第21話「星の道標(みちしるべ)」

「次で最後?」

 ディアーチェの魔法は気づいてなかったら本当に危なかった。
 彼女が去った後もエリアは変わらない。このまま次のデュエルに進むのかと周りをキョロキョロと見回す。

「最後の相手は私です。」

 そう言って現れたのは、シュテルだった。色違いのジャケットを着ている。彼女がいつも『白の~』と言っていた理由に納得する。

「私はあなたのデッキを知っていますがあなたは私のデッキを知らない筈です。これでは『ズル』ですので先にデッキを見せたいと思いますがどうですか?」
 勝ち抜きデュエルに参加する前に言った『ズル』という言葉を少し根に持たれたらしい。

「う~ん、カード見てもどんな魔法なのかわからないからいい、見ても意味がないかなって。シュテル…ううん『調整者さん』」

 毎週行われてる勝ち抜きデュエル、組み合わせによっては勝利者の数が大きく変わってしまう。だから勝利者数を調整している人がいる。それはきっとショッププレイヤーで今日はディアーチェとシュテルがその役目を担っている。
 9戦目でディアーチェが、ラストにシュテルが現れた時ふと思いついて仕返しとばかりに調整者と言った。

「あなたもアリシアも聡明ですね。それでは『調整者』らしく全力でデュエルさせてもらいます。」
「うん、負けないよっ!」

 T&H・八神堂・グランツ研究所のデュエルスペースでは大きなモニタにヴィヴィオとシュテルの姿が映し出されていた。

『解説のアミタです。あっという間に9戦全勝、ノンダメージと最速タイムを更新し続けているヴィヴィオちゃんの最後の相手はグランツ研究所の誇るエース、シュテルです。セイクリッド同士の派手なデュエルを期待しましょう、それではいきますよ~、ラストデュエル、レディゴーッ!』

 アミタの合図と共にアクセルシューターをシュテル目がけて放つ。
 だが彼女はそれを知っていたかの様に同じくアクセルシューターを使って迎撃。全てかき消された。

(っ…流石っ!)

 感嘆しつつも次の行動を取る。再びアクセルシューターでシュテルを追いかけながら彼女目がけて突っ込む。しかし…

「起点を抑えれば対応も容易です。」

 再びアクセルシューターを迎撃し、デバイスに赤く燃え上がらせる。

「紫電一閃っ!」
「ブラストヘッド」

 淡く虹色の光の光を放つヴィヴィオの拳にぶつけた。直後大爆発が起こる。

「!! った~っ!」

 間近で爆風を受けてしまった。シュテルも受けているけどより近くに居たこっちの方がライフポイントを落としているだろう。

(手強い…)

 1番苦手な所を突かれた。
 今までのデュエルでも…この世界だけでなく今まで戦った戦闘で、ヴィヴィオは殆どカウンター、迎撃を狙っていた。勝ち抜きデュエルでも相手が攻撃したタイミングを狙っていたのだけれど…そこを突かれた。

「どうしよう…」

 持っているスキルカード―アクセルシューターは迎撃される。インパクトキヤノンと組み合わせないとクロスファイアシュートは作れない。そこも突かれた。
 紫電一閃に対抗するスキルカードも彼女はデッキに入れている。そして…彼女も複数のスキルカードを使いこなしている。

『では「調整者」らしく全力でデュエルさせてもらいます。』

 彼女の言葉に苦笑いする。
 残った手は…スキルカードでもない2枚のカードを出す。



(何とか使いこなせましたが、2つの魔法を同時に使うのはなかなか難しいですね。ここまでは予想通りです…さて次はどうするでしょう?)

 ヴィヴィオを目の前にしてシュテルは笑っていた。強い相手とデュエル出来るのは嬉しいし楽しい。それが予想もしない戦法で来る相手なら尚更だ。
 複数の魔法を同時に使いこなし、カウンターを決めてくるのであればこちらも複数の魔法を使ってカウンターを狙う。消極的だけれど彼女が受けたインパクトは相当のものだった筈。
 このまま追い込まれる様な彼女だとも思えない。

(願わくば…あの姿を…)

 デバイスを構え直し魔法の起動状態を維持する。



「あーやっぱりね。」

 アリシアも苦笑いしながら2人のデュエルを眺める。
 カウンターが得意なのは彼女を研究した際に気づいていた。カウンターが得意の彼女が先制しようとすると粗が出る。シュテルもそれには気づいたらしい。
ヴィヴィオは狼狽えてるかと思っていたけれど笑っている。



一方で

「あ~やっぱり全国1位は強いな~」

 八神堂でヴィヴィオの快進撃を見守ってきたはやても苦笑する。このまま同じ様にぶつかればヴィヴィオのライフポイントが先に無くなってしまうのは時間の問題。
 しかしヴィヴィオは先程と同じ様にアクセルシューターを出して自らシュテルに向かって行った。カウンターを狙うシュテルも迎撃体制を取った。
 2人が交差し爆発が起こって2人が飛び出してくる。

「え?」

 今度はヴィヴィオのライフポイントは僅かにしか減っておらず、シュテルの方が大きく減らしていた。

「何が起きたん?」


 
「そうきましたかっ」

 1度離れた後、ヴィヴィオは再びアクセルシューターを作って迫ってきた。シュテルもカウンターを狙う。しかし…最初の攻撃は只のパンチ、シュテルがそれに気づいた時、魔法『ブラストヘッド』は既に起動させていて止める事が出来ず発動、ヴィヴィオはそれを見越してブラストヘッドを避け2撃目の拳に『紫電一閃』を乗せる。
 シュテルもブラストファイアを直ぐに発動させるがヴィヴィオの放ったアクセルシューターに相殺された。
 結果、紫電一閃を直に受けてしまった。
 ヴィヴィオが使ったのはフェイント。
 最初に攻撃してカウンターを受けてしまうなら、魔法を乗せた攻撃を使わずに相手の攻撃を見て逆カウンターをしかける。

「これは…難しくなりました。」

 フェイントを入れられたら対応が難しい。シュテルはまだヴィヴィオ程同時に魔法を使いこなせない。2重3重のフェイントもあり得る…

(こうなれば…あまり得意ではないのですが…)

 ブラストファイアを起動してヴィヴィオに迫る。



「これは…」
「すごい…」
「あの子…こんなに強かったの?」

 T&Hでフェイトが、アリサが、すずかが手を止め大型モニタに映る2人のデュエルを見つめている。

「でも…2人とも楽しそう。」

 なのはも2人が楽しそうにデュエルをしているのに気づいて羨ましそうに言う。



「ハァアアアッ!」

 ヴィヴィオが左拳を叩き込もうとするとシュテルがそれをデバイスで受け止める。その後そのままデバイスを振り下ろされ右手で受け止める。これらの動きに魔法は伴っていない。
 ブレイブデュエルの中では魔法力は決まっている。単純な攻防だったら相手の攻撃を見て魔法を使う事も出来るけれど、乱戦の中で使ってしまうとあっという間に魔法力が無くなってしまう。
 だから…

「タァアアアアッ!」

 受け止められた反動をそのまま生かして体を捻り今度は右側からキックする。



「ねぇ王様」

 シュテル達の熱戦を見ているとレヴィが声をかけてきた。

「何だ?」
「シュテルん、何で全部受け止めてるの? 僕たちのジャケットでもパンチとかキックなんて殆どライフポイント減らない筈なのに…」

 魔法攻撃が伴わない攻撃でもライフポイントは僅かに減る。シュテル達のジャケット『セイクリッド』の防御力は高く普通にパンチやキックを受けたところで減ることはない。レヴィはそこが気になったらしい。

「それはだな…」
「ヴィヴィオが持っている紫電一閃を警戒してるんです。シグナムの『紫電一閃』はデバイスに魔法力を乗せて攻撃する魔法です。デバイスがあれば直ぐにわかりますけどヴィヴィオは前のデュエルパンチに紫電一閃を乗せて使ってました。乱戦になるとヴィヴィオが何時使ってくるか判りませんから全部防ぐしかないんです。」

 ディアーチェの代わりに一緒に見ていたユーリが答える。

「そんな、シュテルん…負けちゃうんじゃ…」

 泣きそうな顔でモニタを仰ぎ見るレヴィ。

「焦らずともよい。シュテルがブラストヘッドを使えば防ぐ術を持っていないあやつはカウンターを狙うしかない。まだ見せていない2枚のカードも気になる筈だ。一瞬の油断が勝負の分かれ目になる中であの集中力が続くか…見物だな。」
  
 

「もう時間がっ」

 時間は残り1分を切っている。このままならライフポイントの残り少ない私が負けてしまう。

(うまくいくかわかんないけどっ!)

 アクセルシューターでシュテルとの間を作って一気に離れる。
 追いかけられず安心するも直後シュテルのジャケット色が青色に変わった。見ていなかった4枚目のカード、最後の1枚も使ってくる。ヴィヴィオの脳裏にさっきアリシアとデュエルしたフェイトの姿が過ぎる。

(フェイトのSR+のカードがファランクスシフトだった。シュテルが使ってたスキルカードは私に合わせてたけどもし切り札を持ってるなら…集束系…スターライトブレイカー)

 どうやっても防ぎようがない。だったら…

「やってみるっ!アクセルシューターっ!」

 30個のアクセリュシューターを作り出した。



「勝負に出る気ですね。」

 その声を聞いて振り返るとシグナムが部屋に入ってきた。剣道場の練習を終えて帰ってきた。

「シグナム♪ お帰り」
「遅くなってすみません。」
「ええよ、それより勝負に出るってヴィヴィオちゃんが?」
「シュテルもです。このまま逃げ勝つ手を選ばず受けて立つ様です。」
「シュテルは盛り上げ方を心得てるからな~♪」
「それもありますが…デュエル中にあんなに良い表情をされれば彼女を知っている者であれば誰でもわかるかと…」
「そうやね」

 目を細めるシグナムにつられてはやても頬をくずした。モニタの中で普段なかなか笑顔を見せない彼女が楽しそうに笑っていた。

「始まります」

 頷き凝視する。

『シュテルいくよっ!』

 ヴィヴィオの周りに浮いていたアクセルシューターがシュテル目がけて動き出す。ほぼ同時に交差した彼女の手の平から砲撃魔法が放たれる。

『いきます、ハーキュリーブレイカー』
「逃げてっ!」

 叫ぶはやて。フェイトが見せたファランクスと同じくSR+の集束砲。このまま撃ち合えばRレベルの魔法は瞬時に呑み込まれる。
 しかしヴィヴィオは更に動いていた。ハーキュリーブレイカーへまるで自身が放った2つの魔法を追いかけるかの様に向かっていた。

『カードドライブ、レディ…』

 ホルダーに2枚のカードを読み込ませる。

(まさか…あのカードを)

 先日彼女と半ば強引にトレードしたカード、もし又彼女が持っていて…それも2枚持っていたら…

「まさか…リライズ」
「ヴィヴィオちゃん、それはあかんっ!!」

 はやての叫びは彼女に届く事は再び届く事はなかった。

~コメント~
ヴィヴィオがもしなのはイノセントの世界にやってきたら?
VSシュテル戦もクライマックスです。

そしてついに8月です。コミックマーケットです。
毎年コミックマーケットの開催日は職場で仕事中なのですが、今年は行けそうな雰囲気なのでカタログを買って楽しみにしてます。
目指すはなのはのチビマスコットシリーズ!!

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