第17話「2人の秘策」

「美味しかったね~ディアーチェのご飯」
「うん、あり合わせって言ってたけど本当に美味しかった。」

 はやてが料理上手なのは知っていたけれど、ディアーチェも勝るとも劣らない腕を持っているのを知ってヴィヴィオは驚きながらも舌鼓をうった。

「食事も済みましたし早速デュエルしましょうか」
「僕1ば~ん!!」
「私2番ってフロントアタッカーが2人じゃバランス悪いですね、3番で♪」
「じゃあ私が2番、王様とシュテルは?」
「我らは最後でいい。後片付けもあるし、ショッププレイヤーとしてデュエルスペースのフォローもある故な」
「はい、ヴィヴィオ、アリシア、4人に思いっきり鍛えられて下さいね。」
「「えっ…」」

 ニヤリと笑ったシュテルに聞き返した時には既に遅かった。



「とりあえず最初は2対2のフリーバトルマッチね。はじめはレヴィと私が相手よん。」

 ディアーチェとシュテルはグランツ研究所のデュエルスペースに行ってしまった。
 プロトタイプシミュレーターの置かれた部屋にはヴィヴィオ達とレヴィ、ユーリ、アミティエ、キリエが居る。カードは簡単なスキル名と属性を教えて貰い使えそうなのを入れた。

「どうしよう?」

 アリシアから聞かれて少し悩む。

(レヴィはきっとスピードを生かしたフォワードタイプだけど、キリエさんはどんなタイプなのかな?)

 砕け得ぬ闇事件でも彼女はアミタと同じ銃と剣を一緒にした様なデバイスを使っていた。でも直接彼女の戦闘を見ていないから『何となくこんなスタイルじゃないか?』という想像しか出来ない。
 中長距離相手になるとアリシアには荷が重い。

「私がキリエさんと、アリシアがレヴィと1対1に持ち込みつつ乱戦になったらお互いにフォローってことで、あとは借りたカードをなるべく沢山使って試しちゃおう。」
「そうだね。」
『準備いいですか~』

 スピーカーからユーリの声が聞こえる。

「は~い、頑張ろうね」

 アリシアと手を振り合った後シミュレーターに入り

「ブレイブデュエル、スタートっ。リライズアップ!!」

 ブレイブデュエルの世界へと飛び込んだ。



「ここは…街の上か…」

 下方に広がる町並み、海鳴市ではなさそうだ。ここなら空中戦や市街戦と色々出来る。

「ヴィヴィオ~♪」

 アリシアの声が聞こえて振り向くと彼女が手を振っていた。

『市街地上空でのフリーデュエル戦です。建物オブジェクトを壊したらペナルティ付いちゃったりするんですけど、ヴィヴィオとアリシアはまだ慣れていないでしょうからオフにしています。なので思いっきり壊しちゃっても大丈夫ですよ』

 本当に色んなデュエルが出来るんだと改めて感心する。

『レヴィ、キリエも準備いいですか?』
「いつでもOKよ」
「僕もっ♪」

 1番高いビルの屋上に2人は立っていた。既に2人ともデバイスを出して臨戦態勢に入っている。

『ではデュエル開始いきますよ~、スタンバイレディ~GO!!』  

 アミタの声で4人はほぼ同時に動いた。


「やっぱり私狙いだね」

 デュエルが始まって市街地に降りたアリシアの前にレヴィが立っていた。まっすぐ降りてきた筈なのに、先回りされている。彼女の方が数段速い…

「うん、僕はダークマテリアルズの切り込み隊長だからね。アリシアには悪いけど白のセイクリッドの子とも遊びたいから手加減しないよ。」
「私もキリエさんとデュエルしたいから手加減しないよっ」

 キリエから借りたスキルカードをロードする。バルディッシュが少し大きめの短剣に変わる。

(ちょっと重い位かな…)

 市街地でスピード重視のライトニングタイプ同士のデュエルが始まった。


「早速始めちゃったわね~」

 レヴィが大剣を振り回してアリシアを追いかけ、アリシアは距離を保ちつつ時々レヴィの攻撃を両手の剣で弾いている。2人が通った後は建物が次々と倒壊していく。

「…みたいですね。」
「さてと、私達も始めるわよん。」
「よろしくお願いしますっ」


「やっぱりこの組み合わせになりましたね。」

 オペレーションルームで4人のデュエルを眺めるアミタはユーリの言葉に頷く。
 レヴィとアリシアはライトニングタイプ。デュエル経験はレヴィの方が多いけれど、アリシアは実際の運動能力を生かしていてほぼ互角に見える。見た目通り剣を振り回してビル群を破壊しまくっているから魔力消費が激しいレヴィがどのタイミングでアリシアに仕掛けるかが勝敗の分かれ目だろう。
 レヴィ達の映像を角に置きキリエ達のデュエルの様子を見る。
 派手に地上戦を繰り広げているのとは対称にキリエとヴィヴィオは派手な魔法を使っておらずどちらかと言えば静かな空中戦だ。だがしかし… 

(キリエが本気になってる…あの子ってそんなに強いの?)

 キリエは笑顔を絶やさない。モニタに映る彼女は笑っているけれど瞳が既に本気モードになっている。

「ライフポイントと魔力ゲージもキリエの方が優勢です。」

 ヴィヴィオのライフポイントと魔力ゲージが既に半分を切っているのに対し、キリエのライフポイントは僅かにしか減っていない。デュエルが始めて時間もそれ程経っていないのにライフポイントを半分以下にまで追い込んだのだから楽勝ともいえる。その状況と彼女が本気になっているギャップにアミタは違和感を覚えていた。

(何が起きているの?)
「キリエがスキルカードでアタックします。」

 読み込まれたカードが表示される。レア度R+のスキルカード、両手にデバイスを構える。対してヴィヴィオはスキルカードを使う様子はない。

『いくわよん♪』

 猛ダッシュしてきたキリエの高速斬撃がヴィヴィオに迫る。
 だがヴィヴィオは全てを避けてしまった。そして魔力弾を2発出すとキリエに向けて放ち再び距離を取った。

「全部避けた! あの子は何をしたの?」
「アミタ、これを…」

 ユーリが手元のモニタを指さす。そこにはヴィヴィオの使ったスキルカードの履歴が表示されていた。幾つかのスキルカードが表示されていて最後にあったのはアミタが貸したスキルカードだった。確か効果は当たれば直後の相手の攻撃を大きく低下させる。

「いつの間に…」
「カウンターを狙っていた様だね。キリエの接近に合わせてその後全部の攻撃を避けた。本来1撃でも受けていればライフポイントは大きく減るだろうけど、先に攻撃力を大幅に低下させておけば通常の防御で十分にカバーできる。そして追撃を絶つ為に魔法を使い距離を取った。」

突然グランツの声が聞こえ振り返る。丁度入ってきた所らしい。

「博士」
「ヴィヴィオ君達の様子が気になってね。モンスターハントを調べていて気づいたんだがヴィヴィオ君は相手が攻撃アクションを取る前に動いているんだ。まるで次にどんな攻撃が来るか判っているみたいに…アリサ君とすずか君とのデュエルでもそうだった。」
「!?」
「それでも彼女が強く見えないのは性格からだろうね。魔法を使う時、特に相手に当たる可能性が高い時に少しだけ遅れるんだ。デュエルの参考になったかな♪」

 和やかに話すグランツの顔を見る。キリエはデュエルでそれに気づいた。最初は魔法も当たっていたけれどヒット数は徐々に減り今ではカウンターを警戒しなければならないところまで追い込まれている。

「はいっ」

 それよりもグランツも認めた強者とデュエル出来る事に胸が高鳴っていた。



「うん、何となくだけど大体わかってきた」

 一方でヴィヴィオはというと、キリエとのデュエルで借りたスキルカードを試していた。
 魔法はプログラムではなくあくまでカードに組み込まれた『魔法』が使えると言うこと、種別も攻防の数値を掛け合わせた魔法からさっき使った攻撃が当たれば相手の攻撃力にも影響を与えられる、そして魔法毎に効果範囲がある程度決まっている。
 このルールだと多くの魔法が使える=多種類のカードを持つ方が有利だ。でも結局は相手からの攻撃を受けずこちらの攻撃を当てればいいだけ。ヴィヴィオはキリエとのデュエルの最中それを確かめていた。

『ヴィヴィオ、大丈夫?』

 アリシアがヴィヴィオのライフポイントを気にして通信を送ってくる。

「こっちは大丈夫、アリシアは?」
『ちょっときついかも…押されてる』

 流石ダークマテリアルズの攻撃専門、ライフポイントも魔力ゲージもアリシアが押されている。

「じゃあそろそろいいよね。」
『うん、わかった』

 高速迎撃を得意とするアリシアがわざわざ死角の多い地上戦を選んだ理由は判っている。

「「いくよっ!!」」
 


(ふむ…)

 4人のデュエルの様子をモニタを眺めながらグランツは頷く。カウンター主体だったヴィヴィオとアリシアが攻撃に転じたからだ。彼女達がキリエ・レヴィとのデュエル中に何をしていたのかはすぐに理解した。
 アリシアはレヴィとの近接戦でデバイスの長さの違いを知ろうとしている。只がむしゃらに振り回すのであれば意味はない。しかし限られた場所で相手からの攻撃を文字通り迎撃するには重要なのだろう…
 そしてヴィヴィオはキリエの多彩な攻撃を防ぎ避けながら魔法そのものを知ろうとしている。威力や効果範囲、起動時間…

(…こういう遊び方もあるのだろうか…)

 動のアリシアと静のヴィヴィオ、彼女達に共通するのはブレイブデュエルに慣れようとしている事。プレイヤー、デュエリストとして強くなりたいとスキルカードを多く集めて研究する子達も居るが彼女達と2人は何処か見ている世界が違っているんじゃないか…。
 その考えを抱いた時、グランツの瞳に映るヴィヴィオ達が悲しく思えていた。



(そろそろデュエルが始まっている頃でしょうか?)

 研所のデュエルエリアでスタッフの手伝いをしているシュテルが時間を見る。 
 近くの学校が終わると子供達がワッと押し寄せてきた。研究所もそうだがT&Hと八神堂、シミュレーターを置いた店にも沢山来ているらしい。
 混雑が落ち着くまで1時間位はかかるだろう、その間ヴィヴィオ達がどれ位強くなっているだろうか、楽しみで仕方が無い。
 普段表情を表に出さない彼女がクスリと笑うのを見て近くに居たスタッフと子供達が驚き数歩離れたのだけれど本人は気づいていなかった。
そんな時

「シュテルん~、王様~っ!!」

 レヴィが走ってやって来た。元気な様子を見るとヴィヴィオ達には勝ったらしい。

「デュエルはどうでしたか?」
「シュテルん一緒に来てっ、2人ともすっごいんだよ!」
「レヴィ、デュエルは無論勝ったのだろうな?」
「王様も一緒に、今アミタとキリエが本気で戦ってるから」
「!?」

 アミタとキリエが本気になってると聞いてシュテルは驚きを隠せなかった。彼女だけではない、ディアーチェや近くに居たスタッフもレヴィの方を向き驚きの表情を見せていた。

「すみません、少しだけプロトタイプの所に行きます。」

 そう言って小走りで4人がデュエルをしているプロトタイプシミュレーターの方へと向かった。



「これは…」

 プロトタイプオペレーションルームに入ったシュテルはモニタを見た瞬間歩みを止めた。
 それぞれのライフポイントはほぼ拮抗している。驚いたのはそこではない。アミタが双銃をキリエが大剣を既に出しているのだ。しかも…

『キリエッ!!』

 2人の様子からは全く余裕が感じられない。キリエがアリシアと、アミタがヴィヴィオと1対1でデュエルしているように見えるのだけれど…

「何が一体…?」
「見ていてごらん、そろそろ切り替わる頃だ。」

 グランツが面白そうに言う

「切り替わる? 何が?」

 疑問符を浮かべていたシュテルだったがすぐにその答えがわかった。

『アリシアっ』
『いつでもっ!』

 2人が声を合わせた直後、アリシアが片方の剣をヴィヴィオの方に投げヴィヴィオがそれを受け取った。剣が1本になったアリシアの方が不利になるのではと考えたが彼女の背後に虹色の球体が4つ浮かんでいた。

「あれは…魔法?」
「始まるよ…アレに僕とキリエは負けたんだ。」

 シュテルはレヴィの『負けた』という言葉に更に息を呑むのだった。

~コメント~
もしヴィヴィオがなのはイノセントの世界にやって来たら?
レヴィ達の話は次話以降で…
思ったより長くなってしまいました。反省

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