第18話「少女の可能性」

 ヴィヴィオ達が異世界でアクシデントに巻き込まれていた頃、所も世界も変わって元世界であるミッドチルダのある住宅地では

「はぁ~…」

 ため息をつきながら歩くはやての姿があった。
 イクスヴェリアから告げられた話を1人では飲み込めず、かといって事が重大すぎる為に家族に相談も出来ず悶々とした日々を過ごしていた。
 そんな様子にシャマルが再入院手続きをとりかけたのに気づいて慌てて家を飛び出して来たのだ。聖王教会でイクスに話を聞こうと思い連絡を取ると彼女は定期検診で日中不在と聞き、行く当てが無くなって結局親友であるなのはとフェイトの居る高町邸へ向かっていた。

「なのはちゃん達に話せる訳もないんやけどな…」

 家の前まで来てチャイムを鳴らすが反応がない。ヴィータから今日は休みだと聞いていたけど外出したのだろうか?

「留守?」

 端末を出してレイジングハートに通信を送ると家の中には居るらしい。

(まだ寝てるん?)

もうすぐお昼なのにと首を傾げながらも

「おじゃましま~す」

レイジングハートに頼んで鍵を開けて貰い家の中に入った瞬間、ある種の独特な香りが立ちこめていた。

(…まさか…)
「なのはちゃ~ん、フェイトちゃ~ん、おるん?」

 リビングに通じるドアを開けるとその香りは強烈な臭いとなりはやては顔をしかめた。
 部屋に転がった数本の空き瓶とテーブルに置かれたグラス。ソファーには折り重なる様になのはとフェイトが横になっていて静かに寝息をたてている。
 その臭いとは…紛れもなくお酒の臭い。

「誰や? この2人に酒教えたんは…って1人しかおらへんか…」

 呆れ120%の声で呟きつつ、ヴィヴィオの事で悩みまくったあげく相談をと思って来た自身のバカバカしさと目の前の状況に段々腹が立ってくる。
 2人の顔の間近でスゥーっと息を吸い込み

「なのはちゃん! フェイトちゃん!」
「!?」
「ふぁ、ふぁい!」

 飛び上がる様にガバッと起きるなのはとフェイト
 何が起きたのかとキョロキョロと辺りを見回す。

「ヴィヴィオが居らんからって羽目外し過ぎちゃう? もうすぐ昼や、片付けとくから2人ともシャワーで目を覚ましてきたら?」
「はやて…?」
「…はやてちゃん?」

 笑顔の彼女になのはとフェイトは互いの顔を見た後再び彼女の方を見て頷いた。



「ごめんね。ヴィヴィオが居なくて今日2人とも休暇だからって」

 シャワーを浴びて目が覚めたなのはとフェイトがリビングに戻ってくると転がっていたボトルとテーブルの上にあったグラス等が綺麗に片付けられていた。

「片付けてくれたんだ。ありがとう」
「ええよ。ヴィータが見たら面白い事になってたやろな。『叩き直してやる!!』って」
「あ…ハハハハ…」

十分…というか彼女ならそう言ってラケーテンハンマーを振り落とすだろう。暖まった筈の背筋が涼しい…

「珍しいね、はやてが遊びに来るなんて。」
「う、うん。3人みんな揃ってお休みだなんて本当に珍しいね。そうだ、これから一緒に遊びに行かない?」

 強引に話題を変えてくれた親友に感謝しつつその話に乗る。しかし…

「あ…うん…なのはちゃんとフェイトちゃんに相談に乗って貰おうと思ってな…」

 ティーセットをトレイに乗せてリビングに運ぶのを見て何だろうと思いながらもソファーに腰を下ろした。はやてがなのはとフェイトのカップにお茶を注いだ後、彼女のカップにも注ぐ。カップを手にとり口をつける迄、彼女は話し始めるまで2人は待っていた。

「…あの撮影の後でな…本局で私の…私とうちの家族の評価が見直され出したのは知ってる?」

 頷いて答える。
 闇の書事件の記録映像制作、実際には闇の書事件の情報規制が解除された後から時空管理局本局でははやてを含む八神家に対する再評価の機運が高まった。
 元々彼女達が正当な評価を受けていたら部隊創設、運用実績を持つはやてだけでなく彼女の家族は非常に優秀な魔導師-騎士だ。再評価の機運は自然と本局に呼び戻そうという話も出始めていると耳にしている。
 
「ミッドでもその話が聞こえてきてか…上層部のある人から海上専門の部署を作らへんかって言われてる。建造中のLS級艦船の運用も含めてな…」
「!!」
「すごいじゃない!」

 時空管理局で部署創設というのは異例の人事。規模は違っても陸士隊と肩を並べる部署を預かるのだ。

「ありがとな…」

でもはやてはあまり嬉しそうに見えない。

「…断るつもりじゃないよね?」
「嘘!? はやてちゃんの夢に1歩近づくのにどうして?」
「…受けるつもりではいるんよ…でも私は世界を壊しかけた。眠ってたあの子を起こして…」

 あの子とは闇の書だった初代リインフォース…確かに彼女が現れた時は闇の書事件の再発が脳裏によぎった者も少なくはなかった。

「で、でもヴィヴィオが解決してくれたじゃない。事件にもならなかったし次の日から撮影も出来たんだし。」
「そうだよ。はやてが会いたいと心の底から思わないと彼女が出てこられないんだから。」

 フェイトも一緒に慌ててフォローする。そんな2人を見て 

「なのはちゃん、フェイトちゃん…ありがとな。でも私が気にしてるのは少し違うんよ。」

 そう言うとポシェットから1枚の写真を出してテーブルに置いた。
 崩れかけた岩場に立つ女性。彼女は変わったジャケットを纏っていた。

「ヴィヴィオ…じゃないよね」
「オリヴィエさん…?」

 ヴィヴィオにも似ているけれど、体つきから子供と言うより20歳前後の女性に見える。背丈から見てオリヴィエだと思った。何処で撮った写真だろう?

「これな…私があの子を起こして戦ってた時の映像。なのはちゃんとフェイトちゃんは結界の外に居たから見えへんかったけど…」
「…ヴィヴィオ…なの?」

 何故か体が震える

「でも、あの時結界から出てきたのヴィヴィオはいつもと同じ…」
「私の攻撃をまともに受けた時に見せた姿、本当に一瞬だけやった。ヴィヴィオが成長したらこんな感じになるんやろうな。でも私が気にしてるのは身につけた鎧の方」
「見覚えも無いからユーノ君に頼んで調べて貰ったけど無限書庫でもわからんかった。でもどうしても気になって聖王教会の蔵書を調べてたんよ。そうしたら似た鎧が描かれた本があった。持ち出し厳禁やから頼んでそのページだけ撮って来た。」

 そう言ってヴィヴィオの写真の横に2枚写真を並べる。確かに似た鎧姿の絵が描かれている。絵のしたに細かなベルカ文字で書かれていて所々は読めるけれど文章として組み立てられない。

「…何て書いてあるの?」
「……聖王の戦装束。死戦を覚悟した時だけに現れた鎧…やそうや。ヴィヴィオにはまだ『何か』ある。」

 その言葉を聞いた瞬間、なのはの視界は暗転した。
 


 一方でT&Hや八神堂、グランツ研究所に学校が終わって子供達が遊びに来だしていた頃、海聖小学校でも授業が終わりのチャイムが鳴っていた。
 高町なのはもホームルームも終えテキストをバッグに入れようとしていた時、携帯が僅かに震える。画面を見てみるとユーリからのメールだった。画像が付いている。
 彼女とはデリバリーをした時に友達になった。時々こうやって研究所の周りに咲く花の様子を送ってくれる。このメールもそうだと思って開いてみると

「うそおっ!」

 驚きの余り声がでてしまった。

「どうしたのよ?」
「なのはちゃん?」
「なのは?」

 声を聞いてアリサ、すずか、フェイトがやってくる。

「これ見て」

 3人に画像を見せる。

「ヴィヴィオとアリシアね。今研究所に居るのね。アミタさんとキリエさんとデュエルしてるんだ~」
「2人とも凄く強かったよね。」

 昨日デュエルしたばかりの2人が思い出しながら言う。

「まだ初心者なのにアミタとキリエとデュエルなんて…無茶するね。」

 フェイトも苦笑する。アミタとキリエには特訓して貰ったしその間何度も大敗している。

「そうじゃないんだって。よく見て、プロトタイプシミュレーターだからライフポイントが出てるのっ!」

 そう言うと3人は再び携帯の画像を見る。そしてなのはが何を言いたかったのかに気づいた瞬間その顔は驚きに変わっていた。

「嘘…」
「信じらんない…」
「アミタさんとキリエさん…負けてる」

 アリサ達の呟きに頷く。ユーリが送ってきた画像にはライフポイントで負けている彼女達だけでなく、前のデュエルで既に1敗していたからだ。

「今から研究所に行くわよっ!」
「待って、デュエルが終わったら4時からの勝ち抜きデュエルのACEに参加するんだって。」

 毎週全ショップ合同で開かれる勝ち抜きデュエル。初心者、中級者、上級者という風にプレイヤーの好みによって参加するレベルが選べる。その中でもACEはランキングトップレベルのプレイヤーが参加する。ショッププレイヤーのなのは達でもなかなか勝たせて貰えない。
 モンスターハントのレビューでヴィヴィオとアリシアの事を知っているプレイヤーも少なくないけどそれでも…

「フェイト~早く帰ろ~。みんなも…ってどうしたの?。」

 教室にアリシアがフェイトを呼びに来たがフェイト達の様子がおかしい事に気づいて入ってくる。

「これ見て、ヴィヴィオちゃん達がアミタさん達とデュエルしてるんだけど…」
「どれどれ~…うそっ!? アミタさん達が負けてる。」

 アリシアも目を丸くして驚いた。
 なのは達のショップチーム「T&Hエレメンツ」にとってアミティエとキリエはブレイブデュエルの先生だ。彼女達との2対2でデュエルでは勝率は低い。
 なのはを含むチームメンバーは全員2人の強さを知っているから画像がまだ信じられなかった。

「…帰ろう。早く帰って私達もACEに参加しよう。」
「フェイトちゃん…うん♪ 私達まだヴィヴィオちゃん達とデュエルした事ないもんね。」
『私の名前は…高町ヴィヴィオ。そして、私のママの名前は高町なのはとフェイト・テスタロッサ…』
(ヴィヴィオちゃん…)

 昨日彼女から伝えられた言葉を思い出しながらなのはは頷くのだった。



「ここまでとは…」

 シュテルがモニタ越しのヴィヴィオ達のデュエルを見つめながら呟く。

「うん、2人とも魔法の切り替えが凄く速いんだ。」

 攻撃に転じたヴィヴィオ達は速いのは確かに速い、でも【それだけ】でアミタとキリエが押され負ける筈がない。

「…そうか…あやつ等は。」

 一緒に部屋に来たディアーチェが洩らす。

「王、何か気づきましたか?」
「うむ、奴らは紫天の書と同じ能力を持っている。」

 紫天の書…LOGの特殊能力…スキルカードの保持制限を無視して同じ魔法を沢山使う事が出来る。
 保持制限…同じ魔法…切り替え…
 モニタの中でアミタの砲撃をアリシアがデバイスで切り裂く。ほぼ同時にアリシアの背後にあった4つの魔法弾がアミティエ目がけて襲い来る。
 砲撃直後の僅かな硬化時間に直撃を受け彼女のライフポイントが減った。

「わかりました。レヴィ、彼女達はスキルカードを切り替えていません。常に複数のスキルカードを使っているのです。アリシアはレヴィとキリエの、ヴィヴィオは私とユーリのスキルカードを…」
「よく判ったね。」

 3人の会話を聞いていたグランツが笑顔で頷いた。

「複数の魔法、デッキの保持制限は受けるけれど複数枚のスキルカードを使えるよ。常に使っている魔法を意識しないといけないしMP消費も激しい。しかし上手く組み合わせれば相乗効果もある。」
「アリシア君は常にレヴィの『ツインブレイバー』を使って2本のソードを維持しヴィヴィオ君に1本渡している。その上で他の直接攻撃系スキルを直前に起動している。言わばデュアルスキルだね。」
「ヴィヴィオ君は…アリシア君より凄いね。パーソナルカードにある『インパクトキヤノン』、なのは君の『アクセルシューター』、アミタの『エースブレイカー』。3つの魔法を常時起動させた状態で近接戦でシグナム君の『紫電一閃』をアリシア君から借りたソードで使い、それ以外ではシュテルの『ディザスターヘッド』を織り交ぜている。更に目の前のキリエだけでなく、アリシア君とデュエル中のアミタにも気を配って隙があれば攻撃している。使わないスキルは起動させているが実際に魔法は動いていないからMP消費も少ない。デッキの所持制限内のスキルを全て使うマルチスキル。」
「モンスターハントで見た彼女のスキルはリライズ効果によるものだと思っていたんだけれど、彼女の能力だったんだね…本当に凄い。」

 少し興奮気味に話すグランツに頷く。
 ホルダーとは違いに直ぐに使える魔法はデッキに入れておかなければいけない。デッキには5枚までしかカードは入れられない。しかもその中にはパーソナルカードとして自身のカードを1枚入れなければいけない。
 ディアーチェの紫天の書の様にホルダーにあるスキルカードを使う事が出来るレアスキル以外では使えるスキル=魔法は最大5つ。

「既に高みに居る者か見るつもりでしたが…まさかここまでとは。」

 久しぶりに会えた強敵にシュテルは胸躍らせるのであった。

~コメント~
もしヴィヴィオがなのはイノセントの世界にやってきたら?
説明台詞が増えたので反省…

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