスターハントは一定人数以上のチーム戦じゃないと勝てない敵もいるから遊びたい時はプレイヤー同士が誘い合う機会も増えるだろう。」
「博士…」
「すまないね。少し熱くなってしまったよ。」

 ユーリが言葉を挟み熱弁を振るっていたのに気づいたグランツが少し照れる。

「いえ、体感ゲームだって思ってましたがそんなに考えられていたって教えて貰って驚きました。」
「でも、そのモンスターハントで最後にヴィヴィオ君は1人でモンスターを圧倒した。そこでだ、昨日のリライズを見せて貰えないだろうか?」

リインフォースが持って来た箱の中からカードを取り出しヴィヴィオに渡した。それは昨日はやてと交換した異世界のヴィヴィオとクリスが描かれたカードだった。
 それから暫くの間ヴィヴィオはグランツと話していた。
 ブレイブデュエルへの可能性を子供の様に話すグランツの話がとても面白くヴィヴィオにもよく判る様に教えてくれるのが嬉しくて、言葉を選びながらではあったが元世界で知っている話を含ませ話していた。

「博士、ヴィヴィオさんも少し休憩しませんか? ずっとお話されていて疲れたでしょう」
「そうだね。僕は後で行くから先に案内よろしく。」

 時計を見て1時間ほど話していたのに驚く。

「ヴィヴィオさん、こちらにどうぞ」

 そう言って色とりどりの花が広がる庭園に案内される。その部屋には先客が居た。

「アリシア?」
「ヴィヴィオ?」

 翠屋で手伝いをしている筈のアリシアが居たのだ。そしてその周りに小さなぬいぐるみの様なものが動き回っている。

「アリシアさんが翠屋でお手伝いされていると聞きまして、博士も2人のデュエルに興味を持っていたのでデリバリーをお願いしました。この子達はチヴィット、グランツ博士が作られたロボットです。」

 見ればユーリやなのは、フェイト、はやて、シグナムを小さくしたチヴィットや外にはシュテル、レヴィ、ディアーチェに似たチヴィットが飛び回っている。

「元々ブレイブデュエルの運用とサポートをする自律型プログラムだったんだけど、もっと子供達と仲良くなって欲しくてね。」

 入ってきたグランツが続ける。

「かわいいでしょ~♪」

 フェイトとなのはのチヴィットを抱きながらアリシアが嬉しそうに言う。

「かわいい~♪ 私もっこっちにおいで~」

 近くに居たユーリのチヴィットに近づく。だがユーリのチヴィットがヴィヴィオを見た瞬間、慌ててユーリの後ろに飛び込んで隠れた。思いっきり避けられて固まる。

「…え?」
「ユーリのチヴィットはモンスターハントで君達が戦ったモンスターを操作していたんだ。ヴィヴィオ君に来て貰ったのはこの子の誤解も解いておきたくてね。」
「この子は最後に登場したモンスターを操作していたんです。」

 ユーリに抱き上げられるユーリのチヴィット。

(そっか、この子が…)

 闇の書の防衛システムの中に居たのがこのチヴィットだった。ヴィヴィオが怖がっていたと感じた正体がユーリのチヴィット。
 全ての攻撃が通らず正体不明な攻撃をする、怖がらせた相手が目の前に居たら…

「ごめんね。怖がらせちゃって…ごめんね」

 優しくユーリのチヴィットの頭を撫でるのだった。


~コメント~
もしヴィヴィオがなのはイノセントの世界にやってきたら?
ようやくグランツ研究所の話です。砕け得ぬ闇事件でのユーリを知っているヴィヴィオにとってなのセントのユーリはどんな風に見えたかなと考えると少し落ち着いたというか成長したユーリといった印象を持ったのではないでしょうか。
 ブレイブデュエルについてグランツが話している事はゲーム版イノセントのイベント(中島家登場)で述べていたのを私なりに解釈したつもりです。

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