第20話「星の欠片」

『おっと!次もニューフェイスです。モンスターハントで華麗な魔法を見せてくれた2人目の白のセイクリッド、ヴィヴィオちゃん。先日T&Hから八神堂に移籍してくれたんやけど、ブレイブデュエルより本の方が好きみたいで困ってます。って古書店の主が言っても仕方ないですね。』

 はやての紹介に赤面する。フェイトが照れる気持ちが何となくわかった。

『相手をするデュエリストは注意してくださいよ~、なんせDMSメンバーに勝つ実力の持ち主です♪』

 彼女の耳にはプロトタイプシミュレーターでのデュエルが届いているらしい。流石というか何というか…

「はやてさんらしい♪」
『いくよ、ブレイブデュエル、スタートっ。リライズアップ!!』
 ホルダーにカードを読み込ませヴィヴィオはブレイブデュエルの中へと飛び込んだ。



 喉が渇いたアリシアはスポーツドリンクを買ってデュエルが一望出来る休憩スペースへと観戦場所を移した。椅子に座ってからフェイトに間違われない様にリボンを外そうとするが、喉の渇きを先に満たしたくなって片方だけ解きドリンクを飲む。
 すると対面にシュテルが座った。どうやら後をついてきたらしい。

「ヴィヴィオは何処まで行くでしょうね。」
「シュテルは行かなくていいの?」
「私達は出るのは8勝以上したデュエリストが出た時です。」

 飲み物を買って前の椅子に座る。彼女の視線からもう片方のリボンを外していないのを思い出して慌てて下ろし後ろで束ねる。

「…嫌らしいね。」
「そうでもありませんよ。最初から出てしまっては誰も勝ち抜けません。勝者0人なんて事になるとイベントそのものを疑われます。バランスを保っていると言って下さい。」

 シュテル達DMSの役割はイベントの勝者数調整。10戦連勝者の人数を調整している。強いデュエリスト同士が戦えば何をどのタイミングで使ったのかは8戦も見れば癖もわかるし、それなりに疲れもする。その上で彼女達が登場すると…勝つも負けるも彼女達次第となってしまう。
 それが判ったからアリシアは『嫌らしいシステム』だと言った。

「それはそうと先程の質問です。ヴィヴィオは何処まで行くでしょうか?」
「う~ん…10勝位なら簡単にしちゃうんじゃない♪」
「ホゥ」

 シュテルが少し驚いている

「それはつまり、私達を倒してと言うことですか?」
「8勝したら出てくるんだからそうなるよね♪」  
「朝からあなたと一緒にデュエルをしているのですから彼女も同じくらい疲れているのではありませんか」

 ヴィヴィオが後で彼女と戦うのならあまり手を見せない方がいい。

「う~ん、デュエル見ていたらわかるんじゃない♪」
「…そうですか…そうですね。」

 そう言うとヴィヴィオのデュエルに目を向けた。



 1戦目、瓦礫が広がる遺跡エリア。相手は管理局の武装隊に似たジャケットを着ている。
 離れた場所でスキルカードを起動、魔法を発動させた。

(スティンガースナイプ…)

 クロノの得意魔法。発動が速い魔法だけど前に見た誘導系魔法だ。
 欠点は螺旋を描きながら動く為速度が遅い。
 回り込んで一気に距離を詰め、至近距離で

「インパクトキヤノン!!」

 立て続けに直撃を与えライフポイントを0にした。


 2戦目、さっきとは打って変わって周りに雲が広がる空中。相手は…ユーノが昔来ていたジャケットに似ている。
 黄緑色の大型剣を振り回し責めてくる。
 当たればそれなりにライフポイントが削られるだろうが、当たらなければ意味はない。連撃をさらりとかわし大ぶりになったところでカードを発動

「紫電一閃」

 右拳を剣に見立ててデバイスを破壊、そのまま相手の顎にクリーンヒット。ライフポイントを0にした。


 3戦目、今度は森の中。1、2戦目が少年だったのに対し、相手は同い年位の少女。アミティエやキリエににたジャケットを纏っている。
 両手の銃型デバイスから魔法を起動、発動させる。ヴィヴィオは避けようと木々の間を抜けようとすると追いかけてきた。
 アクセルシューターを発動させて迎撃すると、反対側から剣を振り下ろしてきた。回り込まれていたらしい。しかしそれを難なく避けて

「インパクトキヤノン!」

 側面からの近接砲撃を放ち相手のライフポイントを0にした。


「…全く疲れている様には見えませんね。」
「うん。」

 ヴィヴィオは全部1撃で勝負を決めていて疲れた様子はない。しかもシュテル達の思惑を知ってか知らずか手の内を見せていない。

「ですが次は少し厳しいでしょう」
『連勝もここまでよっ!』

 都市エリアでヴィヴィオの前に立っていたのは、先日負けたアリサだった。


(どうしよう?)

 剣状デバイスを構えるアリサに対してどう戦えばいいかヴィヴィオは考えていた。
 彼女はショッププレイヤーだからスキルカードも沢山持っている。昨日のデュエルで見た攻撃以外の方法もあるに違い無い。…だったら
 近くのフェンスに立てかけられていた金属製の棒を手に取る。 

「それで私の相手をするつもり? いいわ、2人に勝つ位なんだから私も手加減しないわよっ」

 アリサの剣に炎がまといつく。構えてダッシュするアリサに対してヴィヴィオは横に逃げそのまま街の中に入る。

「ちょっ!? 待ちなさいーっ!!」

 振り下ろされて解き放たれた炎がヴィヴィオに迫るがあと少しの所で止まった。

(…効果範囲もあるんだ…20m位?) 

 再び剣が燃え上がるのを見て今度はアリサ目がけてダッシュした。

「!? 今度はこっち!?」

 今度は斜めに振り下ろす。ヴィヴィオは手に持った棒で受け止めるが金属製の棒は飴細工の様にとけてしまった。

「そんなので受け止められる訳ないでしょ!」

 自信満々に言うアリサに

「そうだね。でもこれで充分♪」

 棒を手放し束を両手で思いっきり握りしめて振り上げられなくする。

「!!」

 その状態で逃げた時に仕掛けたアクセルシューターが彼女の背後から連続で襲った。
 ユーリは教えて貰った幾ら防御が高くても防御態勢でなければダメージは与えられると言っていた。アリサは攻撃態勢のままだから防御は普通より弱くなる。
 逃げる間に放っていたアクセルシューターの直撃を受けてアリサのライフポイントは0になった。



「やったヴィヴィオ、圧勝♪」
「4戦して誰もライフポイントを減らせてないとは…」

 驚くシュテルと一緒にヴィヴィオの快進撃を見ながらアリシアは満面の笑みを浮かべていた。元々魔導師としてアリシアよりヴィヴィオの方が圧倒的に強い。近接戦でも中長距離戦でも。
 それはヴィヴィオが聖王だからじゃない。勿論聖王直系という少しはあるけれど…。
 司書として検索魔方陣を教えて貰い自分で組み立てアレンジする。自分に使える魔法、戦術は一生懸命になって覚えていく。何よりこの1年近く色んな事件に巻き込まれ生死の狭間、自分より強い相手と何度も戦ってきた。
 1~2ヶ月、魔法の練習をして飛行魔法や戦技魔法が使える様になったアリシアとは違う。
 ユーリ、レヴィ、キリエ、アミタとのデュエルでヴィヴィオがブレイブデュエルのシステムを理解したのに気づいたのは、グランツやシュテルのカードを使ってというのを「ズルい」と言った時。
 借りていたカードがあれば楽勝だけれど、手持ちのカードだけでもデュエル出来ると考えたからじゃないかと思う。
 アリシアの思った通り、ヴィヴィオは5戦目、6戦目、7戦目、8戦目まで誰にもライフポイントを減らされる事なく相手を1撃で倒していった。
 派手な魔法も使っていないから最初から注目している者以外は誰も気にとめてもいなかった。しかしあまりにあっさりと勝負を終わらせる彼女のデュエルに6戦目あたりからは大きく取り上げられていた。

「さて…アリシア、私も行ってきます。見ていて下さい。」

 そう言ってシュテルは立ち上がり、シミュレーターの方へと歩いて行った。



「強い…んだよね?」

 T&Hでヴィヴィオのデュエルを見ていて気になったのはフェイトだった。
 アリシアに負けた後はスタッフとしてデュエリストの順番整理を手伝っていたのだけれど、余りに回転がはやいのが気になってヴィヴィオのデュエルがほぼ一瞬で終わっている事に気づいた。
 アリサが相手になっても同じ様に負けてしまったのを見ても彼女が強いと思えない。
 隙を最大限に生かして勝っているのは凄いと思う。。
 ルールを無視している訳でもないし、何か特別な魔法を使っている訳でもない。
それでも

「8勝しちゃったから出てくるねDMSの誰か」

姉の言葉に頷く。彼女達が相手なら流石に今までの様にはいかないだろう。



「そろそろ知ってる人が出てきてもいいんだけど…。」
「待たせたな、貴様の相手は我だ」

 9戦目、海上エリアで目の前に現れたのはディアーチェ、こっちでは始めて戦う相手。
 海上エリアで彼女と再び戦うのは奇妙な縁だと思う。

『はい、解説のアリシアです。ヴィヴィオちゃん凄い勢いで8戦全勝、しかもデュエルタイムとノンダメージの新記録更新中です。でも次はDMSの筆頭ロード・ディアーチェ。果たして記録更新できるかな。いくよ、ブレイブデュエル、レディーゴー!』

 かけ声と共に構える。
 ディアーチェの攻撃方法が判らない以上変に手出しすると危ない気がする。

「貴様から来ぬなら我から行くぞ、紫天の書よ」
【はい、我が君】

 ディアーチェが何やら呪文を唱え始めている。

(紫天の書と呪文…あれが書物型デバイスと同じなら…マズッ!!)

慌てて下へと飛ぶ。

「今更逃げても遅いわ。滅ぼせ、レギオンオブロードブリンガー」

 紫天の書から現れた無数の剣がヴィヴィオ目がけて飛んでいく。直後海に大きな水柱が立ち上った。

「フン、たわいの無い。流石にあれだけの魔法を受ければ持たぬだろうよ。」  

 余裕を見せてディアーチェが笑ったすぐ後

「クロスファイアーシュートっ!!」

 海面から虹色の砲撃が彼女目がけて襲ってきた。紙一重で避ける。

「貴様…そうか全て海に」
「この中でも海の水って辛いんだね。うん、全部海に当たった。」 

 ずぶ濡れになったヴィヴィオが海面すれすれの位置で構えていた。
 書物型デバイスとプログラム構築以外に呼び水になる言葉が必要な魔法、ヴィヴィオには覚えがあった。はやての石化魔法ミストルティン。広範囲攻撃が可能な大きな魔法、魔法力も酷く消費する。
 海に当たって威力が消えるかは正直半々だったけれど、1度撃たせてしまえばディアーチェの魔法力は激減する。即ちヴィヴィオの魔法を受けきる事も難しい。
 加えてヴィヴィオのジャケットは防御が堅いセイクリッド。30個程のアクセルシューターをディアーチェ目がけて放つ。

「穿てっ」

 迎撃しようとディアーチェが魔法を使うが先程とは比べものにならない位弱い魔法。当てられてシューターの威力が落とさない様、全て避けさせる。

「何をっ!?」

 10発を囮にしディアーチェ目がけて八方からぶつける。1撃でも当たれば次を狙う。
 流石にディアーチェでも同時に10個は避けられなかったらしく4発が直撃した。その硬化時間を狙って

「クロスファイアーシュートっ!!」

 残り全てのアクセルシューターが砲撃魔法となってディアーチェに直撃、ライフポイントを一気に全て奪った。



「ヴィヴィオ君はスキルカードの全てを知っているんだろうか?」
「はい?」
「どうなんでしょ?」

 オペレーションルームでヴィヴィオのデュエルを見ていたグランツが呟いた。アミタとキリエは意味が判らず聞き返す。

「ヴィヴィオ君は全てカウンターで勝ってるんだ。全部魔法の弱点、効果範囲、影響対象を捉えてね。運が良いようにも見えるけれど、ディアーチェの魔法も無効にしているからね。」



「王…」
「すまぬ、あやつ…ヴィヴィオは強い」

 言葉を溢すディアーチェ、彼女がめったに見せない悔しそうな表情を見てしまった。
 ライフポイントを減らせず、スキルカードも1枚しか使わせず負けてしまった。

「見ていてください。王」

 そう言って彼女がさっきまで使っていたシミュレーターへと足を進めた。

~コメント~
 ヴィヴィオがもしなのはイノセントの世界にやってきたら?
 もしヴィヴィオだったらブレイブデュエルをどんな風に楽しんだかな~と思っているとヴィヴィオが勝手に動いてくれました。
 次回はやっとシュテルの出番です。

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