第15話「紫天の盟主s、降臨」

【PiPiPi】

 電車の中で小さな音が鳴る。シュテルはスカートのポケットから端末を取り出して見る。

「ユーリからメールです。2人とも研究所に着いて今からリライズテストをするそうです。」

隣に座るレヴィとディアーチェに言うと2人は顔を見合わせ笑顔で頷いた。

「白のセイクリッドの子とアリシア…だっけ、フェイトそっくりな子も?」
「はい」
「博士がヴィヴィオは来ると言っていたがアリシアをどうやって呼んだのだ?」
「ユーリに翠屋にデリバリーをお願いしました。彼女が日中翠屋で働いているのはなのはから聞いていましたので、2人揃えばデュエルも出来ます。」
「さっすがシュテルん♪」
「うむ」

ディアーチェも満足げに頷いた。



「ショップのシミュレーターと少し違うので、気分が悪くなったりしてませんか?」
「はい、大丈夫です。」
「私も」

その頃グランツ研究所では翠屋のシューを堪能した後、ヴィヴィオとアリシアはユーリに伴われてシミュレーターに入った。ショップで使っている物より一回り大きい。

「それでは行きますよ。ブレイブデュエルスタンバイ、スタート」


「ここは…地面? 何にもないね」

 降りたのはゴツゴツした地面が広がる世界。周りにも何もない。

「テスト用だからじゃない? なんかいっぱい数字が見えてるし」

視界の隅に数字が色々出ている。

「はい、プロトタイプですので色んなデータを取ってチェック出来る様になっています。基本はブレイブシミュレーターと同じです。『アドバンスモード オフ』って言えば数字は消えますよ。」

 どうやらデバイステストをする時の調整モードと同じらしい。

『ヴィヴィオ君聞こえるかい? 早速だけどリライズを頼むよ。』
「はい。RHd」
【All Right】 

RHdからの声も聞こえている。

(昨日と同じ感じで…)

 ジャケットを完全に解除してブレイブホルダーにカードをロード

「カードドライブっ! レディ、リライズアーップ」

 ジャケットを纏い更にもう1枚カードを読み込ませ騎士甲冑を纏おうとする。

「RHdいくよっ」

しかし…

【……】

…カードは読み込んだけれどそのまま何も変わらなかった。RHdも反応しない。

「……あれ?」
「変化ありませんね…」
『こちらも数値の変化は見られない。もう1度、今度はそのままでリライズして貰えるかい?』

 グランツに言われた通り何度か試みるが何度カードを読み込ませても騎士甲冑に変わる事は無かった。

「何故でしょう?」

 ユーリも首を傾げている。カードを使ってのリライズは条件を合わせ手順を踏まえれば同じ結果になる。でもヴィヴィオのリライズは出来なかった。

『ヴィヴィオ君、何か思い当たる事はないかな?』

 通信を通して聞こえるグランツの声からも原因がわからないらしい。今と昨日と違うところ…デュエルを思い出す。

「う~ん…あっ! 昨日はヴィータのブレイブホルダーを借りていました。最初はお店で貰ったミッド…T&Hのブレイブホルダーでのジャケットを着てて、後で八神堂のブレイブホルダーを使いました。今使ってるのはどっちとも違うから…」

 今のブレイブホルダーははやてが用意してくれた物。他には場所が違うとか細かな所は色々あるけれど、関係しそうなのはそれ位しか思いつかない。

「ブレイブホルダーが変わってリライズ出来ないと言うのはあり得ないです…」
『いや…ヴィヴィオ君はT&Hのホルダーでスキルカードが使えなかった。ブレイブホルダーに残っているデータが影響しているのかも知れないね。ヴィータ君にも協力して貰わなくてはいけないだろうからヴィヴィオ君、また協力を頼んでもいいかい?』
「はい」


「じゃあ、テストも終わったみたいだし…どうする? 私もデリバリー終わったから、帰らなきゃ心配されちゃうし…」

アリシアに聞かれる。
 今日ここに来たのはこのチェックをする為で用事は終わってしまった。ヴィヴィオもここでの用事が終わったのなら八神堂に戻って書庫の整理しようかと考えていると

「じゃあ少しだけデュエルしませんか? 及ばずですが私達が相手になります。」

 ユーリがジャケットを纏いその肩にはユーリのチヴィットが座っていた。

「「えっ!?」」
「どうする?」
「いいよ。折角シミュレーター使わせて貰ってるんだし、アリサさん達にリベンジするでしょ。」

 どうしようかと迷っているアリシアに答える。グランツにブレイブデュエルの楽しさを教えて貰った後だからか妙にワクワクしていた。

『貴重なデータが取れそうだし僕は構わないよ。』

 そのまま使ってもいいらしい。

「んじゃデュエルしよっか。でもするなら…」

 ジャケットを纏ってバルディッシュを構えるアリシアに

「勝つつもりでっ!」

 ヴィヴィオもジャケットを纏ってユーリに向かってインパクトキヤノンを放ち火蓋を切った。



「堅いっ!」

 インパクトキヤノンが跳ね返されるのを見て驚きながらユーリの背に広がる魄翼からの攻撃を避ける。デュエルの目的はユーリに勝つ事も勿論だけれど、最優先はブレイブデュエルというシステムに慣れる事。

「私のポジションは防御専門のディフェンダーです。ACが攻撃力、DFが守備力、LCはライフポイントに関係していて、MPは魔力、使う魔法スキルに関係しています。MPは時間が経てば回復します。」

 視界の端にヴィヴィオとユーリ、アリシアの数値が出ている。ヴィヴィオの攻撃力よりユーリの守備力の方が数値が高い。そしてもう1度インパクトキヤノンを撃つとMPが少し減った。

「じゃあこれは? スキルカードロードっ!」

 アリシアがカードをロードするとバルディッシュが2本の短剣に変わる。同時にカード名称『グランドスラム』の表示と彼女の攻撃力が上昇してユーリの守備力を越えた。でも逆に守備力が下がってしまった。
 グランツが言っていたプレイヤー間では大差がないと言ったのはこういう事なのかと納得する。

「てぇぇええいっ!」

 アリシアが踏み込んでユーリ目がけて突撃する。でもユーリは

「ですが、攻守を逆にするカードを使ってユニゾンすれば」
「!? キャアアアッ」」

 カードを読み込ませた直後ジャケットの色が変わり黒いリング状の魔法をアリシアに対して放った。アリシアはその攻撃を両手の剣で防ごうとしたが相殺出来ずそのままはじき飛ばされる。アリシアのライフポイントが一気に下がった。

「こんな風に相手に対して攻防を変え有利な状態に持ち込べばディフェンダーの攻撃も強いです。」

 さっきまで守備力が高かったのに今は数値が逆転している。
 アリサとすずかとデュエルした時ジャケットを切り替えたのは攻守の値を調整したからだったのだ。

「イタタ…そんなの強いカードを沢山持ってる方が強いじゃないっ!」
「そうですね、沢山カードを持っていた方が強いです。でもカードホルダーに入れられるカードの数は決まっていますし、直ぐに使えるスキルカードの数も決まっています。」
「カードホルダーに入りきらないカードはバインダーに入れられますが、デュエル中にカードを入れ替えられません。」
「それにただ魔法を撃って受けるだけならアリシアさんのライフポイントはさっきの魔法で0になって負けていました。でもアリシアさんは両手のデバイスで攻撃力の幾らかを防御に回したのでライフポイントは残りました。こんな風に体を動かして防御するのとしないのとではダメージに大きな違ってきます。それに幾ら強いカードを使っていても防御していなければ直撃を受けてライフポイントは減るんです。」

 守備力が下がった今なら攻撃も通るはずとアクセルシューターを変換し背後からクロスファイアシュートを放つ。数値だけで言えば当たればユーリのライフポイントが減る、しかしそれはユーリのチヴィットが受け止めてしまった。

「パートナーとの連携やカードとの相性やスキル、攻守の数値と言ったデュエルの中と、カードの選び方、体の動かし方や作戦といったデュエル以外の要因を上手く組み合わせて遊ぶのがブレイブデュエルなんです。」

 さっきグランツが話してくれたのはブレイブデュエルの希望であったのに対し、ユーリが教えてくれているのはブレイブデュエルでの楽しみ方。

「単純な体感ゲームだと思ってたけど奥が深いね…」
「うん…」
「気構えないでください。私達はみんなにブレイブデュエルを楽しん遊んでもらいたいと思ってるんです。好きなものほど上手になりたい強くなりたいと思うでしょう?」
「そうだね。ユーリさん、私ももっとブレイブデュエルを好きになりたいからデュエルお願いしていいですか?」
「ユーリでいいですよ。はい、こちらこそ喜んで♪ ヴィヴィオ、アリシア、ここからは私も手加減しません」
「じゃあユーリいくよっ♪」

 リング状の砲撃をヴィヴィオとアリシア目がけて放った。
 


「本当に息のあった2人だね。パーソナルカード2枚とスキルカードが3枚、リライズも出来ないのに…ユーリが押されている。」

 グランツはデュエルをする2人を見て感心していた。
 デュエルに慣れてきたのかアリシアの動きは鋭さを増してきている。スキルカードを使ってデバイスの形状を変えているだけで他のカードは何も使っていない。でもその攻撃はスキルカードに迫る程の威力を持ちつつある。
 そして目に留まるのはヴィヴィオの動きだった。アリシアはデュエルが始まった直後に数値が邪魔にならないよう可視モードを切ってしまったけれど、ヴィヴィオは視界の数値を出したままデュエルしているのだ。リアルタイムに値が変わるのを読み取って動いている。
 ユーリのヴェスパーリングの直撃を受けるとライフポイントかMPが減るからヴィヴィオはシールドで最小限のMP消費で軌道を変えているしアリシアはユーリがスキルを使った直後に移動し死角から攻撃する。アリシアに攻撃が向いた瞬間を狙ってヴィヴィオがアクセルシューターを砲撃化させて撃ち込む。
 ユーリとチヴィットも互いにフォローしあっているけれどNPCでは荷が重い。徐々にライフポイントとMPの消費速度が上がり始めている。

「さっきユーリが2人に話していたけれどブレイブデュエルの内外に問わずチームプレイも重要だね。短所をフォローし、長所を伸ばす。」
「あーっ! ユーリだけずるーいっ!」 

 誰とも言わず呟いた時、後ろから声が聞こえた。

「お帰り」
「博士ただいま~」
「只今帰りました。」
「間に合った様だな。」

 レヴィとシュテル、ディアーチェが帰って来たのだ。そして…

「強いですね。本当に」
「そう? ちょっと危なっかしくない?」

 2人の声を聞いてグランツは振り返り

「お帰り、まだ慣れていないだけだよ。2人がスキルカードを使い始めたらトップランカーに食い込んでくるだろうね。」

 そう言っているとユーリチヴィットが至近距離でヴィヴィオのインパクトキヤノンとクロスファイアシュートを前後から受けライフポイントが0になった。

『へっ!?』

 ユーリがチヴィットがダウンしたのに気づいた時には既にヴィヴィオが砲撃発射態勢になっていた。

『てぇぇぇえいっ!』
『し、シールドっ!』
『隙ありっ』
『!! ふみゅ~…』

 次の瞬間、真上からのアリシアの連続斬撃が見事に決まり勝敗は決した。

~コメント~
もし高町ヴィヴィオがなのはイノセントの世界にやってきたら?
ユーリ&ユーリチヴィットとのデュエルな回でした。

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